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十一羽 うさぎの咆哮、効果は抜群


「そろそろ眠くなってきたな」


 あれからひたすらうさぎさんを観察したものの、生態の理解は深まったが可愛らしさの根源は分からなかった。

 現状での結論は、『うさぎさんがうさぎさんであるが故』となったため、何も進んでいない。


「ああ、おかしな主に付き合うあたし……可哀そうだと思いません?」

『? おきのどくさまでし』


 うさぎさんはこの世界の住人に対する印象が、今のところもれなく全員『おかしい』ため同意した。何も間違ってはいない。


「さて、寝る準備でも──ッ!?」


 カルナシオンが腰を上げると、うさぎさんは妙な体勢に入る。


 右、左。前足をちょんちょん、と順番に前に出し、後ろ足をぐいんと伸ばしてこれまでで一番細長い態勢になった。


 そして体の重心を前に突き出し、口を下に思いっきり開けてぐおおおっと遠吠えのようにあくびをした。

 一瞬の出来事である。


「……!?!?」

「おやぁ、可愛らしい」


 心のメモリーに刻み付ける暇もないほど一瞬の出来事。

 構えていなかったカルナシオンは呆気にとられ、そして言う──


「うさぎさん! もう一度だ!!」

『ミエーーーー!?!?』


 うさぎの咆哮(ほうこう)は大変貴重な瞬間。

 『やれ』と言われてできるものではないのである。



 ◆



「さあ、うさぎさん。次は準備バッチリだ」

『みぇ……』


 翌朝。

 うさぎさんはリビングにあるコカトリスの羽毛が敷き詰められた編み(かご)の中で眠っていた。

 別室で寝ていたカルナシオンは、起きて早々あくびをねだる。

 人間ですら、無意識にやることをいきなり『やれ』と言われても困難だ。

 うさぎさんも同様である。


「あたしは朝食でも」

「ああ、任せた」


 好都合、とでも言いたげな顔でうさぎさんと一対一で向き合う。

 うさぎさんは困った。

 今はあくびをする気分ではないのだ。


「ふむ、さすがに無茶を言った、か──ッ!?」


 カルナシオンの思考は停止した。

 咆哮を見ることは叶わなかったものの、また新たな愛らしい仕草を発見したのである。


 『ティモテ』。

 

 うさぎさんの元いた世界の言葉を借りればそう呼ばれる行為。

 要は、うさぎさんが耳のお手入れをすることである。

 名前の由来はここでは記載できないので割愛させてもらうが、クシクシもちもちとお顔周りを手で洗顔するように整えたあと、長いお耳を上から下へぐいーと引っ張り、舌でぺろぺろと毛づくろいするのだ。


 余談ではあるがうさぎさんはオスなので、マフマフと呼ばれる首回りの肉垂はほとんどない。

 首回りはわりとスッキリなのでお手入れも軽やかなようである。


「な、な──」

『?』

「ご飯できましたけどー?」


 あまりの愛らしさに思考停止したカルナシオン。

 しばらく朝食にありつくどころか、心のメモリーすらも機能しなかった。


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