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薄明に繋ぐ弧弦, リリーの物語  作者: 智枝 理子
Ⅱ.王都編 Embrasser -ⅰ.アヴェクノーヴァ
44/61

044 新しい都市

 港で一泊して、朝から乗合馬車に乗って王都を目指す。

 良い天気。

 それに、今までと空気が全然違う。穏やかで温かい空気に包まれてる。

「調子は?」

「大丈夫」

 今は、エルに言われて酔い止め薬を飲んでいる。長い時間、馬車に乗ると酔うかもしれないからって。船酔いに効く薬は、馬車の乗り物酔いにも効くらしい。

 

「王都が見えて来たな」

 窓から外を見る。

『うわ。すごい迫力だね』

「うん」

 ラングリオンの王都。

 堅牢な城塞都市とは聞いていたけど、思ってた以上の迫力だ。どこまでも果てしなく続いてそうな高い壁がそびえ立っている。確か、お城も都市も全部、城壁の中にあるんだっけ。

 あれ……?でも、近郊にも家がたくさん見えるような?

「城壁の外にも街が広がってるの?」

「あぁ。城壁の内側に建設出来る建物には限界があるからな」

 王都からはみ出しちゃったってこと?

 王都からはちょっと離れてそうに見えるけど、同じ街?

「どこまでが王都?」

「王都は城壁の内側だけ。外にあるのは別の都市」

「そっか」

 やっぱり、あっち側は別の都市らしい。

 王都と近郊都市だけでもかなりの人口がありそうだ。ポルトペスタとグラシアル大街道みたいに、いつか城壁がなくなってくっついちゃうのかな?

「この辺って、ラングリオンの中心地なんだよね?」

「ラングリオンっていうか……。アルマス地方の中心地だ」

「アルマス地方?」

「ラングリオンは、四つの地方に分かれてるんだ。北は王都のあるアルマス地方。南部は、西から順に、オートクレール地方、ジュワユーズ地方、デュランダル地方。それぞれ公爵が治めてる土地で、かなり雰囲気が変わるよ」

 流石、大陸一の面積を誇るだけあるよね。グラシアルも北部と南部じゃ、異国のように雰囲気が変わるって言ってたっけ。

 

 ※

 

 王都の入口、東大門。

 馬車を降りて、騎士の銅像がサイドに立つ大きな門を進む。

 ここから先が王都。

 たくさんの人が居て賑わっている。こんなに人を見たのはポルトぺスタ以来?でも、雰囲気は全然違うよね。

 グラシアルよりも全体的に背の高い人が多い印象だ。それに、金髪や茶髪といった明るい髪の人が多くて、港でも普通に見かけていた黒髪の人を見かけない。

『エルの家って、どこにあるの?』

「王都の端だから、ここからだと少し遠い」

 王都の端から端までって、どれくらいあるんだろう。

「王都は、中央広場を中心に、東西南にメインストリートが伸びてるんだ。今、歩いてるのは、東大門から中央広場に向かうイーストストリート。冒険者ギルドや商店が並んでる通りだ」

 イーストは古い言葉で、東。

 私たちが居るのは王都の東側だ。お店が多くて賑わってる。

「イーストストリートを真っ直ぐ進めば、噴水のある中央広場に出る。更に進めば、ウエストストリートに入って、西大門まで続いてる」

 ウエストは、西。

 ここからじゃ西大門なんて見えないけど、ずーっと歩いた先にあるらしい。

「中央広場から南に入ればサウスストリート。俺の家に行くなら必ず覚えておかなきゃいけない道だ」

 サウスは、南。

 うん。大丈夫。わかりやすい。

『リリー。どっちに曲がるかわかる?』

「えっ」

 今、東に居て、西を向いてて、そこから南に曲がるから……。

「左……?」

「合ってるよ」

 良かった。間違えなかった。

「心配だったら、上を見上げたら良い。城がある方が北だ」

 お城は……。こっち?

「あれが、ラングリオンのお城?」

「そう。中央広場から北に向かえば、王城に続いてるんだ。その逆がサウスストリート。俺の家は、サウスストリートの果て、職人通り沿いにある」

「職人通り?」

「鍛冶に木工、細工職人。職人がたくさん店を構えてる通りなんだ。イースト側が職人通りで、ウエスト側はカフワ通り。そっちは、コーヒーや酒の卸をやってる店が並んでる」

 コーヒーとお酒だけ?

「紅茶屋さんは、あんまりないの?」

「ポリーズの場所は、マリーに聞いたらわかるんじゃないか?」

 また、マリアンヌさん。エルにとって、どういう人なんだろう。

「でも、まずは、冒険者ギルドに……」

「あー。エルロックさんじゃないっすか」

 誰?

「パーシバル」

 軽鎧に帽子。衛兵にしては、装備が軽いような気がする?

「その人、彼女ですか?」

「えっ?」

 彼女っ?

「うるさいな。関係ないだろ」

「いや。聞き捨てならないな。お前、今回はグラシアルに行ったって聞いたぞ」

「……ルード」

 また、別の人?

「エル、グラシアルまで行ったの?すごいね」

「また魔法部隊をサボったのね。レティシアに怒られるわよ」

 男の人が二人と女の人が一人。三人とも魔法使いだ。しかも、皆、金髪碧眼。

「お前ら、仕事はどうしたんだよ」

「今はお昼だよ」

 パーシバルさん?は、そのまま行ってしまった。

「彼女じゃないなら紹介しろよ」

「手を出すな」

「冒険者仲間?」

「俺が帰ってること、レティシアには言うなよ」

 急に、エルに手を引かれて、なんとか転ばずに付いていく。

「今の人たちって、皆、知り合いなの?」

「養成所の同期だよ。錬金術研究所の連中だ」

 同期って、エルと一緒に勉強してた人たちってことだよね。仲が良いんだ。

「最初の人は?」

「三番隊……。イーストを管轄してる守備隊の隊員だよ」

 守備隊。王都の中の治安を守るのが仕事だから軽い装備だったのかな。

「イーストって?」

「王都は、メインストリートで三つの地区に分かれてるんだ。中央広場から北は、セントラル。南東がイーストで、南西がウエストだ」

 えっと……。エルの家は、サウスストリートを真っ直ぐ行って、職人通りっていう名前の東の通りに入るから……。

「エルの家があるのは、イースト?」

「そうだよ」

『良くわかったね』

「それぐらい、わかるよ」

 エルが笑って、私の頬をつつく。

 ……もう。

 

 ※

 

 扉を開くと、通りよりも賑わった声が聞こえて来た。ここが、ラングリオン王都の冒険者ギルド。

 ここには黒髪の人も居るし、魔法使いも居る。服装も武装も様々だ。

「一緒に居て」

「うん」

 人が多いから、離れないようにしなくちゃ。

 エルがボードの方へ行く。一面にびっしり依頼が貼ってある場所だ。こんなにたくさん仕事があるんだ。

 えっと、貴重品の入手依頼?猫探し?亜精霊退治……。

 エルが何枚か剥がした。

 手を引かれて、今度はギルドマスターが居るカウンターへ。

「よぉ。久しぶりだな。グラシアルはどうだった?」

「楽しかったよ」

 エルが貴重品を手に入れる依頼にサインをして、カウンターに品物を並べる。

 そっか。持っているものを渡すだけで、依頼達成になるんだ。ポリーも、欲しがる人が多いものは、ついでに買っておくって言ってたっけ。

「おいおい、一体、どれだけ仕入れて来たんだよ。……ちょっと、手伝ってくれ」

 カウンターに並んだものが、奥の方に運ばれていく。

 他にも、引き受けていたものがたくさんあったらしい。

「報酬は、近い内に取りに来る」

「は?おい。ちょっと待て」

「急いでるんだ」

「その子は新しい冒険者か?」

「えっ?」

 私?

「冒険者じゃない」

「サンドリヨンは、どうしたんだよ」

「今は別行動。王都には帰ってるよ。……また、来る」

 エルに手を引かれて、冒険者ギルドを出る。

 サンドリヨンって……。

 エルの冒険者仲間?人の名前なのかな。それとも、二つ名?

 

「待って、エル」

 そんなに速かったら、転びそう……。

「どうして、そんなに急いでるの?」

「まだ、見つかりたくないんだよ」

「誰に?」

「魔法部隊の連中。帰ってるってばれたら、うるさいからな」

 うるさいって……。

―俺が帰ってること、レティシアには言うなよ。

「レティシアさんって?」

「魔法部隊の隊長だ」

 隊長さん、女の人だったんだ。

 

 ※

 

 噴水のある中央広場を左に曲がると、どこまでも真っ直ぐ続く大きな通りに出た。

 このサウスストリートを、ずーっと歩いた先に、王都の南側の出口である南大門があるらしい。

 歩いていると、少しずつ雰囲気が変わってきた。

 人通りが減ってる。

 中央広場の辺りが都市の中心地で、外れるほどに静かになっていくのかもしれない。

「ここが、職人通り」

 南大門が見えてきた十字路を左に曲がって、職人通りへ。

 しばらく歩いたところで、エルが止まった。

「ここが俺の家」

 二階建てのお店だ。看板は……。

「薬屋、職人通り?」

「職人通りにある薬屋だからな」

『えっ?それだけ?』

 これ、お店の名前なんだ。

 

 エルと一緒にお店に入ると、扉に付いたベルが、からんからん、と良い音を立てて鳴った。

「いらっしゃいませ。……エル!おかえりなさい」

「ただいま、キャロル」

 女の子だ。走ってきた十歳ぐらいの女の子をエルが抱き上げる。

「良い子にしてたか?」

 ふわふわの茶色の髪に、翡翠の瞳。

「もう。失礼ね。私、そんな年じゃないわ」

 可愛い。

「おかえり、エル」

「ただいま、ルイス」

 奥の扉が開いたかと思うと、今度は、茶色の髪と翡翠の瞳の男の子が来た。

 女の子と似てる。兄妹かな?

「その人は?」

『この子たちは?』

「私も気になってたわ」

『エルの養子だ』

 養子?

 女の子を下ろしたエルが、私を見る。

「紹介するよ。リリーシアだ」

「はじめまして。リリーシア・イリスです」

 二人に向かって、おじぎをする。

「はじめまして。僕は、エルの弟子のルイス・クラニス」

『弟子?』

「私は、ルイスの妹のキャロルよ」

『ルイスはぁ、錬金術を勉強してるのよぉ』

 この子、錬金術師を目指してるんだ。

「ルイス、キャロル。今日から、リリーも一緒に暮らすんだ。色々教えてやってくれ」

「え?」

「え?ママになるの?」

「えっ?」

 ママっ?

「違う」

『この子たちって、親が居ないの?』

「リリーは王都も初めてだから、頼むよ」

『孤児だ』

「わかったわ」

『それで養子に?』

『話すと長いわねぇ』

 複雑な事情がありそうだ。

「一緒に住むなら、部屋が必要だよね」

「二階に余ってる部屋があるだろ」

「今から片づけるの?」

「えぇっ?今日中なんて無理よ」

「そんなに酷かったか?」

「酷いね」

「酷いなんてものじゃないわ。物置じゃない」

「二つとも?」

「そうだよ」

「そうよ」

 女の子が腰に手を当てて頬を膨らませる。

「それに、家具だってないじゃない」

 一緒に暮らすって言ったけど……。

 私、本当にここに来て良かったのかな。養子が居るなんて話も聞いてないのに。

「リリー。しばらく、俺の部屋を使ってくれ」

「えっ?そんなわけには……」

『何言ってるのさ。いつものことじゃん』

『そうねぇ』

「俺はしばらく研究室で寝るから良い」

「だめだよ、そんなの」

「リリーが寝る場所を作る方が優先だ」

「なら、部屋の片付けを手伝う」

「手伝ってくれるの?」

「うん。力仕事なら任せて」

「よろしくね。えっと……、リリー?」

「リリーで良いよ」

「じゃあ、リリー、こっちに来て」

 女の子に手を引かれて、家の中に入る。

 

「案内するわ。まず、ここが台所」

 扉の先にあったのは、左右に伸びる廊下。左側の奥は突き当りで、右側の奥は……。階段かな。

 廊下を挟んだ斜め向かいにあるのが台所。扉は付いてないから、そのまま中に入ってみる。

「ご飯は、ここで食べるのよ」

 広い台所には、六人がけの大きな食卓テーブルが置いてある。

 使いやすそうな水回りに食器棚。右側の奥にはオーブンもある。大きな窓もあって、素敵な台所だ。

「リリーって、好き嫌いある?」

「そんなにないと思う」

『そうだね』

「良かった。料理はするの?」

「料理っていうか……。お菓子作りは好きだよ」

「本当?今度、教えて貰おうかしら。エルって、お菓子は全然ダメなんだもの」

 やっぱり、食べないんだ。

「次は、研究室ね」

 台所を出て、廊下の突き当たりへ。

「ここが、エルの研究室よ」

 キャロルが、そっと扉を開く。

 独特のにおいがする薄暗い部屋だ。アリシアの研究室に似てる。

「リリーは錬金術師?」

「違うよ」

「なら、あんまり用はないわね」

 キャロルが扉を閉める。

「隣は、シャワー室よ」

 脱衣所があって、奥にシャワーを浴びる場所がある。宿にあるのと似たような造りだ。

「隣が、台所で……」

 お店側の並びには、奥に二つ部屋がある。

「右側は、手前がルイスの部屋で、奥が私の部屋よ。私の部屋の前に階段があるわ」

 

 軽い足取りで駆け上がるキャロルに付いて行くと、二階の廊下に出た。

 左側には扉が一つ。右側には扉が四つ並んでる。

「左側はベランダよ」

 ここから外に出られるんだ。

 陽当たりの良いベランダには、物干しやプランターが並んでる。ハーブかな?ここで植物を育ててるんだ。

『丁度、この下に店がある感じだね』

 表通りも見える。お店の正面だ。

 廊下に戻って……。

「一番奥はエルの書斎。危ないから入っちゃ駄目って言われてるわ」

『研究室より危ないの?』

「どうして?」

「開くだけで危ない本があるって、エルが言ってたわ」

『何、それ』

 そんな本、聞いたことがない。

 魔法仕掛けの本があるってこと?

「隣がエルの部屋で、こっちの二つが物置よ」

 階段側の部屋二つを、キャロルが開いていく。

『うわぁ……』

 どっちの部屋も物でいっぱいだ。

「これ、片付くかな……」

「一日じゃ無理よ」

「だよね」

 どうしよう。

「まずは、エルの部屋を掃除しましょう。掃除道具はこっちよ」

 廊下の端っこ、階段の上に掃除道具や植物のお世話をする道具が置いてある。

 

 箒を持って、キャロルと一緒にエルの部屋を開く。

 え……?

『ここが、エルの部屋?』

「ここって、エルが普段使ってる部屋なんだよね?」

「そうよ」

 がらんとした部屋だ。

 ベッドとサイドテーブル。机と椅子。ほとんど本の入ってない本棚。クローゼットとコート掛け。

「上着はここにかけてね。荷物とか、その大きな剣もここに置けると思うわ」

「うん」

 今まで見て来た場所は、どこも生活感があったのに。ここだけ違う。

『なんか……。宿の部屋みたいだね』

 そう。住んでる人の気配がない。

 床に落ちてる本だけが、かろうじてエルらしいかも。

 キャロルが本を拾う。

「しばらく、ここをリリーの部屋として使ってね」

「そんなわけにはいかないよ」

「良いのよ。どうせ、エルは研究室から出て来ないもの」

「え?」

「部屋に鍵はついてないけど大丈夫?私もルイスも勝手に開けたりはしないわ」

「大丈夫」

 とりあえず、荷物を置かせてもらおう。

 着ていたマントをコート掛けにかけて、リュヌリアンを置いて振り返ると、風が流れてきた。掃除の為に、キャロルが部屋の奥の窓を開けている。

『上にも窓があるね』

 見上げると、廊下側の天井付近にも窓があった。

「この部屋の屋根は廊下より高いから、その部分に嵌め殺しの窓がついてるの。南の窓だから、朝は明るいと思うわ」

「良い部屋だね」

 ちゃんと朝日を浴びられるなんて。

『リリー、イリス』

 ナターシャだ。

『エルは?』

『研究室に居るんじゃないかしら』

 置いてきちゃったんだ。

『仕事してるってこと?』

『そうみたいね』

「え?帰ったばかりなのに休むことなく研究室で仕事してるの?」

「エルのこと?」

「うん」

「そうよ。旅から帰ったらずーっと夜遅くまで薬を作って、朝は全然起きないし、食事もろくにとらないわ。そうかと思ったら、ふらっと出かけて全然帰って来ないの」

 研究室から出てこないって、そういうこと?

「忙しい時は不摂生になっちゃうんだ」

「まさか。いつもよ」

 いつも?

「いつものエルって、早寝早起きで……」

「え?誰が?」

「エルが」

「えぇ?」

 キャロルが大げさに驚く。

「嘘。信じられない。いつも、あんなにだらしないのに」

『だらしない?エルが?』

『意外だね』

 いつも私より先に起きるのに。

「リリーの前だと違うのかしら」

「えっ?」

 どういうこと?

「だって、恋人なんでしょう?」

「違うよ、そんなんじゃない」

「違うの?」

「うん」

「エルが女の人を連れて来るなんて初めてだったから、絶対そうだと思ったのに」

「初めて?」

「そうよ。こんなこと、初めて」

 初めてなんだ。ちょっと意外。

 でも、空き部屋がないってことは、本当に誰も連れて来たことがないのかもしれない。

「あのね。私、ここに来て大丈夫だった?部屋がないなら、近くの宿を探しても……」

「大丈夫よ。エルが決めたことだもの。それに、エルが選んだ人なら私もルイスも歓迎するわ」

 良いのかな。

「ありがとう」

『この子、絶対にリリーがエルの恋人だと思ってるよね』

 否定したんだけど……。

「でも、もう少し早く言って欲しかったわ。そうしたら、ちゃんとリリーを歓迎する準備をしていたのに」

「ごめんね」

「リリーが謝ることなんてないのよ。本当、エルって勝手なんだから」

 キャロルが不満そうに頬を膨らませる。

『しっかりしてるよね。小さいのに』

『この子が九歳で、さっきの子が十三歳ですって』

『そうなの?』

『ユールが言ってたわ』

 そうなんだ。

「キャロル!リリーシア!」

「ルイスだわ」

 キャロルと一緒に廊下に出ると、ルイスが階段を上がってきた。

「どうしたの?ルイス」

「お昼にしよう」

「そうだ。もう、お昼だったのに。ルイス、エルは……」

「研究室に行っちゃったよ」

「間に合わなかったのね」

 キャロルが、ため息を吐く。

「どうしたの?」

「一度、研究室に入ったら、何を言っても出て来ないのよ」

「えっ?……だって、そろそろ、お腹すくよね?」

 キャロルとルイスが顔を合わせて、肩を落とす。

「そういうの、関係ないみたいだから」

「呼んでも全然、駄目よ」

「私、呼んでくる」

 

 一階に降りて、一番奥の部屋へ。

 研究室に入ると、白衣に眼鏡をかけたエルが、変わった道具を使いながら何かを作っていた。

「エル」

 声をかけても、全然、反応がない。

「エル、お昼だよ」

 作業に集中してるみたいだ。

 危ないものを使ってるかもしれないから、無理矢理、腕を引くわけにもいかない。

『こうなったら話しかけても無駄だ』

『そうねぇ』

 本を読んでる時もそうだったっけ。

 ノックがあって、扉を開いたキャロルが私を見る。

「リリー。放っておいて良いわ」

「でも、区切りの良いところまでいけば……」

『エルは今、五つの作業を並行して進めてるわぁ。一つ出来ても、次にやることは決まってるからぁ、区切りなんてないわよぅ?』

 見ていても、何をしてるのかさっぱりわからなくて、手も口も出せそうにない。

「リリー。行きましょう」

 エル……。

 キャロルに手を引かれて、部屋を出る。

 

 


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