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025 物語の中へ

 エルと一緒に盗賊ギルドを出て、歩く。

 盗賊ギルドの人はエルの名前を知っていた。もしかして、エルって、すごく有名な人?……そんなことないか。

―見かけない顔ですね。

 魔術師ギルドで会った黄色い光の人は、エルのことを知らなかった。

 前にも、盗賊ギルドに寄ることがあっただけかな。

 中心街に戻ってきた。

 あれ?

 なんで、そう思ったんだろう。

 えっと……。

 そっか。盗賊ギルドがあった場所とここは、全然、雰囲気が違うからだ。

「エル。さっきの場所って、どうしてあんなに……」

 なんて、表現したら良いんだろう。

「あんなに、ぼろかったのかって?」

 そう。瓦礫があちこちにあって、建物もすぐに壊れてしまうぐらい酷い場所だった。

「盗賊ギルドがあった場所は貧困区。貧しい連中が住む場所だ」

 貧しい人たち。

 物語でも読んだことはある。貧しい人たちが身を寄せる地域があるって。でも……。

「さっきの場所も、ここも、ポルトぺスタなんだよね?」

「そうだよ」

「どうして、一つの都市なのに、こんなに差があるの?」

「リリーだって、城の暮らしと街での暮らしは違っただろ?」

「え?」

『そんなに違わないんじゃない?』

 住んでいる場所は違うけど、街での生活と城での生活がそんなに違うと思ったことはない。自由に行き来出来なかっただけだ。あんなにぼろぼろの場所なんて、街のどこにもなかった。

「賑わってる都市には、大抵、貧富の差がある。特にポルトぺスタは、商業によって発展した都市だ。富の偏りがあるのは当たり前。金持ちによって成り立つ都市は金持ちを優遇する政策を取りがちだ」

「でも、政治の目的は富の再分配なんだよね?こんなに貧富の差があるなんて」

 この場所は、物もお金も溢れてるはずなのに。それが、すべての人に行き渡らないなんて。

「理想通りに再分配が進むケースなんてまずない。こういうのは、そこに住む人間の文化や考え方に大きく影響される」

「ポルトぺスタの人たちは、これで良いって思ってるってこと?」

「言っただろ。ここは金持ちによって成り立つ都市だ。一番税金を払ってる金持ちの意見が通りやすい。貧しい奴は、ずっと貧しいままだ」

「そんな……」

「収入の差や教育格差を埋めないことには、生活水準をすべて同じレベルに上げることなんて出来ない。それに、差別の問題も根深いからな」

「差別?」

「身体的特徴、血統、病気……」

 そういえば、文化によっては私の黒髪も疎まれるんだっけ。特に、吸血鬼の容姿である黒髪にブラッドアイ。

「要因は様々だ。忌避するものとして扱われたら、都市に自分の居場所はない。それでも生きていかなきゃいけないから、不衛生で見放された土地に身を寄せるしかないんだ。そうやって悪循環を繰り返して出来たのが貧困区だよ」

 悪循環から抜け出す方法はないのかな。都市は、そこに住んでいる皆のものじゃないの?困ってる人に恩恵が届かないなんて。そんな、世界から見捨てられた場所があるなんて。

「だから、盗賊ギルドがあるの?」

 盗賊ギルドのことは詳しくないし、あそこに居た人が全員悪人かどうかも分からない。でも、誘拐を企むような組織なんて、都市にあるべきじゃないよね?

「盗賊ギルドなんてどこにでもある」

「王都にも?」

「あぁ。商人ギルド、冒険者ギルド、盗賊ギルドは、でかい都市には必ずある」

 どれも聞いたことのある有名なギルドだ。

「魔術師ギルドは?」

「場所による」

「後は……。何だっけ」

「職人ギルドか?これも、職人が多く居る場所にしかないだろうな」

 そう。覚えていた方が良い歴史ある五大ギルド。

 ギルドは、特定の国家に帰属せず、一定の理念や信念に基づいて集まっている非政府団体のことだ。

「盗賊ギルドも、冒険者ギルドみたいな非政府団体として認められているの?」

「非政府団体は国家に認められた組織じゃない。国家と交渉して初めて、団体としての地位を認められるんだ」

 非政府団体の多くは、国家と交渉できるぐらいの規模を誇る集団だっけ。

 特に冒険者ギルドは、色んな国と多くの取り決めをしていて、犯罪者は冒険者になれないって聞いてる。

「盗賊ギルドが何故、出来たか知ってるか?」

 知らない。

 もっとちゃんと勉強しておいた方が良かったかな。

「盗賊ギルドは、冒険者ギルドから枝分かれして出来たギルドなんだ」

「え?冒険者ギルドって、犯罪行為は絶対にしないんだよね?」

「昔は、冒険者ギルドも犯罪すれすれのこともやってたんだよ。でも、冒険者の地位確定の為、犯罪の取り締まりを厳しくすることを各国と約束したんだ。その結果、汚れ仕事を専門に扱うようになったのが盗賊ギルド。今では、依頼次第で法に触れることも平気でやる集団になってる」

 盗賊ギルドって、そんなに危ないギルドだったんだ。

「盗賊ギルドは、ただの犯罪者集団だ」

「どうして、そんなものがどこの都市にもあるの?」

「表向きには犯罪行為なんてやってないことになってるからだよ」

「え?」

「盗賊ギルドは、情報収集と情報分析がメインの仕事だって言ってるからな」

「盗賊って言ってるのに?」

「隠密行動や罠解除、鍵開けみたいなスキルのことを盗賊スキルって呼んでた名残だ。……誘拐や暗殺、泥棒行為も含むけどな」

 どういうこと?結局、悪いことをする集団だって、皆、解ってるんだよね?

「あ……」

 また、街の雰囲気が変わった?

「ここから富裕区だよ」

「全然、違う」

 真っ直ぐ整った広い幅の道に、お城みたいに綺麗な屋敷が立ち並ぶ。

 ここもポルトぺスタなんだ。さっきみたいな貧困区があって、他の都市と同じような景観の場所もあって、特別感のある富裕区がある。これが、大都市の姿。

「どうして、富裕区に来たの?」

「宝石商が店を構えるなら、この辺だろ」

 そうだった。ポルトぺスタに来たのは、先生を探す為。あんなに珍しい宝石をたくさん扱っているなら、取り引きするのはお金持ちの人で、お店は富裕区にあるはずなんだ。

 今更だけど、先生って、どんな人なんだろう。

 いつも丁寧で素敵な手紙を書いてくれる人だから温厚で優しい人に違いないって思ってたけど。思ってたのと全然違う人だったらどうしよう?もしくは、やっぱり居なかったとしたら……。

「リリー」

「何?」

「着替えるか」

「……また?」

 私を誘拐しようとしている人が居るからって。別に、今は目立った服を着ているわけじゃないし、着替えなんて必要ないよね?

 

 ※

 

「まぁ。……えぇ。すぐにできますよ。……あちらのお嬢様に?」

「あぁ。明るい色を頼むよ」

「それでしたら、ベースは赤か……。オレンジはいかがでしょう」

「こっちかな」

「仕上がりは、どういったイメージにしましょうか」

「ふんわりした感じで」

「最近は、こういった刺繍も流行っておりますよ」

「可愛い。使ってくれ」

「かしこまりました」

 エルは、ずっと店員さんたちと話してる。

 なんだか楽しそう。

 今回の着替えの目的は何なんだろう。それに、ここに置いてあるのって、服っていうより……。

「では、お嬢様、こちらへどうぞ」

 お嬢様?

「エル、あの……」

「大人しくしてろよ」

 どういう意味?

 店員さんと一緒に奥へ行くと、カーテンが閉じて、三人ぐらいの店員さんに囲まれた。

「お嬢様。早く終わらせますから、じっとしていてくださいね」

 じっとする?

 えっ?

 どういうこと?

 

 ※

 

 プリンセスラインのオレンジ色のドレスに繊細な刺繍レースが縫い付けられるのを見ながら、ドレスの下に着るビスチェやペチコートを合わせて、髪を整えられて、化粧をされて。そして、その間に完成したドレスを着て、今、私は姿見の前に立っている。

『おー』

 あっという間の出来事だ。

 ドレスなんて。こんなにすごい衣装なんて、初めて。肩も背中も出るビスチェタイプのドレスはちょっと恥ずかしい。ハーフアップとはいえ、髪を下ろすのだって寝る時以外はしないのに。

「帽子は、どのようなものに致しましょう」

 私が選ぶの?だったら、大きめが良いな。

「そっちので」

「お履き物はいかが致しましょう。おすすめはこちらの靴です」

 可愛い靴だけど、すぐに脱げちゃいそうだ。

「違うのはある?」

「でしたら、こちらは?」

『あれも歩きにくいんじゃない?』

 だめ。そんなの。

 他の……。

「あ。あのブーツでお願いします」

「ブーツですか?こちらのドレスには、この靴の方が……」

「お願い。ブーツが良いの」

「かしこまりました。それでは、こちらをどうぞ」

 良かった。サイズもあってそう。

「では、カーテンを開きますね」

「はい」

 カーテンの向こうでは、エルが待ってるはずだ。

「御準備が整いました」

 カーテンが開く。

「おぉ」

『わぁ。可愛い』

『素敵ですね。とても似合っていますよ』

『良いねぇ。かわいいねぇ』

「可愛いよ」

 本当に……?

「からかってるわけじゃ、ないよね?」

「からかってるわけないだろ」

 そんなに真っ直ぐ見られると……。恥ずかしい。

 というか。

「どうして、ドレスなの?」

「ウエスト部分に飾りが少ないな。腰にリボンでも巻いてくれないか?」

「かしこまりました」

「こんなの、歩きにくいよ」

「帽子は、もう少し顔が見えるものに変えてくれ」

「はい。かしこまりました」

「エル、聞いてる?」

 エルが、ようやく私と視線を合わせる。

「特別な相手に会いに行くんだから、少しぐらい着飾っても良いだろ?」

 これの、どこが少し?

「ドレスじゃなくても良いよね?」

「なんで?」

「これじゃ寒いし、動きにくいし」

「そうだな」

 良かった。考え直してくれたみたいだ。

「ストールはあるか?」

「はい。お似合いのがございますよ」

 違う。そうじゃない。

「足元は?何を履いてるんだ?」

「ブーツだよ」

 ドレスの裾を上げて、ブーツを見せる。

「お似合いの靴があったのですが。お嬢様が、どうしても嫌だと申されまして」

「だめ。これじゃないと歩けない」

 無理。

 エルが笑う。

「悪かったな。うちのお嬢様は、見ての通りお転婆なんだ」

 店員さんたちまで、くすくす笑う。

 ……意地悪。

「では、仕上げてまいりますね」

 カーテンが閉じて、店員さんに手を引かれて椅子に座る。

 本当に、お姫様みたいに可愛いドレスだ。私なんかよりメルの方が似合うに違いない。でも。

―可愛いよ。

 本当に?

「では、少し締めますね」

 しめる?

「!」

『大丈夫?』

 大丈夫じゃない。

「そんなにきつくしなくても、」

「ウエストラインが美しいドレスですから」

「きちんと締めておかないと、すぐに緩んでしまいますよ」

「御嬢様はお転婆と伺っておりますからね」

『うわぁ』

 くるしい……。

「これじゃ、何も食べられなくなっちゃう」

「大丈夫ですよ」

 どこが?

『これさ、どうやって脱ぐの?』

「脱ぐ時って……」

「お召替えは従者にお申し付けくださいね」

 従者?

『リリーのこと、貴族のお嬢様だと思ってるみたいだね』

 違うのに。

 ようやく終わって、腰に大きなリボンを巻かれて、帽子は小さいものに変わって、左腕に金のブレスレット、肩にストールを結ばれる。あっという間だ。

「ここをリボンの形に結ぶのが今の流行りですよ」

「鏡をどうぞ」

 姿見にはオレンジ色のドレスを着た黒髪の女の子が映ってる。

 これが、私?

 カーテンが開く。

「仕上がりました」

 店員さんに手を引かれて、エルの前まで歩く。

 エルも服装を変えたんだ。光沢のある質の良いマントに、フォーマルな帽子。

「可愛い」

 また、可愛いって……。

 こんなの、私じゃないみたい。

「変じゃない?」

「綺麗だよ」

 綺麗。そんな風に言われたら……。勘違いしちゃいそう。

「こちらはいかがいたしましょう」

 あ、リュヌリアン。

「持って行きます」

『そのドレスで剣を持つ気?』

 たぶん、持てると思う。

「お届けも出来ますが……」

「荷物は俺が持つ」

「え?」

『持てるの?』

『大丈夫ですか?』

 エルが私の荷物とリュヌリアンを背負う。

 取られちゃった。

「大丈夫?」

「あぁ」

 持てるんだ。エル。……大丈夫かな。

「代金は、さっきので足りるか?」

「はい。ブレスレットをサービスさせていただきましたよ」

 これ、おまけだったんだ。細身だけど質の良いものだよね。というか、ドレスって高級品だよね?エルが着てるマントもかなり上質なものだし。

 ずっと思ってたことだけど。エルって、すごくお金持ちだよね?偶然出会った人が実は隣国の王子様だった、なんて設定は物語で良くあるけど……。

 エルが丁寧な仕草で私に手を差し伸べた。

 王子様みたい。

「お姫様。お手をどうぞ」

 ……夢みたい。

 エルの手に自分の手を重ねる。

「はい」

 ドレスを着て、目の前に王子様が居るなら。

 私は今、お姫様かもしれない。

 

 ※

 

 エルと一緒にお店を出る。

 ドレスがこんなに歩きにくいなんて。転ばないよう、エルの腕に捕まりながら歩く。

『尾行されてるな。さっきと同じ気配の男が近くに居る』

 尾行?

 えっと……。あの人かな。

「どうするの?」

 ドレスを着たまま、どうやって戦おうかな。鎧とは違う重さだから、体のバランスが崩れる。

「何かしてくるようなら返り討ちにするから問題ない」

「私、武器がないと手伝えないよ」

『まさか、その恰好で戦う気?』

「大丈夫だよ。ブーツだし、動けると……」

 あっ。ドレスの裾を踏んだ。

「大丈夫か?」

「大丈夫」

『何言ってるんだよ。こんな何もない道で転びかけてる癖に』

「大丈夫だよ」

『大丈夫じゃないね』

「大丈夫だもん」

 足手まといになんて、絶対にならない。

「リリー。俺の仕事を手伝ってくれるか?」

「仕事?」

「出来るか?」

「うん。手伝うよ」

 急に、エルが悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる。何か、嫌な予感がする。

「今日一日、お姫様でいろ」

「えっ?」

『良い案だね』

『そうですね。私も賛成です』

『素敵ね』

「だっ、だめだよ。私、お姫様じゃないし」

「手伝うって言っただろ」

「言ったけど、でも、お姫様なんて、私……」

「誘拐犯のアジトを突き止めたいんだ。もし、誘拐犯がリリーに近づいてきたら、大人しく誘拐されてくれ。リリーが誘拐されたら、俺は見つからないように尾行する。出来るか?」

 誘拐犯を捕まえる仕事?

 そっか。その為に着替えたんだ。

「わかった。頑張る」

「頑張らなくて良い。怖かったら叫んで。すぐに助ける」

「大丈夫」

『本当に出来るの?』

「うん」

 大丈夫。何もしなければ良いだけだから。

「二手に分かれる時、誰かリリーについていてくれないか?」

『それは、私たちに言っているのか?』

『私はエルの方に居た方が良いですね』

「あぁ」

 エイダの役目はエルを守ることだ。

『私、リリーに付いて行ってあげても良いわよ』

 ナターシャだ。

「良いの?」

『もちろんよ。お姫様のエスコートはしっかりしなくちゃね』

「じゃあ、頼むよ」

『まかせて』

 ナターシャが私の傍に来る。

「ありがとう」


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