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二十六羽 森人の矜持②


「……はあぁ~~~~?」


 テリネヴは呆れた。

 魔族である以上、強さに固執するのは分からないでもない。

 魔神由来の魔力を持つ者は、基本的には皆そうだからだ。

 だが、シルケンタウラは『こんなチビ』とテリネヴを見下しているのである。

 優劣をハッキリさせるというのであれば、カルナシオンだけを相手にすればいいはずだ。

 要は喧嘩っ早いのである。

 そら角も折れるよな、とテリネヴは納得した。


「あのさぁ……」

「ふん、ちょうどいい。貴様相手にウォーミングアップをして、調子づく人間をも(ほふ)ってやろう!」

「うわー」


 人間と魔族は200年前の魔王と勇者たちの戦いの後、長きに渡り休戦状態だ。

 未だに暴れまわる魔族も確かにいる。

 しかし、一人対四人の戦いであったとはいえ、魔王は確かに人間相手に引き分けた。

 それは強さを重きにおく魔族としての矜持(きょうじ)から、戦い以前よりも人間という種族を見直していた。


 結果、ここ数十年でようやく魔王や親善大使が各国の主要都市を訪れるまでに関係が改善している。

 カルナシオン宅があるような辺境では中々魔族の姿は見ないが、王都のような主要都市であれば、人間の供を伴って移動する魔族の姿も見られるだろう。


「前時代的な魔族だね」

「うっ、うるさい!!」

「まあ、ミラが竜王の一角と互角に渡り合ったって聞いたら、血気盛んな魔族は後に続くよね」

「……ふん、やはり貴様も魔族か。そうだ、その通りだ。そして……僕のように万全の姿ではない者はまだ竜王に挑戦するには早い」


 現在竜王の一角はその力を封印され下僕生活を満喫しているのであるが、ややこしくなるので黙っていようとテリネヴは心に誓った。


「……ん? 凍晶妃(とうしょうひ)と知り合いなのかい?」

「まあ」

「ふぅん? 思っていたよりはやるんだね」

「……そこそこ?」

「ふん、──おもしろいっ!!」


 ──全然おもしろくない、むしろ帰りたい


 一人で勝手に盛り上がるシルケンタウラ。

 なんだかミララクラに性質が似ているな、とテリネヴは現実逃避するかのように考えた。



 ◆



「──ほらほらぁ!! どうした!」

「はあ」


 魔法でおこした疾風を次々と投げつけるシルケンタウラ。

 魔力の根源である角も折れているのに、完璧に魔法を操るその魔力操作の技能には、テリネヴも僅かながら感心した。


 ぴょんぴょんと小さい体で迫りくる風を避けつつ、間に合わない時には体を伸ばして木々の盾でガードするテリネヴ。防戦一方だ。

 その身は徐々に(そが)がれ、弾かれた小枝が地面に点在する。


「くくくっ、森人(ドリアス)には──こいつがお似合いかなぁ!?」


 次いで、息をつく間もなく炎の弾を浴びせる。

 それは植物からなる体を持つ森人にとって、最も効果的な魔法だろう。

 シルケンタウラの周りで旋回して勢いづける炎弾は、次々にテリネヴへと襲いかかった。


「……はあ」

「!」


 テリネヴは面倒そうに木靴のような足でちょんと地面を踏む。何も無かったそこにはシルケンタウラを遥かに超える土壁が現れ、役目を終えるとまた大地へと還った。


「……ほう?」


 僅かに顔つきの変わるシルケンタウラ。

 何かを確かめるように緩急をつけ、なおも多くの炎弾をテリネヴへと放つ。






「……はぁっ」

「息、あがってない?」

「うっ、うるさいっ!」


 ──なぜだ?


 シルケンタウラはまったく疲れる様子のないテリネヴを疑問に思う。

 いくら花を持つ森人だからといって、巨大な土魔法を何度も連発したり、身体を成長させるのであれば……。魔力が尽きないにしても、花珠(かじゅ)から必要な魔力を供給するために僅かな隙が生じるはず。


 それがない。

 むしろ、こちらが魔法を打ち込むよう誘われているようにも感じる。


 シルケンタウラはかすかに頭をよぎった誤算を振り払うように、更に大きな炎弾を繰り出す。


「はぁ、……さっさと、────()ちろよ!!」


 苛立ちも込めた炎は何十倍もの大きさに膨れ上がる。

 人間であれば、それ一つ撃つだけで相当な実力者だと持て(はや)されるだろう。


 巨岩のような炎弾は、テリネヴを捉えると一直線に向かった。


「もーめんどい」

「!?」


 テリネヴは避けない。むしろ、受けて立った。

 燃え盛る炎は木々の後押しを受け、さらに燃え上がる。


「はっ、え、は!?」

「これで分かるんじゃない?」


 炎に包まれたテリネヴは挑戦的に言い放つ。

 そんな余裕がいったいどこから出るのか。

 不思議なほどテリネヴの声は至って冷静だった。


「──っ!? ま、まさか」

「カルナさん除いたら、他のやつらに魔力量……負ける気しないけど?」


 ジトッとした眼でシルケンタウラを見据えるテリネヴ。


 シルケンタウラが作り出した炎が燃え尽きるよりも早く、その炎が身を焦がす度、恐ろしいほどの速度で体を再生させた。

 まるで、そんな炎くらいの魔力では勝ち目がない。

 そう言っているかのようだ。


 炎はむしろ、テリネヴの再生する体に追いつかず徐々に勢いが(おとろ)える。

 かがり火のように小さくなると、テリネヴはぐっと掌で掴んで握りつぶしてしまった。


「くっ──」

「おっと」


 次なる一手を繰り出そうとしたシルケンタウラは、テリネヴが意図的に切り離した小枝たちによって阻まれる。

 地面からあちらこちらより枝が伸び、魔力の通う巨大な木製の牢屋と化した。


「はあああああ!?」

「ボクと君の実力差、そのくらいも分からないなんて────栄養、足りてないんじゃない?」


 頭の(つぼみ)をトントンと叩いて珍しく挑発するテリネヴ。

 さすがにメンドウ度が振り切れたのだろう。

 面倒そうにしている相手にダル絡みは避けた方がよさそうだ。



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