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薄明に繋ぐ弧弦, リリーの物語  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編 Embrasser -ⅰ.アヴェクノーヴァ
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046 お店の手伝い

 誰かが、私の頭を撫でる。

 気持ち良い……。

「リリー」

「ん……」

 エル?

 温もりが離れる。

 ……さむい。

「集まれ。精霊たち」

 布団の中から顔を出すと、エルの周りに精霊が集まってるのが見えた。

 窓が開いてる。……空気が変わった。魔力の集中をしてるんだ。

「さてと……」

『エル。出かけてくる』

「ん。いってらっしゃい、バニラ」

『オイラもー』

「いってらっしゃい。ジオ」

 バニラとジオが窓から外へ飛んで行った。

 静かに体を起こす。

『私も出かけて良い?』

 ナターシャも散歩したいって言ってたっけ。

「危ないところには行くなよ。夜までには戻って来てくれ」

『わかったわ。何かあったら呼んでね。……いってきます』

「いってらっしゃい。ナターシャ」

 行っちゃった。

「エル」

 声をかけると、こちらを向いたエルが微笑んだ。

「おはよう、リリー」

「おはよう」

 いつも通りの朝。

 エルは早起きだよね。

『皆、行っちゃったけど、大丈夫なの?』

「あぁ。王都に居る間は、皆、好きに行動してるからな」

 好きに?

 どこに行ったのかな。

 

 ※

 

「おはよう」

「おはよう。ルイス、キャロル」

「おはよう。エル、リリー」

「おはよう」

 明るい。北側の台所だけど、窓が大きいからか、明るく感じる。

「エル、上に居たの?」

「そうだよ。キャロルが起こしに来てただろ」

 そう言いながら、エルが椅子に座る。

 奥にルイスとキャロルが座っていて、左側がエルの席らしい。

 えっと……。

「リリーシア。こっちにおいでよ」

「そうよ。座って」

「ほら」

 エルが椅子を引く。

 温かいスープが用意してある。ここが、私の席なんだ。

 座ると、エルが山積みのパンが入ったバスケットを私の方に向けた。

 胡桃パンにしようかな。

「ありがとう。いただきます」

「いただきます」

 美味しい。

 ふかふかで、あったかい。

「市場まで買いに行ってきたのか?」

「違うよ。最近は、この辺まで売りに来てくれるんだ」

「え?焼きたてのパンを売りに来てくれるの?」

「そうなの。毎日じゃないけど、この通りまでパン屋さんが来てくれるのよ」

 朝一で焼き立てのパンを売りに来てくれるなんて。ラングリオンって、そういう文化があるんだ。

「エル、昨日の夕飯も食べたのよね?」

「あぁ」

「えっ?食べたの?……すごいね。リリーシア、どうやったの?」

『別に、何もしてないよね』

「待ってただけだよ」

『ふふふ。眠くもないのに手を止めるのなんて、珍しいものねぇ』

「夕飯、美味かったよ」

『眠くなるまで危ない作業続けてるってこと?』

「じゃあ、今度は作りたてを食べてちょうだいね?」

『倒れる前に調整してるわぁ』

「ん」

 いつも倒れるまで仕事してるの?

 今日は、もう少し頑張って呼んでみようかな。

「エル。今日までのって、作り終わった?」

「全部仕上げた。……っていうか、期限切れのもあったぞ。本当に取りに来るのか?」

「気長に待つって言ってたから、エルが帰ってるって解ったら取りに来るんじゃない?」

「なら、良いけど」

 どれだけ待つことになっても、エルに薬を頼みたい人が居るんだ。

『まだ、帰ってることになってないけどぉ』

 そういえば……。

 魔法部隊には、帰ってること、ばれたくないって言ってたっけ。

『帰ってるのに帰ってないってどういう意味?』

 どうして、ばれたくないんだろう。

『魔法部隊への帰還報告は義務だからな』

「えっ」

 義務なの?

「どうしたの?リリー」

『ボクらの声は、エルとリリーにしか聞こえてないからね』

「えっと……。なんでもない」

『いい加減、慣れなよ』

 だって。

 目の前でお喋りしてるんだもん。

「荷物は、ばらしたのか?」

「メモにあった通りに分けておいたよ。お土産、ありがとう」

「私も。髪飾り、ありがとう」

「ん」

 二人とも、エルから貰ったのを付けてる。あの髪飾り、キャロルの髪にすごく似合ってるよね。

「誰かに届ける予定のものって、ある?」

「その内、取りに来るだろ」

「わかった」

 マリアンヌさん、あの量の荷物をどうやって持って帰るのかな。

 

 ※

 

 食事と後片付けを終えると、エルは研究室に行ってしまった。

 キャロルは二階で物置の片付けを張り切ってる。力仕事が必要な時は読んでもらう予定だ。棚を取り付けたいって言ってたから、しばらく廊下は、あのままかもしれない。

 私は、お店のお手伝いをする。

 まずは、ルイスから掃除を頼まれた。気になるところを軽く箒ではいておいてと言われたけど、閉店後にも掃除をしてるみたいだから、全然汚れてない。お店は右側の壁と左側の壁いっぱいに棚があって、どちらも薬がたくさん置いてある。風邪薬、解熱剤、腹痛に効く薬や頭痛薬、目薬。栄養剤、解毒薬、回復薬。包帯や湿布薬もある。それぞれ種類があって、値段も様々だ。かなり高級なものもある?

 カウンターの横には魔法の玉が並んでる。カウンター奥の棚にも薬はたくさん置いてあるけど、こっちは売り物じゃなさそうだ。調合用かな。錬金術の器具が並ぶ作業台もある。

 掃除をしていると、ルイスが薬の入った大きな箱を抱えて来た。

「リリーシア。掃除が終わったら、薬を小瓶に移すのを手伝ってくれる?」

「うん。わかった」


 箒を片付けて、カウンターの中にある作業台へ行く。

「掃除、終わったよ」

「じゃあ、リリーシア。こっちの瓶に入ってる薬を……」

「名前、リリーで良いよ?」

 ルイスが私を見て、微笑む。

「響きの良い名前だから、リリーシアって呼ばせて」

「響きが良い?」

「うん。綺麗な名前だね」

 そんなこと、初めて言われた。

「リリーシアは、エルのこと、好きなの?」

「えっ……。あの……」

 ルイスが笑う。

「良かった」

『ばればれだね』

 だって、急に聞かれたから。

「あの、エルには言わないで」

「大丈夫だよ。こういうことは、自分で言わなくちゃいけないからね」

『本当、しっかりしてるよね』

 エルの錬金術の弟子でもあるんだよね。私より頭も良くて、しっかりしてるかもしれない。

「作業を始めても良い?」

「はい」

 仕事を覚えなきゃ。

「容器に入ってる薬を小瓶に移していくんだ。こんな風に……」

 ルイスが、大きな容器に入った薬をラベルのついた小さな瓶に移してる。

『この薬って、アリシアも作ってたよね』

 同じもの……?

「高品質の解毒薬って、傷の治りも早くするんだっけ?」

「そうだよ。良く知ってるね。これは、中級の解毒薬の中でも品質の高いものなんだ」

「私の姉も錬金術を学んでるんだ。でも、高品質なものを作るのって、時間がかかるよね?」

 アリシアは、半日ぐらいかかってたような……。

『エルって、ここにあるの全部、一日で作ったんでしょ?』

「え?これ全部、一日で?」

 そういえば、ユールが五つぐらいの薬を並行して作ってるって言ってたっけ?

「昨日、エルが作ったものは、これだけじゃないよ」

「え?」

「エルは、王都の天才錬金術師って呼ばれてるんだ」

「天才……」

『すごいね……』

「エルにしか作れないレシピも山ほどあるって言われてる。錬金術についての知識や器具の操作はもちろん、精霊からの祝福も強いんだって」

「そういえば、錬金術には精霊の力を借りるものもあるんだっけ」

 特に、真空の精霊。アリシアも、真空の精霊の協力があれば、作れるものが一気に増えるって言ってたっけ。

「どう?出来そう?」

「やってみる」

「開店までに出来るところまで進めちゃおうか。……急がなくて良いからね?」

「わかった」

 容器を持って、小瓶に……。

『なかなか根気のいる作業だね。リリー、大丈夫?』

「うん」

『落として割ったりしないようにね』

「大丈夫」

『本当に?』

「うん」

『薬って、すごく高いものなんだよ』

 そんなこと言われたら、緊張しちゃう。

「もう。集中させて」

『忠告しただけじゃないか』

 そんなに言わなくても、わかってるもん。

「リリーシア。精霊と話してるの?」

「うん」

「羨ましいな。僕は、精霊とは話せないから」

 精霊と話すには、素質が必要だ。けど。

「イリス、出られる?」

『本気?』

「うん」

 イリスが顕現する。

「しょうがないな」

「え?精霊……?」

「特別に出てやったんだから、感謝しろよ」

「いいの?そんなに簡単に姿を見せて。エルの精霊だって、メラニーしか見たことないよ」

「リリーは魔法使えないから良いんだよ」

「そうなの?」

「うん」

「急に押しかけて悪いんだけど。リリーはさ。世間知らずで、すぐに迷子になるから。面倒見てやってよ」

「そんなことないよ」

「何言ってるんだよ。ここに来るまでに、どれだけエルに迷惑かけたと思ってるのさ」

 迷惑は……。かけちゃったけど。

「ルイスとキャロルの方が、よっぽどしっかりしてるよ」

「イリスの意地悪」

 ルイスが笑ってる。

「仲が良いんだね」

「まぁね。そろそろ戻るよ」

 イリスが顕現を解く。

「ありがとう。精霊と会わせてくれて」

「良いの。イリスは、エルとも知り合いだから」

「そうなんだ」

『ほら。ちゃんと仕事しなよ』

 わかってるよ。

 容器の薬を、小瓶に移す。

『こんなにすごい錬金術師なら、薬屋だけで生活していけそうだよね』

 それは、私も思ってたことだ。

「エルって、どうして冒険者をしてるのかな」

「冒険者活動は、僕らと会う前からしてたみたいだよ」

「そうなの?」

『魔法部隊に所属してるって言ってなかったっけ』

「あれ?魔法部隊に所属しながら冒険者ってできるの?」

 ルイスが笑う。

「エルがまともに魔法部隊の活動に参加してるところなんて、見たことないよ」

「兵役なのに?」

「うん。たまに、ユベールが呼びに来るけど。……あ、ユベールっていうのは、予備部隊の子で、友達なんだ」

「予備部隊って?」

「未成年が所属する部隊だよ。正規部隊に入る為の訓練生だね。エルも、卒業直後は予備部隊に所属してたはずだよ」

「そうなんだ」

 養成所を卒業して、予備部隊に所属して。今は、正規部隊に所属してるはず?

「参加しなくて大丈夫なのかな」

「大丈夫じゃないだろうけど。エルが薬屋を始めるって言った時も、反対する人は誰も居なかったからね」

「お店は、去年のヴィエルジュから始めたんだっけ?」

「そうだよ」

 昨日、エイダたちが教えてくれた。ラングリオンの兵役って緩いのかな。

「店主が居ない店って評判だけどね」

「どういうこと?」

「ほら。エルは、すぐに居なくなっちゃうから。……昨日みたいに急に帰って来たかと思えば研究室に籠って薬を作って。半月も家に居ないで、すぐにどこかへ行っちゃうんだ」

『半月も居ないの?』

「そんなに家に居ないの?」

「今回も、二か月ぐらい家を空けてたからね」

『グラシアルとラングリオンは遠いからね』

「そんなに長い間、居ないなんて……」

「王都に居る間は色んな事を教えてくれるよ。あの通り何でもできるから、この辺の人たちからも信頼されてるし、王都には知り合いもたくさん居る。……なのに、急に、消えていなくなるんだ」

『消えるって……』

 なんだか、変。

「何か理由があるみたいなんだけど、誰も教えてくれない。……リリーシアは、心当たりある?」

『心当たりなんて、ないよね』

 わからない。

 グラシアルに来た理由だって、わからないままだ。

「どうして、そんなことするんだろう。エルは、ルイスとキャロルのことが大切なのに」

「どうして、そう思うの?」

「エルが言ってたの。一緒に居たいって思えたら一緒に暮らすことは可能だって。……だから、エルにとって、ルイスとキャロルは家族として一緒に居たい人なんだと思う」

 ルイスが俯く。

「そう思ってくれてると、良いんだけどね」

「ルイス……」

 部屋の扉が開いて、キャロルが来た。

「キャロル。どうしたの?」

「物置の棚、お願いして来ようと思って。こんな感じで良いかしら」

 キャロルが、ルイスに絵を見せてる。

『ちゃんと寸法も測ってあるね』

 どうして、エルは旅に出るんだろう。ルイスとキャロルを置いて。あんなに優しい人が、家族を蔑ろにするなんて思えない。

「良いんじゃないかな」

「じゃあ、頼んでくるわ。お店、開けちゃって良い?」

「良いよ」

 キャロルが絵を持って行く。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」

 お店のベルが鳴って、キャロルが出て行く。

「お客さんが来たら接客を教えるね。それまで、薬を移す作業を続けようか」

「エルは、二人を大切な家族だと思ってると思う」

 ルイスが微笑む。

「ありがとう」

 全然、伝わらない。

 

 


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