034 おかいもの
目が覚める。
いつもの金色の光だ。あったかくて安心する。
静かな寝息が聞こえる。エル、まだ寝てるんだ。珍しい。気付かれないように静かに離れて、起き上がる。
『おはよう。リリー』
「おはよう」
『珍しいね。エルより先に起きるなんて』
「うん」
ベッドから出て、身支度を整える。
『そろそろ、エルも起こしましょうか』
「待って。疲れてるみたいだから、もう少し寝かせてあげて」
用事があるわけじゃないし、無理して起こす必要はないよね。
そうだ。せっかくだから出かけて来よう。
「外、寒いかな」
『え?外に行くの?』
「うん」
朝だし、温かいマントも付けよう。
『出かけるんですか?』
「ちょっと買い物に行ってくる」
『買い物?』
『エルを置いて行っちゃうの?』
「一緒だと、いつも買ってもらってばかりだから。一人で行ってくるよ」
『何を買うのさ』
「朝ご飯になりそうなパン」
『どこのパン屋に行く気?』
「決めてないけど……。この辺って、色んなパン屋さんがあるでしょ?」
『そうだっけ?』
「昨日も良い匂いがたくさんしてたし、近くで探せると思う」
『何、それ……』
『一緒に行きましょうか?』
「大丈夫だよ」
『本当にぃ?』
『私、付いて行く?』
皆、そこまで心配しなくても良いのに。
「大丈夫。すぐに帰って来るから」
『パン屋を探せなかったら早めに帰るよ』
「買い物ぐらい一人で出来るよ。……鍵、持って行くね」
ベッドの上を覗く。
エルは、まだ、ぐっすり眠ってるみたいだ。
「いってきます」
『いってらっしゃい』
『気を付けてねぇ』
『いってきます』
戸締りをしてから、部屋を出る。
※
青い空。
雲一つない天気。
空気も気持ち良い。
『あんまり遠くに行かないようにね』
「わかってるよ」
この辺は宿泊施設が多い通りだ。
もう一本、違う通りに行けば、パン屋さんがあるかな。
『ちょっと、どこに行くつもり?』
脇道に入って別の通りに行く。
良い匂い。
でも、ここはカフェだ。
パンを売ってくれるパン屋さん……。
どこにあるかな。
『あんまり変な道を行かないでよ』
「変な道なんて通ってないよ」
ちゃんとした道だ。
あ。良い匂い。
「パンの匂いだ」
ってことは、近くに……。
『あれじゃない?』
「あった」
パン屋さん。
「いらっしゃいませ」
パン屋さんに入ると、焼き立てのパンを並べていた店員さんがこちらを見た。
ショーケースに並んだパンをお店の人が取ってくれるタイプのお店かな?
『エルの好みなんてわかるの?』
確か、甘いものは苦手だって言ってたよね。
「何かお探しですか?」
「甘くないのを……」
『一般的なパンって、甘い?』
あっ。
「あのっ。私は甘いのが好きなんですけど、甘いのが苦手な人で……」
あぁ。笑われた。
「では、こちらの黒胡椒のパンや、黒茶のパンはいかがでしょう」
黒茶。エルの好きなコーヒーのパンがあるんだ。エルはスパイスにも詳しいから、黒胡椒も好きかもしれない。
「両方お願いします」
「かしこまりました」
「それから、メロンパンと、ナッツと林檎のパンと……」
「はい」
どれぐらい買ったら良いかな。
エルって、全然食べないよね。いつも私より食事の量が少ない。同じだけ動いてるはずなんだけどな。
『後はどうするの?』
「ドライフルーツ入りのパンを。こっちの、スライスしてあるので」
「かしこまりました。以上でよろしいですか?」
「はい」
これぐらいあれば大丈夫だよね。
「合計で千四百ルークになります」
ルーク。
「共通通貨でも良いですか?」
「構いませんよ。お釣りはお出しできませんが、銅貨三枚でいかがでしょう」
「はい」
銅貨を三枚出す。
確か、銅貨一枚は、五百ルークぐらいだ。
「ありがとうございました」
店員さんから、パンを詰めた紙袋を受け取る。
「ありがとうございます」
やった。
一人で買い物が出来た。
お店を出て、通りを歩く。
『リリー、どっちに行くの?』
「え?」
『来た道を戻るなら、逆だからね?』
そうだっけ?
イリスが飛んで行く方に付いて行く。
「帰り道、わかるの?」
『来た道ぐらい覚えてるに決まってるだろ』
本当に?
こんな所、通ったっけ?
『ほら、宿がある通りに戻ったよ』
本当に着いた。
見覚えのある宿泊施設が並んでる。
「イリス、ありがとう」
『普段も、それぐらい感謝して欲しいね』
「どうして拗ねてるの?」
『別に、拗ねてなんかないよ』
「拗ねてるよ」
『最近、リリーが冷たいだけだ』
私が?
「冷たいのはイリスでしょ?」
『なんでだよ』
「すぐエルに付いて行っちゃうんだもん」
あの時だって、一緒に居て欲しかったのに。
『何、拗ねてるんだよ』
「だって……」
『エルは精霊に好かれやすいんだよ』
そんな感じはするけど。精霊と契約するなら当たり前じゃないの?
『エルはボクらを差別しない』
「どういうこと?」
『魔法を使いたいだけの奴らとは違う。人間にとって、精霊とは使役するものなんだ。城の連中と嫌々契約させられた精霊だっているんだよ』
「そんな。契約の強制なんて出来ないはずだよ」
『人間は嘘吐きで簡単に精霊を騙すだろ』
精霊は嘘を吐かない。
そういえば、精霊狩りっていう恐ろしいことが起きた時代もあったんだっけ。
『リリーとボクは生まれた時から一緒だから、こういう関係が当たり前に感じるかもしれないけど。ボクらを心があるものと扱ってくれる人間なんて、そんなに居ないんだよ』
「イリスは私の家族だよ」
精霊と人間の違いなんて関係ない。
『リリー。それ、本気?』
「イリスは違うの?」
『だって、ボクがリリーの姉妹と同じってことでしょ?』
「私の姉妹より付き合いは長いよ」
『そうだけど……。だってさ、ボクは……』
……イリス?
『もう、いいよ。……ほら、戻るよ』
「戻る?」
『話してる間に、宿を通り過ぎちゃったんだよ!』
「え?」
本当だ。
振り返ると、花の咲く宿が後ろにある。
※
エル、起きてるかな。
鍵を出して、扉に差し込む。
あれ?鍵がかかってな……。
「あっ」
急に、鍵ごと扉に引っ張られる。前のめりになって倒れかけたところで抱き留められた。
……エル。
『おかえりなさい』
『おかえり、リリー』
「ただいま……」
びっくりしたぁ。
「おかえり」
『だから、大丈夫って言ったでしょう』
「宿に戻ってるなら、そう言え」
『聞かなかったからな』
『そうですね』
もしかして、私を探す為に出かけようとしてた?
危なかった。もう少し遅かったら、すれ違いになってたかもしれない。
あっ。紙袋が潰れてる!中身は……?
「良かった。潰れてない」
潰れたのは紙袋の上の方だけで、パンはどれも無事だ。良い匂いが漂う。
「コーヒー?」
「うん。焼き立てのパンを買ってきたんだ」
エルに紙袋の中身を見せる。
「他にも、黒胡椒のパンもあるんだよ」
「おぉ」
良かった。喜んでくれてる。
「好きかなって」
「好きだよ」
そんな風に言われると……。
照れちゃう。
「どこにあったんだ?こんな店」
「歩いてたら、良い匂いがして……」
そんなに遠くない所だったよね?
「迷わず帰って来れたのか?」
「えっと……」
『リリーに、それを聞く?』
どうして、そんなこと言うの。
エルが笑ってる。
「せっかくだから、外で食べるか」
「うん。外、すごく良い天気だったよ」
ピクニック日和だ。
※
広いメロウ大河の前には、散歩に丁度良さそうな公園が広がってる。
こんな場所もあるんだ。
夜船に乗ったところも、倉庫があった場所も大河沿いだった。同じ川なのに風景が違う場所がこんなにあるなんて。でも、ここよりずっと先には別の国もあるんだよね。
「美味い」
「うん。美味しい」
二人でベンチに座って、朝ご飯を食べる。エルはコーヒーのパンで、私はメロンパン。今日のメロンパンは、全体的にふかふかしてて美味しい。
それから、レモネード。エルがドリンクワゴンで買ってくれたものだ。
「明日には、ポルトぺスタを出よう」
ポルトペスタも今日で三日目。色んな事があったよね。
グラン・リューにも会えたし、ポリーズにも行けた。楽しいことばかりだった。
ソニア、ちゃんと帰れたかな。
……しっかりしなくちゃ。
「次は、ペルラ港を目指すんだよね」
「あぁ」
グラシアルを出たらソニアも追いかけて来ないはずだ。
そっか。私、これからグラシアルを出るんだ。
「リリー。港は、ここからどの方角にあるかわかるか?」
「え?……北、だよね?」
「正解」
良かった。
合ってた。
「じゃあ、北はどっちだ?」
「えっ?」
北?
えっと……。
ここからじゃオペクァエル山は見えないけど、たぶん、オペクァエル山があるのは……。
「あっち?」
北っぽい方を指さす。
「だいたい合ってるよ」
「良かった……」
これも合ってた。
『エルは甘いな』
「えっ?違うの?」
「心配しなくても、港に辿り着ける方角だ」
大丈夫。間違ってないみたい。
大河を眺めると、渡し船が行き来している。昨日乗ったのよりも大きそう。
「向こう岸に渡る方法って、船しかないの?」
「商船も入ってくる大河だからな。移動方法は、渡し船だけだ」
メロウ大河に橋はないんだ。
「向こう岸もポルトぺスタなの?」
「そうだよ。今居るのは、ポルトぺスタ西。向こうは、ポルトぺスタ東だ」
街は大河で東西に分かれているらしい。
遠くから大きな船がやって来るのが見える。
「あんなに大きなものが水に浮かんでるなんて、不思議」
商船なのかな。荷物もたくさん載りそうだ。
「ラングリオンに行く時は、もっと大きな船に乗る」
「えっ?」
「乗れそうか?」
もしかして、心配されてる?
「大丈夫。船に乗って、海を見てみたい」
「ん。なら、予定通り港を目指そう」
大海原を旅する物語だって、いくつも読んだことがある。宝の地図を持って財宝探しの冒険に出たり、巨大な海の怪物と戦ったり。あの舞台に行けるんだ。
「リリーは、女王にならなかったら何をしたい?」
次の女王を選ぶのは今の女王で、私に選択権はない。ただ、どうなるかは聞いてる。
「女王に選ばれなかったら、龍氷の魔女部隊に配属されるんだ」
前の代の女王の娘。彼女たちは皆、外に出て、修行を終えて帰って来て、皆を守る役目についている。
「そうじゃない。修行も試練も放棄して、城に帰らない場合の話をしてるんだよ」
「それは……。もう、決まってることだから」
城に帰っても帰らなくても。選んだ先に待っているものは、もう決まっている。
「夢や希望を持つことまで禁止されてるわけじゃないだろ」
夢……。
私の夢。
「もし、この呪いが解けるなら……」
その先があるなら。
「幸せな家庭を築きたい」
好きな人と結ばれて、好きな人と、ずっと一緒に暮らしたい。
物語の果てに幸せを得たお姫様たちの、その後のように、ずっと。
末永く幸せに暮らしましたって。
そうなりたい。
「リリー」
「?」
「ラングリオンに行ったら、一緒に暮らそう」
「え?」
今、なんて?
暮らすって……。
私が?エルと?
好きな人と一緒に?
待って。それって、もしかして……。
「エル、私……」
どうしよう。
好きな人からそんなこと言われるなんて。
本当に?
夢みたいなことばかりが続いてる。
嬉しい。
もし、エルが本当にそう思ってくれるなら……。
「リリー」
「はい」
「今日は、何をしたい?」
「……え?」
今日……?
え?
まさか、今の話って、もうおしまい?
一緒に暮らそうなんて、どう考えてもプロポーズだよね?
もしかして、こういうのもエルにとって日常茶飯事なの?
指輪を渡すことも、プレゼントを贈ることも、一緒に居てくれるのも、抱きしめるのも手を繋ぐのもぜんぶ全部ぜーんぶ。
エルにとっては、特別でも何でもないことなんだ。
「エルって、すごく変」
「なんで」
「何考えてるか全然わからない」
これまでに、一体、どれだけの人を勘違いさせ続けて来たんだろう。
「会ってまだ数日しか経ってないのに、わかるわけないだろ」
「そんな相手と一緒に暮らそうって言うなんて」
「一緒に居たいって思えたら、一緒に暮らすことは可能だ」
「そうやって、どれだけの人と一緒に暮らしてるの?」
エルが眉をひそめて、ため息を吐く。
「保護者は居たよ」
「保護者?」
「後見人のこと。養成所に入ってたことは話しただろ?留学生には、ラングリオンで俺の面倒を見る後見人が必要なんだ」
エルの身元を保証する人。
「じゃあ、王都では、その人と暮らしてるの?」
エルが首を振る。
「今は、居ない」
「居ない?」
どういう意味?
なんだか……。エルの様子が変。
「今は、店を任せてる家族が居る」
「店?」
「俺は、王都で薬屋をやってるんだ」
薬屋?
そういえば、エルはすごい薬を作れる錬金術師だっけ。
待って。話を整理しきれない。
「えっと……。エルは、砂漠の出身で。ラングリオンに来て、王立魔術師養成所を卒業して、ラングリオンの市民権を得て……。王都で、薬屋さんをやって……?冒険者もしてる?」
これが、私が聞いたエルの経歴だよね?
「一応、王都の魔法部隊にも所属してる」
「魔法部隊?」
「兵役なんだよ。養成所の卒業生は、研究所に所属することになってるんだ。でも、違う進路を選んだ場合は、学費の返納か兵役が課せられる」
「えっ?兵役って、義務だよね?国を離れていいの?」
グラシアルって、ラングリオンから結構、遠いはずだよね?
「出動要請がなければ大丈夫だろ」
エルの周りで、メラニーとユール、バニラが肩をすくめてる。
大丈夫じゃないんだ。
でも、エルらしいかも。
「エルは自由だね」
「リリーもだろ?」
今は、城の中じゃないから。
「うん。そうかも」
好きなことをできる。
「食べ終わったら出かけるぞ。行きたいところを決めなかったら、俺が選んだところに行くからな」
「どこに行くの?」
エルが行きたいところで……。
「次は、何色のドレスにする?」
「え?」
ドレス?
ドレスって。
「だめ、絶対にだめ」
「イヤリングを探しに行っても良いな」
「もう。どうして、そういうことばっかり言うの?」
エルが楽しそうに笑ってる。
……エルの馬鹿。
「買い物の前に、冒険者ギルドに寄ろう」
「うん。わかった」
笑ってくれて良かった。
さっきのあの顔……。何だったんだろう。保護者と何かあった?
※
「リリー。足元だ」
急に、足元が揺れる。
……この真下に居るの?
振動が近づいてきたところで、高く跳びながら後方に引く。すると、私が居た場所から巨大なワームが飛び出した。
『わぉ』
『大きい』
飛び出したワームに向かって、リュヌリアンを大きく振って攻撃する。
斬ったのに、斬れない。亜精霊との戦いって難しい。
エルが、風のロープでワームを縛る。大きい。全長は、二階建ての宿ぐらいあるんじゃないのかな。
攻撃を続けていると、ワームがもう一度地面に頭を向けて土のしぶきを上げる。また潜るつもり?
「逃がすかよ」
ワームの周囲に真っ黒い影が浮かび上がる。
『リリー、踏まないようにね』
相手を動けなくする魔法だ。
でも、最初に見たのとは違う。今度のは、真っ黒い影から這い出たうねうねとした縄のようなものが、次々とワームに絡みついていく。
ちょっと苦手な見た目だ。
でも、戦いの間は集中しなきゃ。動きを封じられたワームに向かって、さっきと同じようにリュヌリアンで攻撃を加える。エルも炎の刃で加勢してくれてた。
一気に方を付ける。リュヌリアンで大きく斬りつけると、ワームが消えた。
倒した?
「これで終わり?」
「あぁ」
亜精霊は、本当に跡形もなく消えてしまう。リュヌリアンを鞘に納めて、エルと合流する。
「お疲れ様、リリー」
「うん。エルも、お疲れ様」
エルと一緒に、ワームとの戦闘を眺めていた人の方へ行く。冒険者ギルドにワーム退治を依頼した人だ。
「いやぁ。助かったよ。畑に現れた時はどうしようかと思ったが。冒険者ギルドに相談して良かった」
エルが依頼書にサインを貰った。これで、依頼達成。
私、ちゃんと冒険者ギルドの依頼を手伝えたんだ。
「こんなの、騎士団に頼めばタダで退治してくれるんじゃないのか?」
これって、騎士団の仕事だったの?
「ポルトぺスタの騎士団に言っても対応が遅いんだよ」
「遅い?」
「頼んでもすぐに来てくれないのか?」
「本部からは、なかなかな……。巡回中の騎士団なら、呼べばすぐに退治してくれるんだが。最近は、大きな商談があるとかで、巡回が減っていてな」
確か、キルナ村の人たちも騎士団が来てくれなくて困ってたよね。そんなに人手不足だったのかな。
広い農園で耳をすませると、金属音が聞こえてきた。
「あ。あれって、騎士団?」
お揃いの装備を付けて、立派な旗を掲げた集団。
「あぁ、いつもの兄ちゃんたちだ。おーい」
呼びかけに気付いた一人が、こっちに走って来た。
「こんにちは。何かありましたか?……あっ。この穴、またワームですか?」
「あぁ。今回は冒険者に退治してもらったんだ」
「そうでしたか。ご報告、感謝します」
良かった。巡回が復活したのかもしれない。これで、キルナ村の人たちも安心できるよね。
「冒険者の皆様。グラシアルの平和への貢献、並びに市民をお守りいただき、ありがとうございます。皆様に、女王陛下と精霊の御加護がありますように」
「ん」
「はい」
「では。また何かあったら言ってくださいね。失礼いたします」
騎士が走って戻って行く。
「良い騎士だな」
「あぁ。亜精霊が出るのも、女王陛下の魔力が行き届いてる証拠だからな。騎士団が退治さえしてくれれば、良い土地なんだ」
そう。
女王の魔力は、グラシアル全土を覆っている。
※
冒険者ギルドで依頼達成の報告をして、エルと一緒に広場へ行く。
私はチュロスを、エルはレモネードを買ってベンチに座る。
もう、夕方だ。
茜色の広場には、歌を歌っている人や演奏している人、パントマイムをしてる人が居て、とても賑やかだ。
シナモンの香るチュロスの最後の一口を口の中に入れると、急に、耳に触れられた。
ちょっと、くすぐったい。
「イヤリングを探す暇がなかった」
また、そんなこと言ってる。
「エルって、人にプレゼントをするのがそんなに好きなの?」
「なんで?」
「え?」
もしかして、自分でもわかってないのかな。
「だって、カチューシャも貰ったし、ドレスだって、眼鏡だって……」
「どれも似合ってる」
いつも、そう言うんだから。
私、どれだけのものをプレゼントされてるんだろう。それだけじゃない。旅の準備で揃えたものも宿も食事も全部……。
返せるかな。
「また、宝石店に行くか」
「だめだよ。これ以上、何か買ってもらうなんて」
「ギルドの仕事を手伝ってもらっただろ」
「だって、あれは私が頼んだようなものだから」
亜精霊退治の依頼を引き受けられるのは正式な冒険者だけ。
ワームが出て困ってる人が居て。私が助けたいって言ってしまったから、キルナ村の時みたいにエルが渋々、依頼を引き受けることになってしまったのだ。
「そんなに優し過ぎると損をする」
エルが放り投げたレモネードの空き瓶が、綺麗にゴミ箱に入る。
「もう少し、自分の利益になるような行動をしたらどうだ」
利益になる行動?
「それは、エルの方だよね?」
「俺?」
「私なんかの為に、こんなにしてくれるから」
ずっと、助けてくれる。
ずっと、一緒に居てくれる。
「こんなに危ないことがたくさん起きてるのに、一緒に居てくれるから」
私の望みを叶えてくれてる。
「リリーの為なんかじゃない」
「え?」
私に近づいた紅の瞳が射抜くように私を見つめる。
目を離せない。
「俺が、リリーと一緒に居たいんだ。だから、望んでリリーと一緒に居るんだ」
「エル……?」
望んで……?
本当に、望んで一緒に居てくれるの?
夕日が茜色で良かった。こんなに顔を近づけていたら、火照った顔を隠せなかったから。
エル。これは、誰にでも言うことじゃないんだよね?信じて良いんだよね?
隣で、エルが立ち上がる。
「ほら。どこに行きたい?」
振り返ったエルが、いつものように私を見る。
……まだ、気持ちが落ち着かない。
「あのね……」
「ん?」
「一緒に散歩するだけじゃ、だめ?」
目的なんてなくて良い。
「良いよ。行こう」
「うん」
エルが差し伸べた手を取る。
きっと、一緒にいれば何でも楽しいから。




