二十羽 四人集まれど出てこない知恵
「──さて、作戦会議だ」
うさぎさんは編み籠の中でお休み中。
カルナシオンは下僕三人をダイニングテーブルへと招集し、意見を募った。
「何のですかねぇ」
「世界樹の枝だ。ベムネスラの許可は得たが、他二人にどうやって聖域への道を教えてもらうかだ」
「なるほどな。カルナの手を煩わせるとは、けしからん奴らだ」
「ボクも幻獣種と水霊族の好みは知らないなぁ」
世界樹へと至る道。聖域への扉が開くかどうかは、彼女らの気分にかかっている。
一人は通称『天眼のアイドラ』と呼ばれる幻獣種。
『幻獣』というのは通常、天上の神々由来の神秘的な存在を指す。
獣の姿を持つことが多く、精霊たちとの融和性も高い。
魔族は魔神由来の魔力を持つため、幻獣に近しい魔族のことを『幻獣種』と呼んでいるのだ。20年前に森に引っ越してきた魔族である。
もう一人はメルティーヌ。
水の精霊との融和性の高い亜人、水霊族。
通称がないように、過去に何らかの武功をあげたことはない。
ないが、自称三女神の一人という人物である。
もちろんヤバい人物だ。
「というか、なぜ世界樹の枝にこだわるので?」
「この世でもっとも清浄な枝ならば、万が一飲み込んだとしてもうさぎさんの体に影響はないだろう」
「そりゃそうですがねぇ……」
ギルクライスは半ば呆れたように言う。
「全身全霊をかけて愛でたい……、こんな気持ちは生まれて初めてだ」
「──! そっ、その気持ち、俺はよく分かるぞカルナ!!」
「そうなのか?」
残念ながら炎竜の全身全霊は届いていない模様。
「うーん。アイドラさんは何となく許可くれそうですけど、メルティーヌさんはちょっと……」
「そうだな……。私も一度しか会ったことはないが、その。気難しそうな……」
カルナシオンがそう言うと、四人の脳内にはミララクラの姿が映し出された。
そういう人物である。
「先にアイドラか……。ギル、知り合いだろう?」
「知り合いっちゃ知り合いですけどねぇ。彼女はともかく、あたしは精霊にきらわれてるもんで」
余談ではあるが、精霊の姿は魔力の高い者ならば視認性が高くなる。
だが精霊たちも魔力からなる存在とはいえ、意志ある者たちだ。
どう考えてもヤバい人物の前に姿を現したくはないのである。
察して欲しい。
「となると、私とテリーが赴くのがいいか」
「! 水の精霊と俺は相性が……」
「アルは留守番だぞ」
至極当然のように留守番を言い渡されるアルクァイト。
一同で最も戦意の高い者は、我慢を覚えさせられているのである。
「あたしが……メルティーヌ殿の元へ行くんですかねぇ?」
「手土産を持ってな」
そもそも、それが分からないのである。
すべての森人がそうではないが、テリネヴ自身は生物としての性はないものの、周りの影響もあり諸々が男性寄り。
三人は女性どころか他人の気持ちすら分からない。
気難しいとされる女性への手土産。会議をする以前に詰んでいるのである。
「……」
「……」
「……」
「……」
四人は押し黙った。
脳内には先ほど浮かんだ人物が映し出されているのであるが、この方法は誰にとっても不本意なものだ。
「──はぁ、仕方あるまい。……行くか」
「お」
「腹をくくりましたか」
「人間の街になら、俺が行こう。ここは譲れん!」
女性の喜びそうなもの。
それを聞くためにミララクラの元へと行くことを、カルナシオンは不本意に思いながらも決心した。




