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041 本の山

「わぁ。お姫様の部屋みたい」

 ランチの後に案内されたのは、とっても可愛い部屋だ。

 螺旋階段を上った塔の上なんて、本当に物語に出てくる部屋みたい。

 天蓋付きのベッドも、窓に取り付けられたレースのカーテンも、クローゼットも全部、可愛い。

「御夕食の準備が整いましたらお呼び致します。それまで、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

「ん」

「はい」

 メイドさんが部屋から出て言った。

 もしかして、この塔からなら海が見えるかな?

 窓の方に行く。

 ……見えない。

「海があるのって、こっち?」

「あっちだよ」

 違ったらしい。イリスが肩をすくめてる。だって、こっちだと思ったんだもん。

 エルが別の窓のカーテンと窓を開けてくれた。

「海だ」

 海が見える。光を反射して輝く海に港町。とっても綺麗で、絵になる風景だ。

「疲れただろ。少し休むか?」

「大丈夫」

「本当に?」

 ずっと、私の心配ばかりしてる。

「エルは、図書室に行くんだよね?」

「あぁ。一緒に行くか?」

 図書室は、この塔の下。螺旋階段の入口の向かいにあった。アリシアがこの部屋にしたのは、エルの為かもしれない。

 エルは本が好きだから。

「あの……」

 エルが興味あることはアリシアと似てる。むしろ、同じだ。

「エルは……。ここに残りたい?」

「は?」

 だって。あんな顔、初めて見た。アリシアと話してる時の顔。好きなことを語り合ってる時は、あんな顔になるんだ。

 私には見せない……。

「私、アリシアのところに行ってくる」

 逃げようとしたのに、エルに腕を引かれた。

「なんで、俺がこんなところに残らなきゃいけないんだよ」

「だって、エル、アリシアの研究に興味ありそうだったし」

「関係ない」

「でも……」

「リリーは残りたいのか?」

 残りたくない。私はエルと旅をしたい。

「なら、なんでそんなこと言うんだ」

 だって、エルは私なんかよりアリシアと一緒に居た方が……。

「一緒にラングリオンに行くんだろ?」

 約束したけど。

 急ぐ旅じゃないって、エルも言ってた。

「五日の船に乗る」

 次の船のチケットはとってある。けど……。

「リリー」

 エルが私を抱きしめる。

 そんなにきつく抱きしめられたら、逃げられない。

「一緒に行こう」

 本当に、そう思ってくれてるの?

 わからない。どうしよう。泣きそうだ。

「返事は?」

「……はい」

 ようやく腕を離されて、走って部屋を出る。

 間に合った。溢れた涙は見られなかったと思う。

 

 螺旋階段を走って下りる。

 落ちていくみたいに、ぐるぐる回る。

『リリー、危ないよ』

 だって。

『なんで、そんなに泣いてるのさ』

 わからない。

『リリー』

 螺旋階段を下りきって、廊下に出る。

「私、エルと一緒に居て良いのかな」

『は?何言ってるさ』

「だって、アリシアの方が、エルと気が合うし……」

『まさか、落ち込んでるの?』

「アリシアも、エルに興味があるみたいだったし……」

『一緒にラングリオンに行こうって言ってただろ』

「でも……」

『なんで、いつもそうなんだよ』

「だって……」

 会ったばかりなのに、あんなに親密な感じで。二人で話してる空間に全然入っていけなかった。邪魔しちゃいけないみたいな感じで……。

『リリーの馬鹿』

「待って、イリス」

『もう知らないよ』

 イリスが飛んで行く。

 置いて行かれちゃった。

 どうしよう。どうすれば良いんだろう。

 わからない。

『リリー』

「エイダ?」

『ごめんなさいね。心配だから付いて来たの』

 泣いたところ、見られちゃったのかな。

「ありがとう」

『落ち着ける場所を探しましょうか』

「うん」

 エイダと一緒に廊下を歩く。

『あなたは、エルが好きなのよね?』

「好きだよ」

 大好き。

『それなのに、エルはアリシアと居た方が良いと言うの?』

「その方が、エルが喜ぶと思って……」

『喜んでいなかったでしょう』

 そうかもしれない。むしろ、怒らせたかも。

『エルはリリーと居ることを望んでいるのに。私には、リリーがエルから離れようとしているように見えます。何故なの?』

「だって……。エルは、私と居ても楽しくないんじゃないかなって」

『えっ?』

『えー?』

 振り返ると、ナターシャとジオが居た。

「二人とも、どうして?」

『だって、リリー、泣いてるんだもの』

『気になったからさー』

 付いて来てくれたんだ。

 エルの精霊は、皆、優しい。

「ごめんね。心配かけて」

『リリー。あなたと会ってから、エルは変わったのよ』

「変わった?」

『いつも難しい顔をして、何があっても表情なんてほとんど変わらない。笑うことだって全然ない人だったわ』

『そうなの?』

『ナターシャも知らないですね。私と会ってからリリーと出会うまで、エルは、ずっとそうだったんです』

 本当に?

 あんなに、すぐ笑うのに?

『だからさー。王都でリリーがエルを笑わせた時、オイラたち、すごくびっくりしたんだよー』

 いつのこと?

「私、エルを笑わせてなんか……」

『笑わせてるわ』

『そうね。いつも、楽しそうよね』

『あなたと居るエルは、とても柔らかい表情をするのよ。まるで別人だわ』

 言ってることが全然わからない。

 だって……。

「あんなにどうでも良いことで、すぐ笑うのに?」

 いつも、あんなにどうでも良いことで笑うのに。

 いつも……。いつも、そうだ。

 あんなことで、そんなに笑わなくても良いのに。

 エイダが笑う。

『ふふふ。私もリリーと居ると楽しいわ』

「酷いよ、エイダ」

『リリー。心配なんてしないで。エルは、あなたと居るとすごく楽しいのよ。だから、リリーと一緒に居たいと思っているんだわ』

 本当に、そう思ってくれてるのかな。

 エルが私と一緒に居たいって思ってくれてるのなら……。

「ありがとう。エイダ、ナターシャ、ジオ。……私、エルに謝ってくる」

『そうね』

『まだ、部屋に居るのかしら』

『図書室じゃないかなー?』

 

 ※

 

 来た道を戻って、図書室へ。

 図書室っていうか……。書庫みたいな場所だ。

「エル、居る?」

『居るわよぉ』

 ユールが迎えに来てくれた。

『ふふふ。元気になったぁ?』

「うん。皆が居てくれたから」

『良かったわぁ。エルは、こっちよぉ』

 ユールについて、図書室の奥へ。

「……え?」

 埋もれるほど山のような本に囲まれたエルが床に座り込んで本を読んでる。

 私が部屋を出てから、そんなに時間、経ってないよね?

 あの後すぐに図書室に来たとして……。こんなことになる?

「ここって、元々、こんなに散らかってたの?」

『まさか』

『エルが散らかしたに決まっているだろう』

『ふふふ。エルに図書室を貸したことぉ、アリシアは後悔するでしょうねぇ』

 急に立ち上がったエルが、口に手を当てながら別の本棚の本を眺めて、一冊取る。

「あ」

 持っていた本が床に落ちた。そして、別の本を取って、また……。

「だめ」

 慌てて、床に落ちそうになった本を取る。

「もっと、大事に扱わないと、」

 私の話を完全に無視したエルが、さっきの本の山に戻っていった。

『いつものことだ』

 ひどい。

 手に取った本と、落ちた本を本棚に戻す。

「エル」

 全然、聞いてくれない。

『呼びかけても無駄だ』

『こうなったらぁ、何も聞かないからぁ』

 そんなのだめ。

 エルのすぐ近くまで行って、しゃがむ。

「エル!」

 ようやく顔を上げてくれた。

「エル、あのね……」

「リリー」

 エルの顔が近づいて。

 キスされた。

 え?

「あの……」

 今、私、キスされたよね?

 エルは、何事もなかったかのように本を見てる。

「エルって……。いつも、こうなの?」

『集中してる時は、いつもこうだな』

『え?誰にでもキスしちゃうの?』

『これは、初めてねぇ』

 頬をつついてみるけど、何の反応もない。

 すごい集中力だ。

「リリー、エルロック。居るか?」

 アリシアだ。

「いるよ!」

 図書室の入口の方に行く。

「どうしたの?」

「お茶にしないか。久しぶりの客人と聞いて、料理長がはりきって黒い森のケーキを作っているんだ」

「黒い森のケーキって、さくらんぼの?」

「そうだよ」

 食べたかったケーキだ。

「仕上がりは、もう少しかかるが……。エルロックは?」

「エルは、甘いものは食べないから」

 あの感じだと、呼んでも絶対に来ないと思う。

「喧嘩でもしたのか?」

「してないよ。早く行こう」

 アリシアの向きを変えて、背中を押す。

 今のエルを、アリシアと会わせたくない。

 

 ※

 

 白で統一されたシンプルで綺麗な部屋。

 ここは、応接室らしい。

 相変わらず、羽のモチーフが好きなんだ。テーブルにも羽の彫刻が掘られている。

「そういえば、イリスはどうしたんだ?」

「どっかに行っちゃった」

「珍しいな。イリスとも喧嘩か」

 喧嘩っていうか……。

「アリシアだって、リウムと一緒に居ないのに」

「リウムは普段、城の監視をしているんだよ。厄介者が入り込まないように」

「そうなの?でも、私がお城に来た時は見なかったよ?」

「ここは遠くまで見渡せるからな。先に気づいたリウムが、リリーが来ると教えてくれたんだよ。だから、エルロックを捕まえる準備をしていたんじゃないか」

「どうして、そんなこと……」

「リリーと共に居るのが、危険な奴だったら困るからな」

 アリシアまで。

「それ、ポリーにも言われたよ」

「ポリーに会ったのか?」

「ニヨルド港で会ったの。本当は、ペルラ港から同じ船に乗ってたみたいなんだけど。私、船酔いで全然出歩けなかったから、気付かなくって」

「船酔い?酷いなら、良い薬をやろうか?」

「大丈夫だよ。薬はあるから」

「そうか。……今日は、ポリーは一緒じゃなかったのか?」

「ポリーは、朝一でティルフィグンに行っちゃった」

「冒険者の仕事か」

「知ってるの?」

「あぁ。トリウィアに、何度か会いに行ったことがあるんだ」

「そうなんだ。イーシャにも会った?」

「一度も会えていないよ」

「そっか……」

 どこに居るのかな。

「アリシアは、ラングリオンに行ったことある?」

「中心地に行ったことはないよ。アスカロン湾を渡ったことがあるぐらいだ」

 アスカロン湾は、ティルフィグンとラングリオンの国境だ。ちょっとだけ行ったことがあるのかな。

「リリーは、ラングリオンに行くのか」

「うん」

「あの国に行くなら、気を付けた方が良い」

「気を付けるって?」

「中央……。特に王都では、黒髪の者が差別されると聞いたことがある」

「差別?」

「神聖王国クエスタニアやラングリオン王国といった古い国は、吸血鬼種への差別や偏見が根強いんだ。黒髪の女性が一人で歩くだけで危険にさらされることもある」

 黒髪も、紅の瞳も、差別の対象なんだ。

「大丈夫だよ」

「リリー」

 アリシアが、私の髪を撫でる。

「国や文化の違いは想像以上に大きいんだ。それは城を出た直後から感じてるはずだろう」

「そんなことないよ。実際に見た世界は、聞いていたのと違うこともたくさんあった。それに、王都はエルが暮らしてる場所なの。……だから、大丈夫だよ」

 エルが暮らしてる場所に、エルに対して酷いことを言う人がたくさん居るなんて、思いたくない。

「いつまで王都に居るつもりなんだ」

 いつまで……?

「まだ、先のことは決めてないよ。一緒に暮らそうって言われたの」

 紅茶を飲んでいたアリシアが咳き込む。

「大丈夫?」

「まさか……。こんなに短い期間で、結婚を決めたのか?」

「結婚っ?」

「違うのか?」

「違うよ、全然違う」

 私も、エルに言われた時はプロポーズかと思ったけど……。

「私、恋人でも何でもないんだよ?」

「……は?」

「だから、そういう関係じゃないの」

 アリシアが頭を抱える。

「恋人であることは、二人とも否定しなかっただろう」

「えっと……」

 そういえば、エルも何も言わなかったっけ。どうしてだろう。

「何度もキスを交わす関係なんだろう?」

「そんなにしてないよ」

「イリスがあれほどの魔力を得たというのに?」

「あれは……。その……」

 やっぱり、一回で妖精の姿になることなんてないのかな。

「でも、そんなにしてないのは本当だよ。呪いのことも、魔力を奪うことだって、エルには何も話してないから」

「話してない?魔力を奪ったというのに?」

「うん。……何も話してないよ」

 エルの精霊には話したけど……。

「そうか」

 アリシアが、納得してなさそうに溜め息を吐く。

 でも、これ以上、話せることは何もない。

「アリシアは、ここで転移の魔法陣の研究をしてるの?」

「あぁ」

「魔法陣って、女王の力がないと使えないんだよね?」

「女王の力……。つまり、大きな魔力があれば似たようなことは可能なんだ。ここでは、リウムの力を借りて似たようなシステムを構築している。上手くいけば……」

 アリシアが途中で言葉を切る。

「良い研究になりそうなんだ」

「研究の先に目指してるものがあるの?」

 アリシアが苦笑する。

「そんなところだ。紅茶のおかわりを淹れようか」

「うん」

 アリシアが、ティーポットにお湯を注ぐ。

「これって、ポリーズの紅茶だよね?」

「そうだよ」

 せっかくだから、アリシアにもあげよう。

 荷物の中から、ドロップを取り出す。

「ポリーズのドロップか」

「うん。いっぱい貰ったから」

「ありがとう。それは何だ?ドロップ用のポーチか?」

「これは、エルが作ったアイテム袋だよ」

「アイテム袋?」

「こんな風に……」

 荷物の中から、マントを出す。

「おぉ」

「色んなものを、小さく収納出来るものなんだって」

「見せて貰っても良いか?」

「うん」

 アリシアにアイテム袋を渡す。

「重さはそんなにないな。魔法の力を感じる……」

 アリシアがポーチから、色んなものを出してる。

「すごいな」

 楽しそう。

『何やってるの?アリシア』

 イリスが飛んで来た。

「おかえり、イリス」

『エルは?』

「図書室に居ると思う」

『呼んであげれば良いのに』

「だって、エルは甘いものが好きじゃないから」

『どこに甘いものがあるんだよ』

「今、作ってくれてるの」

『エルだって、紅茶は好きだろ』

 好きなのかな。

「でも、来ないと思うよ」

『なんで?』

「集中してたみたいだから」

『何それ。呼んで来るよ』

 行っちゃった。

「ありがとう。リリー」

 返してもらったアイテム袋をベルトに付ける。

「短剣も使うようになったんだな」

「使えないよ。旅をするなら持ってた方が良いって、エルが買ってくれたの」

 まだ、全然、練習してない。

「リリーの場合、体術と上手く組み合わせると良いんじゃないか?」

「体術?」

「体術は得意だろう。短剣は、体術と同じように近接攻撃に使う武器だ。リリーなら体術を上手く生かせると思うよ。……何より、武器は、持ってるだけで相手を牽制する効果もあるからな」

 確かに。それなら、上手く使えるかもしれない。

 今度、試してみよう。

「リリーは、あいつに私たちのことは話してないのか?」

「私たちって?」

「姉妹の話だ」

「姉妹?メルに手紙を書きたいって話はしたけど……。あんまり言わない方が良かった?」

「その程度なら構わない。フルネームを教えたりは?」

「私のフルネームはエルに言ったよ。でも、他の人には言わない方が良いって言われたから、その後は誰にも話してない」

「そうだな。身分証に書いていない情報は隠した方が良いだろう」

 身分証って、あちこちで使うよね。ちゃんと見ておくんだった。

「そういえば、トリオット物語はどこまで読んだんだ?」

「二巻まで」

「三巻が手に入ったんだ。読みたいか?」

「本当?読みたい。図書室にあるの?」

「私の部屋にあるんだ。後で持ってくるよ」

 続きが出てたんだ。楽しみ。

「せっかくだから、旅の話を聞かせてくれないか?」

「うん」

 

 ※

 

『あ。リリー』

 美味しいケーキを食べて図書室に戻ったら、図書室が、さっきより酷いことになっていた。いくつもの本の山の中の一つから漏れた明かりが天井を照らしている。

「エルが居るのって、あそこ?」

『そうだよー』

 近づくと、壁のように積まれた本の中心にエルが居た。

「エルって、いつもこうなの?」

『そうよぉ』

 ひどい。

 本棚の下に落ちている本は興味がなかった本で、あの山に持って行ったのは興味がある本みたいだよね。

 とりあえず、落ちてる本から片付けよう。

『片づけるの?』

「うん」

 本がかわいそうだ。

 

 あ……。

 これって、ドラゴン王国時代の文字だよね。すごく貴重な本だ。

 こんなに貴重な本まで床に落としちゃうなんて?

「あれ……。さっき、ここに……」

 エルが本棚を眺めてる。

「これのこと?」

「あぁ、それ」

 私が持ってた本をエルが持って行く。

 どこにどういう本があるか覚えてるのに、どうして、元の場所に戻せないんだろう。

 

 片づけても。

 片づけても、片づけても、全然、終わる気配がない。

 

『リリー、大丈夫?』

「うん。本の整理は好きだから」

 ただ……。見事に、物語が揃った棚だけは綺麗なままなんだよね。

 そんなに興味がないなんて。ちょっと、落ち込む。

「リリー」

 髪を撫でられて、顔を上げる。

「エル」

 また、本を何冊も手に持ってる。

 エルが物語の棚から本を一冊手に取った。

 そのまま持って行くのかと思ったら、何故か本を私の方に向ける。

「妖精の物語?」

 表紙の絵も可愛い本だ。

 エルが首を傾げる。

「興味ないか?」

「えっと……。面白そうだと思う」

 本を受け取ると、そのままエルが行ってしまった。

「これ……。私に選んでくれたのかな」

『そうじゃない?』

 エル、この棚の本も一通り見てたんだ。

 

『アリシアだ』

「アリシア」

「リリー。……これは、何があったんだ?」

『見ての通りだよ。エルが、片っ端から散らかしてるんだ』

「それを、リリーが片づけていると言うわけか」

「ごめんね。アリシア」

「何故、リリーが謝るんだ?」

「私、エルがこんなに本を大事にしない人だなんて知らなくて」

 アリシアが笑う。

「私も、自由に使用する許可を出してしまったからな。片付けは、エルロックが帰った後にゆっくりやるさ。それよりも、食事にしよう」

「もう、そんな時間?」

「そうだよ。食堂に行こう」

「でも……」

 どうしよう。

 エル、話を聞いてくれるかな。

 エルの方に行って、しゃがんでエルの顔を見る。

 でも、これだと、また、キスされちゃうかもしれない。

 どうしようかな……。

『何やってるの?』

 少し横にずれて、エルの腕を引く。

「エル」

 エルが、私の方を見る。

「リリー」

 良かった。キスはされなかった。

「夕飯の時間だよ」

「ん。わかった」

 エルが、本に目を落とす。

 だめだ。

 もう一度、腕を引く。

「明日も、ここに居よう?」

「なんで?」

「え?あの……。もう少し、アリシアと話したいし」

 それに、図書室を片付けないと。

「五日の船に乗るって言っただろ?出国手続きもあるし、明日の夜までに港に戻る」

 それまでに、全部、片付くかな。

 また、エルが本の世界に戻ってしまった。

 エルの目の前に来たアリシアが、エルが持っている本を取り上げる。

「エルロック。食事の時間だ。客人といえども、時間は守ってもらうぞ」

 エルがアリシアを見上げる。

「十冊ぐらい欲しい本があるんだけど」

「好きなだけ持っていけ」

 十冊で済むのかな。

「あの、私もこれ、借りて良い?」

「もちろん。良いよ」

「ありがとう」

 エルは、別の本を開いてる。

「エル。お腹すいちゃうよ。夕飯食べよう?」

「……ん」

 ようやく動いてくれた。

 

 ※

 

 夕飯を食べた後は、お風呂に入る。

 広いお風呂は気持ち良い。

『ご機嫌だね』

「うん。イリスは、平気なの?」

『窓が開いてるからね』

 イリスは窓辺に居る。

 エルは夕食後、真っ直ぐ、図書室に行ったみたいだ。

「これって、どれぐらい置いたら良いのかな」

 今は、アリシアが髪のケアにってくれたトリートメントを付けている。アリシアが錬金術で作ったものらしい。髪を洗った後、のんびりお風呂に使ってから流すと良いって言われたけど、どれぐらい待てば良いのかな。

『適当で良いんじゃない?』

 良いのかな……。

 気持ち良いけど。

 お風呂に使われている入浴剤も、美肌効果のあるものらしい。

 他にも、色んな美容品を勧められた。

 流石、アリシアだよね。

 普段から、こういうことにも気を使ってるなんて。

 

 のんびりお風呂に浸かってから出ると、メイドさんたちに囲まれた。

「えっと……」

「アリシア様から、お世話を仰せつかっております」

「お世話?」

「長旅でお疲れでしょう。リラックスできるハーブティーを御用意致しました」

 良い香り。

「こちらで、髪のケアを致しますね」

「お薦めの化粧水がございます」

「どれも、アリシア様が作られた美容品です。気になるものはございますか?」

「えっと……」

 どうしよう?

『まぁ……。のんびりしたら?ボクは、エルの所に行ってるよ』

「えっ?」

 嘘。

 置いて行かないで。

「どうぞ、お座りください」

 ゆったりとした椅子に案内されて、座る。

 あ。テーブルに、トリオット物語の三巻が置いてある。

「これ、借りても良いですか?」

「どうぞ。今、お読みになって頂いても構いませんよ」

「ありがとうございます」

 やった。

 ようやく読める。

 

 


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