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033 幕引き

 ようやく炎が消えた。

 吹雪も止む。

「リリー?」

 良かった。エルは無事だ。すぐ傍にエイダも居る。

「ごめんなさい」

 エルに手紙を出したのが、ソニアだったなんて。

 ソニアとエルが戦うなんて。

 全部、私のせいだ。

「リリーシア様」

 振り返って、ひれ伏したソニアを見下ろす。

「誰の命令だ」

 ソニアがこんなことするはず……。

「独断でございます」

 嘘。

 嘘だよね?

「リリーシア様。どうか、お許しください」

 どうして……?

 信じられない。

 信じたくない。

「城に帰れ」

「リリーシア様」

「命令だ。私の前から去れ」

「リリーシア様、どうかお許しを……」

 戦わないで。

 これ以上、命令させないで。

「聞こえなかったか」

「……仰せのままに」

 ソニアが走って行く。

 ごめんなさい。ソニア。

「撤収せよ!」

『リリー。良かったの?』

 私に出来ることは、これしかない。

 他の場所から出てきたもう一人と一緒に、ソニアが倒れてる二人を抱えて去る。四人。エル一人で四人の魔法使いと戦ってたんだ。

 ……ソニア。どうして。

 リュヌリアンを鞘に戻すと、エルが私の傍に来た。

「ごめんなさい」

「帰るぞ」

 エルが私の腕を引っ張る。

「あの……」

「なんで来たんだ」

「エルが戦ってるって聞いて……」

「なんでわかったんだ」

『私が教えたんですよ。エルが魔法を使っていると』

「だから、きっと、私のせいだと思って」

「なんで」

「だって……。いつも、私のせいで戦ってるから」

「リリーのせいなんかじゃない」

 どうして、そんなことが言えるの?

 私がエルと一緒に居なければ、エルは城の人間に関わることも、戦う必要もないのに。

 私のせいだ。

 私のせいで……。

「あいつらって、また襲ってくるのか?」

「ごめんなさい」

 わからない。

 頭が上手く働かない。

「襲っ……るなら来……構わない。その……好都合だ」

 なんだか変。エルの声が遠い。

 襲ってくることが、好都合?

「好都合って、どういう……」

「そのま……意味……」

「だって、私のせいで、エルは……、あぶない、めに、あっ……、て……」

「リリー?」

 上手く歩けない……。

 ぐらぐらする。

 もう、だめ。

「リ……?」

 

 ※

 

 ここ、どこ?

 背の高い壁。

 背の高い草。

 どこにも行けない。

 帰れない。

 戻れない。

 帰りたい。

 帰りたい……。

「リリーシア様!」

「ソニア?」

 どこ?

 声が遠い。

『探してくる』

「待って、イリス」

 行かないで。

 一人にしないで。

「リリーシア様!どちらですか!」

 さっきより声が近い。

「ソニアー!」

 どこ。

 どっちに居るの?

『リリー。見つけたよ、あっちだ』

「待って、イリス」

 置いていかないで。

 そんなに早く走れない。

「リリーシア様!」

 見つけた!

「ソニア!」

 走って、走って、ソニアに抱き着く。

「良かった。こちらにいらっしゃったんですね」

 泣き出した私の頭をソニアが撫でる。

「ごめんなさい」

 怖かった。

 もう帰れないかと思った。

「御無事で良かった」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 あぁ、良かった。

 これで帰れる。

 ソニアが優しく私の涙を拭う。

「今日は、どんな精霊と追いかけっこしていたんですか?」

 いつもの優しい微笑み。

「あのね……。綺麗な雪の精霊が居たの」

「まぁ。では、お部屋に戻るまでの間に聞かせて頂いてもよろしいですか?」

「うん」

『もう。ソニアはリリーに甘過ぎるよ』

 いつも傍に居てくれた。

 いつも迎えに来てくれた。

 いつも優しかった。

 ……ソニア。

 

 ※

 

 温かい力を感じる。

 ふわふわして心地好くて……。

「ん……」

 目を開くと、ぼんやりとした光景が映る。金色の光だ。

「エル……?」

「リリー」

『リリー』

「イリス……」

 ここは……?

「ありがとう、バニラ」

『ありがとう』

『毎回、助けるとは限らない』

 バニラ?

「私……?」

 そっか。さっきのは夢だ。小さい頃に城の中で迷子になった時の夢。

 えっと……。何があったんだっけ。

 そう。戦ってたんだ。エルとソニアが。

 私が命令してソニアが帰って、それから、エルと帰ろうとしたら、急に目の前がぐらぐらして……。気を失った?

 道端で?

 体を起こして、周りを見る。

「ここは……?」

「宿だよ」

 宿。ポルトペスタの宿だ。

『エルが運んでくれて、バニラがリリーを目覚めさせてくれたんだよ』

「そうだったんだ……。ありがとう。エル、バニラ」

『こうなったのは、エルの責任だからな』

 バニラが大地の癒しの魔法を使ってくれたんだよね。

「ごめん、リリー。痛みはないか?」

「平気だよ。バニラのおかげ」

 すごく体が楽になってる。魔法ってすごい。

 ……あれ?魔法?

「私、魔法が効くようになったの?」

「違う。精霊の魔法は人間が使う魔法なんかより遥かに格上なんだ。通常の魔法とは別物だ」

 女王の娘でも、精霊の魔法は効くの?

「でも、エルの魔法だって……」

「あの魔法も同じ理屈だ。強過ぎる魔法は、リリーにも効くんだよ」

「そうなの?」

『そうだよ』

「え?どうして、イリスがそんなこと知ってるの?」

『リリーには、ほとんどの魔法は効かないよ。でも、普通、あんな魔法に突っ込んでくような馬鹿なんて居ないだろ!』

「イリス?」

 なんで、そんなに怒ってるの?

『女王の娘の特徴は、リリーだって知ってるだろ』

「え?」

 だって、魔法は効かないと思ってたから。

「一つ、魔法への耐性がとても高い。……これは、魔力がないからだ」

「魔力がないことと、魔法に対する耐性が強いことって、同じことなの?」

「そうだよ」

『そうだよ。リリーだって習っただろ』

「そうだっけ?」

「魔法っていうのは、相手の魔力に働きかけるんだ。魔法で感じる痛みは、自分が持つ魔力から感じる痛み。自然現象とは違うはずの炎の魔法を熱いと感じるのも、氷の魔法を冷たいと感じるのも、自分の魔力が魔法の痛みを感じるからだ」

 そういえば、身を焼かれるような感覚を味わったのに火傷もしてないし服も燃えてない。あれは、私が自分の魔力で体感した痛みだったんだ。

「亜精霊に魔法が効果的なのも、あいつらが魔力で生きる生き物だからだ。……逆に、魔力が少ない奴は、魔法への耐性が高い。魔力がほとんど無いなら尚更、魔法なんて、ほぼ効かないだろうな」

 それが、私?

 知らなかった。私は魔法が効かないわけじゃなかったんだ。

 でも……。

「どうして、あんなこと言ったの?」

「あんなこと?」

「襲ってきた方が好都合だなんて」

 そんな危ないこと。

「女王の娘の情報が知りたかったからだ」

「え?」

 私の情報?

「女王の娘の特徴。二つ目は、魔力が目に見える。……これは、魔力そのものでもある精霊の姿が見えることを含む。そして、リリーは、精霊と契約中の魔法使いの中に、色の付いた光が見えている。ただし、この色に関しては、もう少し考察が必要だ」

 色って、他の皆も同じ色に見えてるのかな。どうして、エルだけこんなに特別なのかわからない。

「三つ目は、子供が……」

「どうして、そんなに私のことを知りたいの?」

「リリーは城に帰りたくないんだろ?」

 帰りたくない。

 でも……。

「リリーが帰らずに済む方法を調べる」

「そんなの、無理だよ」

「女王に逆らえないから?」

 誓約してしまったから。帰らないなんて許されない。

「三年以内に必ず答えを見つける」

 答え?どういうこと?

 まさか。

「だめ……。だめだよ。エルには関係ない」

「関係ない。俺が、女王に逆らう方法を知りたいだけだ」

「え?」

『本気?』

「本気だよ。だから、あいつらから情報を引き出そうと思って戦ってたのに」

 その為に、ソニアたちと戦ってたの?

 信じられない。

「だめだよ。エルは、わかってない」

「何を?」

 女王に逆らうなんて……。

「それに、私、エルに言ってないことが、たくさん……」

「言わなくて良い」

「でも……。私……」

 何も話してない。

 知られたくない。

 話せば、ばれてしまうから。

 私がどれだけ危険な人間か。

 なのに……。

 なのに、どうして、私が帰らずに済む方法を探すなんて……。

「私……。魔法を……。魔法を使えるようにならなくちゃいけないの」

 言わなくちゃ。

 もう、これ以上、危ないことをして欲しくない。

 だから、言わなくちゃ。

「私……。試練の扉を壊さなきゃいけないの」

「試練の扉?」

「イリスの魔法で、壊すの。それが、私が城に帰る方法。だから、帰還するには……。それしかない。だから、私……。私は……」

「もう、良い」

 エルが私を抱きしめる。

 言わなくちゃいけないのに……。

「ごめんなさい……」

「もう、何も言わなくて良い」

 私は呪われてる。

 呪いの力でエルから魔力を奪った。

 私はエルに酷いことをしてる。

 言わなくちゃいけないのに……。

 言えなくて、ごめんなさい。

 お願い。自分の命を危険にさらすようなことなんてしないで。

 女王には逆らえない。


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