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067 ラッピング

 グラシアル女王・ブランシュ。

 でもこれは、彼女の本当の名前じゃない。

 女王の娘が女王に選ばれると、名前が変わる。

 彼女の本当の名前は、フェリシアだ。

 彼女が即位したのは、十一年前。フェリシアが二十九歳の時。

 アリシアみたいな銀髪の綺麗な人だった。

 あまり知らない人だったけど、普通の人のように見えた。

 けど、外での修行を終えて、女王となる準備を済ませた人だって聞いていた。

 この国を支えていく人なんだって。

 

 女王の即位と同時に、次の女王の娘が選定された。

 女王の娘は女王の名前を貰う。

 七歳だった私は、その時に、リリーシア・イリス・フェ・ブランシュになった。

 そして、同じように選ばれた姉妹と一緒に城で生活をして。

 成人を迎えた十八歳の誕生日に修行に出発した。

 予定通りに行けば三年後に帰還し、王位継承権を得た後は、次の女王の選出までの間、皆を守る存在になる。

 そして、女王の即位から、およそ二十年経つ頃に代替わりが行われる。

 女王が一人選ばれ、女王の娘が五人選ばれ、残った四人の王位継承権保持者が女王の娘の育成に当たる。

 永遠に、その繰り返し。

 

 グラシアルには、たぶん、氷の大精霊が居る。

 イリスは、私の為に生まれたと言っていた。

 精霊を生むのは大精霊だから、イリスの親である大精霊が居るって言うのは、なんとなく想像がつく。

 そして、その大精霊が女王と契約してるんだろうってことも。

 だから、女王になった人は、大精霊と共に国を支える存在になるんだろうなって、考えてた。

 だって、私には魔力が無い。

 この事実が、魔力集めの修行なんかで変わるわけがない。

 それを知ったから。

 だから、絶大な魔力を持つ女王の正体は、女王ではなく、大精霊の力を指すんじゃないかって……。

 

 でも……。

 ポラリスは、エルが炎の大精霊であるエイダと同化してしまうかもしれないって言っていた。

―見た目には不老不死か。

―……それを望む者も居るのだろうね。

―どこぞの女王のように。

 もし、それが本当なら、歴代の女王は、皆、氷の大精霊と契約して魔力だけで生きる存在になっているってことだ。

 つまり、絶大な魔力を持つ女王の正体は、大精霊と同化した女王……?

 

 同化すれば、魔力で生きる存在になる。

 生き物は日常生活によって生きるのに必要な力を得るから、魔力を失っても平気だし、生きているだけで魔力を得ることの出来る存在だ。

 だけど、魔力のみで生きる精霊や亜精霊にとって、魔力は有限だ。

 魔力が尽きれば、精霊だろうと亜精霊だろうと、死を迎える。

 

 およそ二十年。

 それが、大精霊と同化し、魔力のみで生きる存在になった女王が、契約によって得た絶大な魔力を国を支える為に使い続ける寿命だったとしたら……?

 

 肉体のない女王は、そのまま消滅する?

 私は……。

 女王に選ばれたら。

 国の為に魔力を捧げ続けて……。

 

「ただいま」

 エルが台所に入って来た。

 もう、こんな時間だったんだ。

「おかえりなさい……」

「どうした?」

 エルが心配そうな顔で私を見る。

「何でもないよ。大丈夫」

 ぼーっとしてたから、変なこと考えちゃった……。

「疲れたなら、夕飯まで寝たらどうだ?」

「大丈夫。もうすぐ終わるから」

 ラッピングも、後少し。

「どこかに配るのか?」

「明日、キャロルが合唱団に持って行くんだって」

「あぁ。明日は休みか」

 いっぱい作ったから、足りると思うけど……。

「キャロルは?」

「ちょっと休むって」

「そうか」

 エルが、空っぽの籠を置く。

 え?空っぽ?

「全部、食べたの?」

「近所の子供たちが美味そうに食べてたよ」

 子供が遊びに来てたんだ。

 エルが、コーヒーカップを洗いに流しに向かう。

「エルは?」

「食べたよ」

『そうね。時間かかってたけど』

 食べてくれたんだ。

「ごめんなさい」

「なんで、謝るんだ?」

「甘いのに、無理させちゃったから」

「無理なんかしてない。食べたいから食べたんだ」

 洗い物を終えたエルが振り返る。

「コーヒーに合うよ。そのまま食べるなら、もう少しレモンを効かせた方が好き」

「ありがとう。やってみる」

 ちゃんと味わって食べてくれたんだ。

 エルも、単純に甘いものが苦手なわけじゃないらしい。工夫すれば、エルが気に入ってくれるお菓子も作れるかもしれない。

「これから夕飯を作るんだ。疲れてないなら、手伝ってくれないか?」

「えっ?私、料理は……」

「菓子作りが得意なんだろ?」

「お菓子は作るけど、得意ってわけじゃないし、その……。包丁は使えないの」

 だから、料理なんて出来ない。

「それで良いよ。ラッピングが終わったら手伝って」

「……はい」

 もう、手伝うことは決まってるらしい。

 でも、テーブルを早く片付けなくちゃ邪魔になってしまうのは確かだ。早く終わらせよう。

 最後の一個に綺麗にリボンを結んで、完成。ラッピングしたものをまとめて保冷庫に入れて、エルを見る。台所には、大きなキャベツや変わった調理器具が並んでる。

「これは?」

「ミンサー。これを使って、ひき肉を作るんだ」

 エルが、ミンサーという道具に肉を詰めて、取っ手を回す。

「わぁ……」

 どういう構造になってるんだろう。

 挽かれた肉が、ボールの中に落ちていく。

「やってみるか?」

「うん」

 取っ手を回すだけで良いんだよね。

「何を作るの?」

「ロールキャベツ」

「えっと……。キャベツに、捏ねたひき肉を包んだ料理だっけ?」

「正解」

 捏ねた肉を野菜で包んだり、野菜に詰めたりする料理は色々あるよね。

 エルが手際良く準備を進めているのを眺めていると、突然、沸騰したお湯の中にキャベツを一玉入れた。

 えっ。

「全部入れるの?」

「あぁ。火の通りを見て、少しずつ剥がしながら茹でるんだ」

 キャベツを丸ごと使う料理なんだ。

 ミンサーの取っ手が空回りする。全部、挽き終わった。

「終わったよ。これを捏ねたら良い?」

「捏ねるのは、塩を入れてから」

 エルがボールに塩を入れる。

「良いよ」

 肉を捏ねるのは初めてだ。合ってるのかな。

「こんな感じで良い?」

「あぁ。上手いよ」

 なら、この調子で。

 ひき肉を捏ねていると、エルが慣れた手つきで野菜を刻んでいく。

 すごく良いリズム。

 料理、上手いんだ。

 突然止まったかと思うと、菜箸を手にしてキャベツの葉を器用に一枚引き上げた。

「すごいね」

「何が?」

「手際がすごく良いなって」

「ロールキャベツは、毎日のように作ってた時期があるからな」

「こんなに手間のかかる料理なのに?」

「なかなか気に入るレシピにならなくて。色々、試してたんだ」

「そうなんだ」

 わかるかも。お菓子だって、配合や焼き加減の少しの差で仕上がりが変わるから、試行錯誤が必要だ。

「リリー。ちょっと止めて」

「え?」

 ボールから手を引くと、エルが、細かく刻まれた野菜や調味料を入れていく。

「全体が混ざったら、八等分に分けておいて」

「わかった」

 ひき肉に色んなものを混ぜ込むらしい。

 かなりボリュームのある料理になりそう。

「他に、食べたいものはあるか?」

「ロールキャベツ以外にも作るの?」

「あぁ」

 ロールキャベツに合うのって、どんなのかな。

 あ。

「クリームチーズが余ってるけど、使える?」

 タルトの数に合わせてフィリングの量を調整したから、ちょっと余っている。

「クリームチーズとそら豆のサラダは?」

「わぁ。美味しそう」

 こんなにすぐに思いつくなんて。それに、すごく美味しそう。

 でも、まずは、こっちを仕上げなくちゃ。

 捏ねたひき肉を、エルが言ってた通り八個に分ける。ロールキャベツだから、少し丸くまとめておいたら、使いやすいかな?

「エル。こんな感じで良い?」

 ボールをエルに見せる。

「良いよ。貸して」

 エルが、広げていたキャベツの上に、一まとめにした肉を乗せて、キャベツで優しく包む。

「綺麗」

「リリーもやってみるか?」

「……見てて良い?」

「良いよ」

 とても、あんな感じに出来そうにない。

 見ている前で、エルが次々と包んでいく。

 手伝えることは、もう無さそうだ。使い終わった道具を洗っておこう。

「後は、煮込めば完成だ」

「あっという間だね」

 手際が良すぎて、手伝えることが全然なかった。

「リリーこそ、慣れてるじゃないか」

「え?」

「料理」

「そんなことないよ」

「台所が常に綺麗に保たれてるのは、手際が良い証拠だよ」

 洗い物のこと?

「サラダも一緒に作ろう」

「私、包丁、使えないよ?」

「使わなくて良いよ。クリームチーズにレモン汁を入れて練っておいて。それに、茹でたそら豆を加えて……」

 美味しそう。でも、それならアクセントに……。

「ブラックペッパーは?」

「ブラックペッパーを、」

 同じこと考えてたんだ。

 エルが笑う。楽しい。

 そういえば、エルは香辛料にも詳しかったよね。香辛料を効かせたお菓子なら食べてくれるかな?

 

 ※

 

 夕飯、美味しかったな。

 エルって、本当に何でもできるよね。

 寝る支度を終えて台所へ行くと、ルイスが洗い物をしていた。紅茶のカップを洗ってるみたいだ。

「エルは?」

「研究室に居るよ。課題のチェックをしてくれるって」

「そうなんだ」

 ……本当に、それだけ?

 ルイスが笑う。

「急ぎの薬は、もうないはずだけど。心配だったら、見に行ってみて」

『ばればれだね』

 そんなにわかりやすいかな、私。

「おやすみ、リリーシア。エルをよろしくね」

「うん」

 

 研究室へ行くと、エルがソファーに座って本を読んでいた。

 その横には、紅茶と食べかけのタルトが置いてある。

 ルイスが言ってた課題のチェックは、もう終わったのかな。

「まだ、寝ない?」

「もう少し読んだら寝るよ」

「食べても平気?」

「何が?」

「苦手そうだったから」

「夜食に丁度良いよ」

 エルが、残りのタルトを口に入れる。

 いつもみたいに眉をしかめてないよね。普通に食べてる気がする。冷めたタルトなら大丈夫なのかな。

 ……そうだ。

 研究室に置きっぱなしだった箱を取って、エルに見せる。

「レイピアの材料を、ルイスとキャロルにお願いして用意してもらったの。使って大丈夫?」

 純度の高いプラチナ鉱石に、瓶に移し替えて貰った星屑。

「このプラチナ鉱石、全部、家にあったのか?」

「うん。二階でキャロルが見つけてくれたの」

「こんなに余ってたのか」

 エルも、普段はそんなに使わない物みたいだよね。

「好きなだけ使って良いよ。足りるのか?」

「たぶん、大丈夫。ありがとう」

 失敗したら足りなくなるかもしれないけど。

 とりあえず、イメージしてる合金の製作に問題ない量はある。

「他に必要なものは?」

「刀身の材料はこれで作るつもりだけど、ヒルトの装飾は決まってないの。まだ、悩んでて」

「必要なものがあったら言って。プラチナ鉱石も、足りなかったら買ってくる」

「同じ純度の物を?」

「あぁ。研究所に頼めば、大抵のものは用意出来る」

「そうなんだ」

 錬金術って、思ったよりも鍛冶に近いのかもしれない。あの純度のプラチナ鉱石が手に入りやすいのは助かる。

 箱を元通りの場所に置いて、エルの隣に戻る。

 これで、準備は整った。

「明日、道具を貸してくれるところを探しに行ってくる」

『なら、私も付いて行きますよ』

「ありがとう。エイダ」

 エイダが付いてきてくれるなら、心強い。

「行く当てはあるのか?」

「ないけど……。この辺の鍛冶屋さんに聞いてみる」

『そうですね』

「もし、場所と道具を借りられなかったら、材料と作り方の希望を伝えて、お願いしてくるよ」

 私のイメージ通りに加工してくれる職人さんが居たら良いけど。

 ただ、イーストストリートの武器屋さんに卸している鍛冶屋さんしか居ないとしたら、ちょっと難しいかもしれない。レイピアはもちろん、それ以外の武器も、惹かれるようなものは置いてなかった。

 やっぱり、外では使い潰すことを前提にした武具が多いのかな。自分の愛剣として、手入れしながら長く使うことを想定した武具がない。

 エルのレイピアを作るには、かなり繊細な作業が必要になるのに……。

 急に、くしゃみが出た。

 ……さむい。

「先に寝てて良いよ」

「待ってる」

「風邪ひくぞ」

「一緒に居たいの」

 頭にブランケットをかけられて、エルを見上げる。

「キスして良い?」

「えっ?だめだよ」

「なんで?」

「だって、奪っちゃう」

「じゃあ、リリーからキスして」

「えっ。そんなの……」

「呪いが解けるかも」

「え?」

「今まで、リリーからキスして貰ったことはないだろ?」

「でも……」

「試して」

 だって。奪ってしまう。

「好きな相手じゃないと、嫌?」

「そうじゃ、なくって……」

 エルのことが好き。

 でも……。

「誰かを好きになるなんて、私は、しちゃいけないの」

 呪いがあるから。

 誓約があるから。

 好きな人とキスなんて……。

「好きだよ。リリー」

 だめ。

「リリーになら、いくら奪われても構わない。キスしても簡単に気を失わないことだって知ってるだろ?それ以外に、出来ない理由があったら言って」

 好きだから、余計にだめなのに。

「キスして。リリー」

 気持ちが揺らぐ。

―呪いが解けるかも。

「じゃあ、目を閉じて?」

 エルが目を閉じる。

 好き。もう、奪わないようになりたい。

 ……そんなこと、不可能なのに。

 体を伸ばして、エルの唇に唇で触れる。

 ごめんなさい。許して。

 離れたら、すぐにエルに抱きしめられた。

 良かった。エルの光は、いつも通り。そんなに奪ってない。

 ……何、考えてるんだろう。

 大丈夫なわけないのに。

「やっぱり、こんなのだめだよ」

「なんで?」

「私、酷い事してる。こんなに、いっぱいしてる。エルから魔力を奪うことに抵抗がなくなってるのが怖い」

「ちっとも酷い事なんかじゃないし、何一つ怖がる必要なんてない」

 自分からするなんて。

 自分から奪いに行くなんて。

「だめ。もっと、自分を大切にして。エルのことを大事に想ってる人も、エルを必要としてる人も、たくさん居るんだよ。こんな危ないこと、しないで」

 エルの周りに居る人は、皆、エルのことが大切なのに。

「今は、リリーのことしか考えられない」

 そんなこと言わないで。一緒に居ても、私はエルを幸せにしてあげられない。

「あのね……。本当は、ずっと一緒に居ることは出来ないの」

「三年以内に帰らなくちゃいけないから?」

「そうじゃなくって……。帰らなかったとしても、三年以上、外に居ることは許して貰えない」

「許してもらえない?強制的に連れ戻されるってことか?」

「わからないの。自分がどうなるのか。でも……。誰も、女王には逆らえない」

 言葉は絶対の響きを持って、相手を支配する。

 自由になんてさせて貰えない。生きていられるかもわからない。

 ……怖い。

 帰ったとしても、帰らなかったとしても。この先、私が自分の意思で自由に生きられることなんてない。

「ディーリシアに会いに行こう」

「え?」

「今、居場所を調べてるんだ」

「どうして……?どうして、エルがイーシャのこと知ってるの?」

「帰還しなければどうなるのか知りたいんだ」

 私、イーシャの話なんてしたことないよね?

 でも、アリシアは、エルは何でも知ってるって言ってた。

「どうして、エルは、そんなに私のこと知ってるの?私、何も言ってないのに。全然、話してないのに。エルは、どうやって……」

 エルが私の口にキスをする。

「言っただろ?自由にするって」

 自由に?

「私……。私、」

―……リリーこそ、信じてやらないのか?

―あいつは、リリーの運命の相手なんだろう。

 信じたい。

 でも、危ない目に合って欲しくない。

 エルが好き。

 傍に居たい。

 離れたくない。

 でも……。

 どうしたら良いかわからない。

 エルが本当に求めてる人は私じゃないのに。

 私じゃ、幸せに出来ないのに。

 それでも、私、エルが……。

 


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