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054 悪魔の素質

「ただいま」

「ただいま」

「おかえり」

 エルと一緒に、家に帰る。

「やっぱり、リリーシアを迎えに行ってたんだね」

「あぁ」

 どういうこと?

 エルは何も言わずに家を出たの?

『エルはぁ、起きてすぐに、二階の窓から飛び出して行ったのよぅ』

『リリーが戦っていると聞いて、慌てて出かけたんだ』

「え?」

 二階から?

 そういえば、エル、昨日と同じ服……?

「魔法部隊は俺の仕事だ。もう、勝手に出て行くなよ」

「……はい」

 怒られちゃった。

 エルがルイスの方に行く。

「ルイス、足りない薬は?」

「大丈夫。一通りそろってるよ。ただ、春だし、季節ものは増やした方が良いかもね」

「ん。わかった」

 エルが家の中に入っていく。

 また、研究室に行ったのかな。

「リリーシア。ちょっと良い?」

 ルイスが私の髪に触れる。

「桜の花びらだね。お城に行ってきたの?」

「どうしてわかったの?」

「今、一番綺麗に咲いてるのは、お城の桜じゃないかと思って」

 お城の桜って、有名なんだ。

「うん。一面ピンク色で、すごく綺麗だったよ。私、桜って初めて見た」

「僕もラングリオンに来てから初めて見たよ。優しい色で、綺麗だよね」

「そうなの。……夢みたいだった」

 あまりにも幻想的で……。

 あそこでエルに言われたことも、夢なんじゃないかって思ってしまう。

「ランチは食べた?」

「食べたよ。クレープガレットのお店に連れて行ってもらったんだ」

「そっか。ありがとう」

 エルがちゃんと食べてるかどうか、ルイスも心配なんだ。

『エルって、本当に、放っておくと食べないんだね』

 マリーも心配してたっけ。

―また、食事を抜いてるの?

「何を手伝ったら良い?」

「棚が出来たみたいだから、キャロルを手伝ってくれる?」

「うん。わかった」

 

 ※

 

「ただいま、キャロル」

 二階へ行って物置の中を覗くと、棚に物を並べていたキャロルが、こちらを見る。

「おかえりなさい、リリー。見て、素敵な棚でしょう」

『おー』

「すごいね。これなら、いっぱい入りそう」

 右の壁一面が、棚になってる。

「この板を動かすと、高さも変えられるのよ」

「本当だ。便利だね」

 背の高いものも入りそう。でも、まずは大きいものから。

「重いものから運んで行くね。どこに置けば良いか教えてくれる?」

「えぇ。お願い」

 

 ※

 

 廊下に並んでいた荷物は、部屋一つに綺麗に収まった。むしろ、もう少し入れる余裕があるぐらい。不用品を処分したとはいえ、棚を作っただけで、ここまで変わるなんて。

『そういえば、昨日、外に出したものってどうなったんだろうね』

「キャロル、昨日のって、引き取ってもらったの?」

「今朝、外を見たら、ぜーんぶなくなってたわ」

「全部?」

「えぇ」

『すごいね』

 誰かが持って行ったんだ。

「これで、ようやくリリーの部屋が作れるわ。どんな部屋にするか考えてる?」

「えっ?」

『全然考えてないよね』

 どうしよう……。

「あの、もう少し考えても良い?」

「そうね。家具を見に連れて行って貰ったら良いと思うわ」

「うん」

 でも……。私に、家具なんて必要なのかな。

 

 ※

 

 もう少し掃除をすると言うキャロルを残して、一階のお店に戻る。

「ルイス。手伝うこと、ある?」

「もう終わったの?上の片づけ」

「うん。後は、キャロルがやってくれるって」

「そっか。……じゃあ、店番を頼んでも良い?」

「えっ?私一人で出来るかな」

「大丈夫だよ。お客さんはそんなに来ないから。研究室に居るから、困ったことがあったら、いつでも呼んで」

「わかった」

 頑張らなくちゃ。

「じゃあ、頼んだよ」

 ルイスが家の中に入って行った。

 途端に、店が静まり返る。

『大丈夫なの?』

「たぶん」

 カウンターの椅子に座って、誰も居ないお店を眺める。

 振り子時計が時を刻む音だけが店に響く。

『なんで、振ったのさ』

 そんなに怒った声、出さなくても良いのに。

『リリーは、エルが好きなんだろ?』

「だって……」

『呪いなら、エルが解くって言ってただろ』

 自分の両手を見る。

 本当に、呪いを解くことなんて出来るのかな。

 それに、呪いが解けたとしても帰還の義務があることに変わりはない。

「私には、三年しかない」

『それも、エルがどうにかしてくれるかもしれないだろ』

 それは、女王に逆らうってことだ。

「イリスは、エルが危ない目に遭っても良いって言うの?」

『良いとは思わないよ。でも、エルはリリーの為ならどんなことだってするよ』

「そんなの、だめだよ」

『何、いまさらそんなこと言ってるんだ。いつも、そうだったじゃないか』

 いつも……。

 いつも、そうだ。

 エルは、私の為に行動してくれる。

 私の為に怒ってくれる。

 自分のことなんてそっちのけで、いつも……。

『いつも、リリーはエルの足を引っ張ってばかりだったよね』

 イリスの言う通り。

『キルナ村では、村の人たちに協力するって言い張って、盗賊退治にエルを巻き込んでさ』

「あれは、盗賊退治じゃなくて、村の人たちの救出を……」

『何言ってるんだ。エルが穏便に済ませようとしたのに、勝手にしゃしゃり出て盗賊全員と戦う羽目になったじゃないか。ポルトぺスタでもそうだ。知らない奴に勝手に付いて行って誘拐されかけるわ、ソニアとエルの戦いに割って入って倒れるわ。おまけに、エルがやる気のなかったワーム退治を勝手に引き受けて、エルを巻き込んだだろ。アリシアが居た古城だって、エルが待てって言うのも聞かずに亜精霊を追いかけて幻術に入っちゃうし。それに加えて、今日の魔法部隊の仕事だよ。……エルも、良く、ここまで身勝手で無鉄砲なリリーに付き合ってくれてるよ』

 どれも、エル一人の方が、スマートに解決できていた問題ばかりだ。

 私が勝手なことを言ったり、勝手な行動さえしなければ、エルが苦労することなんて何一つない。

 私は、余計なことばかりしてる。

『もっと、気を付けなよ』

「ごめんなさい」

『このままじゃ、リリーのせいでエルが悪魔になるかもしれない』

「え?」

 どういう意味?

『わからない?あの占い師が言ってただろ。エイダは強い精霊だって。エルは、その加護を受けてる。……リリーも習っただろ。強過ぎる力で誰かを殺せば、魂が穢れて悪魔になるって。エルには、悪魔の素質がある』

 習ったけど。

「エルは、そんなこと……」

『しないだろうね。普段から力を抑えてるみたいだし』

「力を抑えてる?」

『普段は、自然現象を引き起こすほどの魔法は使ってないだろ?』

 それは、エルからも聞いた。

『でも、リリーが関わった時の魔法は違う。ソニアに放った炎の魔法だって、今日、虎の亜精霊に使った闇の魔法だって、本来なら魔法陣の力でも借りなきゃ、人間には発動不可能な規模の強い魔法だ。エルの魔法は、精霊が扱う魔法に匹敵する』

「それは、エルが強いからだよね?」

『精霊は人を殺してはいけない。……エイダと同化しかけるほど繋がってるエルは、魔法で人間を殺せば悪魔になる』

 そんな……。

「それ、エルは知ってるの?」

『知ってるんじゃない?あの占い師がエルにも言ってると思うよ』

「それなら、どうして……」

『リリーのことが大切だからに決まってるだろ。エルは、リリーの為なら力を惜しまない』

 エル……。

「やっぱり、一緒に居ない方が良いのかな」

『なんで、そうなるのさ』

「私が居なければ、エルは無理しなくて済むよ」

『そこまで大事にされてるって解ってるなら、エルに好きだって言えば良いじゃないか』

「言えないよ……。私じゃ、エルに何もしてあげられないのに」

 一緒に居るだけで、こんなに負担をかけてるのに。

『まさか、離れるなんて言わないよね?ずっと一緒に居るって約束したっていうのに』

 エルは、私と一緒に居ることを望んでくれてる。

「どうしたら、エルを幸せにしてあげられるのかな」

『告白したら?』

 喜んでくれるのかな。

 でも。

「これ以上、私の義務をエルに押し付けるなんて、出来ない」

 呪いも誓約も私の義務だ。

 エルが女王と敵対する必要なんて一つもない。

 私が解決しなくちゃいけない問題だ。

『リリーの馬鹿』

 だって。

 それが、事実だ。

 

 ※

 

 結局、お客さんは一人も来なかった。

 早めに店じまいをして、今日のお仕事は終わり。

 夕飯まで、エルの傍に居ることにした。

「区切りの良い所になったら、教えてくれる?」

『良いわよぅ』

 相変わらず、エルは真剣な顔で作業をしてる。

 私も、少しぐらい錬金術について勉強しておくんだった。

 そうしたら、アリシアみたいにエルと難しい話をしたり、薬屋を手伝えたり出来たんだろうな。

 ……だめだよね。

 不器用な私じゃ、あんな細かい作業なんて出来そうにない。

 ノックの音がする。

 もう、夕飯の時間?

「どうぞ」

 答えると、知らない男の人が入って来た。

 ……誰?

 金髪碧眼の背の高い男の人。

 魔法使いっぽいけど、見慣れない色をしてる。

 その人がエルが作業してる隣に行って、何か書き始める。

 それを見たエルが、眉をひそめた。

「違う。それじゃない」

「なんだよ。睡眠薬作ってるんじゃないのか?」

「違う」

「どっちにしろ、この行程は要らないだろ。この触媒を使え」

「確かに」

「で?何作ってるんだよ」

 エルが手を止める。

 え?

 あんなに集中してたのに。

 この人の話、ちゃんと聞いてる?

「酔い止め」

「は?」

「乗り物酔いの薬」

 それって……。

「んなもん、いつ使うんだよ。お前、乗り物酔いなんてしたことないだろ?」

「俺が使うわけじゃない」

「だいたい、そんな定番の薬なら、いくらでもレシピを取り寄せられるだろ」

「どこも似たような成分の奴しか置いてないだろ」

「ってことは、すでに研究され尽くした分野ってことだ」

「作ったこともないのに、そんなこと言えるのか」

「あー。お前は、そういう奴だよ」

『なんか、仲良さそうだよね』

 わかった。

―カミーユなら、背が高いからすぐにわかるわ。

「あなたが、カミーユさん?」

 男の人が、ようやく私の方を見る。

「うわ。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。君が、リリーシアちゃん?」

 可愛いっ?

 私が?

 男の人が私の前に跪いて、両手で私の手を握る。

「えっ……」

「俺はカミーユ。あんな研究馬鹿放っておいて、俺と一緒に良い所に……」

「さっ……、触るな!」

 無理。

 手を振りほどいて、エルの後ろに逃げる。

 ポールさんもそうだったけど、どうして、男の人って、こんなにいきなり手を握ってくるの?

「おい。誰が手を出して良いって言った」

「まじで可愛いな。グラシアルから連れて来たんだって?っていうか、小さいな。未成年なら……」

「ちゃんと、成人してます」

「未成年が異国に一人旅なんて出来るわけないだろ」

「わかってるって」

 カミーユさんが笑う。

 すごく変な人だよね。本当に、エルの友達?

「何しに来たんだよ」

「昨日持ってきたあれ。結構、古いタイプの蒸留装置だってわかったんだ」

 カミーユさんが、小さな袋から本を出す。

 エルが作ったアイテム袋、この人も持ってるんだ。

「ラングリオンでは一般的じゃないけど。まだまだ現役で使えて、ほら、こういうのに向いてるらしいんだ」

「面白いな」

「だろ?この本は貸してやる」

「ん。……そうだ。ルイスに新しい白衣を用意してやってくれないか?」

「ルイスから聞いてるぜ。近い内に研究所に来いって言ってある」

 そういえば、ルイスは、カミーユさんからも錬金術を教わってるって言ってたよね。

「俺のと同じ素材にしてくれ」

「わかってるって。じゃあ、また明日」

「あぁ」

 カミーユさんが部屋から出ていく。

 あれ……?

 用事って、これだけ?

 エルに本を貸す為だけに来たの?

 あんな遠くにある錬金術研究所から?

 明日も会うってわかってるのに?

「リリー」

 エルが私を見下ろす。

「悪かったな」

「大丈夫」

 手を掴まれただけだから。

 他に何かされたわけじゃないし……。

 エルが私の手を取る。

「嫌だったら言って」

「え?」

 何が?

 あっ。

 もしかして、手を繋ぐことが?

「あのっ。エルは良いの。大丈夫」

「なんで?」

「他の人……。あの、男の人が、急に、あんなことするから」

 だから、あんな風にいきなり手を握られるのは……。

「俺も、男なんだけど」

 そんなこと聞かれても。好きな人だから大丈夫だなんて、言えない。

「エル、リリー、ごはんよ」

 キャロルだ。

 カミーユさんは、もう帰ったのかな。

「片づけたら行く。リリーは、先に行ってて」

 作業台の方を向こうとしたエルの手を掴む。

「だめだよ。連れて行く」

 ちゃんと見てないと、すぐに作業に戻っちゃうから。

「じゃあ、早めに来てね」

「ん」

「わかった」

 キャロルが扉を閉める。

「リリー」

「うん?」

 私の手を掴んだまま、エルが私の前で膝を付く。

「あなたの御手に口付けても構いませんか」

「えっ?」

 その言葉は……。

「……はい」

「愛しい人。私の愛と忠誠を貴方に捧げる」

 エルが私の手の甲にキスをする。

 騎士の誓いだ。ラングリオンの騎士が、愛する女性に愛を捧げるためにするもの。

 受けちゃったけど……。良いのかな。

「どこまでして良い?」

「えっ?」

 好きな人に、そんなに真っ直ぐ見られたら逃げられない。

「エルなら……。何をしても良いよ」

 断る理由なんてない。

「でも、気を失うようなことはしないでね?」

 あんな怖いことは、もう起きて欲しくない。

「あ」

 手を引かれて、そのまま立ち上がったエルの腕の中に入ってキスをされた。

 熱い……。何度もしてるのに、いつもと違う。

 どうして?

 離れたエルを見上げる。

「約束出来ない」

 エルが片づけに戻る。

 顔が熱い。

 胸が苦しい。

 ……言葉に出来ない。

 


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