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二十三羽 アンジェリカへの挑戦状


「……ちょっと、どういうことよ?」

「さ、さあ」


 ミララクラは憤った。

 というのも、彼女はこの街の四方の門とギルドのある中心地付近に、自分の氷晶を設置している。

 いつカルナシオンが訪れてもいいように、その氷晶が映し出したものを手元の氷晶へと反射させて定期的に確認しているのだ。


 そうして西門に映し出された彼の姿を見て、ミララクラは目の前の男を占い終えたあと真っ先に駆けつけようと思っていたのである。


 我慢できずにもう一度氷晶を見ると、謎の男がカルナシオンの肩を組んでいる──。

 ミララクラは、許せるはずもなかった。


「誰よ、あの男」

「さ、さあ」


 客の男は困った。

 なにせ今日は、目の前の美しい女性との恋路を占ってもらうために来たのだ。

 そう、もし彼女の噂……心から望んでいることが分かる腕前、というのが本当であれば告白しようと一大決心していたからだ。


 なのに彼女はなぜか憤る。

 それも、仮に彼女の占いで彼女自身の思い人を映し出したとして。

 予想されるセリフは「誰よ、あの女」であるはずだ。


 ──女性が好きなのだろうか


 であれば、自分は最初から対象外である。

 客の男は本当に困っていた。


「──わるいけど、今日はもう店仕舞いよ!」

「え!?」

「お代は結構」


 何やら切羽詰まった様子で慌てて席を立ち走り去っていく。

 男は残念なような、安堵したような。

 不思議な感覚に陥った。



 ◆



「!」


 ミララクラはギルド付近に駆けつけるも、一足遅かった。

 そこにはカルナシオンどころか謎の男すらもいなかったのだ。

 だが、代わりに予想外のことが起きた。


 ──南門……?


 自分がこっそりと設置した氷晶。南門にて見張りをしていた兵士に、「肩にゴミが付いている」と言ってくっつけた小さな氷晶が、砕かれたのだ。


 ミララクラは訝しんだ。

 なにせ、小さければ小さいほど魔力を感じさせない優れた代物。

 気付くとすればよほど優れた魔導師か、あるいは同族かだ。


「ふうん?」


 ミララクラはそれを、挑戦と受け取った。

 たまたまかもしれない。

 だが少なくとも、この街にしばらく滞在して初めてのことだ。

 可能性として高いのは同族だろう。


「誰よ。わたくしの恋路の邪魔をするのは」


 始まってもいない道のりを邪魔されたミララクラの静かな怒りは、まだ姿の見えぬ同族へと向けられた。



 ◆



「! ──あんた」

「お久しゅう、凍晶妃(とうしょうひ)


 南門付近に到着したミララクラは、そのあからさまに自分を(いざな)う風の魔法を察知した。

 大人しくそれに従い街を離れ、エルフたちの森とは別方向にある森の入り口に差し掛かる。


 そこには、頭部を布で(おお)い正体を隠した大柄の者がいた。

 ミララクラはその声と風の魔法、腰に差した刀を見て正体を察した。


「マトバ」


 過去魔族十二侯の一人に仕えていた、通り名を『風刃(ふうじん)のマトバ』と呼ばれた男。

 護衛のような、用心棒のような存在で、その卓越(たくえつ)した剣技と合わせる風魔法が有名な人物。

 着流しを来た大柄な男はその頭部を現す。


 青い毛流れの狼のような頭部。

 右目は鋭利な傷で閉じられており、左目だけが金の鋭い眼光を覗かせる。

 時折ぴくりと動く左耳とは対照的に、右耳は半分に折れ、まるで機能していないかのようだ。


 頭部を除けば人間に近い見た目、人狼種(ウェアウルフ)

 厳密には魔族ではなく獣人であるが、その異様なまでの力への執着は時にトラブルを引き起こす。そのため人間たちの間では魔族と同列で扱われ、魔族間でも同様だ。


 人間の街で見かけるのはごく少数、そのほとんどが護衛として雇われている者。

 もし一人で行動していれば衛兵に問いただされるレベルだ。


「なに? なんか用?」


 ミララクラは苛立ちながらも問う。


「なに、大した用ではない」

「はあ?」

「少々……、──手合わせ願おうか!!」


 マトバは怪しく光る刀身を抜くと、その切っ先をミララクラへと向けた。



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