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四羽 S級薬師のペレットもはもは①


『ごしゅじん、ごしゅじん』

「ん? どうした、うさぎさンンンンンン!!??」

『?』


 カルナシオンは悶絶(もんぜつ)した。


 チモシーの件ですっかりご機嫌のうさぎさんは警戒心が薄れ、カルナシオンの足元に縋りつくかのようにうたっちをしてぎゅっと手をついた。

 カルナシオンを呼ぶ度に、グイグイっと手を押し付ける。


「はぁ、はぁ……」

『?』

「いやぁ~面白い」


 ギルクライスは最初こそうさぎさんの存在に懐疑(かいぎ)的であったものの、すっかり気を許していた。というのも、あのカルナシオンが取り乱すというのは中々ないことなのである。

 戦闘能力のないうさぎさんが、最強のカルナシオンを振り回す──

 これほど面白い見世物はないと、ギルクライスは興味を示していた。


「どっ、どうしたうさぎさん」

『ハッ、そうでし。ごしゅじん、ペレットはありますでしか?』

「ぺれ……?」


 これまた聞き慣れない言葉にカルナシオンは疑問符を浮かべた。


 実際のところ、『ペレット』という言葉自体は『小さい固まり』の意。

 特定の物を示すこともあれば、状態を示すこともある。

 うさぎさんの言うペレットとは、自身の食事についてだった。

 チモシーのような牧草だけでは栄養は(かたよ)るもの。

 栄養バランスをサポートする副食のようなもので、よく見かけるのは深い緑色の小さな円錐(えんすい)型の固形物だ。


『うさぎさんはおもにくさをたべますでしが、たまにはちがうものもたべるのでし』

「ほう……。して、ペレットとは?」

『みぇ……え、えっとでしね……』


 うさぎさんは知らない。

 ペレットの主な原材料は牧草であるものの、果物や野菜の粉末、グルコサミンや乳酸菌。いろいろな成分が入った商品が多く展開され、うさぎさん自身の状態に合わせて選ぶのがそのほとんどだろう。


 余談ではあるが召喚されたうさぎさんは、カルナシオンとの従魔契約により彼自身の魔力の庇護(ひご)下となっている。

 そのために魔力の高い者、特にカルナシオンの下僕にはうさぎさんの言葉は伝わっているわけだ。

 元いた世界ほど、病気や体調の変化には気を配らなくてよいのであった。


『おあじはチモシーなんでしが、ばりえーしょんがありまして』

「ほう」

『ときにかたく、ときにやわらかく』

「……ほう?」

『たべすぎてはいけないといわれると、よけいほっしてしまい』

「……?」

『ふくろのありかをもとめて、ひびへやをたんさくしているのでし!』

「??」


 途中からうさぎさんの食に対する熱意の話になったものの、何となくカルナシオンはその意をくみ取った。


「草を主成分とした、別の食べ物ということか?」

『! さすがごしゅじんでし~!』

「!?」


 言いたいことが伝わったからか、うさぎさんはカルナシオンの周りをピョーンピョーンと一周した。

 危うく崩れ落ちそうになる膝。カルナシオンはなんとか己を奮い立たせた。


「くくく……」

「おい、笑うんじゃない」

「そんな、笑うだなんて。なんと微笑ましい光景かと涙を拭いていただけですよぉ」


 白々しくギルクライスが言えば、カルナシオンは「ふむ」と唸り、


「植物の調合ともなれば、二号を呼ぶか」


 と言った。


『にごう、でしか?』


 そういえば以前に『三号』とも言っていたな、とうさぎさんは思い起こす。


「下僕の数など一々覚えてはおらんがな」

「とりあえず番号が付いている者は、よく働かせる奴ってことです。……そう。何を隠そう、あたしは最も呼び出され、最もパシられし者。ああ、なぁんて可哀そうな魔族なんでしょう……シクシク」


 わざとらしく泣き真似をすれば、カルナシオンは珍しくげんなりとした顔を見せた。


「『魔眼(まがん)のギル』と人間に称されるのが、名声であればよかったな」

「ああ! なんてひどいお方。少なくとも、魔族にとっては誉れ高き二つ名ですとも!」


 『ひどい』と言う割りには不自然に吊り上がる口端。

 うさぎさんは未だに魔族の何たるかが理解できずとも、ギルクライスがカルナシオンと随分違う人物であることは把握した。


「はあ……。さて」


 一息ついて仕切り直すと、カルナシオンの足元には再び魔法陣が展開された。


「【我が呼び声に応じよ──テリネヴ!】」


 次いで、三人の目の前には別の魔法陣が展開される。

 ギルクライスの時と同様、まるで床など存在しないかのようにスッと緑色が目を引く人物が現れた。


「────ちょっとぉ、カルナさん。調合中に呼び出すのやめてってば」

『ほあーー!』

「『奏薬(そうやく)のテリー』とも呼ばれる、森の民だ」


 温厚な魔族、森人(ドリアス)

 珍しく人間にも好意的に受け入れられている魔族で、同じく森の民であるエルフや獣人なんかとよく共生している。少年のようなやや高い声で、呆れたようにテリネヴはカルナシオンに苦言を呈した。


 その見た目は、うさぎさんにとっては全くの未知の存在であった。

 主に植物を連想させる見目をした種族。

 目の前のテリネヴは、まさにうさぎさんの目にも分かりやすく『人間と違う種族』である。


『ほあ~』


 うさぎさんにとっては見上げるほどの大きな存在。だが、カルナシオンと比べればその背丈は腰元にも届かない。

 人間の大人からすれば『ちょこん』とした体躯だが、体を(おお)うローブも相まって背丈のわりに存在感が大きい。

 頭の左上にて閉じた、薄っすらと紫色がかかる白い花の(つぼみ)。そこから広がるようにしてしな垂れる葉や茎がまるで髪の毛のように顔を覆い隠した。

 口元までを覆う若草色のローブなのも相まって、僅かながらに覗かせる真っ白い顔には、半月のようにジトッとした眼。


 手は袖に隠れて見えないものの、足元から覗く木靴のようなものはどうやら靴ではなく、本人の足そのもののようだ。

 葉、花、樹木……文字通り、森人である。


「あ、なんかカワイイ生物発見……」


 テリネヴは突然召喚されたことに抗議しつつも、うさぎさんを見つけるや否やその愛らしい姿を目で堪能(たんのう)した。


「? どうした、うさぎさん」


 カルナシオンが互いの紹介をしようとするも、うさぎさんはテリネヴの姿を捉えると目を輝かせた。


『なんだか、おいしそうでし……』

「!?」

「テリーは可愛いものが好きだが、草食のうさぎさんとは相性わるいか……?」


 好意的に思っていたうさぎさんの言葉にショックを受けたテリネヴは、しばらくカルナシオンの背後に隠れてしまうのであった。



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