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024 盗賊ギルド

 ポルトぺスタに向かって、大街道を東に進む。

 これ、真っ直ぐ進んでるんだよね?

 行き交う人がどんどん増えてきて、押しつぶされそう。

「リリー」

 エルが、私の手を引く。

「離すなよ」

「うん」

 私と手を繋いでくれる右腕を掴む。

 絶対、離さない。こんなところで離れたら、もう二度と会えなくなっちゃうかもしれない。

 後、どれぐらいで着くのかな。

 さっきから一つも景色が変わらない気がする。

「まずは、宿を探そう」

「宿?」

「ポルトペスタには何日か滞在する予定だからな。先に拠点を決めておく」

「え?」

 どういう意味?

 あれっ?もしかして……。

「もうポルトぺスタに着いたの?」

「あぁ。さっき門があっただろ?」

「門?」

 門なんてあった?

 来た道を振り返ると、確かに大きな門のような形をした場所が見える。

 あんなの、いつ潜ったっけ?

 というか。

「ポルトペスタって、壁がないの?」

「大街道との間に壁はないよ。街道と地続きになってるんだ」

「そんな造りの街もあるんだ」

 グラシアル最大の商業都市。

 街を守る為の壁が必要ないってことは、ここはとても平和な場所なのかな。

「そういえば、ここでも船に乗れるな」

「船?海じゃないのに?」

「メロウ大河には遊覧船があるんだよ」

「ゆうらんせん?」

 船の一種?

「観光目的の景観を楽しむ為の船。夜の方が綺麗って話だから、日が暮れたら乗ってみるか」

「うん」

 楽しみ。

 ポルトぺスタって、こんなに素敵な場所だったんだ。

 

 賑やかだった場所から、少し落ち着いた雰囲気の通りに入った。

 大街道は一本道だったけど、ポルトペスタは都市らしく曲がる場所が多い。そして、曲がる度にちょっとだけ雰囲気が変わっていくような気がする。

「今日の宿は、リリーが決めてくれ」

「えっ?」

「出来るだろ?」

「……はい」

 大丈夫。出来ると思う。

 えっと……。外観が綺麗で、一階がレストランになってる場所。あれ?どこも同じ?この辺りって宿が多い通りってこと?

 あ。雰囲気が違う店がある。

「あそこは?」

 なんだろう。ちょっと大人っぽい雰囲気のお店だ。宿っぽくない。

「あそこは、バーだ」

「バー?」

「酒を飲むところ。飲みたいなら宿を取った後で行っても良いけど、身分証の提示を求められる」

「それは、嫌」

 キルナ村みたいなことになるなんて、絶対に嫌。だめ。

 お酒を飲めるのは成人だけだから、身分証を確認するのは分かるけど。別に、そこまでして飲みたくない。

「っていうか、成人してるんだよな?」

 それは、どういう意味?

「してるよ。そうじゃなきゃ、一人旅なんてできない」

 成人したから外に出たのに。

『すぐにそんな顔するから成人してると思われないんだよ』

 ……私、そんな変な顔してた?

『もう大人なんだから、しっかりしてよ』

 しっかりしてるもん。

 脱線しちゃった。宿を探さなきゃ。どこにしようかな。可愛い所が良い。

「あ。あそこは?」

 たくさんの花で飾られた外観の可愛い宿。

「良いよ。あそこにしよう」

 良かった。エルが納得する場所を選べたみたいだ。

「宿を取ったら、ランチだな」

「えっ……」

 次は、レストランを探すの?

 エルが苦笑する。

「少し離れた場所にレストランが並ぶ通りがあるから、そこで探してみるか。そんなにお腹が空いてないなら、広場の屋台を見ても良いし。ゆっくり考えよう」

「うん。わかった」

 

 ※

 

 ランチは、大きな広場で屋台のものを食べた。

 お腹が空いている時に、あんなに良い匂いがたくさんしてるなんて反則だよね。チュロスも食べたかったな。また、食べに来れるかな。

 ランチを終えた後は、冒険者ギルドへ。冒険者ギルドは、トリオット物語でも良く登場している。

 入った右手にあるのが依頼を受けるカウンターだよね。あそこに居るのは、受付係とギルドマスターどっちだろう。手が空いてる時はギルドマスターがいつもいるって読んだけど。

 右側の壁は大きな掲示板になってる。

「壁に貼ってあるのが依頼?」

「あぁ」

「あっちは?」

「ギルドホールだよ。冒険者のたまり場だ」

 左手はテーブルや椅子が並ぶ広いホールになっていて、冒険者たちが談笑している。軽食や飲み物も扱ってるみたいだ。

 すごい。トリオット物語で描かれていた描写と同じ。

「俺はギルドマスターと話してくる」

「じゃあ、向こうを見てて良い?」

 冒険者たちがいるギルドホール。

 エルが頷く。

「良いよ」

 やった。

 せっかくだから、何か買ってみよう。

 立て看板には、今日のおすすめのお酒や料理が書いてある。これ以外にはないのかな。

「すみません。紅茶はありますか?」

「銅貨一枚です」

 あるらしい。

 銅貨を一枚払うと、店員さんが紅茶の用意を始めた。

 沸かしたてじゃないお湯で適当に計量した茶葉を使って淹れるお茶。ギルドで出てくるものなんて安っぽいものしかないって書いてあったっけ。

「どうぞ」

 陶器のマグカップに入った紅茶をもらって、空いている席に座る。

 ほとんど香りのない紅茶。でも、こういう雰囲気もとても良い。

 なんだか物語の中に入ったみたい。

『ご機嫌だね』

 楽しい。

 トリオット物語は、銀の棺では氷の精霊に当たる男の子と、炎の精霊に当たる女の子の恋物語だ。物語は、愛し合う二人が引き裂かれるところから始まる。離れ離れになった二人が、お互いを求めて大陸の東の果てと西の果てから旅に出るのだ。二人共冒険者で、同性の仲間と一緒に旅をしている。あまり稼げなかった日はギルドホールで愚痴を言い合いながら安酒を飲むって書いてあったっけ。

『リリー、気をつけて』

 目の前に男の人が二人座った。

「あんた、一人かい」

『また、変な奴に声をかけられたね』

「仲間を待ってるんです」

 あれ?ギルドマスターの方に行ったエルが居ない。見える範囲には居ないよね?どこに行ったんだろう。

「手伝って欲しいことがあるんだ」

「何ですか?」

「簡単な仕事だ。ちょっと外に出てくれるか?」

「えっと……」

「人手が足りてないんだ。すぐに終わるから、頼むよ」

「これは俺が返しておいてやる」

 まだ飲み終わってないのに、カップを取り上げられてしまった。

『怪しいね』

「ほら、来てくれ」

 急いでるみたいだ。

「……はい」

『え?行くの?』

 困ってるみたいだし。

『やめなよ』

 大丈夫だよ。すぐに戻れば。

 二人と一緒に外に出る。

 

「どこに行くんですか?」

「この先だ」

「すぐに着く」

 この先って、どの辺だろう。

『戻れるの?』

 まっすぐ歩いてるから大丈夫だと思うけど、あんまり離れたら戻れなくなっちゃうかも。

「あの、一回、戻っても良いですか?」

「大丈夫だって」

「仲間に伝えないと」

「あんたの仲間も、きっと、同じ依頼で来るさ」

 そういうものなの?

『リリー。引き返そう』

「あの」

「もうすぐなんだ。ほら、あそこを曲がって……」

 

 人通りが少なくなってきた。

 ポルトぺスタの明るい雰囲気とは全然違う場所。

『かなり遠くに来たんじゃない?』

 どうしよう。帰れるかな。

『リリー、』

 え?

 背後からの攻撃を避けながら振り返ると、二人が短剣を構えてる。

「手荒な真似はしたくなかったんだが」

「ここには助けなんて来ないぜ。大人しくしてくれ」

『戦うよ』

 うん。

 リュヌリアンを抜いて大きく薙ぎ払うと、二人組が後方へ軽く跳んだ。

 身のこなしは軽そうだけど、大したことはなさそうだ。

『リリー。こいつらだけじゃない』

「何人?」

『魔法使いっぽいのも入れて、三人?』

 全部で五人。

 魔法使いは無視して良い。手前からやっつけて行こう。

 右側に避けた敵に向かって剣を振る。避けられた。すぐに間合いを詰めてリュヌリアンの腹で斬り払って吹き飛ばす。すると、その人がぶつかった壁が崩れた。まずは、一人目。

『脆いね』

 崩れやすいんだ。気をつけよう。

 続いて左手からの攻撃をかわして、剣の柄で腹部を攻撃し、ふらついたところを蹴り上げる。この人も気絶してくれたかな?

 次は、魔法が飛んで来た。氷の魔法だ。何の影響もないけど、氷のつぶては当たると痛いから避けよう。魔法が飛んで来たのは屋根の上。瓦礫を足場にして登って、そこに居た魔法使いに向かって剣を振る。力加減に気を付けたつもりだけど、魔法使いは下まで吹き飛んでしまった。

 後は、斧持ちと短剣持ちの二人。投げられた短剣をリュヌリアンで弾いて、一気に間合いを詰めて叩き飛ばす。次は斧持ち。質の悪い斧だ。これなら砕けそうな気がする。乱雑に振り回された斧に向かってリュヌリアンを突き刺すと、斧が砕けた。

 この人は鎧を着てるし、突き刺しても平気だよね。そのまま相手に向かって剣を突くと、大きな悲鳴が上がった。……あれっ?鎧も脆そう?あんまり力を入れると貫通しちゃう。途中で力を緩めたけど、鎧の人が倒れてしまった。

『何、眺めてるのさ』

「貫通してないかなって」

『もうちょっと痛い目に合わせても問題なかったと思うよ』

「そんなの、だめだよ。……敵は、もう居ない?」

『ボクが見える範囲には居ないね。あ、ジオだ』

「ジオ」

 本当だ。ジオが飛んでる。

『見つけたー。そこで待っててよー』

 エルも来たんだ。

「この人たちの依頼って、何だったのかな」

『まだそんなこと言ってるの?』

「え?」

『きっと、エルに怒られるよ』

 エル、怒るの?

「リリー」

「エル」

 呼ばれて振り返ると、軽い身のこなしでエルが私の方に飛んで来た。

 風の魔法を使ってたのかな。

「何やってるんだ」

「えっと……。勝ったよ?」

『たぶん、そういうことじゃないと思うよ』

 イリスの言う通り。エル、怒ってるみたいだ。

「あの、用事があるって言われて。エルも居なかったし……」

 エルが大きなため息を吐く。

「知らない人間に勝手について行くな」

「えっ?」

 ついて行ったわけじゃなくて、頼まれたからなんだけど……。

 エルに何も言わずに出てきちゃったのは確かだよね。

「ごめんなさい」

 勝手に戦ったのもまずかったのかもしれない。リュヌリアンを鞘に納める。

「怪我は?」

「大丈夫」

『平気だよ』

 強い人は居なかった。

 エルが倒れている人たちを見る。全員、大きな怪我はさせないように気をつけたつもりだけど、大丈夫かな?

 うめき声が聞こえる。鎧を着た人だ。エルがその人を乱暴に掴んで起こす。

「おい。誰の命令だ」

「お前は……?」

 エルが左手に短剣を持って脅す。

 左……。

「誰の命令だ」

「知らない、俺たちは、ただ、雇われて……」

「盗賊ギルドか」

「そうだ」

 盗賊ギルド?

 エルが短剣を戻して鎧の人から手を放す。そして、何故か銀貨を出した。

「目的は」

「貴族の娘を誘拐して来いって言われたんだよ。そいつ、本当に貴族の娘なのか?」

 誘拐?

 え?私、貴族だと思われて、誘拐されそうになってたの?

 エルが銀貨を放り投げると、鎧の人が銀貨を手に取った。

「通報はしないでやる。次はない。……行くぞ」

 立ち上がったエルが私の方に来て、私の手を引く。

「どうして、銀貨をあげたの?」

「情報料だよ。下っ端連中なんて、金さえ払えばいくらでも情報を吐くからな」

 情報量の相場は銀貨一枚……?

「メラニー。尾行は?」

『近くに怪しい者は居ない』

 エルは、ずっと不機嫌だ。

 怒らせちゃった。

 私が貴族、つまり上級市民であることを知ってるのはキルナ村の人たちだ。でも、村の人たちはもう関係ないよね。他に知っているのは偽物の黄昏の魔法使いとその仲間。その人たちに頼まれて、盗賊ギルドの人が私を誘拐しようとした?

 どうして、そんなこと。私は貴族じゃないし、私を誘拐したってどうしようもないのに。

 

 ※

 

 エルが立ち止まる。

 この建物に入るの?

「ここは?」

「盗賊ギルドだよ」

「えっ?」 

 どうして?

 エルに手を引かれて、ギルドの中に入る。

 ……煙たい。

 目つきの悪い人がたくさん、こっちを睨んでる。その間を通って、エルと一緒にカウンターへ。カウンターに居るってことは、この人は盗賊ギルドのギルドマスターなのかな。

「情報を買いに来た」

「……あんた、本物か」

 本物?

 どういう意味だろう。

「ここ最近、やたらと羽振りの良い商人が居るだろ。そいつの情報をくれ」

「さぁ。誰のことだかわからないな」

「しらばっくれるな」

 エルがカウンターの上に、銀貨を二枚並べる。

「近々、上級市民になる予定の奴だ」

「良く知ってるな」

 上級市民に、なる?

 どういうこと?

―女王の恩情の厚い家系らしいな。

 上級市民って、古くからある家系を指してるんじゃなかったっけ。キルナ村の人たちだって、私のことを女王縁の家系だと思っていたはずだ。

 でも、エルが今言ってるのは違う。羽振りが良いってことは、お金持ちの商人は上級市民になれるってこと?ポルトペスタではそういう認識なのかな。

 だから、私をお金持ちの家の娘だと思って誘拐しようとした?

「そいつの情報を売ってくれ」

「どんな情報が欲しいんだ」

「価格に見合った情報で良い」

 ギルドマスターが、紙に名前を書く。この人が上級市民になるの?

「銀貨を二枚も払うのに、それだけ?」

「うちは羽振りが良くないんでね」

「そんなどこでも手に入る情報なんて要らないな」

 エルが並べた銀貨を取る。知ってる情報だったのかな。

「おいおい、情報が欲しいんじゃなかったのか」

「要らないね。お前たちの仲間は、女一人を誘拐し損ねた上に、返り討ちにあった挙句、盗賊ギルドの依頼だってばらしたんだぞ。その上、銀貨二枚で名前しか教えないなんて。ろくなギルドじゃないな」

「!」

 明確な敵意を感じて、リュヌリアンに手をかける。狭い屋内だけど、リュヌリアンを振り回せるぐらいのスペースはある。大丈夫。戦える。

 エルも炎の魔法を浮かべてる。

「お前ら、こいつには手を出すな」

 まだ敵意は感じるけど、全員、武器を下ろした。

「エルロック」

 あれ……?

「手を引けって言いに来たのか?」

 エル、名乗ったっけ?

「貴族の情報は忘れろ」

 貴族。たぶん、私のことだよね。

「お前が噛んでたって知ってりゃあ、もう少し値を上げたんだがな」

 周りの人たちの敵意が消えて、エルも浮かべていた魔法を消した。

 私も質問して良いかな。

「この人、本当に上級市民になれるんですか?」

 ギルドマスターが笑う。

「本物の上級市民には遠く及ばないが、一代限りの上級市民ってのはいるもんだぜ」

 急にエルに手を引かれて、よろける。

「行くぞ」

「あの、ありがとうございました」

 ギルドマスターに頭を下げると、ギルドマスターが私に手を振ってくれた。

 そんなに悪い人たちじゃないのかな。ちゃんと話し合いで終わったみたいだし。

 でも、どうしてエルの名前を知ってたんだろう。


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