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068 鍛冶屋探し

 あったかい。

 幸せ……。

 エルが私の頭を撫でる。

 気持ち良い。

 目を閉じたまま、エルの胸に顔を寄せる。

 エルの匂いがする。

 このまま、ずっとこうしていたい。

 エルが私の顔にキスをする。

 少し乾いた唇の感触。

 ……私も。

 エルを抱き寄せて、頬にキスをする。

 夢みたい。

 こんな、恋人みたいなこと。

 本当に、夢みたい……?

 あれっ?

 朝?

「エル?」

 近い……。

 夢じゃなかった?

「おはよう、リリー」

 エルが私にキスをする。

 ……されちゃった。

「おはよう、エル」

 朝から、こんなこと……。

  

 ※

 

 ベリエの十五日。

 今日は、お休みだ。

 ルイスとキャロルは出かけてしまった後らしく、家には誰も居ない。

 エルと一緒に朝ごはんを食べて、鍛冶屋に持って行くものを準備する。

 そうだ。お菓子も余ってたら、持って行こうかな。

 保冷庫には……。

 まだ、結構残ってる。

 必要な分はキャロルが持って行ったはずだし、半分ぐらい持っていこうかな?

 お菓子とレイピアの材料を持って、お店へ行くと、エルが開店準備をしていた。

「何か手伝う?」

「大丈夫だよ。もう行くのか?」

「うん」

『なら、私も行きますね』

「あぁ」

 エイダが私の傍に来る。

「行ってきます」

『行ってきますね』

「いってらっしゃい」

 

 ※

 

 良い天気。

 鍛冶屋さん、見つかると良いな。

『こっちですよ』

 エイダと一緒に歩いていると、子供たちが私の方に走ってきた。

「あなた、エルの彼女でしょ?」

「えっ?」

「名前、なんだっけ」

「リリーシア」

「リリーシャ?」

「えっと……。リリーで良いよ」

「リリーね」

「リリー、お菓子頂戴」

「昨日のやつ!」

 昨日、エルがお菓子をあげた子たちかな?

「まだ家に余ってるから、エルに聞いて貰える?」

「あいつ、家に居んの?」

「お休みなのに?」

 ……そういえば、今日はお休みだ。

「開店準備してたから、お店は開くと思う……?」

「見てくる」

「あ、待って」

 走り出そうとしてた子供たちが振り返る。

「なぁに?」

「あの……。この辺でおすすめの鍛冶屋って知ってる?」

「おすすめ?」

「職人通りでやっていけるのはガチな職人だけだぜ」

「どこの親方もうるさい奴ばっかりだよ」

「危ないから、子供は入るなって言われるわ」

 師匠みたいな職人気質な人が多そうだ。

「でも、リリーなら入れるんじゃない?」

「本当?」

「熟練の剣士は、鍛冶屋に自前の武器をオーダーするからな」

「たっかいけど」

「素材を持ち込めば安くしてくれるんだよー」

「そうなんだ」

 武器屋さんと鍛冶屋さんで、置いてる武器の系統に違いがあるらしい。

「じゃあ、鍛冶屋さんが強い武器を武器屋さんに卸すことはないの?」

「レアな武器は、武器屋が抱えてるぜ」

「レアな武器って?」

「ルミエール、リグニス、アルディア。この世に出回ってる剣の名工の作品は、武器屋が持ってるんだ」

「そんなの、イーストストリートの武器屋にはなかったよ」

「ばっかだなー。んなもん、簡単に出すわけないだろ」

「いちげんさんおことわり、なんだよー?」

 ……そっか。

 単に、客として信頼が無いせいで見せてもらえなかっただけだったんだ。

「色々、教えてくれてありがとう」

「じゃーねー」

「うん」

 子供たちが走って行く。

「あの子たち、昨日、折れたエルのレイピアを売ってきたんですよ」

「そうなの?」

 あれ?

「もしかして、今って、顕現してる?」

「えぇ。この姿の時は、サンドリヨンって呼んで下さいね」

「分かった」

「あの子たちが訪ねた店に、順番に行ってみましょうか」

「うん」

 

 サンドリヨンの案内で、鍛冶屋へ。

 一つ目の鍛冶屋は、無骨な剣が得意そうな鍛冶屋さんだった。

 私の持ってる剣に興味を示してくれたけど、自分で鍛冶をやりたいと言ったら、絶対に駄目だと断られてしまった。

 次の鍛冶屋は、とても忙しそうで、話しすら聞いて貰えなかった。……女子供が来るようなところじゃないって。

『何、むくれてるんだよ』

 だって。

 子供じゃないのに。

「戦闘職は男性の仕事と考える人間も居ますから。冒険者の仕事をしていても、私が戦いに加わることを嫌がる人も居ますよ」

「えっ?」

『どうせ、人間には大精霊だなんてわかんないからね』

「エルだって、人間にとっては弱そうに見えることの方が多いらしいですよ」

 あんなに強いのに、見た目だけで判断するなんて。

「次は、ここです」

 ……次こそは。

 

 サンドリヨンと一緒に、三軒目の鍛冶屋に入る。

「いらっしゃい。……サンドリヨン?」

「こんにちは。アラシッド」

「知り合いなの?」

「ふふふ。エルと仕事してると、色んな人と関わるわ」

 冒険者の仕事で関わったことがあるってこと?

「あんた、エルロックのところの嬢ちゃんか」

 私のこと、知ってる?

「黒髪の大剣使いって有名だぞ。うちに剣でも頼みに来たのか?」

「えっと……。鍛冶の道具を貸して貰いたくて……」

「は?」

「あの、お願いします」

「駄目だ駄目だ。冷やかしなら帰ってくれ」

「作りたい剣があるんです」

「そんな細っこい腕で何が出来るって言うんだ。だいたい、うちの職人でもなんでもないあんたに、うちの炉を貸せるわけないだろ」

「ねぇ、アラシッド」

「あんたの頼みでも、無理なもんは無理だぜ。用がないなら、帰ってくれ」

「この子が誰に鍛冶を習ったか、聞いてみた方が良いんじゃないかしら」

「誰って……。あんた、本当に鍛冶をやったことがあるのか?」

「はい。あの……。そこまでしっかり習ったわけじゃないし、まともに武器を作らせて貰ったことは全然ないんですけど……」

「あんた、異国の人間だろ?俺の知ってる職人から習ったって言うのか」

「私の師匠は、ルミエールです」

「は?」

 職人さん全員が、私の方を見る。

「冗談だろ?」

「冗談だと思うなら、この子の武器を見てみたらどう?ルミエールが、弟子である彼女の為に作った特別な剣よ」

 サンドリヨンが私を見る。

 間違ってはいないけど……。

 リュヌリアンを抜いて、職人さんたちに見せる。

「なんつー変わった剣だ」

「良い曲線だな」

「素材は何だ?」

「それは……」

 サンドリヨンが口元に手を当てて、ウインクする。

「聞きたいことがあるのなら、リリーのお願いを聞いてからにしてくれる?」

「こんな剣、見たことないぞ」

「だが、確かにルミエールっぽいな」

「なんて名前の剣だ?」

「えっ。あの、名前は、師匠じゃなくて私が自分でつけたのだから……」

「ちょっと、外に出て振って貰っても良いか?」

「え?……はい」

 

 外に出て、リュヌリアンを振る。

 どんな感じに振って欲しいのかな。

 演舞はしたことがないから、良くわからない。

「あぁ。良くわかった」

 わかるの?

「そいつは、ルミエールの剣で間違いない。……入りな。あんたの話を聞こう」

「はい」

 やった。ようやく、まともに相手して貰える。

「ありがとう、サンドリヨン」

「本番は、これからでしょう?」

「……うん」

 認めて貰わなきゃ。

 

 鍛冶屋の中に入って、材料を出す。

「レイピアを作りたいんです」

「レイピアだって?……この材料で?」

「はい」

「これで作れると思ってるのか?」

「レイピアに不向きな素材だってことは、わかってます。プラチナ鉱石は、主素材ではなく、軽量化の為の副素材に選ばれることが多い素材で、組成を見ても平たい剣や大剣に使えても、細い剣には向かない素材だってことも」

「良く勉強してるじゃないか。プラチナ鉱石は、価格も高くて扱いにくい。装飾品に向いてても、武器の製作に使うには、慎重な扱いが必要な素材なんだ。しかも、副素材を混ぜれば混ぜるほど、脆くなる」

「でも、プラチナ鉱石の持つ柔軟性は、レイピアに向いてると思うんです。だから、合金を作ります」

「俺の話を聞いてたか?副素材を混ぜれば混ぜるほど、プラチナ鉱石本来の性質は劣化するんだ」

「相性の良い副素材なら、劣化を抑えられます」

「それが、星屑だって?」

「はい。師匠がやってたんです。配合の違う合金を層にすることによって強度を増した細い剣の製作を。……その時に作ってたのはレイピアじゃないけど、きっと、レイピアにも使える方法だと思って」

「あんた、レイピアを打ったことはあるのか?」

「ないです。師匠は、大きな剣ばっかり作ってたから……」

 だから、今、アラシッドさんに話したことは、すべて机上の空論でしかない。

「なら、まずはレイピアの作り方を教えてやる」

「え?」

「それでも出来ると思うなら、その方法でやってみな」

「道具、貸してくれるんですか?」

「あぁ。……あんた、良い目をしてるからな。それに、ルミエールが本気で作った一振りを見せて貰ったんだ。仕事にも熱が入るってもんさ」

 やった。認めて貰えた。

「よろしくお願いします」

『エイダ。ボク、リリーの中から出られる気がしないから。リリーを頼んだよ』

 ……イリスは氷の精霊だから、熱いところは苦手だよね。

「私も、リリーの仕事には興味があるわ。しっかり見せて貰うわね」

「そっちに入ってるのは何だ?」

 あっ。そうだ。忘れてた。

「昨日、お菓子を焼いたんです。良かったら食べて下さい」

 アラシッドさんが笑う。

「昨日、子供たちがエルロックと約束してた菓子ってのは、これか」

 子供たちって、あの子たちのことだよね。

 なんだか、色んなところで繋がってる。

 

 ※

 

 レイピアの作り方を教わってたら、すぐにお昼になってしまった。

 午後にもう一度来る約束をして、サンドリヨンと一緒に家に帰ると、お店の中にお客さんがたくさん居た。

『あら、まぁ』

『すごい人だね』

「丁度良かったわ。あなた、お店の人よね?」

「はい」

「いつも売ってる強壮剤を探してるんだけど……」

「それなら、こっちです」

 お手伝いしなくちゃ。

 

 ※

 

 ようやく、最後のお客さんが帰った。

 お店、閉めて大丈夫だよね?

 準備中の看板を掲げて、戸締まりをする。

「お疲れ様」

「お疲れ様、エル」

 エルが時計を見てる。

「今、昼を作るから待ってて」

 作ってくれるんだ。それなら……。

「薬の補充しておく?」

「出来るのか?」

「うん」

『エルが研究室に居る間ずっと、ルイスから教わってたからね』

「なら、頼むよ。ランチが出来たら呼ぶ」

「わかった」

 それまでに、補充を終わらせなきゃ。

 

 ※

 

「美味しい」

 エルが作ってくれたのは、ベーコンと菜の花のペペロンチーノだ。

 ガーリックの香りが効いてて、美味しい。

「鍛冶屋は見つかったのか?」

「うん」

『アラシッドの店に頼んだんです』

「親切な職人さんばかりだったよ。師匠から聞いてたのと違う技法も色々教わったんだ」

「午後も行くのか?」

「うん。もう少し色々教わってから、合金の試作をしてみる」

 配合の違う合金。

 職人さんたちと相談しながら作っていこう。

「怪我には気をつけて」

「大丈夫。サンドリヨンが付いててくれるから」

『任せて下さい』

 エイダは、ずっと、私の傍で見てくれてる。

「お店、手伝わなくて大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 すごく混んでたけど……。

「欠品しそうなのがあったら教えて。気がついたら、研究室のボードに書いてくれても良い」

「えっと……。強壮剤の減りが早かった気がする」

「あぁ。一緒に買ってく客が多いからな」

 一緒に?

 そういえば、お店に来てた人って、皆、エルに相談があって来てたみたいだよね。

「エルって、頼りにされてるんだね」

「この辺の薬屋は、うちぐらいだからな」

 マリーが言ってたっけ。エルは貧困問題を真剣に考えてるから、ここにお店を出してるんだって。

「エルのお店って、特別に安くしてたりするの?」

「一般的に売られてる薬は他の店と同じ価格だ。そういう決まりになってるからな」

「そうなんだ」

 貧しい人たちに対して、特別扱いしてるわけじゃないらしい。

「ただ、うちには一般的な薬屋にはない廉価版をかなり置いてるんだ。風邪薬にしても、総合的に何にでも効く奴は高いからな。症状やリクエストを聞いて、細かく対応してる」

 今日来てたお客さんの目的は、それ?

 でも、症状に合わせて細かく対応出来るなんて、やっぱりお医者さんみたいだよね。

「エルもルイスも、すごいんだね」

「リリーだって、あれだけ美味いタルトを作れるじゃないか。昨日、食べた子供たちが、またねだりに来てたよ」

 今朝、会った子たちだ。

「あれ、子供たちにやっても良かったか?」

「うん。早めに食べないと悪くなっちゃうし」

 喜んで食べてもらえたら、それだけでも嬉しいから。

「残りは、ルイスとキャロルが帰ってきたら、皆で食べよう」

「うん」

 美味しい紅茶かコーヒーを淹れて。

 皆で食べよう。

 

 ※

 

 午後もアラシッドさんの鍛冶屋へ向かう。

 鍛冶屋の中に入ろうとしたところで、後ろから声が聞こえた。

『ごめん、リリー。ボク、今回は外で待ってるよ』

「うん」

 振り返ったけど、もうイリスの姿がない。

「向こうの屋根に上がったみたいですね」

 見えない。

 最近、ずっと、イリスの姿を見てない。

 私の中に居るからって安心してたけど、今は居ないんだ。

「大丈夫よ。近くに居るわ。行きましょう、リリー」

「うん」

 少しぐらい姿を見せてくれても良いのに。

 ちょっと、寂しい。



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