○17
昼食後、軍人がキッチンや食料庫を漁っていた。
何をしているのか聞くと、「日持ちする作り置き料理を作っていこうかと思ったが、使える材料が何かないかと確認していたんだ。だけど、ないな。買い出しが必要だ。……あー、その、今行くって言ったら、一緒に来るか?」と誘ってくれた。
そうして、二度目の街へやって来た。
軍人の後に付いて歩いていると、一軒のお店に飾られていたものが目に留まる。
「ねぇねぇ」
「なんだ?」
「あれ、何!?可愛い!」
そのショーウィンドウに軍人を引っ張っていき、これこれ!と指をさして聞く。
軍人を見上げれば、少し唖然とした表情をされた。
「何って、デコレーションケーキだろ」
「デコレーションケーキ?」
「知らないのか」
「うん。前に街に来たときにもあったのかな。初めて見た。ケーキってことは食べ物なの?甘いの?美味しい?」
「あぁ。……買ってやろうか?」
「うんっ!やったぁ!」
「ふっ……。ちょっと待ってろ」
軍人は優しく笑ってからお店の中に入って行った。
(何それ……。恥ずかし……)
「待たせたな。行くか。買いたい物があるんだろ」
「うん。道具屋さんに行きたいな」
そうしていくつかのお店を回り終えたころには、軍人は両手いっぱいに荷物を持っていた。
「失敗した。ケーキは最後に買うべきだった」
「少し持つよ」
「あー、じゃあケーキを持ってくれ。傾けたりしないように気をつけろよ。崩れやすいからな」
「そうなんだ。わかった!」
「……ぷはっ」
そんなに繊細なのかと、胸の前で箱を両手でしっかり持つ。
転ばないように慎重に歩き始めると、軍人が吹き出した。
何の前触れもなく急に笑ったので、不思議に思って軍人を見上げると、私のほうをちらちら見ながら笑いを堪えているようだった。
「え?何?」
「いや。何でもない。……くっ……ははっ!」
「何でもなくないじゃない!何よ?」
「はははっ。いや、悪い。ケーキの箱を宝物のようにすっげぇ大切そうに持ってるから。はははっ!」
「な……。だ、だって……崩れやすいって言うし、折角買ってもらったから!あんなに綺麗で可愛い物が台無しになったら嫌じゃないの」
「わかってるわかってる。ははっ」
まだ笑いが収まらない軍人にむっとしてしまう。
この時代に生きている人にとって当たり前のことでも、森の奥に引っ込んでいる私には初めてのことで慎重になっていただけなのに。
私がムッとしたからか、軍人は声を出して笑うのはやめた。
だけど、まだ笑いが収まらない軍人の肩が震えている。
笑いが収まらない軍人を無視して、私は歩き出す。
すると、後ろから「ぶはっ!」と一層大きく吹き出す声が耳に届く。
恥ずかしくなって、両手で胸の高さに持ち上げていた箱を片手に持ち直した。
くくくっ……と、追いかけてきた笑い声が横に並ぶ。
横目で見れば、目が合う。
軍人は目に涙を浮かべていた。
そんなに笑うことないのに。
「すまんすまん」
「絶対に悪いと思っていないでしょう!?」
「確かに。まぁ、許してくれよ。あまりにも可愛いと思ったんだよ」
「……えっ」
驚いてしっかり軍人の顔を見ると、軍人も自分が何を口走ったのか気づいたようで、口を押さえた。
みるみる耳が赤くなっていく。
言葉の意味がなんとなくわかって、無性に恥ずかしくなってきた。
誤魔化すようにケーキの入っている箱に視線を落とす。
「…………」
「あ、あー……帰るか」
「う、うん。そうだね。帰ろう!」
なんだか甘酸っぱい空気が流れてしまったので、その空気を振り切るようにスタスタと足を進める。