○21
世話係に指示されて入った先には、いかにも偉い人だろうなとわかる人がたくさんいた。
その偉い人たちの奥に、高そうな服を着ていかにも高貴な雰囲気の男性と男の子が座っていた。
離宮に時々やってくる地域の有力者よりも遙かに偉い人たちだとわかる。
きっと王都からやって来たのだろう。
――と思ったら、よく見れば一人は国王陛下だった。
王城にいたとき、国王陛下とは何度も会ったことがある。
三年ほど前に聖女としての位が上がったとして、王城に呼ばれたときに会ったのが最後。
もう一人の男の子は陛下と並んで座っていることを考えると、きっと王子。三人いるうちの何番目かわからないけど、一番下はまだ赤ちゃんだから一番目か二番目のどちらかなのは確か。
王子とは会ったことなかったと思うけど、王城に行ったときにでも見かけたことがあるのだろう。
なんとなく、見たことある気がした。
どちらにしても、朧気だけど。
今日は何の用があってこんな所まで来たのだろう?と相手が何か言うまで待つ。
陛下が何か言う前に、王子が声を発した。
「ん?あっ……」
すると、側に控えていたこれまた偉そうなおじさんが咎めるように王子を見る。
王子は注意を無視してそのおじさんを手招きして呼んだ。
おじさんが王子に近づいてこそこそと何かを話し出した。
「えっ!?」とか「いや、しかし」と聞こえてきて、私はその間立って待っているしかない。
「あのぅ、座っていいですか?」
足を捻ったばかりでずっと立っているのが少し辛かった私は、一番近くにいる偉い人に話しかけた。
一応、聖女は王族の次に偉いと言われる地位にいるわけだし、きっとこのおじさんたちにこちらから話しかけても失礼ではないはず。
一番偉い人たちは何やら取り込み中だし、これくらい良いだろうと思って。
こっそり言ったつもりが、全員の視線が私に集中したので、「今ちょっと足が痛くて、座らせてもらえるとありがたいのですが……」と言うと、王子が慌てて立ち上がり、「彼女に椅子を早く!」と言ってくれた。
おかげで慌ただしく椅子が用意されて座ることができた。
◇
突然離宮へやって来た国王陛下と王子。
その理由は二つあった。
私の聖女としての位を最高位の大聖女とすること。少し前に受けた判定の結果そう決まったらしい。
それと、王子と私の婚約が決まったと伝えるため。
「大聖女ディアーナ。第二王子エルヴィンとの婚約を申しつける。そなたの生家であるコートリング家はこの婚約を承諾済みだ」
「……はい」
王子が婚約者だと突然言われて戸惑いがなかったわけではない。
私も引退直前になったら、先輩聖女のように釣書を見ながら「この人はこうで、こちらの人はああで」と幸せそうに悩みながら自分で伴侶を選ぶことに漠然と憧れがあった。
とはいえ、私の生家は貴族らしい。
生まれてすぐに親元を離れているから、親子の情はほとんどなかったけど、世話係から貴族とはこういうものということも教えられていた。
貴族とは当主の言うことが絶対というのが、この国の常識らしい。
だから、(そうなんだ。私は自分で決めることはできないんだ……)と思った程度だった。
その後、王子から要望があり、二人でお茶をした。
同年代の男の子とお話しするのが初めてで、何を話したらいいのかわからなかった。
離宮には大人の男性しかいなかったから。
「…………」
「……ここの空気は、澄んでいて心地いいね」
「そうですか?」
「大きく息を吸いたくなるよ。こんなに澄んだ空気は初めてだ」
王子は実際に大きく息を吸い込む。
ふぅと息を吐ききった後、迷うように視線を下げた。
「さっき、やっぱり足を痛めていたのだね。僕の猫が本当に申し訳ない……」
「あ……あぁ!」
王城で見かけたことがあるのだろうと思っていたけど、今日の昼間に森の入口で笑い合った男の子が王子だと気づいた。
今は伝統衣装を着てジャラジャラと宝石も付けて、いかにも高貴な雰囲気。
だけど、あのときは町の男の子と変わらない服装だったし、気安い雰囲気だったから気づかなかった。