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十八羽 覚醒!?縦横無尽なうさぎさん


「──ん?」

「あれ、だれかいるけど」


 テリネヴを抱えて自宅へと帰ってきたカルナシオン。

 ひとまず残り二人の自称女神に手土産を考えるべく、自宅で作戦会議することに。


 すると、玄関口でギルクライスと話す大柄だが背の低い男の姿が見えた。


「! よお! 旦那ぁ!」

「誰かと思えば、ランタンか」


 オーブル=ランタン。

 茶と赤が入り混じった髪と髭が特徴的な、ドワーフの男。

 ドワーフらがカルナシオンの家を建てた時のリーダー、親方である。


「ちょいと近くまで来たもんだからなぁ! あれからどうだい? 家のことで困りごとはねぇか?」


 豪快に笑いながら問うランタン。

 カルナシオンの家を造るにあたり、エルフたちとも縁ができたようだ。


「ああ、快適だ。困りごとはないが──」


 カルナシオンはふと気づいた。

 家の中は自身もうさぎさんも、わりと快適に過ごせる環境。

 だが、先日うさぎさんの観察会を行った際、うさぎさんは本能で『ほりほり』する習性があると聞いた。

 こちらの世界のうさぎも土に穴を掘って暮らすうさぎがいるので、種族としての特性なのだろうとカルナシオンは考えた。


「ほりほり……」

「ん?」

「庭……?」

「……ん?」


 珍しく要領を得ないカルナシオンの返答に、ランタンはずっと不思議な顔をしていた。



 ◆



『ほあーーーー!!??』

「どうだうさぎさん」

「旦那のオーダー通りに作ったが、どうだ? 気に入ったか?」


 カルナシオン宅の庭。

 テリネヴによって季節の花や薬草なんかは多少植わっていたものの、大部分は土と草ばかりが目に入る元の土地。


 家の隣に、うさぎさんが外敵に襲われないよう半屋外となったスペースを作り、そこに砂場を設けた。

 余った建材とドワーフ流の土魔法。そこに最高の魔導師であるカルナシオンも加わり、あっという間に出来上がったのである。


「気に入ってくれるといいが」


 調子に乗っている者に制裁を加える時以外、あまり体を動かすことがないカルナシオン。

 いい汗をかいたとでもいうように、ふうっと一息ついて編み籠に入ったうさぎさんを招いた。


『すごいでし~!』


 うさぎさんはどこか感動にも似た感覚を覚えた。

 知っているのに知らない。そんな、『土』。

 いつも室内にて暮らすうさぎさん達がほりほりするものは、土よりも多少硬さがある固形のものだ。

 ケージに備え付けられた木やチモシーで作られたおもちゃ。カーペットに人の足。

 狭くて暗い場所を好む習性を生かしたトンネルのおもちゃに、牧草でできたボール。

 これまでほりほりしてきた物とは違う物体に、うさぎさんはワクワクした。


 余談ではあるがうさぎさんのほりほり行動は先天的なものではあるものの、時に理由があってすることもある。

 新しいおもちゃが気に入って嬉しいからほりほり。

 逆に気に入らなくてほりほり。

 餌が欲しくてほりほり。

 ご主人に構って欲しくてほりほり。

 全く理由もなくほりほり。


 うさぎさんをよく観察しながら原因を絞り込むのも必要なことがあるので、念のため述べておく。


「さあ。存分にほりほりするといい、うさぎさ──ッ!?」


 カルナシオンは我が目を疑った。

 (かご)を降ろして砂場へと解き放ったうさぎさんの後ろ姿。


 普段、どちらかと言えばのんびりまったり。時々瞬発力を発揮するものの比較的穏やかなうさぎさん。

 そんなうさぎさんが、千剣草(せんけんそう)のポーションを飲んだのか? とでもいうように驚異の脚力からなる俊敏性を見せ、右へ左へシャッシャッと飛び跳ねる。

 まさしく『脱兎の如く』という言葉がお似合いである。


「うさぎさんが、──アグレッシブ!?」


 そうして一か所に落ち着いたかと思えば、土を一心不乱に掘り進める。

 両前足をぐいん、と前に置きスナップを効かせて後ろへと土を掻き出す。

 うさぎさんの世界でいうところの、『ショベルカー』のような姿だった。


「ほー! 見所があるな!」

『♪』


 危うくドワーフにスカウトされそうになるうさぎさん。

 その興奮は留まるところをしらない。


「? 旦那、どうしたんで……」

「いや、なに……うさぎさんのあまりの愛らしさに、私の語彙力が追い付かないだけだ」

「?」


 カルナシオンは言葉を失った。

 一緒に過ごす度に愛らしい一面が増えていくうさぎさん。

 暇つぶしだったはずの従魔召喚がもたらしたものは、あまりに尊いものだった。



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