044 新しい都市
港で一泊して、朝から乗合馬車に乗って王都を目指す。
良い天気。
それに、今までと空気が全然違う。穏やかで温かい空気に包まれてる。
「調子は?」
「大丈夫」
今は、エルに言われて酔い止め薬を飲んでいる。長い時間、馬車に乗ると酔うかもしれないからって。船酔いに効く薬は、馬車の乗り物酔いにも効くらしい。
「王都が見えて来たな」
窓から外を見る。
『うわ。すごい迫力だね』
「うん」
ラングリオンの王都。
堅牢な城塞都市とは聞いていたけど、思ってた以上の迫力だ。どこまでも果てしなく続いてそうな高い壁がそびえ立っている。確か、お城も都市も全部、城壁の中にあるんだっけ。
あれ……?でも、近郊にも家がたくさん見えるような?
「城壁の外にも街が広がってるの?」
「あぁ。城壁の内側に建設出来る建物には限界があるからな」
王都からはみ出しちゃったってこと?
王都からはちょっと離れてそうに見えるけど、同じ街?
「どこまでが王都?」
「王都は城壁の内側だけ。外にあるのは別の都市」
「そっか」
やっぱり、あっち側は別の都市らしい。
王都と近郊都市だけでもかなりの人口がありそうだ。ポルトペスタとグラシアル大街道みたいに、いつか城壁がなくなってくっついちゃうのかな?
「この辺って、ラングリオンの中心地なんだよね?」
「ラングリオンっていうか……。アルマス地方の中心地だ」
「アルマス地方?」
「ラングリオンは、四つの地方に分かれてるんだ。北は王都のあるアルマス地方。南部は、西から順に、オートクレール地方、ジュワユーズ地方、デュランダル地方。それぞれ公爵が治めてる土地で、かなり雰囲気が変わるよ」
流石、大陸一の面積を誇るだけあるよね。グラシアルも北部と南部じゃ、異国のように雰囲気が変わるって言ってたっけ。
※
王都の入口、東大門。
馬車を降りて、騎士の銅像がサイドに立つ大きな門を進む。
ここから先が王都。
たくさんの人が居て賑わっている。こんなに人を見たのはポルトぺスタ以来?でも、雰囲気は全然違うよね。
グラシアルよりも全体的に背の高い人が多い印象だ。それに、金髪や茶髪といった明るい髪の人が多くて、港でも普通に見かけていた黒髪の人を見かけない。
『エルの家って、どこにあるの?』
「王都の端だから、ここからだと少し遠い」
王都の端から端までって、どれくらいあるんだろう。
「王都は、中央広場を中心に、東西南にメインストリートが伸びてるんだ。今、歩いてるのは、東大門から中央広場に向かうイーストストリート。冒険者ギルドや商店が並んでる通りだ」
イーストは古い言葉で、東。
私たちが居るのは王都の東側だ。お店が多くて賑わってる。
「イーストストリートを真っ直ぐ進めば、噴水のある中央広場に出る。更に進めば、ウエストストリートに入って、西大門まで続いてる」
ウエストは、西。
ここからじゃ西大門なんて見えないけど、ずーっと歩いた先にあるらしい。
「中央広場から南に入ればサウスストリート。俺の家に行くなら必ず覚えておかなきゃいけない道だ」
サウスは、南。
うん。大丈夫。わかりやすい。
『リリー。どっちに曲がるかわかる?』
「えっ」
今、東に居て、西を向いてて、そこから南に曲がるから……。
「左……?」
「合ってるよ」
良かった。間違えなかった。
「心配だったら、上を見上げたら良い。城がある方が北だ」
お城は……。こっち?
「あれが、ラングリオンのお城?」
「そう。中央広場から北に向かえば、王城に続いてるんだ。その逆がサウスストリート。俺の家は、サウスストリートの果て、職人通り沿いにある」
「職人通り?」
「鍛冶に木工、細工職人。職人がたくさん店を構えてる通りなんだ。イースト側が職人通りで、ウエスト側はカフワ通り。そっちは、コーヒーや酒の卸をやってる店が並んでる」
コーヒーとお酒だけ?
「紅茶屋さんは、あんまりないの?」
「ポリーズの場所は、マリーに聞いたらわかるんじゃないか?」
また、マリアンヌさん。エルにとって、どういう人なんだろう。
「でも、まずは、冒険者ギルドに……」
「あー。エルロックさんじゃないっすか」
誰?
「パーシバル」
軽鎧に帽子。衛兵にしては、装備が軽いような気がする?
「その人、彼女ですか?」
「えっ?」
彼女っ?
「うるさいな。関係ないだろ」
「いや。聞き捨てならないな。お前、今回はグラシアルに行ったって聞いたぞ」
「……ルード」
また、別の人?
「エル、グラシアルまで行ったの?すごいね」
「また魔法部隊をサボったのね。レティシアに怒られるわよ」
男の人が二人と女の人が一人。三人とも魔法使いだ。しかも、皆、金髪碧眼。
「お前ら、仕事はどうしたんだよ」
「今はお昼だよ」
パーシバルさん?は、そのまま行ってしまった。
「彼女じゃないなら紹介しろよ」
「手を出すな」
「冒険者仲間?」
「俺が帰ってること、レティシアには言うなよ」
急に、エルに手を引かれて、なんとか転ばずに付いていく。
「今の人たちって、皆、知り合いなの?」
「養成所の同期だよ。錬金術研究所の連中だ」
同期って、エルと一緒に勉強してた人たちってことだよね。仲が良いんだ。
「最初の人は?」
「三番隊……。イーストを管轄してる守備隊の隊員だよ」
守備隊。王都の中の治安を守るのが仕事だから軽い装備だったのかな。
「イーストって?」
「王都は、メインストリートで三つの地区に分かれてるんだ。中央広場から北は、セントラル。南東がイーストで、南西がウエストだ」
えっと……。エルの家は、サウスストリートを真っ直ぐ行って、職人通りっていう名前の東の通りに入るから……。
「エルの家があるのは、イースト?」
「そうだよ」
『良くわかったね』
「それぐらい、わかるよ」
エルが笑って、私の頬をつつく。
……もう。
※
扉を開くと、通りよりも賑わった声が聞こえて来た。ここが、ラングリオン王都の冒険者ギルド。
ここには黒髪の人も居るし、魔法使いも居る。服装も武装も様々だ。
「一緒に居て」
「うん」
人が多いから、離れないようにしなくちゃ。
エルがボードの方へ行く。一面にびっしり依頼が貼ってある場所だ。こんなにたくさん仕事があるんだ。
えっと、貴重品の入手依頼?猫探し?亜精霊退治……。
エルが何枚か剥がした。
手を引かれて、今度はギルドマスターが居るカウンターへ。
「よぉ。久しぶりだな。グラシアルはどうだった?」
「楽しかったよ」
エルが貴重品を手に入れる依頼にサインをして、カウンターに品物を並べる。
そっか。持っているものを渡すだけで、依頼達成になるんだ。ポリーも、欲しがる人が多いものは、ついでに買っておくって言ってたっけ。
「おいおい、一体、どれだけ仕入れて来たんだよ。……ちょっと、手伝ってくれ」
カウンターに並んだものが、奥の方に運ばれていく。
他にも、引き受けていたものがたくさんあったらしい。
「報酬は、近い内に取りに来る」
「は?おい。ちょっと待て」
「急いでるんだ」
「その子は新しい冒険者か?」
「えっ?」
私?
「冒険者じゃない」
「サンドリヨンは、どうしたんだよ」
「今は別行動。王都には帰ってるよ。……また、来る」
エルに手を引かれて、冒険者ギルドを出る。
サンドリヨンって……。
エルの冒険者仲間?人の名前なのかな。それとも、二つ名?
「待って、エル」
そんなに速かったら、転びそう……。
「どうして、そんなに急いでるの?」
「まだ、見つかりたくないんだよ」
「誰に?」
「魔法部隊の連中。帰ってるってばれたら、うるさいからな」
うるさいって……。
―俺が帰ってること、レティシアには言うなよ。
「レティシアさんって?」
「魔法部隊の隊長だ」
隊長さん、女の人だったんだ。
※
噴水のある中央広場を左に曲がると、どこまでも真っ直ぐ続く大きな通りに出た。
このサウスストリートを、ずーっと歩いた先に、王都の南側の出口である南大門があるらしい。
歩いていると、少しずつ雰囲気が変わってきた。
人通りが減ってる。
中央広場の辺りが都市の中心地で、外れるほどに静かになっていくのかもしれない。
「ここが、職人通り」
南大門が見えてきた十字路を左に曲がって、職人通りへ。
しばらく歩いたところで、エルが止まった。
「ここが俺の家」
二階建てのお店だ。看板は……。
「薬屋、職人通り?」
「職人通りにある薬屋だからな」
『えっ?それだけ?』
これ、お店の名前なんだ。
エルと一緒にお店に入ると、扉に付いたベルが、からんからん、と良い音を立てて鳴った。
「いらっしゃいませ。……エル!おかえりなさい」
「ただいま、キャロル」
女の子だ。走ってきた十歳ぐらいの女の子をエルが抱き上げる。
「良い子にしてたか?」
ふわふわの茶色の髪に、翡翠の瞳。
「もう。失礼ね。私、そんな年じゃないわ」
可愛い。
「おかえり、エル」
「ただいま、ルイス」
奥の扉が開いたかと思うと、今度は、茶色の髪と翡翠の瞳の男の子が来た。
女の子と似てる。兄妹かな?
「その人は?」
『この子たちは?』
「私も気になってたわ」
『エルの養子だ』
養子?
女の子を下ろしたエルが、私を見る。
「紹介するよ。リリーシアだ」
「はじめまして。リリーシア・イリスです」
二人に向かって、おじぎをする。
「はじめまして。僕は、エルの弟子のルイス・クラニス」
『弟子?』
「私は、ルイスの妹のキャロルよ」
『ルイスはぁ、錬金術を勉強してるのよぉ』
この子、錬金術師を目指してるんだ。
「ルイス、キャロル。今日から、リリーも一緒に暮らすんだ。色々教えてやってくれ」
「え?」
「え?ママになるの?」
「えっ?」
ママっ?
「違う」
『この子たちって、親が居ないの?』
「リリーは王都も初めてだから、頼むよ」
『孤児だ』
「わかったわ」
『それで養子に?』
『話すと長いわねぇ』
複雑な事情がありそうだ。
「一緒に住むなら、部屋が必要だよね」
「二階に余ってる部屋があるだろ」
「今から片づけるの?」
「えぇっ?今日中なんて無理よ」
「そんなに酷かったか?」
「酷いね」
「酷いなんてものじゃないわ。物置じゃない」
「二つとも?」
「そうだよ」
「そうよ」
女の子が腰に手を当てて頬を膨らませる。
「それに、家具だってないじゃない」
一緒に暮らすって言ったけど……。
私、本当にここに来て良かったのかな。養子が居るなんて話も聞いてないのに。
「リリー。しばらく、俺の部屋を使ってくれ」
「えっ?そんなわけには……」
『何言ってるのさ。いつものことじゃん』
『そうねぇ』
「俺はしばらく研究室で寝るから良い」
「だめだよ、そんなの」
「リリーが寝る場所を作る方が優先だ」
「なら、部屋の片付けを手伝う」
「手伝ってくれるの?」
「うん。力仕事なら任せて」
「よろしくね。えっと……、リリー?」
「リリーで良いよ」
「じゃあ、リリー、こっちに来て」
女の子に手を引かれて、家の中に入る。
「案内するわ。まず、ここが台所」
扉の先にあったのは、左右に伸びる廊下。左側の奥は突き当りで、右側の奥は……。階段かな。
廊下を挟んだ斜め向かいにあるのが台所。扉は付いてないから、そのまま中に入ってみる。
「ご飯は、ここで食べるのよ」
広い台所には、六人がけの大きな食卓テーブルが置いてある。
使いやすそうな水回りに食器棚。右側の奥にはオーブンもある。大きな窓もあって、素敵な台所だ。
「リリーって、好き嫌いある?」
「そんなにないと思う」
『そうだね』
「良かった。料理はするの?」
「料理っていうか……。お菓子作りは好きだよ」
「本当?今度、教えて貰おうかしら。エルって、お菓子は全然ダメなんだもの」
やっぱり、食べないんだ。
「次は、研究室ね」
台所を出て、廊下の突き当たりへ。
「ここが、エルの研究室よ」
キャロルが、そっと扉を開く。
独特のにおいがする薄暗い部屋だ。アリシアの研究室に似てる。
「リリーは錬金術師?」
「違うよ」
「なら、あんまり用はないわね」
キャロルが扉を閉める。
「隣は、シャワー室よ」
脱衣所があって、奥にシャワーを浴びる場所がある。宿にあるのと似たような造りだ。
「隣が、台所で……」
お店側の並びには、奥に二つ部屋がある。
「右側は、手前がルイスの部屋で、奥が私の部屋よ。私の部屋の前に階段があるわ」
軽い足取りで駆け上がるキャロルに付いて行くと、二階の廊下に出た。
左側には扉が一つ。右側には扉が四つ並んでる。
「左側はベランダよ」
ここから外に出られるんだ。
陽当たりの良いベランダには、物干しやプランターが並んでる。ハーブかな?ここで植物を育ててるんだ。
『丁度、この下に店がある感じだね』
表通りも見える。お店の正面だ。
廊下に戻って……。
「一番奥はエルの書斎。危ないから入っちゃ駄目って言われてるわ」
『研究室より危ないの?』
「どうして?」
「開くだけで危ない本があるって、エルが言ってたわ」
『何、それ』
そんな本、聞いたことがない。
魔法仕掛けの本があるってこと?
「隣がエルの部屋で、こっちの二つが物置よ」
階段側の部屋二つを、キャロルが開いていく。
『うわぁ……』
どっちの部屋も物でいっぱいだ。
「これ、片付くかな……」
「一日じゃ無理よ」
「だよね」
どうしよう。
「まずは、エルの部屋を掃除しましょう。掃除道具はこっちよ」
廊下の端っこ、階段の上に掃除道具や植物のお世話をする道具が置いてある。
箒を持って、キャロルと一緒にエルの部屋を開く。
え……?
『ここが、エルの部屋?』
「ここって、エルが普段使ってる部屋なんだよね?」
「そうよ」
がらんとした部屋だ。
ベッドとサイドテーブル。机と椅子。ほとんど本の入ってない本棚。クローゼットとコート掛け。
「上着はここにかけてね。荷物とか、その大きな剣もここに置けると思うわ」
「うん」
今まで見て来た場所は、どこも生活感があったのに。ここだけ違う。
『なんか……。宿の部屋みたいだね』
そう。住んでる人の気配がない。
床に落ちてる本だけが、かろうじてエルらしいかも。
キャロルが本を拾う。
「しばらく、ここをリリーの部屋として使ってね」
「そんなわけにはいかないよ」
「良いのよ。どうせ、エルは研究室から出て来ないもの」
「え?」
「部屋に鍵はついてないけど大丈夫?私もルイスも勝手に開けたりはしないわ」
「大丈夫」
とりあえず、荷物を置かせてもらおう。
着ていたマントをコート掛けにかけて、リュヌリアンを置いて振り返ると、風が流れてきた。掃除の為に、キャロルが部屋の奥の窓を開けている。
『上にも窓があるね』
見上げると、廊下側の天井付近にも窓があった。
「この部屋の屋根は廊下より高いから、その部分に嵌め殺しの窓がついてるの。南の窓だから、朝は明るいと思うわ」
「良い部屋だね」
ちゃんと朝日を浴びられるなんて。
『リリー、イリス』
ナターシャだ。
『エルは?』
『研究室に居るんじゃないかしら』
置いてきちゃったんだ。
『仕事してるってこと?』
『そうみたいね』
「え?帰ったばかりなのに休むことなく研究室で仕事してるの?」
「エルのこと?」
「うん」
「そうよ。旅から帰ったらずーっと夜遅くまで薬を作って、朝は全然起きないし、食事もろくにとらないわ。そうかと思ったら、ふらっと出かけて全然帰って来ないの」
研究室から出てこないって、そういうこと?
「忙しい時は不摂生になっちゃうんだ」
「まさか。いつもよ」
いつも?
「いつものエルって、早寝早起きで……」
「え?誰が?」
「エルが」
「えぇ?」
キャロルが大げさに驚く。
「嘘。信じられない。いつも、あんなにだらしないのに」
『だらしない?エルが?』
『意外だね』
いつも私より先に起きるのに。
「リリーの前だと違うのかしら」
「えっ?」
どういうこと?
「だって、恋人なんでしょう?」
「違うよ、そんなんじゃない」
「違うの?」
「うん」
「エルが女の人を連れて来るなんて初めてだったから、絶対そうだと思ったのに」
「初めて?」
「そうよ。こんなこと、初めて」
初めてなんだ。ちょっと意外。
でも、空き部屋がないってことは、本当に誰も連れて来たことがないのかもしれない。
「あのね。私、ここに来て大丈夫だった?部屋がないなら、近くの宿を探しても……」
「大丈夫よ。エルが決めたことだもの。それに、エルが選んだ人なら私もルイスも歓迎するわ」
良いのかな。
「ありがとう」
『この子、絶対にリリーがエルの恋人だと思ってるよね』
否定したんだけど……。
「でも、もう少し早く言って欲しかったわ。そうしたら、ちゃんとリリーを歓迎する準備をしていたのに」
「ごめんね」
「リリーが謝ることなんてないのよ。本当、エルって勝手なんだから」
キャロルが不満そうに頬を膨らませる。
『しっかりしてるよね。小さいのに』
『この子が九歳で、さっきの子が十三歳ですって』
『そうなの?』
『ユールが言ってたわ』
そうなんだ。
「キャロル!リリーシア!」
「ルイスだわ」
キャロルと一緒に廊下に出ると、ルイスが階段を上がってきた。
「どうしたの?ルイス」
「お昼にしよう」
「そうだ。もう、お昼だったのに。ルイス、エルは……」
「研究室に行っちゃったよ」
「間に合わなかったのね」
キャロルが、ため息を吐く。
「どうしたの?」
「一度、研究室に入ったら、何を言っても出て来ないのよ」
「えっ?……だって、そろそろ、お腹すくよね?」
キャロルとルイスが顔を合わせて、肩を落とす。
「そういうの、関係ないみたいだから」
「呼んでも全然、駄目よ」
「私、呼んでくる」
一階に降りて、一番奥の部屋へ。
研究室に入ると、白衣に眼鏡をかけたエルが、変わった道具を使いながら何かを作っていた。
「エル」
声をかけても、全然、反応がない。
「エル、お昼だよ」
作業に集中してるみたいだ。
危ないものを使ってるかもしれないから、無理矢理、腕を引くわけにもいかない。
『こうなったら話しかけても無駄だ』
『そうねぇ』
本を読んでる時もそうだったっけ。
ノックがあって、扉を開いたキャロルが私を見る。
「リリー。放っておいて良いわ」
「でも、区切りの良いところまでいけば……」
『エルは今、五つの作業を並行して進めてるわぁ。一つ出来ても、次にやることは決まってるからぁ、区切りなんてないわよぅ?』
見ていても、何をしてるのかさっぱりわからなくて、手も口も出せそうにない。
「リリー。行きましょう」
エル……。
キャロルに手を引かれて、部屋を出る。




