表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明に繋ぐ弧弦, リリーの物語  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編 Embrasser -ⅰ.アヴェクノーヴァ
47/61

047 ピンクアイ

「まぁ。エルロックが恋人を連れて来るなんて」

「あの、違うんです」

「良いじゃない。結婚式は呼んで頂戴ね。また来るわ」

「ありがとうございました」

 隣でルイスが笑ってる。

 もう、何人目かわからない。

「どうして、皆、聞いてくれないのかな」

「エルが女の子を連れて来るなんて、それだけ珍しいことなんだよ」

 嬉しいけど、喜べない。

『ようやく一段落だね』

 お客さんは、途切れることなく、ずっと来てた。

 こんなに人気のお店だったなんて。

「私、一人で店番出来るかな」

 まだ、薬の値段も覚えきれてないし、薬の効能も詳しく説明出来ないのに。

「大丈夫だよ。普段は、こんなに来ないから」

「そうなの?」

「来てたのは近所の人ばかりだから。皆、リリーシアを見たかっただけじゃないかな」

『恋人じゃないのにね』

 そんなこと、私が一番良く解ってる。

『仕事はどう?聞きたいことがあるなら、今の内に聞いておいたら?』

 聞きたいこと……。

「あのね。ルシュって、共通通貨に換算すると、いくらぐらいなの?」

 グラシアルの通貨はルークだったけど、ラングリオンの通貨は、ルシュだ。

 硬貨が、一、十、百の三種類で、紙幣も数種類ある。

「銀貨一枚で二千ルシュだよ。共通通貨とルシュの価値は、ほとんど変わらないって言われてるね」

「そうなの?」

「そう。だから、王都では共通通貨で買い物をする人も結構、居るんだ。換算表は、これ。変動もほとんどないから、これで覚えちゃって大丈夫だよ」

「わかった」

 蓮貨一枚で、十ルシュ。銅貨一枚で、百ルシュ。銀貨一枚で、二千ルシュ。

 そういえば、二千ルシュ紙幣もあったっけ。変わってると思ったけど、あれは銀貨と同じ価値の紙幣だったんだ。

「金貨は?」

「金貨一枚で十万ルシュだよ。でも、金貨なんて普段の買い物じゃ使わないからね。見かけても、うちじゃ扱えないって答えてね」

『だってさ』

「はい」

 だって。

 知らなかったんだもん。

「後は、珍しい硬貨もあるんだよ」

「珍しい硬貨?」

 ルイスが、別の場所から硬貨を出す。

「五百ルシュ硬貨だよ」

『こんなのがあるんだ』

 今日の買い物では誰も使ってなかった。それに。

「全部、絵柄が違う?」

「五百ルシュ硬貨は、特別なイベントの時に発行される記念硬貨なんだ。使う人はあまり居ないし、お釣りに出す必要も無いからね」

「わかった。記念って、これは何の記念なの?」

 ルイスの手元には、三種類ある。

「これは国王陛下の御婚礼のお祝いで、こっちは、王国暦六百年記念」

「わぁ。すごい」

「これが一番新しくて、王国暦六〇三年、ラングリオンの皇太子殿下が決まった時に発行されたものなんだ」

 硬貨には男性の横顔が描かれている。

「この人が、皇太子殿下?」

「そう。殿下が成人された時の御姿だね。その内、会うんじゃないかな」

「えっ?……皇太子殿下って、ラングリオンの次の王様なんだよね?」

「そうだね」

 ルイスが、くすくす笑う。

 気軽に会えるような人じゃないよね?近い内に、王族のイベントでもあるのかな?

「せっかくだから、これはあげるよ」

「貰って良いの?」

「たくさんあるから」

「そうなんだ。ありがとう」

 貰っちゃった。

 皇太子殿下。綺麗な横顔だよね。

 扉のベルが鳴った。

『お客さんだね』

 記念硬貨を仕舞って、扉の方を見る。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃい。……マリー」

 え?マリーって……。

『うわ。美人だね』

 この人が、マリアンヌさん?

「エル、帰ってるんでしょう?」

「帰ってるよ。お土産、持ってくるから待ってて」

「わかったわ」

 ルイスがエルのお土産を取りに行った。

 黄金の巻き毛にピンク色の瞳をした綺麗な女性。立っているだけで絵になるぐらいの存在感。まるで、お姫様だ。

 近くには、光の精霊が飛んでる。きっと、マリアンヌさんと契約してる精霊だよね。

 可愛い精霊。

『リリー。気を付けてよ』

 目が合っちゃった。

『あれ?』

 どうしよう。

『ねぇ、聞こえてる?』

 えっと……。

『わっ!』

「わっ」

 急に、驚かせないで。

「何をしているの?」

 マリアンヌさんが、こっちに来る。

『だって、この子、私の姿が見えてるんだもの』

「え?見えてる?」

『あなたが、エルの恋人?』

「違うよ」

『だって、エルが連れて来た女の子なんでしょう?』

「一緒に来たけど……」

『何、普通に会話してるんだよ』

「待って。どういうこと?」

『見ての通りよ』

『リリーの馬鹿』

 イリスが私の中に入る。

 どうしよう。

「驚かせてごめんなさいね。はじめまして。私は、マリアンヌ・ド・オルロワールよ」

『オルロワールって、伯爵の?』

「えっと……。ラングリオンの二代名家の一つで、代々、書記官を務める光の精霊に祝福された伯爵家?」

「良く知っているのね」

『完璧ね』

 大陸史にも出てくるぐらい有名な、歴史に名を刻む名家だ。

『そっか。だから、ピンクアイなんだ』

 オルロワール家は光の祝福が濃いから、女性はピンクアイ、男性はコーラルアイが生まれやすいらしい。あれって、本当だったんだ。

「あなたのお名前は?」

「リリーシア・イリスです」

「そう。リリーシア、よろしくね」

 笑顔も華やかで、見惚れてしまうぐらい素敵な人だ。

「あなた、ナインシェが見えるの?」

 ナインシェって、光の精霊のこと?

「うん」

 マリアンヌさんが私の手を取る。

「なんてすごいの!ねぇ、良かったら、あなたの話を聞かせてくれない?」

「えっ……」

 家の扉が開いて、ルイスがたくさんの荷物を抱えて戻って来た。

「マリー。持ってきたよ。……何してるの?」

「ルイス。この子、借りても良いかしら」

「駄目だよ。エルの大切な人なんだから」

「どうせ、エルなんて研究室に缶詰めでしょう。リリーシア、私と一緒にお出かけしない?ランチを奢るわ。どう?」

「でも……」

「まずは、これを仕舞ってよ」

 ルイスがカウンターにお土産を並べる。

「ありがとう。すごい量ね。本当に、全部、手に入れたの?」

「マリーが頼んだんだよね?」

「頼んだけれど。全部じゃなくても良いって言ってあるわ」

 マリアンヌさんが一つ一つ確認しながら、お土産を仕舞う。あれって、エルが作ったアイテム袋だよね。

 柄が違うけど。

 これも、エルが作ったものなのかな。

「一番欲しかったのは、これなのよ」

「本?」

『銀の棺だ』

「こっちでは手に入らない本なんだもの。お礼は、何か聞いてる?」

「エルに聞いて」

「わかったわ。……あら?これは、頼んだ覚えがないけれど」

 マリアンヌさんが持ってるのは、ポリーズの紅茶缶だ。

「それ、私のおすすめなの。こういうのが好きなら、それも好きかなって」

「あなた、紅茶に詳しいの?」

「ポリーズの紅茶は好きだから」

「もしかして、グラシアルの方?」

「うん」

 マリアンヌさんが柔らかく微笑む。

「素敵ね。あなたが選んでくれたものなら楽しみだわ。ねぇ、ランチはポリーズに行かない?」

「ポリーズ?」

「王都にもお店があるのよ。……ね、ルイス。エルに任せてたら、この子、いつまで経っても出かけられないわ。ちょっとぐらい遊んできても良いでしょう?」

「ちゃんと連れて帰って来てくれる?」

「もちろんよ」

「いじめない?」

「失礼ね。ランチを奢るだけよ」

 ルイスがため息を吐く。

「わかったよ。エルには僕が伝えておく」

「ふふふ。ありがとう。じゃあ……」

 マリアンヌさんが私を見る。

「その恰好だと少し寒いと思うわ。上に着るものは持ってる?」

「リリーシア。出かける支度をして来て良いよ」

「わかった」

 出かけることになっちゃった。

 

 ※

 

 上着を羽織って、リュヌリアンを装備してから、マリアンヌさんと一緒にお店を出る。

 風が冷たい。確かに、今日は、ちょっと寒いかも。

『お嬢様なのに、一人で歩いて大丈夫なの?』

「あなたって、伯爵令嬢なんだよね?」

「えぇ。そうよ」

「お付きの人とか連れて歩かなくて大丈夫なの?」

 マリアンヌさんが笑う。

「平気よ。王都は安全だもの」

『そうかしら。エンドは少し危ないじゃない』

「昔より治安は良いわ」

「エンドって?」

「中央から離れた場所……。南大門の辺りは、そう呼ばれているわね」

『エルの家周辺だね』

「え?エルが居ない間って、ルイスとキャロルだけでお店をやってるんだよね?大丈夫なの?」

「大丈夫よ。職人通りは人通りが多いし、あの辺は横の繋がりが強い場所だから」

『そういえば、今日、リリーを見に来てた人たちって、近所の人って言ってたっけ』

 ご近所さんが気にしてくれてるから、大丈夫なの?

「それに、あの家にはエルが魔法の仕掛けを作っているもの。悪人は簡単に入れないわ」

「そうなの?」

「闇の魔法の一種ね」

 じゃあ、メラニーに手伝ってもらってるのかな。

 そうだよね。危ない場所にルイスとキャロルを放っておくわけないよね。

「あなたは、この辺りに、どれぐらい精霊が居るかわかるの?」

 周囲を見渡す。

「たくさん居るよ」

 本当に、見上げるだけでたくさん居る。

「光の精霊に風の精霊、大地の精霊、水の精霊、炎の精霊……。日中なのに、闇の精霊まで居る。すごいね。こんなに色んな種類の精霊が居る場所って、珍しい気がする」

『本当に見えてるのね』

「グラシアルって、あなたみたいに見える人がたくさん居るの?」

「えっ?そんなことないと思う。私は、その……」

 どうしよう。女王の娘だなんて言えない。

「ごめんなさいね。言いたくないことは、言わなくて良いわ」

 マリアンヌさんって、エルみたい。

「私、魔法研究所で働いているの。精霊に興味があるなら、いつでも遊びに来て。歓迎するわ」

「遊びに?」

「魔法研究所は、魔法や精霊を研究している場所なのよ。色んな精霊とお話しできるから楽しいんじゃないかしら。あなたが来たら、皆も喜ぶわ。今度、友達も紹介……。そうね、食事会をしましょう。歓迎会をしなくちゃ」

「歓迎会?」

「えぇ。あなた、成人はしてる?」

「えっ?うん」

「なら、パッセのお店にしましょう。そういえば、セリーヌとは会ってるのよね?」

「セリーヌさん?」

 誰だろう?

「錬金術研究所で働いてる友達なの。昨日、ジャンルードとアシュリックの三人でランチに出た時に、あなたに会ったって言ってたわ。ルードがいきなり口説こうとしてたって」

『あー。王都に来てすぐに会った人たちだね』

「会ったけど、あんまり覚えてないかも」

「なら、ちゃんと紹介するわ。それから、私と一緒に魔法研究所で働いてるユリアも。後は、カミーユとシャルロね」

「皆、エルの友達なの?」

「そうよ。皆、養成所の同期なの」

『ってことは、頭の良い人ばっかりってことだね』

 私、そんなところに行って良いのかな。

『ポリーズが見えて来たわ。あのお店よ』

「わぁ。可愛いお店」

 ここが、ラングリオンのポリーズなんだ。

 

 ※

 

 あぁ……。落ち着く。

「お店で飲む紅茶って、特別だよね」

「そうね。私も、少し違う感じがするわ」

 ここは屋外のテラス席だけど、辺りいっぱいに紅茶の良い香りが漂ってる。

「さぁ、いただきましょう」

「いただきます」

 目の前には美味しそうな料理が並んでる。

「ここって、本店と雰囲気が似てるかも」

「確か、本店はグラシアルのポルトぺスタにあるのよね」

「うん。お土産の紅茶も、そこで選んだんだ」

「そうだったの。ありがとう」

 綺麗。見惚れてしまうぐらい上品な微笑みだ。

「どうしたの?」

「あの……。すごく、綺麗だから」

「ふふふ。ありがとう。あなたも、すごく可愛いわ」

「えっ?そんなことないよ。私、黒髪だし……」

「もしかして、王都で嫌なことでもされた?」

 何もされてないし、嫌なことも言われてない。

 けど、黒髪の人は、今のところ冒険者ギルドでしか見かけてない。

「未だに、黒髪の人は髪を隠して歩くって言うものね。気にしなくて良いって言いたいところだけど、トラブルはあるって聞くわ」

 やっぱり、そうなんだ。

「でも、私、あなたの髪が好きよ」

「え?」

「絹糸のように艶があって、真っ直ぐなんだもの。こんなに綺麗な髪を隠すなんて勿体ないと思うわ」

 なんて素敵な人なんだろう。

 美人で、頭が良くて、気遣いも出来て、そして、自分の意思や意見をはっきり持っている。

 完璧な女性だ。

「ありがとう。マリアンヌさん」

「マリーで良いわ」

「じゃあ、私もリリーで良いよ」

 マリーが笑う。

「なんだか似ているわね」

「そんな。マリーみたいなお姫様と私じゃ……」

「私、お姫様なんかじゃないわ」

「だって、本当に物語のお姫様みたい。サンドリヨンのイメージにぴったり」

 マリーが楽しそうに笑う。

「良いわね、それ。でも、サンドリヨンはお姫様じゃないでしょう?」

「違うの?」

「だって、サンドリヨンは魔女だもの」

「え?」

 魔女?

「もしかして、グラシアルのお話は、こっちと違うのかしら」

 そういえば、童話も国によって違うことがあるんだっけ。

「リリーが知ってるのは、どんなお話なの?」

「えっとね……」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ