表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/61

028 囚われ人

 料理は、どれもすごく美味しかった。

 でも、口直しのソルベと肉料理は断って、デザートと紅茶を貰った。エルはデザートも断ってコーヒーだけ。

 ドレスじゃなかったら全部食べられたと思うんだけどな。こんなに締め付けられていたら、美味しいものも食べられない。

 というか、エルって、全然食べないよね。デザートはベリーのタルトとプリンだったのに、両方とも断るなんて。……あれ?そういえば、エルが甘いもの食べてるところって見たことないかも?

「リリー。馬車を探してくるから待っててくれ」

「馬車?」

 どうして、馬車が必要なの?

 ……あ。私の為?

「私、歩けるよ?」

「賊が現れるかもしれない」

 そっか。私がドレスを着たのは仕事の為だ。

 エルが私の頬に触れる。

「怖かったり、嫌なことがあったら大声で叫んで。すぐに駆けつける」

 それじゃ、失敗しちゃう。

「大丈夫だよ」

 エルの目的は誘拐犯のアジトを突き止めることで、私の仕事は大人しく誘拐されることだ。

「ナターシャ、頼む」

『わかったわ。よろしくね、リリー』

「うん」

 ナターシャが私の傍に来る。

 エルは大きな通りを走って行ってしまった。金色の光がどんどん遠ざかっていって……、消えた。角を曲がったのかな。

 あ。

『リリー、気を付けて』

 囲まれたと思ったら、後ろから口に布を当てられる。

 これ、何……?

『リリー、しっかりして』

 ふらふらする。

 体が浮いて、馬車の中へ運ばれる。

『馬車の中だよ。わかる?』

 体が揺れる……。

『私、エルに知らせて来るわ』

 お願い。

 体が重くて、動けない。眠気を誘う薬かな。

 アリシアが言ってたよね。眠れない人への薬だけど、犯罪にも使われることがあるって。

「縛っておけ」

「もう気を失ってるのに?」

「盗賊ギルドの報告は聞いてるだろ」

「でも、剣士になんて見えないぞ。武器も持ってないし」

「つべこべ言わずにやれ」

 顔に何か巻かれて、手首も縛られる。

『リリー』

「本物なんだろうな」

「こんな目立つドレスを間違えるわけないだろ」

「誰にもばれてないか?」

「追っ手は無さそうだ」

「あの男も?」

「居ない」

 エル……。

『リリー、起きてる?』

 なんとか。

『大丈夫。ボクが守るからね』

 ありがとう、イリス。

『イリス、リリー』

『ナターシャ。エルは?』

『この上に乗ってるわ』

『上?』

『馬車の上よ。……大丈夫?』

 大丈夫。

 気を失ったりなんか、絶対にしない。

 

 ※

 

 どれぐらい、時間が経ったんだろう。さっきよりも楽になってきた。

 そんなに強い薬じゃなかったのかな。もう、薬の効果は切れたのかもしれない。

 でも、目隠しをされているから状況が良くわからない。

 腕を縛る縄もそれなりに頑丈で、簡単に抜け出せなさそうだ。

『ここに居るのは三人で、それに御者が一人。敵は全部で四人って所だね』

『どうしたの?急に』

『リリーが起きたから』

『えっ?……そうなの?』

 首を軽く揺らす。

『良く分かったわね』

『まぁね』

 流石、イリスだ。

『街を出て、森に入ったみたいだよ』

 いつの間にかポルトぺスタを出たんだ。

『リリー。怖かったら言ってね。エルから、魔法を使って良いって言われてるから』

『え?あんまり派手な魔法を使わないでよ』

『大丈夫よ。どうせ、リリーには魔法が効かないんでしょう?』

『効かないっていうか……』

「にしても、今時、上級市民と一般人の駆け落ちねぇ」

 駆け落ち?

「良いじゃないか。夢があって」

「その夢も、ここで潰れるけどな」

 私、駆け落ちカップルだと思われてたの?

「なんか、可哀想だな」

「何言ってるんだ。ボスが聞いたら怒るぞ。あの男には、アジトを潰されてるんだからな」

『あの男って、エルのこと?』

「本当に一人でやったのか?」

『だろうね』

「さぁ?」

「素性を調べたんじゃなかったのかよ」

「どうにもグラシアルの奴じゃないらしくて……」

「情報がないって?」

「いや……。なんつーか。その容姿が本物なら、冒険者で知らない奴は居ないって」

「どういうことだ?」

 どういうこと?

「ほら、盗賊ギルドの報告でもあっただろ?」

 急に乱暴に馬車が止まって、体勢を崩す。

『大丈夫?』

 うん。

 誰かが私の肩を揺らす。

「おい、起きろ。降りるぞ」

『リリー。ちゃんとドレスの裾を持ってよ』

 目隠しで何も見えないから気をつけなきゃ。

 腕を引かれて立ち上がって、転ばないようにドレスの裾を掴んで……。

『段差だよ』

 手探りで馬車を掴んで馬車から降りる。足元から土の感触がする。木々のざわめきも聞こえる。それから、人の気配。

『知らない奴が二人出て来た』

 私を誘拐した四人の他に、新手の二人。

「ようやく捕まえて来たのか」

「本物か?顔を見せろ」

 誰かが私の後ろに立って、私の目隠しを外す。

「ほら。人相書きと同じだろ?」

『エル。そんなに明かりに近づくな』

 メラニーの声?

 エル、そんなに近くに居るの?

「これに乗れ」

 乗るって……。これに?

 背中を押されて、荷車の上に乗る。

「聞いてたのと違うな。随分、大人しいじゃないか」

「どうせ、盗賊ギルドの連中が盛って報告したんだろ」

「黄昏の魔法使いだって?」

「まさか……」

「気にするなって。あいつら、高い金ふんだくった割りに、ろくな仕事してねーからな」

 何の話だろう。黄昏の魔法使いって、この人たちのボスのことだよね?偽物だけど。

「うるさい。喋ってないで、行くぞ」

「ボスは?」

「もうすぐ戻る」

 アジトには居ないってこと?

 荷車ががたがたと動き出す。

『リリー、大丈夫?』

 すごく揺れる……。

 これなら歩いた方が楽かも。

 

 ※

 

 ようやく荷車が止まった。

 気持ち悪い……。

『大丈夫?』

 ……頑張る。

「お前らは、外を見張れ」

「了解」

「了解」

 二人が小屋の脇に並ぶ。あれがアジト?

「ほら、こっちに来い」

 また腕を引かれて、小屋に向かって歩く。小屋の中は暗くて何も見えない。誰も居ないのかな。乱暴に腕を離されて、その場に座り込む。

『リリー』

「手間取らせやがって」

「ボスは、まだ来ないんだよな?」

「人質には手を出すなよ」

「わかってるって」

 ……怖い。

『大丈夫だよ。ボクが付いてる』

「誰だ」

 扉が開いたけど、そこには誰も居ない。

 なのに、目の前に居た人たちが次々と静かに倒れていった。

 これって、もしかして……。

『エルだね』

 やっぱり。

 見えないけど、エルがここに居るんだ。

「これで全部か?」

『そうだな』

 エルが姿を現す。闇の魔法を解いたんだ。

『遅いよ、エル』

「悪かったな」

 私の方に来たエルが、腕の縄を短剣で斬る。

「大丈夫か?」

「うん」

『大丈夫じゃないだろ』

「何かされたのか?」

 何もされてない。ただ……。

「怖かった」

 今更、体が震える。

「ごめん、リリー」

 エルが私の体を抱きしめる。

 怖かった。ずっと、怖かった。

 イリスもナターシャも居たけど、自分一人じゃ逃げ出せないんだって思うと……。

「ごめん。怖い思いをさせて」

「違うの。私、剣がないと……」

「普通の女の子だって?」

 え?

 普通の女の子?私が?そんなこと、考えたことがない。

 私が普通じゃないのは私が一番知ってる。

『エル、人の気配がする』

 まだ敵が居るの?

「私も戦う」

「だめだ。今日は、お姫様で居る約束だろ?」

 エルが、背負っていたリュヌリアンを下ろす。

「すぐに終わらせるから、小屋から出るな」

「でも……」

「わかったな?」

「……はい」

 そんな顔で真っ直ぐ言われたら、はいとしか言えない。

 目の前で、エルが炎の魔法を作って……、消した?それを何度か繰り返す。

 何をしてるんだろう?

「エイダ。リリーを頼む」

『わかりました』

『リリー、またね。私はエルと行くわ』

「ん」

「ありがとう。ナターシャ」

 ナターシャとエルが外に出て行った。

「どうして、エルの炎の魔法が消えたの?」

『消えたわけじゃないわ。闇の魔法で包んで隠したの』

「隠した?姿を消す魔法と同じ?」

『そうよ。でも、普通の人には、なかなか出来ない方法ね』

「そんなに難しい魔法なの?」

『そうね。魔法の使用には、二つの段階があるのを知ってる?』

「あんまり……」

『勉強したはずなのに』

『ふふふ。大丈夫よ』

 エイダが指先に炎の魔法を浮かべる。

『まず、魔法の第一段階。まだ私と繋がっている状態ね。魔力を加えて更に大きくしたり、形や性質を変えたり、あるいは、放つのを止めて消すことも出来る状態よ』

「うん」

『そして、第二段階。魔法を放つ段階ね』

 エイダが小さな炎を放つ。

『何やってるんだよ。危ないだろ』

『心配しなくても、すぐに消えるわ』

 炎は、すぐに勢いを失って消えた。弱い魔法だったらしい。

『放った魔法は、もう私にはどうすることも出来ない状態なの。わかる?』

「うん。もう繋がってない魔法はどうにもできないんだよね」

『そう。そして、さっきエルが闇の魔法で包んだ炎の魔法は、すべて第一段階の状態を維持しているの』

『え?さっきの魔法って、全部、エルと繋がってるの?』

『そうよ』

『そんなことしたら、無駄に魔力が削られるだけだ』

「削られる?」

『エイダが言ってただろ?第一段階は、まだ使用者と魔法が繋がってるって。あの状態を保ってるだけで魔力を消費するんだよ』

『もちろん、闇の魔法で隠し続けるのにも魔力を消費するわ』

 大変だ。

「エルが倒れちゃう」

 リュヌリアンを背負って、小屋の出口へ行く。

 

 外が、明るい。

 燃え盛る大きな炎が周囲を照らし、遠くで叫び声が上がった。

『周囲に人の気配はない』

「ん」

 周りには人が倒れている。

 もう、全員倒しちゃったんだ。

「エル」

 転ばないように気を付けて、エルの方に行く。

「すごかった」

 全然、心配なんて要らなかった。

「あんなに大きな炎の魔法が使えるなんて」

 それに、金色の輝きも変わってない。何人もの敵と戦ったはずなのに。

 急に、エルが私の顔を手で包んだ。

「今日の仕事は何だった?」

 あれ?怒ってる?

「おひめさま……?」

「そうだよ。大人しくしてろって言っただろ」

「大人しくしてたよ」

 ね?

 エイダを見るけど、エイダは何も言ってくれない。

「……?」

 なんだろう。木々のざわめきに混ざって、向こうから異質な音が聞こえる。

「どうした?」

「誰か来る」

「誰か?」

「向こうから金属音が聞こえるの。鎧とか武器っぽい音」

 人数は分からないけど、複数居るのは確かだ。

「新手か?」

『ギルドで会った騎士だな。他にも十名ほどの人数がこちらに向かっている』

 騎士?

「通報したの?」

「してない。昼間にギルドで情報交換したんだ。自分で調べて来たんだろ」

 昼間のギルドって……。あの時、居なかったのは偉い人に呼び出されたからだったんだ。

「っていうか……」

 エルが私を見下ろして、急に、リュヌリアンを取り上げる。

「えっ?返してくれたんじゃ……」

「肩に跡がついてるだろ」

 肩……?

 確かに、ちょっと肩ベルトの跡がついてる。でも、気にするほどじゃないよね?痛くないし。

『来た』

 明かりと共に騎士の一団がこっちに来た。

 先頭に居る一番豪華な鎧を着てる人が隊長かな。

 あれ?あの鎧の形……。騎士って、女の人だったの?

「あなたは……。エルロック様?」

「賊のボスは、そこに転がってる魔法使いだ。表に居るのは、そいつを含めて七人。小屋の中にも四人、仲間が転がってる。後は頼んだぞ」

「お待ちください。詳しいお話しを……」

「連れが居るんだ。明日にしてくれ」

 すごい。全部で十一人も倒しちゃったんだ。あの短い間に。

「わかりました。お手数ですが、明日、騎士団の本部までお出で頂けますか?」

「……わかったよ」

 エルが嫌そうに返事をしてる。

「ご協力、感謝いたします。お帰りの際は、是非、騎士団で用意した馬車をお使い下さい。森の外に待機させております」

「ん。助かるよ」

 馬車を貸してくれるんだ。ここって、ポルトぺスタからどれぐらい離れた場所なのかな。

「兵を一人同行させましょう。……御案内を」

「御意」

 松明を持った人も付いてきてくれるらしい。

 急に、エルが私を抱える。また、お姫様抱っこだ。

「どうして?」

「お姫様を歩かせるわけにはいかないだろ」

 また、そんなこと言うんだから。

「歩けるよ」

「あの荷車に乗るのと、どっちが良い?」

 荷車って、私が乗って来たあれ?

 ……だめ。

 エルの首に掴まる。

「重かったら言ってね?」

「剣より軽いよ」

「えっ?そんなはず……、ないよね?」

 いくら大剣だからって……。

 剣の方が軽いに決まってる!

 エルが楽しそうに笑ってる。また、からかわれたんだ。エルのばか。

「ほら。今日の仕事は?」

 お姫様。

「まだ続くの?」

「当たり前だろ」

 じゃあ、もう少しだけ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ