●16
鬱蒼とした森をゆき、開けた場所に出ると途端に澄んだ空気に包まれる。
気味が悪く感じる森から明るい場所に出たからか、ほっとする瞬間だ。
今までよりも少し早い時間に城を出たのに、それでも森の中は薄暗かったこともあるだろう。
今日も魔物に遭遇することなく、無事に着いたことに安堵して館へと足を進める。
館の奥にある野菜畑でしゃがみ込んでいるルーナが見えた。
と思ったら、トマトに齧り付く瞬間だった。
(まぁたトマトの丸齧りが食事か。しょうがないな。今日も新しい調味料を持って来たから作ってやるか。調味料は充実してきたが、食材の種類が少なくていつも同じ料理になるんだよな。次に……いや、街に買い物に行くって言ったら、一緒に行くって言うだろうか――)
自分が無意識にまた世話を焼こうとしていることに気づいて、少し呆れた。
(俺はいつからこんなに世話焼きの性格になったんだ……)
足音で気づいたのか、ルーナが振り返って手を振る。
(だけど、しょうがないよな。どうみてもまだ無邪気な十五、六歳に見えるんだから)
俺が応えるように手を挙げれば、ルーナはにっこり笑って手の振りを大きくする。
つられてまた手を振り返すと、ぴょんぴょんと飛んで両手を振った後、駆け寄ってくるルーナ。
「ははっ。可愛――」
(おい、待て。俺は今何を口走ろうとした!?)
「いらっしゃい!今日は早いんだね」
「あ、あぁ」
「ん?どうしたの?」
口元を手で押さえて黙り込んだ俺を、不思議そうに見上げてくる。
目が合った瞬間、自分がどういう気持ちで可愛いと呟いたか気づいてしまった。
(異性としてみていたのか?俺は……)
自分が信じられなくて、ルーナの視線から逃れるように思い切り顔を逸らしてしまった。
なおも不思議そうに俺の袖を引っ張り、首を傾げてくる。
「ねぇ。どうしたの?」
「なんでもねぇよ!」
誤魔化しにしてはきつい口調になってしまった。
自分の気持ちに気づいて混乱していた。
視線を逸らしていた俺は、ルーナがショックを受けたような表情をしたことにも気づかなかった。
「とりあえず、昼飯作る」
「え?」
「またそんな丸ごと囓って。それが昼飯なんだろ?」
「うん。そう」
「だから、とりあえずちゃんとした昼飯作るから」
「あ、うん。……ありがとう」
ルーナは明らかに戸惑った様子だったが、自分の気持ちを落ち着けて整理するために、少し強引に俺は昼食を作り始めた。
(違う違う。魔女の容姿が可愛いのは初めから思っていたことだ。そうだ、容姿が可愛いんだ。容姿……だけか?)