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051 効果は価格に比例する

 ……エル。

 目の前で目を閉じてる人の頬に触れる。

 ぐっすり眠ってるみたいだ。

 可愛い。

 そういえば、こんな風に寝顔を見ることってあんまりないかも。

 いつも、エルの方が先に起きてるから。

 ……あれ?

 今って、朝?

 私、起きてる?

 顔、近い……。

 体を起こす。

 私……。

『おはよう。リリー』

「エイダ。おはよう……」

『どうしたんですか?』

 思わず顔を覆う。

 いつも背中に抱きついてたけど。

 今日は正面だったから。

「私、寝てる間にキスなんてしてないよね?」

『え?』

『リリーは、ずっと大人しく寝てたよ』

 本当かな。

 エルの光は……。

「いつもより、少ない気がする……」

『何が?』

「エルの光」

『……』

『あんな魔力の使い方してたら、いつ倒れてもおかしくないわよ』

「どういうこと?」

『精霊を三人も同時に顕現させ続けてたのよ?しかも、魔法まで使わせて』

『エルが、いつもやってることねぇ』

「いつもって……」

『エルは、錬金術の作業を精霊に手伝わせるからな』

『いくら強い魔法使いだからって、限度ってものがあるわ』

「もしかして、ラングリオンに居る時のエルが朝起きられないのって、そのせいなの?」

 皆が顔を見合わせてる。

『それも、あるのかもしれませんね』

 無理し過ぎてるんだ。

 ……あれ?

「イリス?」

『何?』

「どこに居るの?」

『リリーの中だよ』

「どうして?」

『リリーも、そろそろ外のやり方に慣れたら?』

『精霊はぁ、契約者の中に隠れているものなのよぅ』

『氷の精霊は王都では珍しいからな』

 契約してる精霊を外に出してる人って、そんなに居ないんだっけ。

 天井付近の窓から差し込む明るい日差しがエルの顔を照らす。頬をつついてみても、規則正しい寝息が聞こえるだけで起きてくれる気配は全然ない。

 というか、エルは昨日の服のままだ。着替えもしないで寝ちゃったぐらいだし、かなり疲れてたのかな。

 ……?

 なんだろう。これ。

 エルの胸元に見えるチェーンを引く。

『何?それ』

「剣と花……?」

 変わったデザインだ。剣の先から花が咲き、そこから伸びる草が剣に絡みついている。

 ちょっと大きめだし、寝る時に付けっぱなしにするには少し危ない気がする。

「これ、外した方が良いかな」

『外してはいけない』

「え?……うん」

 バニラに言われて、首飾りから手を離す。

 大事なものなんだ。

 こんなの初めて見た。もしかして、いつも付けてるのかな。

 服の中に入れて?

 

 ※

 

 身支度を済ませてから、一階に降りる。

「おはよう、リリー」

「おはよう。キャロル」

「エルは?」

「まだ寝てるよ」

 キャロルが肩をすくめる。

「やっぱり、エルが規則正しい生活するなんて無理よね」

「えっ?」

「きっと、昼過ぎまで寝てるんじゃないかしら」

『本当に、普段はだらしないんだね』

 だらしないっていうより、無理してるんだよね。

「何か手伝う?」

「じゃあ、お皿を出してくれる?エルの分は出さなくて大丈夫よ」

「わかった」

 食器棚から、スープ皿とパン用の平皿を出す。

 もう、朝は起きて来ないって思われてるらしい。

 

 ※

 

 今日のお店は、昨日より静かだ。

 注文を受け取りに来たお客さんが来ただけ。ルイスが言っていた通り、普段はそんなにお客さんは来ないみたいだ。

 でも、補充しなくちゃいけない薬は山のようにあった。

 ルイスと一緒に確認しながら、一つ一つ丁寧に瓶に移し替えて、お店に並べていく。

「薬の補充はこれで終わりだね。ありがとう」

「うん」

 棚には、エルが作った薬や商品が綺麗に並んでる。

「リリーシアって、整理が上手いんだね」

「上手いかな」

「エルって、こういうのが苦手だから」

『片付けは出来なさそうだよね』

「本の扱いのこと?」

 ルイスが笑う。

「そう。本の扱いもひどいよね」

 もう少し大事に扱ってくれても良いのに。

「でも、どこに何があるかは、ちゃんと覚えてるみたいだよね?」

「あぁ、そうだね。研究室で作業中のエルって、ほとんど見ないで素材や瓶を取ってるから。僕も配置を変えないように気を付けてるよ」

 確かに、集中している間は周りなんて全然気にしてないよね。

「もしかして、間違えて戻しちゃったら大変なことになる?」

「大丈夫だよ。材料はすべて計量して使うから」

「そっか」

 そうだよね。計量する時に気付くよね。

「ただ、道具の取り扱いには気をつけてね。研究室にある道具は、良いのを揃えてるみたいだから。純度の高いガラス製で、落としてひびが入ると使い物にならなくなるんだ」

「わかった。気をつける」

 あの部屋の物は、なるべく触らないようにしよう。

 二階から、トンカチを叩く音が聞こえて来た。今日は、キャロルが頼んだ大工さんが二階で仕事をしている。

「エル、起きて来ないね」

「これで起きるなら、普段、僕らが呼んだ時も気づくと思うよ」

 今朝は全然気づいてくれなかったっけ。

「こんなにたくさん作ったら疲れちゃうよね」

 お店を見回すと、一面に色んな種類の薬や雑貨が置いてある。

「この店は、普通の薬屋には置いてない物もたくさん揃えてるんだよ」

「そうなの?」

「例えば、こういう魔法の玉は、一般的に魔術師ギルドに置いてあるものなんだ。エルみたいに魔法が扱える人じゃなきゃ作れないからね」

「そうなんだ」

 魔法の玉には色んな色がある。色ごとに中身が決まっていて……。後で、もう一度、復習しよう。

「傷薬も、こんなに種類が豊富なのは珍しいだろうね。地域の客層に合わせるのが一般的だけど、うちでは安いものから高いものまで一通り揃えてるんだ」

 地域のお客さんに合わせるなら……。ここなら、安い薬を置くべき?

「でも、売れてない薬なんてなかったよね?」

 どの棚も補充したはずだ。

「薬の効果は価格に比例する。近所の人は効能に応じた安い薬を買っていくけど、幅広い薬効をもつ高い薬を欲しがる人も多いよ。冒険者なんかがそうだね。エルの作る特殊な薬を買いに、わざわざ遠くから来る常連もいるぐらいだから」

「すごいね」

『有名なんだね。エルって』

 冒険者ギルドからはかなり離れた場所にあるのに、わざわざ買いに来る人が居るんだ。留守中に注文を置いて行く人もたくさん居るんだっけ。……すごく人気のお店だよね?

「うちは扱ってる種類が多いから、ちょっとずつ覚えていってね」

「うん。わかった」

 とりあえず、薬の効果は価格に比例するってことだけは覚えておこう。

「昨日は、キャロルと遊んでくれてありがとう」

「昨日?」

「ほら。寝る前に楽しそうにしてたから」

「あれは……。私がキャロルの髪を触らせて貰ってただけだよ。私、あんなふわふわの髪の毛に憧れてて」

「キャロルの髪は、母親譲りなんだ」

「そうなんだ。じゃあ、ルイスは……」

「父親に似てるってことになるのかな」

 ルイスの髪は真っ直ぐだ。

「二人は、孤児なんだよね?」

「そうだよ」

「二年前のこと、聞いても良い?」

「僕らが養子になった時の話?」

「うん」

「そうだね……。エルからは、どこまで聞いてるの?」

「詳しいことは何も」

『養子が居るって話すら聞いてないよね』

 店を任せてる人が居るってことしか聞いてない。

「僕らがエルと会ったのは、二年前の夏。人身売買を生業にしてる一団に捕まって、知らない場所に連れて行かれる途中でエルに助けられたんだ」

「えっ?」

『えっ』

 人身売買?

「元々、僕らの家は、その日の食事にも困るぐらい貧しかったのは覚えてるよ。母はキャロルを生んだ後すぐに病死して。父も……」

 こんなに幼いのに、一緒に暮らしていた家族を看取っていたんだ。

「その後、孤児院に入ることになったんだけど、僕らは別々の施設に行くように言われちゃってね。僕はキャロルを守るって決めてたから、二人で逃げたんだ」

「え?」

『逃げたの?』

「元々、僕らが住んでた地域には、施設を嫌がる子や施設から逃げてきた子が多く居たから。孤児たちが集まる所も、雨風をしのげるような場所も知ってたんだ。だから、どうにか暮らしてたんだけど。……誘拐されたんだ」

「二人共?」

「そう。あの辺の孤児で逃げ切れなかった子どもは、みんな。ただ、僕らを最初に捕まえた人たちが何だったのかは知らないよ。あちこちに引き渡されてく間に、知っている子はいなくなってしまった。それぐらい転々としてたから。……でも、そんなに悪い人たちじゃなかったと思う。食べるものもくれたし、必ず二人一緒に売り飛ばしてくれてたからね」

 ルイスが笑う。

「だめだよ、そんなの」

「僕は絶対にキャロルを一人にしないって誓ったから。孤児院に行くよりましだったと思ってる」

 ましだなんて……。

 でも、逃げなければ離れ離れになってしまう。どうするのが正解だったんだろう。

「最終的に、結構な数の子供が集められてる場所に行ってね。大きな馬車で移動してる時に、エルが助けてくれたんだ」

「エルが人身売買の一団を退治したの?」

「エル一人じゃないよ。大捕り物だったらしくて、他にもたくさん人が居たと思う。……その後、攫われた子供は親元に返されることになったんだけどさ。僕らは帰るところがなかったから。エルが、ここに連れてきてくれたんだ」

「そうだったんだ」

 二人が、そんな大変な目に遭っていたなんて。

「ただ、養子の話は、かなり無理したみたいだね」

「無理って?」

「国籍とか、エルと僕の歳が近いとか色々あって……。法律すれすれだったらしいよ」

 歳が近い?

「エルって、何歳なの?」

「二十歳だよ」

「二十歳?」

―この子が九歳で、さっきの子が十三歳ですって。

 だから……。

「七歳差?」

「あぁ、今はね。エルは今年で二十一なんだ。エルの誕生日は、リヨンの十六日だから」

「リヨンの十六日」

 リヨンは、一年の終わり。

「シャルロが、八歳差ならどうにか出来るって言ってくれて。エルの誕生日が来てから、僕らは正式にエルの養子になったんだ」

 たった一歳で、そんなに違いがある?

『国籍って?ルイスは、ラングリオン出身じゃないの?』

「ルイスの出身って?」

「わからないんだ。僕は、自分の街の名前を知らなかったから。……だから、出身地不明ってことになってる。ティルフィグンの可能性が高いとは聞いてるよ」

『身元不明の八歳差の子供を養子に、なんて。良く出来たね』

 本当に両親の居ない子供かどうかの証明なんて出来なかったはずだ。

「ルイスは、故郷が恋しくなったりしないの?」

「僕は、ここが好きだよ。キャロルと一緒に居られるからね」

「そっか」

 ルイスの望みは叶ったんだ。

「それに、錬金術まで教わってるから」

「元々、興味があったの?」

「興味を持ったのは、エルが薬屋をやるって言ってからかな。目の前で色々見せてくれたのが面白かったから。……一緒に住む家を探して、店を開く為の改装をして。本当に、あっという間だったな」

「確か、このお店は、去年のヴィエルジュに開業したんだよね?」

「うん。でも……。バロンスの中頃かな。急に、出かけるって言って。エルは旅に出ちゃったんだよ」

「薬屋を始めたばかりなのに?」

 ルイスが静かに頷く。

 バロンスは、ヴィエルジュの次の月。新しくお店を始めて、そんなにすぐに?

「だから、エルよりもカミーユに教わってる方が多いかもね。簡単なのは一人でも出来るようになってきたけど、難しいのは手伝ってもらってるよ」

「カミーユさんって、錬金術研究所の人?」

「そう。薬学の専門家で、錬金術研究所のエースって呼ばれてる」

「すごい人なんだ」

「エルには及ばないって言ってたけどね」

『研究所のエースって呼ばれてる人よりすごいの?エルって』

 王都で一番ってこと?それってつまり、ラングリオンで一番じゃ……。

 来客を告げるベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

 お客さんだ。

 ルイスと一緒に扉の方を見ると、ローブ姿の男の子が入って来た。

 赤い光。魔法使い?

「ユベール。どうしたの?」

 ユベール君って、ルイスの友達の?

「ルイス。魔法部隊の出動命令だよ。エルロックさんは?」

「まだ帰ってないことになってるよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだ。大変なことになってるんだよ。中央広場に亜精霊が現れたんだ」

「え?中央広場に?」

『街中に亜精霊が現れたって言うの?』

「わかった。呼んでくる」

「待って。エルは寝てるよ。私が行く」

「え?」

 


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