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030 眼鏡越し

 あったかい……。

 すごく安心する。

「ん……」

 朝……?

 起きないと。

 体を起こして顔を上げると、先に起きていたエルと目が合った。

「おはよう。エル」

「おはよう、リリー」

 今日も良い日になりそう。

 エルの手元に紙の束がある。

「それは?」

「騎士団への報告書。朝食を食べたら、さっさと騎士団の用事を済ませて買い物に行こう」

「うん」

 

 ※

 

 宿の朝ごはんを食べて、身支度を済ませてから外に出る。

 良い天気だ。

 朝から賑わう通りを抜けると、騎士団の宿舎があった。

「エルロック様ですね。昨夜は、賊の討伐にご協力いただき、ありがとうございました。こちらへどうぞ」

 名乗ってないのにわかるなんて。

 エル、騎士団の宿舎にも来たことがあるのかな。それとも……?

「急いでるんだ。簡単な報告はここにまとめた」

「お預かりいたします。あの、」

「用があるなら、宿に連絡してくれ」

「報奨金も用意しております」

「要らない」

 手を引かれて、慌ただしく外に出る。

 

「良いの?何も貰わなくて」

「仕事じゃないからな」

「仕事じゃないの?」

 あれ?でも……。

―リリー。

―俺の仕事を手伝ってくれるか?

 仕事って言ってたよね?

「リリーには報酬が必要だな」

 どうして、そうなるの。

 自分で言ったこと、忘れてない?

「エル」

「ん?」

「約束もしてない報酬を支払うのは、良くないと思う」

『ふふふ。エルが言ってたことねぇ』

 エルが驚いた顔をした後、笑う。

「じゃあ、買い物に付き合って」

 ……その顔も好き。

 いつも難しい顔なのに、急に子供みたいに無邪気な顔するなんて。

「えっと……。紅茶を探すんだよね」

「あぁ」

 こうして自然に手を繋いでくれるところも好き。好きな人の隣に居られることが、私が今、どれだけ嬉しいか、エルは全然気付いてくれない。

 

 良い香りが漂ってくる。

 嗅ぎ慣れた匂いだ。いつも使ってた城の台所、それが並ぶ棚を思い出してしまうぐらい懐かしいこの感じ。香りの先に可愛らしい建物が現れる。

「見て、エル!ポリーズの本店だよ。こんなに可愛いお店だったなんて。喫茶コーナーまであるんだ」

 童話に出てくる家みたい。柔らかいデザインの建物だ。

「じゃあ、紅茶を見た後、カフェに寄って行くか」

「良いの?」

「良いよ」

 夢みたい。

「ありがとう。エル」

 

 ※

 

 知ってる紅茶も知らない紅茶も山のようにある。オーソドックスなものはもちろん、季節ものがこんなにあるなんて。どうしよう。どれも気になる。あぁ。これは外せないよね。ちょっと冒険するなら、こっちも……?ミルクを入れたのがお勧めなんだ。飲んでみたら、また雰囲気が変わりそう。

『本当、好きだね……』

 だって。こんなに見るものがたくさんあるなんて。

『今日は、他の店も行くんだからね?』

 そうだった。

「良いよ。好きなのを好きなだけ選んで」

『良いの?そんなこと言って。放っておいたら、一日中ここに居るよ』

「そんなことないよ」

 エルが手に持ってるのは、オーソドックスなラインナップだ。マリアンヌさんは、上品で華やかな香りが好みなのかな。

「こういうのが好きな人なら、これもお薦めだよ」

「じゃあ、それも」

 後は……。

「悩むなら、両方買ったらどうだ?」

「だめだよ。そんなに長持ちするものじゃないから」

「ラングリオンでは手に入らないかもしれない」

 そっか。ラングリオンでは、ポリーズの紅茶って飲めないんだ。

『そんなに落ち込まないでよ』

「王都にもポリーズはあるよ」

「本当?」

 エルが、何故か笑ってる。

「どうしたの?」

「いや……。俺は行ったことが無いから、品ぞろえは知らないんだ。気に入ったなら両方買おう」

 エルが、私が持っていた紅茶を取る。もう持てないぐらい山積みだ。

「まだ見るか?」

「大丈夫」

「買ってくるから、カフェコーナーで食べたいケーキを選んでて」

 ケーキ。

「うん。わかった」

 何にしようかな。

 

 テラス席で、エルと一緒に紅茶を飲む。

 ケーキは、タルト生地の上にベルガモットが香る紅茶ムースが乗り、更にフレッシュクリームと苺が飾られた豪華なものを選んだ。絶妙な甘さも完璧。

「美味しい」

 幸せ。

 紅茶との相性もすごく良い。紅茶の香り同士が喧嘩せずに混ざりあう。

 すごく美味しい。

「リリー。手を出して」

 言われた通り手を出すと、エルが私の手の上にたくさんのドロップを置いた。

 落ちそうになって、慌てて両手で受け取る。

 エルの手って大きいよね。

「どうしたの?これ」

「サービスだって。紅茶をたくさん買ったから」

「こんなにいっぱい?……エルの分は?」

「俺は要らない」

「食べないの?」

「甘いものはそんなに好きじゃない」

 昨日もデザートを断ってたし、今だってケーキを頼まなかったし、そんな感じはしてたけど。本当に、甘いものを一切食べないなんて。

 それなのに、私にお菓子を作れって言うの?

 ……変なエル。

 ドロップを荷物に仕舞って顔を上げると、目の前に大きな荷物を背負った商人が通り過ぎた。

 あれっ?

「この袋って、外の人は皆、持ってるものじゃないの?」

「圧縮収納袋?」

「うん」

 たぶん、紅茶も全部仕舞ってたぐらいだし、あの商人さんの荷物ぐらい入りそうだよね?

「持ってないんじゃないか?」

「ラングリオンにしか売ってないの?」

「これは、売り物じゃない」

「え?」

「俺の卒業制作なんだ」

「卒業……、制作?」

 卒業する時に制作した?……エルが?

「これって、エルが作ったものなの?」

「そうだよ」

『え?錬金術で?』

「あぁ」

『そうよぉ』

 エリクシールが作れるぐらいすごい人だってことは知ってたけど。新しい錬金術のレシピを開発できるぐらいすごい人だったなんて。

 というか……。

「エルは、きちんとした教育機関で錬金術を勉強して、資格を取ったってこと?」

 錬金術は特殊な技術だ。医者や薬師としての知識はもちろん、たとえ魔法を使えなかったとしても魔法や精霊の知識がないと錬金術師にはなれないってアリシアが言っていた。

「俺は王立魔術師養成所を卒業したんだ」

『王立魔術師養成所だって?』

 知ってる。

 大陸でも指折りの有名な機関だ。

「エルって、貴族だったの?」

「違う」

「王族?」

「違うって言ってるだろ」

 どっちも違うの?

「でも、王立の養成所って……」

 確か、ラングリオンの貴族の子息令嬢、更には王族までもが教養を学ぶ特別な場所だ。ラングリオンの王都にあって、警備が厳重なことでも知られている。

 もちろん、教養だけじゃなく高度な魔法と錬金術を学べる特別な場所で、そこで学んだ貴族の多くは王都にある研究所に所属するって言われている。

「俺は、留学生だったんだよ」

「留学?元々、ラングリオンに住んでたわけじゃないの?」

「出身は砂漠。卒業すればラングリオンの市民権を得られるから、養成所に入ったんだ」

「砂漠……」

 そういえば、砂漠はラングリオンの土地じゃないって言ってたっけ。

 じゃあ、エルの家族は砂漠に居るの?

『エル。昨日の騎士だ』

 昨日、見た人たちだ。女の人が二人の兵士を連れて、こっちに来る。

「エルロック様」

「何か用か」

 機嫌悪そうな声。

「報告書を読ませていただきました。度重なる御協力に感謝いたします。もう少し、お話したいことがあるのです。よろしいでしょうか」

 何だろう?

 報告書だけじゃ足りなかったのかな。

「リリー。良いか?」

「うん。大丈夫。……あの、座ってください」

 空いている席を勧めると、私の方を見た騎士が上品に微笑んで、隣に座った。

「ありがとうございます」

「今日は忙しいんだ。手短に頼む」

「はい。こちらをどうぞ。今回の件の概要をまとめております」

「ん」

 エルが眼鏡をかけて書類を見る。

 何か読む時は、いつも眼鏡だよね。目が悪いわけじゃなさそうだけど、あった方が便利なのかな。

 眼鏡も良く似合う。文字を追っている時の視線が好き。

「御食事中に、お邪魔してすみません」

「えっ?」

『ぼーっとしてるから』

「いえ、大丈夫です」

 食べてるのは私だけだ。

「こちらへは良くいらしゃるんですか?」

 ポリーズのカフェのこと?

「ここに来たのは初めてです。ずっと来たいなって憧れてたお店で……。来れて良かったなって」

「そうでしたか」

『あんまり余計なことは言わないようにね』

 余計なことは言ってないと思う。

 エルは、まだ書類を読んでる。時間がかかりそうだ。

 そうだ。これ、食べるかな。

「どうぞ。ポリーズのドロップです」

 ドロップを三つ渡すと、騎士が微笑んで手に取る。

「ありがとうございます。今は仕事中ですので。後で頂きますね」

 騎士が後ろの兵士にドロップを渡した。

 わざわざエルに読ませる書類を届けに来ることが、騎士の仕事?

 他の用事もあるのかな。

「読んだよ」

 エルが書類を騎士に渡す。

「なんで、俺に見せたんだ?」

 どういう意味?エルが見る必要は無い書類だったの?

「騎士団の名誉と誇りにかけて。今後、このような醜態をさらすようなことは致しません。私たちは決して、辺境を軽視しているわけではありませんから」

 辺境を軽視……。エル、キルナ村のことを伝えたのかな。

「それに、気になることがあります。捕らえた賊と商人は、あなたが上級市民を誘拐していると言っていたのです」

「えっ?」

「……」

 誘拐って。まさか、私のこと?

「お心当たりはございますか?」

 どうしよう。私のせいで、エルが疑われてる?

「俺が冒険者だってことは知ってるだろ。堂々と冒険者活動をしている冒険者を犯罪者呼ばわりする気か」

「いいえ、そんなつもりはありません」

「なら、あんたには俺たちの関係が誘拐犯と被害者に見えるって?」

「いえ、そんなことは……」

「じゃあ、どう見えるって言うんだ」

「それは……。あの、見た目だけで判断するわけには……」

 このまま押し切っちゃうのかと思ったら、エルが、ため息を吐く。

「自分から論点をずらしてどうするんだよ。聞きたいことがあるなら、それ以外の話に乗せられるな。……リリー。身分証を出して説明してくれ」

「えっ?出さなきゃだめ?」

「あぁ」

 だめなんだ。でも、私が説明しなくちゃエルへの疑いが晴れない。

 身分証を出して、騎士に見せる。

「リリーシア様……?」

 私が何か言うより先に、態度を急変させた騎士が私の目の前で跪く。

「尊いお方とは知らず、申し訳ございません。どうか、御無礼をお許しください」

 まただ。

 急いで身分証を仕舞う。

「お願い。態度を変えないで」

「しかし、」

「ここに座って下さい」

「そんなわけには、」

「お願い。席に戻って」

「はい。……失礼いたしました」

 ようやく騎士が席に戻ってくれた。

 周りからも注目を集めてる。また、こんなことになるなんて……。

「私は今、身分を隠して旅をしているの。今のは、見なかったことにして」

「仰せのままに」

「それに……。私は、私の意志でエルと一緒に居るの。私がお願いして、エルに同行させてもらってる。エルは私を助けてくれているだけなの。だから、失礼なことは言わないで」

「申し訳ございません」

 私と目を合わせることなくそう言って、騎士がエルの方に向き直る。

「エルロック様。度重なる無礼をどうかお許しください」

 この人は、ちゃんとエルに謝ってくれるんだ。

「あんたは、自分の仕事をしてるだけだろ」

 エルが肩をすくめる。

 エルって、いつもこうなのかな。失礼な事されても気にしないっていうか。評価されなくても気にしないっていうか。

「こちらに、騎士団からの報奨金を御用意致しました。どうか、お受け取り下さい」

「……わかったよ」

 エルが頷いて、報奨金を受け取る。

 報奨金を用意してたってことは、この人は元々、エルを疑ってたわけじゃなかったのかな。エルの言う通り、仕事で確認しに来ただけだったのかもしれない。

「何故、気づいたんだ」

 気づく?何に?

「申し訳ありません。ここでお話できることはございません」

 何の話?

「ご協力いただきありがとうございました。皆様に、女王陛下と精霊の御加護がありますように」

 精霊の御加護。いつもの挨拶だ。

 騎士が丁寧に礼をする。

「お互いに」

「感謝します」

 静かに去って行く騎士の一行を見送る。

「何を聞いたの?」

「別に。大したことじゃない」

 本当に?

 エルは、私に話してくれないことがたくさんある。

 私はエルがどれぐらい有名なのか知らない。盗賊ギルドのギルドマスターも、騎士団の人たちも、エルを知っていた。きっと、外見だけで何者かわかるぐらいエルは有名な人だ。

 ただ、エルがすごい人だってことは分かる。騎士みたいな偉い人とも臆せず話せるし、盗賊ギルドみたいな怖い場所でも平気で入っていける。旅慣れていて、色んな事に詳しくて。そして、エイダと契約しているぐらい強い魔法使い。

 そういえば……。

 エイダって、どうしてエルと契約しているんだろう。大精霊は精霊たちの生みの親。神さまから生まれた特別な存在で、そう簡単に会えないって聞いたような気がするけど……。

「先に帰ってるか?」

「え?」

 まだ、買い物は終わってないんだよね?

「手伝うよ」

「疲れたら言えよ」

「平気。まだ見てない所もたくさんあるから」

 急いでケーキを食べちゃおう。

 残りを口の中に入れる。美味しいけど、入れすぎた。

「ほら」

 私の顔を見て笑ったエルが、口の端に付いたクリームを拭った。その指についたクリームを舐める。

「……あ」

「あ」

 思わず、食べちゃった。

 顔を上げてエルを見ると、エルは普通に紅茶を飲んでる。

 ……いつもそう。

 私にとっては、こんなにドキドキすることなのに。

 エルにとっては、何でもないことなんだ。

 

 ※

 

 次に来たのは、市場。

 すごく賑やかな場所だ。

 お店がたくさん並んでる。

「エルロック」

 声をかけられたエルが、お店の方を見る。

 また、エルを知ってる人?

『美術品運搬の依頼人ですね』

「あぁ。積荷探しの奴か」

「そうだよ。あの時は世話になったな」

 冒険者の仕事で関わった人?

「積荷探しって?」

「こいつが扱ってた美術品が盗難にあって、探すのを手伝ったんだよ」

 冒険者って、そんな仕事もするんだ。

「お。今日は違うのを連れてるんだな」

「違うの?」

「一緒に組んでた赤髪の美人はどうしたんだ?」

 赤髪の美人……?

「今日は仕事じゃない」

「へぇ。こっちが本命か」

「うるさいな。用が無いなら行くぞ」

「待てって。欲しいものがあるなら、うちで揃えていきな。安くしておくぜ」

 赤髪の美人って、誰の事?

 冒険者仲間?

「質が良いものだろうな」

「当然だろ」

 当然だよね。冒険者なんだから、いつも一緒に行動する仲間が居てもおかしくないはずだ。

『どんな依頼だったの?』

『依頼は、美術品の運搬です』

『エルが直接受けた依頼じゃないけどぉ。一緒に乗る船だったからぁ、他の冒険者のバックアップを頼まれてたのぉ』

 ってことは、その女の人と一緒にグラシアルに来てたの?

『数年前に有名画家によって描かれた連作で、美術館で展示する為にラングリオンの子爵家からお借りしたものだったようなのですが。一点だけ盗まれてしまったようなのです』

『盗まれた?』

『ラングリオンを出港後、ティルフィグン到着時に消えていたんだ』

『えっ』

 不思議。

 推理小説みたいだ。

『結論を言えば、船に同乗していた作者が、作品を気に食わないと破棄しようとしたらしいですね』

『作者が盗んだの?』

『はい』

 あっさり解決してしまった。

『何とか交渉して、気に食わない部分の修正で手を打ってもらったという感じです。その後に、作者が間違えて持って行ってしまったとお返ししたんですよ』

 エルが解決したんだ。

 あれっ?でも、修正したら……。

『だからぁ、飾られた時は別物だったってわけぇ』

『よく、ばれなかったね』

『美術館の学芸員は不審な態度をされておいででしたよ。けれど、作者本人に目の前で鑑定して頂きましたから』

 それって、その作品のファンは騙せないんじゃないかな。

 でも、本人のお墨付きがあるなら大丈夫?

「お前、冒険者だよな?こんな量、どこで売りさばくんだよ」

「売るんじゃない。依頼だ」

「どこの御貴族様の依頼だよ」

「後、もう一つ。この店で一番良い羽ペンってどれだ?」

「王室に献上するレベルの奴なら……」

 まだまだ買い物は続きそうだ。

 目の前には、たくさんのものが並んでる。これ全部、マリアンヌさんから頼まれた買い物?……そんなことないよね?

 確か、冒険者の仕事には貴重品収集もあるはずだ。異国じゃないと手に入らなかったり、危険な場所でしか採集できないような珍しいものを用意する仕事。ここには珍しいものなんて一つもないけど、異国の人にとっては珍しいのかもしれない。

「欲しいものはあるか?」

「えっ?」

 欲しいもの?

「気になるものは?」

「えっと……」

 色んな雑貨が置いてあるお店だ。

 この中で、気になるもの……。

「眼鏡」

「眼鏡?」

『なんで、眼鏡?』

 だって。目に入ったんだもん。

「なら、これなんかどうだい。女の子には、ピンクパールの眼鏡が人気なんだ」

 すごく可愛いデザインだ。

「どんな眼鏡を探してるんだ?」

「え?」

「遮光眼鏡か、読書用か……。それとも、装飾品?」

 もしかして、今、私の眼鏡を探してる?

 どうしようかな。眼鏡なんて使ったことがないけど、エルもいつも使ってるし、あったら便利かもしれない。だとしたら。

「読書、かな?」

「実用性が高いのなら……。こういうのは?」

 赤縁の眼鏡だ。軽くて使いやすそう。

 エルが私の顔に眼鏡を付けると、すぐにお店の人が鏡を見せてくれた。

 ……どうなんだろう。

「お似合いですよ」

「……似合う?」

 自分じゃ良くわからない。

「似合うよ」

 すぐ、そう言うんだから。

 でも、いつも笑顔で言ってくれるから。

「ありがとう」

 嬉しい。

 

 ※

 

 また、買ってもらっちゃった。

 というか、エルって、自分の物は全然買わないよね?私のものばっかり。私もエルにプレゼントしたいな。エルって、何が好きなんだろう。

 エルを見上げる。

 あれ……?

 何か、変。何が変なんだろう。いつもと違うような……。

「イリス?」

『何?』

 声のする方にイリスが居ない。

 眼鏡をずらすとイリスの姿が見えるようになった。その奥には他の精霊の姿もある。

 こんなの、初めて。

「エル。不思議」

「何が?」

「眼鏡をかけると、精霊が見えないの。……魔法使いの光も」

『えっ?そうなの?』

「うん」

『ボクがどこに居るかもわからないってこと?』

「見えないよ」

 他の精霊も、皆。

 見えない。

「不便じゃないのか?」

「平気。これが、普通なんだよね」

 エルが見えているのと同じ世界。

 これが、世の中の人の当たり前。

 なんだか新しい。眼鏡って、良いかも。

「後は、何を買うの?」

「ワイン」

「ロマーノワイン?」

「まさか。グラシアルのワインだよ」

「そっか」

 ワインもお土産に頼まれてるのかな。もしくは、自分用なのかもしれない。エルはワインが好きだから。

「疲れてないか?」

「平気。楽しいよ」

 目的なんかなくても良い。

 こうして手を繋いで、エルと一緒に歩いてるだけで楽しいの。

 



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