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薄明に繋ぐ弧弦, リリーの物語  作者: 智枝 理子
Ⅰ.女王国編 Coup de foudre -ⅰ.ライラ
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005 嘘と真実

 ここからが本番だ。

「その……。上手く説明できるかわからないけど……」

 どこから話したら良いかな……。

「俺が知りたいのは、何から助けて欲しいのか、どうして俺なのか。この二つだ」

 それは、二つとも私の目的と同じ。

 一つ目の目的は、教育係から逃げること。

「助けて欲しいっていうのは、何かに追われてるからなんだろ?」

「うん」

「誰に追われてるかわかってるのか?」

「私を追ってるのは……」

『ちょっと待ってよ。教育係から逃げてるなんて言うつもり?まともな人間なら、大人しく城の人間と行動しろって言うに決まってるよ』

 そうなの?

 じゃあ……。

「城の人間」

「は?」

『あー……』

 えっ?駄目だったの?

「なんで?女王は、リリーの旅立ちを祝福してるんだろ?」

 女王は関係ないんだけど……。

「そうなんだけど……。だから、その……。そういう人も居るんだ」

『なにそれ……。もう少し、何か考えられなかったの?』

 だって、それ以外思いつかなかったんだもん。

「王族同士の諍いでもあるのか?」

「そう、そんな感じ」

 ……あ。

 エルが、私の話が嘘だって気づいた顔をしてる。

 気づくよね。女王に逆らえるような人なんていないし、この国に王族なんてない。上下関係は完璧に決まっていて、統制が乱れることだってない。

 何をどこまで話せば良いのかわからない。

 私だって、呪いのことは言いたくない。私は呪いの力を使う気はないし、教育係に呪いの受け手になってもらいたくない。

「そいつらに追われる理由って、女王の娘の修行に関係あるのか?」

「え?」

 修行?

 えっと……。

 関係ないよね?

 修行は、別に教育係が居なくても出来るし。

「追われる理由ははっきりしてるのか?」

「……うん」

「理由は?」

「だから……。敵対してる人が居て……」

 イリスのため息が聞こえる。

『リリーの言うこと、全然信じてないみたいだよ』

 教育係から逃げてる私は、ある意味、敵対してる状態だと思うんだけど……。

「目的は、そいつらに捕まらないように王都を出ることだけ?」

「うん」

 頷くと、エルがため息を吐いた。

 ……呆れられちゃったかな。

 私、嘘ばかり吐いてる。

「で?俺じゃなきゃいけない理由っていうのは?」

 それは、もう一つの理由。

「あなたにお願いがあるの」

「お願い?」

 エルじゃなきゃだめな理由。

「一緒に連れて行って欲しい」

「どこに?」

「あなたの行くところに」

『リリー、まさかと思うけど……』

 これが、私の二つ目の目的。

「俺がこれからどこに行くのか、知ってるのか?」

「わからないけど……」

 だって、こんな気持ちになったの初めて。

 出会ったのは偶然じゃない。

 だから。

「あなたと一緒に行きたいの」

『本気?』

 うん。

『本気なんだ』

 そう。

「仲間を探してるなら、それこそ冒険者ギルドに行った方が良い。当てのない旅だろうと、付き合ってくれる奴ならいくらでも探せるだろ」

『ギルドは駄目だよ』

 わかってる。

「俺みたいな見ず知らずの相手に頼むより、よっぽど安全な方法だ」

『こいつ、自分で何言ってるのかわかってるのかな。見ず知らずで怪しいのはリリーの方なのにね』

 確かに、そうかも。

「ギルドは頼れないよ。ギルドで会う人が、城の関係者じゃないとは言い切れないから」

 仲間集めで冒険者ギルドは勧められていたし、城の人間が居る可能性は高い。

「だったら、俺だって城の人間かもしれないだろ」

「あなたは違う」

「なんで、そこまで断言できるんだ?」

「それは……」

 どうしよう。

 全然、説得出来ない。

『わかったよ、リリー。どうせ、リリーみたいな方向音痴が一人でどこかへ行くなんて無理なんだ。こいつは親切そうだし、一緒に行動してもらえるように説得しよう』

 ありがとう、イリス。

『で?なんて説得するの?告白でもする?』

 しないよ!

『しないだろうけど』

 イリスの意地悪。

 でも、エルは私の気持ちには全然気づいて無さそうだ。

 ……気づくわけないよね。

 今日、初めて会った良く知りもしない相手だもん。

 私だって、こんな気持ち初めてで上手く表現できない。

 間違いないって思うけど、まだちょっと不安で。でも、絶対に手放したくない気持ち。

 こんなの、言えない。

『いいかい。下手な嘘はばれるからね。さっきの適当な嘘もばればれだったんだから。これ以上、誤魔化せると思わない方が良いよ』

 わかってる。

 本当は、嘘なんて吐きたくない。

 こんなに親切にしてもらっているのに。

『リリーが、色々言いたくないのも解るけどさ』

 私が受けた呪いは、絶対に隠し通さなくちゃいけない。

 あんな呪いを持ってるなんて知られたら一緒に行動してくれなくなってしまう。エルじゃなくても、きっと、誰だって……。

 だから、私の気持ちと呪いのこと以外で、どうにか説得しなくちゃ。

「あのね」

 まずは、城の人間じゃないって確信できた理由からだよね。

「あなたは強い魔法使いだ。私、こんなに強い力は初めて見て……」

「どういう意味だ」

 え?

 ……怒ってる。すごく。

「あの……。私……」

 私、何か変なこと言った?

 どうしよう……。

「悪い。続けてくれ」

 もしかして、失礼なことだった?

 どこが駄目だったんだろう。

『やっぱり、リリーには任せておけないね』

 イリスが私の頭の上に移動する。

 え?

「イリス」

 顕現してるの?

 イリスが顕現するなんて、珍しい。

「氷の精霊か?」

「うん」

 あ、言って良かったのかな?

 でも、もう気付いてるから大丈夫だよね?

『このボクが顕現してあげたんだから、感謝しろよ、魔法使い』

「何言ってるんだ。弱い精霊の癖に、無理して顕現なんてするな」

『なんだと、可愛げのない人間だな!氷漬けにしてやるぞ!』

「やるのか?」

 えっ。

「待って、イリス」

 話が違うよ。

 イリスのしっぽを掴む。

『うにゃー』

 どうして、そんなに攻撃的なの。

『尻尾はやめてよぅ』

「ごめん、イリス」

 うなだれたイリスを腕に抱える。

 イリスが弱い精霊だってことも、エルは分かるんだ。

 通常の精霊は小人の姿をしている。羽が付いている子も多い。

 でも、魔力の少ない精霊は小人の姿をしていない。イリスは小さな鳥の姿をした精霊だ。鳥と言っても、ちょっとふっくらしていて、すごく可愛い。

「話の続きをしろ」

『それは、お前がボクたちに協力するって約束してからだ』

「話の前提が間違ってるぞ。協力して欲しかったら情報を隠さずに出せ。さっきから、肝心なことは何一つわからないままだ」

『嫌だね!女王の娘の秘密を、そう簡単に話せるもんか』

 息がぴったり。

 顕現する前からずっとそうだったよね。

 私より、イリスの方がエルを気に入ったんじゃないかな。

「女王の娘っていうのは、顕現していない精霊の姿が見えて、声が聞こえることだろ?」

『そんなのは些細なことだね』

 えっ?

 見えるのも聞こえるのも女王の娘の特徴だったの?

「じゃあ、絶大な魔力を持つ女王の娘なのに、魔法が使えないってことか?あぁ、魔法も効かないんだったな」

『それは……。あーっ。これ以上は話さないぞ』

 イリス……。

 私より口が軽くない?

「魔力がない娘に魔力のない精霊。お前たち、本当に女王の関係者か?」

『ふん!誰が、お前みたいな田舎者に教えてやるもんか!』

「は?」

 田舎?

「あなたの出身は、のどかな場所なの?」

『リリー……』

 どうして、イリスはエルの出身が解ったんだろう。

 エルは頭が良さそうだし、どちらかと言うと教育の充実した都会育ちな気がする。

 それか、貴族とか?

『いいかい、魔法使い』

 イリスが私の腕から飛び立つ。

 あ……。

 待って。

 なんだか、くらくらする……。

『女王の娘の特徴ってのはね。一つ、魔法への耐性がとても高い!二つ、魔力が目に見える!三つ、子供が産めない!だよ』

 イリス。

 それ、言っても良いの?

 それに、三つ目は女王の娘の特徴なんかじゃない。それは……。

「魔力が無いことは……」

『あっ!聞いたな、魔法使い!』

「お前が勝手に喋っただけだろ」

『気に食わないやつだ!決闘だ!』

「俺が炎の魔法を使えるってわかってるんだろうな」

 エルが左手に杖を持つ。

「だめ……。イリス……」

「リリー、」

 眩暈が……。

「大丈夫か?」

「ん……」

 あったかい。

 ゆらゆら揺れて……。

 横になると、少し楽になるかも。

 でも、変だよね。

 今までイリスが顕現しても疲れることなんてなかったのに、どうして、こんなにくらくらするの?

 城の外だから?

『リリー。そんな恰好で寝る気?寝間着は?』

 ……あれ?

 ここ、ベッドの上?

 そっか。

 もう、着替えを手伝ってくれる人は居ないんだ。

 自分でやらなくちゃ。

 髪を解いて……。

『ちょっと、リリー』

 それから……。

「おい」

 あれ?寝間着ってどこだっけ?

『こいつの名前聞いてないよ』

「エルロックだ」

「ん……」

 エルロック。

 あぁ、ようやく、エルの口からエルの名前が聞けた。

 エルロック。

 私が恋をした人。

 

 

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