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039 白い世界

『リリー』

 うん……?

『リリー、起きて下さい』

「エイダ……?」

 もう、朝?

 まだちょっと眠たい。

 体を起こしたけど、エルはまだ寝てるみたいだ。

『エルは起こさなくて良いですよ』

「どうして?」

『メラニーからの伝言です。ポリシアが部屋を出たそうです』

「え?」

『まだ下に居る』

「わかった」

 着替えなきゃ。

 カーテン越しでも外が明るいのがわかる。きっと、朝一で船が出てしまう。

『行くのー?』

「うん。しばらく会えないだろうから」

『また、一緒に来いって言われるかもよ?』

「言われないよ亅

『そうかしらぁ?』

『大丈夫?私も付いて行く?』

「大丈夫だよ。鍵、閉めておいてね。いってきます」

 

 早い時間だと思ったけど、レストランには思ったより人がいる。皆、朝一の船に乗るのかな?

 食事中のポリーのところへ。

「おはよう、ポリー」

「おはよう、リリー。早いのね」

「うん。エルの精霊が……」

『こら』

「あんまり、そういうことは言わない方が良いわよ」

『そうだよ』

「ごめん」

 魔法使いは、魔法使いであることを隠しておくんだっけ。

 ポリーの前に座ると、ポリーが身を乗り出してきた。

「わかってると思うけど。自分の素性は喋っちゃダメよ。見えるってことも」

 エルと同じこと言ってる。

「それって、教育係から教わるの?」

「そうよ。最初は外の常識を叩き込まれるわ。宿の使い方とか」

 ポリーがレストランのカウンターを見る。

「朝ごはんは、あそこで貰うのよ。ここでは、好きな卵料理を選べるわ」

「朝食は、エルが来てからにするよ」

「すぐ来るの?」

「まだ来ないと思う」

『来ないと思うよ。リリーがポリーと会えるように気を使ってくれたんだ』

「ふぅん。……でも、ちょっと意外よね」

 意外?

「エルは優しいんだよ」

「そうじゃなくって。リリーは、もっと強い……、戦士っていうの?騎士とか傭兵みたいな感じが好みだと思ってたわ」

「えっ?」

「だって、騎士物語とか好きだったじゃない。まさか、魔法使いを好きになるとはね」

「エルは、エルだよ」

 魔法使いだからとか、そういう理由で好きになったんじゃない。

「あー、でも、物語の王子様っぽい雰囲気はあるのかしらね」

「それは……」

 そうかも。王子様のイメージはものすごくある。仕草が丁寧で優雅だよね。私をお姫様って呼んでエスコートしてくれたのだって……。

―お姫様。お手をどうぞ。

 あんなの、反則だよ。

 ポリーが私の頬をつつく。

「夢を叶えたのね」

「叶えた、のかなぁ……」

 今は、好きな人と一緒に居ることができている。

「応援するわ」

「応援してくれるの?」

「だって、好きなんでしょ?」

 好き。大好き。

 それは間違いないの。

「ありがとう、ポリー」

 ポリーが私の頭を撫でる。

『どういう心境の変化?』

『いつものことだろ。さんざん暴れ回っても次の日にはケロッとしてんだよ』

「次の日には持ち越さない、だっけ」

『あー。そうだったね』

 ポリーらしい。

「とにかく。外では何があるかわからないわ。困ったらいつでも頼って頂戴。手紙でも良いわ。トリウィアの冒険者ギルドに送れば届くから」

「ギルドに送って届くの?」

「えぇ。私が拠点にしてるギルドだから。郵便屋に頼んでも良いし、冒険者ギルドに頼んでも届くわ。やり方は、あいつが知ってるでしょ」

「わかった。落ち着いたら手紙を書くね」

「待ってるわ。……ごちそうさま。そろそろ行くわね」

「頑張ってね。ポリー」

「リリーもね」

『元気でやれよ』

「うん」

『そっちもね』

 

 ポリーを見送って、部屋に戻ろうと階段を上がっていたところで、エルが下りてきた。

「おはよう。リリー」

「おはよう、エル。ポリーと会えるようにしてくれて、ありがとう」

「……ん」

 イリスが言った通り。私がポリーに会えるように、エルがメラニーとエイダに頼んでくれたんだよね。

「朝ごはん、一緒に食べよう?」

「まだ食べてなかったのか?」

「うん。エルと食べたかったの」

 一緒に旅をしてる人だから。

 

 レストランに戻って、朝食の卵料理を選ぶ。今日は、オムレツにした。パンとか、ほかのものはおかわりしても良いらしい。エルはコーヒー、私は紅茶をもらって席につくと、エルがテーブルに地図を広げた。

「今、居る港町がここで、古城があるのはここだ」

 今日、これから行く場所。

 地図の下の方にある印が、お城のある場所らしい。

「古いお城って、あちこちにあるんだね」

「使われなくなった防衛拠点の跡地だからな」

 防衛拠点。戦争の名残ってこと?

「キルナ村の近くにあったのも?」

「あそこは……。たぶん、山道の管理をしてた場所だ」

 元々、鉄鉱山だったっけ。危ない場所がたくさんあるから管理が必要だったのかな。平原には廃墟になった村もあったし、オクソル村もキルナ村も、昔はたくさんの人が行き来していたのかもしれない。

「これから行くところは?」

「この地図からじゃなんとも言えないな」

 エルが地図に目を落とす。お城の周辺には何もなさそうだ。でも、港から続く道沿いにあるよね。本当に使われてない場所なのかな。

「周辺の監視や有事の際の駐屯地。あるいは、この辺の景観を好んだ貴族の居城跡か……」

 だったら、もう少し海の近くの方が良い景色なんじゃないかな。それとも、遠くからでも海が見えるぐらい高くて大きいとか?

 お城に居るのは、お姫様と吸血鬼、どっちだろう。あ、お姫様の吸血鬼かもしれない?

 前に、そんなお話を読んだことがある。ちょっとしたミステリーで、実は美しい娘が吸血鬼だったって。タイトルは……。確か、吸血鬼伝説だ。

「門を開けてもらえなかったら、そのまま帰ろう」

「えっ?吸血鬼退治に行くんじゃないの?」

「違う」

 あれ?違うの?

「吸血鬼なんて居ないって言ってなかったか?」

「居ないけど、また偽物が出てるのかなって。昨日の人たちは、お姫様って言ってたし」

「一緒にレストランに居た奴らか」

「うん」

「なんで、一緒に飲んでたんだ?」

「お酒なんて飲んでないよ?」

 お酒を飲んでたのは、あの人たちだけ。

『混んでて席が空いてなかったんだよ』

 私とポリーが飲んでたのは紅茶だ。

「あ。アップルパイを買ってくれたよ」

「は?」

『ポリーが、たかってたんだよ』

「丁度、焼き立てをメイドさんが配ってたの」

 あれ、美味しかったな。焼き立てだから、あつあつサクサクで、中の林檎もジューシーで。

「何もされなかったか?」

「大丈夫。短剣は持ち歩いてるから」

 リュヌリアンは部屋に置いてるけど、短剣は今も持ち歩いてる。だから、ちょっとしたいざこざなら対処できる。

『ふふふ。ちゃあんと一緒に留守番してたから大丈夫よぉ』

 そうだ。私の我儘のせいで迷惑をかけちゃったんだ。

「あのね。ユールとエイダは見られてないと思うんだけど、ナターシャは、ポリーに見られちゃったみたい」

『突然来たんだもの。避けようがないわ』

「見える人間なんて、そうそう居ないんだから、気にしなくて良い」

 見えるのって、本当に女王の娘だけなのかな。ポリーに聞いておくんだった。

 ポリーが行ったのは……。地図を見る。

「こっちに行けば、ティルフィグンなんだよね?」

「そうだよ。行きたいのか?」

「ポリーが、ティルフィグンにあるトリウィアの冒険者ギルドを拠点にしてるって言ってたから」

「トリウィアか」

 知ってそうだ。

「どんなところなの?」

「北はジャヌス港、東はアスカロン湾、南はティルフィグンの王都に繋がる大きな都市だよ」

 アスカロン湾って、ラングリオンとティルフィグンの国境だよね。

 北が港で、東がラングリオンに近くて、南が王都。

「西は?」

「ディラッシュ王国との国境まで続く街道がある」

「そっか」

 色んな所に行きやすい場所らしい。いつか、行けるかな。

 

 ※

 

 良い天気。

 昨日は、あんなに雨が降ってたのに、空には雲もほとんどない。天気って、不思議。こんなに変わるものなんだ。

 エルと一緒に道に沿って進んだだけで、迷うことなくお城に到着した。

 お昼ぐらいに着くって聞いてたけど、ずっと早い時間だ。

「大きな門だね」

 キルナ村の古城とは全然違う。私が物語で思い描くような、王様とかが住んでそうな大きなお城だ。

 もちろん、グラシアルのプレザーブ城よりは小さいけど。頑丈そうな城壁に囲われた建物は、いかにもお城って感じの風格がある。それこそ、眠り姫が囚われているって言われてもおかしくないぐらい。

 吸血鬼……?は、居るのかな。盗賊とか、悪魔とか、怖いものが居る建物には見えない。

 城門は開いてる。

「行かないの?」

 エルが見上げてる城門の上には風の精霊が居る。光の精霊も飛んでるよね。

 ここって、精霊がたくさん居る場所なんだ。

「メラニー。この城には、どれぐらいの人間が居るんだ?」

『読み取れないな』

「え?」

「闇の魔法がかかってるのか?」

『闇の魔法に限らず、複数の魔法の気配があるようだ。人の気配もあるが、亜精霊の気配も感じる』

「亜精霊か」

 こんなに綺麗なお城なのに、亜精霊が居るの?

「リリー。様子を見てくるから……」

「だめ。絶対に付いて行く」

 私も戦う。

「俺から離れるなよ」

「はい」

 エルの後ろから付いて行く。

 精霊が居て、亜精霊が居て、人も居るかもしれない。……どうやって共存してるのかな?

『エル。風の魔法だよー』

「風?」

『緩い風が、門からこっちに向かって吹いてるねー』

『エル、気を付けろ』

 風?なんだか甘い香りがする?

 エルが私の前でマントを広げた。

『変な薬を撒いてるみたいねぇ。リリーも吸っちゃ駄目よぉ?』

 マントで私を守ってくれてるんだ。

 ……また、守られてる。それに、状況が見えない。

『こっちから押し戻したらー?』

『それが良い』

 風向きが変わった。エルが風の魔法を使ってる。

『あれ?』

「門が閉まってる……?」

 エルの影から出てお城を見ると、大きな門が閉じていた。いつの間に?閉じた音なんて聞こえなかったよね?

『かなり複雑な魔法だな。幻影に誘惑、それに眠りの魔法もかけていたようだ』

「誘惑?」

『人間の男だけが引っかかるっていう魔法ねぇ』

 だったら、私には効かなかった。ここは私が盾になるべき場面だったんだ。

 もっと、前に出なくちゃ。

『でもさー。風の魔法は、メラニーみたいにかけっぱなしにできない魔法だよー?』

 闇の魔法はトラップの設置ができるけど、他の魔法だと難しいんだっけ?

「リリー。見える範囲に魔法使いは居るか?」

 辺りには魔法使いの光どころか人影すら見えない。気になるのはあの精霊ぐらい?

「近くに風の精霊は居るか?」

「門の上」

「出て来い!」

 エルが門の上に向かって炎の矢を放つ。風の精霊は、そのまま城の中へ消えていってしまった。

「いなくなっちゃった」

 顕現していない精霊が傷つくことはない。だから、エルは近くにいるはずの魔法使いを探してるんだろうけど……。どこにも誰もいない。

『エル、何か来る』

『白狼だ』

 亜精霊。エルを守らなきゃ。

 リュヌリアンを抜いて亜精霊に向かって走ると、後ろからまっすぐ飛んだ炎の矢が……。かわされた?

 なんて素早い動き。軽い攻撃は簡単にかわされそうだ。工夫しよう。

 リュヌリアンを振ると、白狼が飛び上がって私の攻撃を避けた。知ってる。大剣を振った勢いのまま回転して、白狼に向かってリュヌリアンで攻撃する。空中なら、これ以上の回避行動はとれないはずだ。

『わぉ』

 思った通り。攻撃が綺麗に入った。

 斬っても斬れないのはわかってるけど、確かな手ごたえを感じる。

 白狼は、リュヌリアンの攻撃が届かない場所に着地すると、城の中に入って行った。

 追いかけなきゃ。

「待て!」

 白狼を追って、勝手口から城の中へ。

 あれ?こんな入口、あったっけ……?

 視界が真っ白になる。

『リリー。危ないわ』

「エイダ」

 声のする方を振り返っても、何も見えない。今、入ってきたばかりの入口すら。

 辺り一帯、白い靄がかかっている。

『幻術ね』

「幻術?」

『幻を見せる光の魔法だよ』

『早く切り抜けた方が良いわ』

「わかった」

 リュヌリアンを鞘に納めて、真っ直ぐ走る。

『待ってよ、リリー』

『無暗に走るのは危険ですよ』

「どうして?」

 この真っ白な世界から早く出れば良いんだよね?

『見えないだけで、あちこちに物はあるんだよ?』

「どういう……、あっ」

 何かにつまずいて転ぶ。

『大丈夫?』

『大丈夫ですか?』

「うん。大丈夫」

 ちょっと痛かったけど、平気。

 手に土が付いている。土なんてないのに。

 もしかして、見えないって、そういうこと?

 目を閉じて床に手をつく。この感触は土だ。近くには花のような植物の感触もある。良い匂い。たぶん、ここはお城の前の庭で、これは花壇。……間違いない。

『幻術が晴れていく……』

 目を開くと、霧が晴れていくのが見えた。

「ここ、どこ?」

『城の中だと思うけど……』

 私から見て左側は、お城の外周の壁。

 右側は建物の壁があって、私が手をついてる場所には花壇がある。

『城の前庭を左手に走り抜けて来たってところでしょうか』

『そうだね。怪我はない?』

「大丈夫」

 触ってしまったお花を整えてから、立ち上がって、土を払う。

「エルは?」

 エイダが振り返る。

 そっちは、まだ白い靄がかかったままだ。

「エルー!」

 大きな声で呼んでみるけど、返事はない。

『とにかく、外に出る方法を考えた方が良さそうですね』

「来た道を戻る?」

『何、馬鹿なこと言ってるんだよ。転んだばっかりだろ』

『そうですよ。幻の中に入るのは危険です。何かにぶつかれば、今度こそ大怪我をしかねません』

『どうする?ここでエルを待つ?』

 何か来る。

 リュヌリアンを抜いて構えると、白い靄から狼が現れた。さっきの白狼とは違う狼だ。

「亜精霊?」

『そうですね』

 飛びかかって来た狼を斬撃で吹き飛ばす。すると、狼が白い靄とは別の方向に逃げて行った。

『また逃げたね』

「追いかける」

『なんで?』

「エルも亜精霊を追いかけてるかもしれないから」

『そうかなぁ……』

 追いかけていくと、狼の亜精霊が城の中に入って行った。

『ここから城の中に入れるようですね』

『注意してよ』

 入口から中を覗く。手前には小さな部屋があって、その奥には長い廊下が続いてる。

 なんだか変?なんでだろう?……あ。

「ここって、どこにも扉が付いてないみたいだよね」

『本当だ』

 どこも扉を外してあるみたいだ。

「誰も住んでないのかな」

『メラニーにも良くわからないみたいだったよね』

『精霊と亜精霊が居るのは確かのようですが……』

「なら、入っても良いかな」

『え?入るの?』

『そうですね。別の出口があるかもしれませんし、入ってみましょう』

『大丈夫なの?』

『エルが屋内に居れば、メラニーがリリーを見つけてくれるはずです』

 なら、入ろう。

 

 


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