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薄明に繋ぐ弧弦, リリーの物語  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編 Embrasser -ⅰ.アヴェクノーヴァ
50/61

050 寝かしつけ

 エルと一緒に帰った後は、お店の手伝いをして一日が終わった。

 薬の補充をして、研究室に行く。

「エル」

 相変わらず、集中してるよね。

 でも、食事は絶対に取らなくちゃ駄目って聞いたから。どうにか連れ出そう。

「エル!」

『声には反応しないねー』

『本当に、一日中、こうなのね』

「ユール、今って、危ない作業してる?」

『大丈夫よぉ』

 なら、ちょっとだけ。

 エルの顔の前で、手をひらひらさせる。

 だめだ。反応がない。

 ちょっと強引だけど……。

「エル」

 軽く腕を引くと、エルが私の方を見る。

「リリー?」

 気づいてくれた。

「夕飯の時間だよ」

「……わかった」

 エルが視線を戻す。作業に戻っちゃった。

「すぐ終わる?」

「先に行ってて」

「終わるまで待ってる」

 作業をしてるエルの手を見る。

 綺麗な手。指が長い。私の手よりも大きいよね。

 見上げると、目が合った。

 エルがフラスコの薬を回して、台の上に置く。

「終わったの?」

「終わったよ」

 エルの顔が近づいて、キスされた。

「あの……」

 エルが眼鏡を置いて、白衣を脱ぐ。

 だめなのに。全然、避けられない。

 

 ※

 

 夕飯を食べたらすぐに、エルは研究室に戻ってしまった。

 今日は、何時までやってるのかな。

 シャワーを浴びて、アリシアから貰った美容液で髪のケアをしていると、キャロルが紅茶を淹れてくれた。

「良い匂い。すごくリリーっぽいわ」

「私っぽい?」

「えぇ。爽やかだけど、柔らかくて、ほんわかしてて」

『その表現を聞くと、リリーっぽいって感じがするよ。それ、リリーの為に作ってくれたんじゃない?』

 ……アリシア。

「これはね、私の姉が作ってくれたの」

「そうなの?素敵ね」

「キャロルも使ってみる?」

「私じゃ、リリーみたいに、きらきらした髪にはならないと思うわ」

「きらきらした髪?」

「えぇ。リリーの髪、すごく綺麗だと思うわ」

「……ありがとう。キャロル」

 私が黒髪だったとしても、皆、優しく褒めてくれる。

「私ね、キャロルみたいなふわふわの髪に憧れてたんだ。触っても良い?」

「良いわよ」

 キャロルの髪を撫でる。

 ふわふわで、気持ち良い。

「ふふふ。くすぐったいわ。……でも、すごく良い香り」

 可愛い。

「何してるの?」

「ルイス」

 台所に入って来たルイスの元に、キャロルが行く。

「見て。すごく良い香りなのよ」

 ルイスがキャロルの頭を撫でて、頭に鼻を付ける。

「本当だ。良い香りだね」

「でしょう?紅茶飲む?」

「自分で淹れるから大丈夫だよ」

 ルイスが、ティーポットにお湯を注ぐ。

「エル、変わったよね」

「そうね」

「え?」

「一緒に夕飯を食べてくれるなんて」

「ランチも食べてたんだよね?」

「うん。ポリーズで」

「リリー、すごいわ」

 こんなに褒められるなんて。

『普段のエルって、そんなにやばいんだね』

 キャロルが欠伸をする。

「後は、リリーに任せるわ。私、もう寝るわね」

「うん。おやすみ、キャロル」

「おやすみ」

「おやすみなさい。ルイス、リリー」

 キャロルが、台所から出て行く。

『子供は、こんなに規則正しいのにね』

「リリーシア。もう少し飲む?」

「うん」

 ルイスが、私のカップにも紅茶を注ぐ。

「ありがとう」

「外で、変な人に絡まれなかった?」

 私が黒髪だからかな。

「大丈夫だよ」

「良かった。たまに、変な人も居るから。困ったら、守備隊を頼ると良いよ」

 守備隊。

「えっと……」

『早速、今日、駆け付けて貰ったよね』

「何かあったの?」

「決闘してる人たちが居て。間に入って、止めたの」

「え?止めたの?」

「うん。でも、すぐに三番隊が来てくれたんだ」

 ルイスが笑いだす。

「リリーシアって、強いんだね。でも、決闘なら放っておいても大丈夫だよ」

「どうして?」

「決闘は、市民の権利だから」

「えっ?」

『権利なの?』

「他人に迷惑をかけるのは駄目らしいけど。決闘で白黒つけるのは、ラングリオンの流儀なんだって」

『流儀って』

 じゃあ、止めない方が良かったのかな。

「遅かったから心配だったけど。楽しめたみたいで良かった」

 心配してくれてたんだ。

「大丈夫だよ。……あ。明後日、マリーと遊びに行く約束をしたんだ」

「仲良くなったんだね」

「うん。お店、手伝えなくてごめんね」

「大丈夫だよ。まだ、ここでの生活には慣れていないんだから。しばらくは、エルに食事を食べさせる係でいて貰おうかな」

「頑張る」

 大事な役目だ。

「朝から出かけるんだけど、夜は、パッセのお店?っていうところで、歓迎会をしてくれるんだって。どんなところか知ってる?」

「皆の行きつけの場所だね。ウエストにある賑やかなレストランだよ」

 良かった。堅苦しい場所ではなさそうだ。

「セリーヌさんとユリアさん。それから、カミーユさんと、シャルロさんを呼ぶって」

「賑やかになりそうだね」

 セリーヌさんとカミーユさんは、錬金術研究所。

 ユリアさんは、マリーと同じ魔法研究所。

「シャルロさんって?」

「シャルロは、エルの同期で、セントラルに事務所を構える弁護士だよ。養子の手続きを取る時に、僕らもお世話になったんだ」

 エルの同期ってことは、貴族だ。

「弁護士ってことは、シャルロさんも、エルみたいに研究所で働かないことを選んだってこと?」

「そうだね。学費を返納すれば、研究所で働く義務も兵役もないからね」

「そうなんだ」

 エルは、どうして学費を返納しないのかな。

 魔法部隊への参加は、煩わしそうにしてるのに。

「楽しんできて」

「ルイスとキャロルは行かないの?」

「お酒を飲む場所だし、遅くなりそうだから留守番してるよ。きっと、エルもシャルロの所に泊まって来るんじゃないかな」

『そこまで決まってるんだね』

 だったら、私も泊まることになりそう?

「着替えとか持って行った方が良いのかな」

 旅の荷物を持てば大丈夫?

「オルロワール家に行くなら、何も持たなくても大丈夫だと思うよ」

「えっ?」

「違うの?」

「あの、私、伯爵のお屋敷に行くってこと?」

「マリーは、そのつもりだと思うよ」

『聞いてないよね』

「どうしよう。私、えっと……」

「焦らなくても大丈夫だよ。僕も何度か行ったことがあるし」

「そうなの?」

「うん。普段通りで大丈夫」

 大丈夫、なのかな?

 

 ※

 

 紅茶をゆっくり飲んでから、ルイスにおやすみを言って、研究室へ。

 相変わらず、集中してる。

『ちょっと危ないからぁ、待っててねぇ?』

「うん。わかった」

 ソファーに座って待ってよう。

 明るい作業台の光が、眼鏡をかけた横顔を照らす。

 長い睫。

 濃い紅の瞳。

 初めて会った時から、ずっと惹かれてる。

 吸い込まれそうな、あの感じ。

 この人が好きだって思ってから、どんどん好きになって行く。

 一緒に居ればいるほど好きになっていく。

 最初は、好きな人と気持ちが通じ合えれば幸せになれるって思ってた。

 でも、それは無理なんだって気づいてしまった。

 だって、一緒に居られるのは三年だけ。

 その後なんてない。

 今ですら、離れたくないって思ってるのに、これ以上、離れられない関係になってしまったら、私……。

『良いわよぅ』

 顔を上げると、エルが別の薬の瓶を開けようとしてる。

「エル!」

 声をかけて、慌てて腕を引く。

「リリー?」

「もう寝よう」

 エルが手を止めて、薬の瓶を置く。

「……ん」

 エルが頭を抱える。

「大丈夫?」

 どうしたんだろう。

「眠いの?」

 疲れてるのかな。

「部屋に行こう?」

「……あぁ」

 エルが眼鏡を外して、白衣を置く。

 手を引くと、付いてきてくれた。

 

 ※

 

 真っ直ぐ部屋に行って、エルをベッドの上に座らせる。

「エル」

 声をかけると、エルが私を見上げる。

「大丈夫?」

 エルの顔に触れる。

 ずっと、ぼんやりしてるよね。

 急に腕を引かれて、抱きしめられた。

「あの……」

「寝よう」

 そのまま、一緒に布団の中に入る。

 着替えなくて良いのかな。

 エルが優しく私の頭を撫でる。

 前みたいに、何度も。ずっと。

 気持ち良い。

 今度は、おでこにキスされた。

 ……寝ぼけてるんだ。

 今なら、ちょっとだけ甘えても良いかな。

 エルの体に腕を回して、胸に頭をくっつける。

 すると、エルが私を抱きしめてくれた。

 あったかい。

 幸せ。

 こんな関係が、ずっと続かないことぐらい、わかってる。

 恋人になるなんて、無理だって。

 それでも、今だけは傍に居て。

 

 


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