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十四羽 カワイイ担当、爆誕


 うさぎさんには何となく身に覚えがあった。


 物陰から、そっと人間や仲間の様子を(うかが)う姿。

 店員に他のうさぎさんたちが(えさ)をもらう中、自分の番ではないために構ってもらえず寂しさからそのようなことをすることがあったのだ。


「?」


 うさぎさんは、てててとアルクァイトの元へ行くと、足元に寄り添ってあげた。


「!?」

『ぷぅ……』


 なんとも気持ちのよい温度。

 うさぎさんは夢見心地でゆらゆらと船を漕ぎかける。


「──ハッ!」


 すると、今度はアルクァイトが殺気を感知する。


「…………ずいぶんと、仲良くなったのだな?」

「いっ、いや! これは──!?」


 不可抗力だ。

 そんな言葉も届かないほど、主は下僕三号への嫉妬心を益々(つの)らせた。

 不毛な図である。


「ちょっとテリネヴ! いい加減離れなさいよ!」

「えー? いいじゃん、減るもんじゃないし」

「減るわよ!!」


 こちらはこちらで攻防を繰り広げる。


「ちょっとぉ! ギルクライス卿からも何か言ってよ!」


 少し離れたキッチンにて作業中の男に大声で問いかけると、「あたしは忙しいんで~」と返ってきた。この場に限り、ギルクライスは最もまともな人物に映る。なんともおかしな話だ。


「はー、ダル。戻ればいいんでしょ、戻れば」


 テリネヴは、元の姿に戻ればこのような体勢にならずに済むだろうと、体の成長を反転させた。


「「「あ」」」

「ん?」

『でし?』


 させたのだが、テリネヴの外見に変化は起きない。

 代わりにとある人物に変化が起きた。


「やば。魔力繋いだまま耐花(たいか)しちゃった」

「ちょっとおおおおお!? なにやってんのよおおおお!?」

「!? か、カルナッ、その姿──」

「ん?」

『ほあー』


 うさぎさんは驚いた。

 なにせ、テリネヴが(あご)を乗せていたはずのカルナシオンの頭部が消えたのだ。

 否。カルナシオンの体が、みるみる小さくなったのである。


「──ん?」


 カルナシオンも僅かながら驚いた。

 なにせ、何もしていないのに視線が下がっていくのである。


「はああああああ!!?? やっ、やだっ。新しい扉、開きそう……ッ」

「ぐっ……!! これはこれで、……ッ」


 鼻を押さえた様子のおかしい二名はともかく、テリネヴはやや焦ったように言った。


「あちゃー。これって花珠(かじゅ)持ってなくてもなるんだ? ……でも、まぁ抱き心地はめっちゃいいけど」


 まるで普段のテリネヴと同じ大きさになったカルナシオン。

 ちょこんとテリネヴの膝元に納まり、兄弟のようにも見える。

 神童と呼ばれた頃と同じ、ぷにっとした手に腕、丸い顔。その顔つきだけは不相応に大人びていた。


 手元に魔法で鏡を呼び寄せると、カルナシオンは興味深そうに言う。


「ほお? これは中々に興味深い……魔族の(ことわり)。それも種族の特性が、人間にも通用するのか」

「さすがカルナさん。冷静~」

『さすがごしゅじんでし~』


 うさぎさんはカルナシオンに心からの賛辞を送った。

 もし自分が小さくなったのなら、もっと驚くはずである。

 うさぎさんは主人のすごさを改めて実感した。


「感心している場合でもないですよねぇ」


 キッチンから様子を見に来たギルクライス。

 心配するような口調とは裏腹に、その表情は面白いものを見付けた時のようだ。


「僕みたいに自分で成長止めてるわけじゃないから……魔力が回復すれば、時間経過で元に戻ると思うけど」

「いやぁ、愉快愉快」

「んも、もうっ! 仕方ないわねぇ~! この、わたくしが! てっ手取り足取り、面倒見て差し上げるわ!!」

「帰れアブソリュート・アンジェリカ」

「キャー!? 呼ばないでってばー!?」

「カワイイのはピンとこないんでしょ? 僕に任せてミラは帰るといいよ」


 手を払い、さっさと帰れとジェスチャーで示すテリネヴ。

 心なしか普段よりほくほくとした様子である。


「は、はぁ!? べっ、べつに、可愛いのも守備範囲だしぃ!?」

「ブレ始めたな……」

「くくく」

『ほあー』

「? どうした、うさぎさん」


 うさぎさんは、普段より小さくなり、自分の大きさに近づいた主人を見て親近感を覚えたのだった。



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