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二十八羽 闇を征く者①


「ギル」

「はいはい、お呼びですかねぇ」


 清麗(せいれい)の実をゲットした帰り道。

 森に異変を感じたカルナシオンは、アルクァイトとハイネを先に帰らせた。

 そうして己の影に呼びかけると、ギルクライスは身を闇に変えて呼び出しに応じた。


 そう、うさぎさんの前でぎこちなく召喚したのは、本来ギルクライスにあの一連の流れは不要だったからだ。カルナシオンは意外に形から入るタイプらしい。


「──ギルクライス卿、お久しゅう」


 目の前にはいつの間にやらおっとりとした麗人。

 カルナシオンよりも長い金の髪を一つに結わえ、優し気な緑の眼差しで見据えてくる。

 ただ、その耳元からはまるで四枚の羽のような、人間とは異なる特徴が表れていた。


「これはこれは……、エレヴォス殿。お元気ですかねぇ」

「ふふ。ええ……()()()()()


 カルナシオン自身は魔族が押し掛けてくることに慣れているが、通常はおかしい状況である。


「おまえも魔族か。何用だ?」

「なるほど、卿の主人とやらは確かに一筋縄ではいかない様子……。しかし、此度(こたび)の来訪の理由はあなたにはないのです。どうぞ、お気になさらず」

「ほう?」


 彼も清麗の実を求めたのだろうか。

 カルナシオンは魔族にも人気がある果実なのかと、変なところで新事実を知るのだった。


「主どの、よければあたしに任せてくれませんかねぇ」

「?」


 ──めずらしい


 飄々(ひょうひょう)としたギルクライスが、自らの意志で何かの許可を求めるのはずいぶんと珍しいことだった。大抵いつも、カルナシオンが何かを命じて、それをあーだこーだ言いながらも遂行する。わりと主人に(ゆだ)ねるような人物だった。


「では、任せたぞ」

「えぇ、任されましたとも」


 疑問に思いながらも、特に引き留めるでもないカルナシオンはすたすたとエレヴォスの横を通った。


「──!」


 カルナシオンが通り過ぎると、僅かに目を見開くエレヴォス。

 その後ろ姿を充分に目に焼き付けると、改めてギルクライスへと問う。


「彼は……」

「さあ? どうですかねぇ」


 二人はある人物を思い浮かべて言う。

 ただ、それには確証が持てない理由もあった。


「ところで、あたしになんの用です?」

「……とぼけるおつもりですか?」


 エレヴォスが口元に笑みを浮かべながら言う。


「『凍晶妃(とうしょうひ)』ミララクラは竜王の一角へと挑み、未だ(くすぶ)るその魔族たる矜持(きょうじ)を見せつけた……(うらや)ましいことだ。なにせ、挑む相手がいるというのは魔族にとって生きる理由にも等しい。しかし、人間との戦いが忘れ去られている今、我々には『挑む相手』というのは中々現れないものです。現在の魔王──あなたの弟君は、魔神の闇の中の嘆きから生まれた存在。計算高く、隙のない人物で……なにより利を優先する。魔族たちの面倒事を極力抑え、統治することこそ最も手間が省ける……そうお考えだ。魔神の闇の歓喜から生まれた存在である貴方にとっても、つまらない世になったとは思いませんか?」

「……」


 ギルクライスは言い返さなかった。

 それは確かに事実を多少なりとも含むことだったからだ。


「今や魔族十二侯は名ばかりのものとなった。わたしはそれが悲しい。この200年で、その実力に変動があったのかどうかを確かめる術もない。……『冥王』ギルクライス、わたしにどうか──挑戦の機会を」


 魔族十二侯、五層のエレヴォス。

 階名を『熾天将(してんしょう)』、通り名を『無明(むみょう)のエレヴォス』。


 彼もまた、かつての魔王の元に集いその名を轟かせた人物だ。


「…………たしかに」


 ぽつりと言うと、ギルクライスは中折れの帽子を手元に寄せる。


「見上げるもののない時間は、なんとも退屈でしたとも」


 まるでエレヴォスの言うことに同調するかのようだった。


「──それはそれとして」

「?」

「闇の歩き方は、ご存知ですかねぇ?」

「! な、なにを──ッ」


 魔神の闇の中の愛より生まれた存在であるエレヴォス。その言いぶりには、自分をバカにされたと感じた。さきほどまで柔和(にゅうわ)だった表情を鋭くさせる。


 それを満足気に見届けると、ギルクライスは長い前髪を指でかき上げ、帽子の中に仕舞い込むかのように被り直した。


「じゃ、────死合いましょうかねぇ」


 普段露になる左目とは全く違う、吊り上がった眼。

 暗闇の中に紅く浮かび上がる歓びを感じさせる瞳は、かつてカルナシオンが称したギルクライスの人物像をよく表していた。




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