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014 薪割り

「リリー、起きろ」

「ん……」

 誰かが私の頭を撫でる。

 ……エル?

 まだ、上手く目が開かない……。

 隣に居たエルがベッドから出て。

 カーテンが開く音と共に、眩しい光が部屋の中に差し込んだ。

 朝だ。

「ほら。集まれ」

 魔力の集中をするんだ。

 今日は窓を開けないらしい。

 ……気持ち良い。

 窓を開かなくても、部屋の空気をこれだけ変えられちゃうなんて。

 エルって、やっぱりすごいよね。

『どうかしました?』

「いや……」

 どうしたんだろう。

 体を起こして、エルの方を見る。

 金色の光。

 今は、前に見たのと同じ眩しい輝きをしてる。

 あの輝きを完全に取り戻すには、丸一日必要なんだ。

 エルが目を開く。

「おはよう、エル」

 良かった。

 元気そう。

「おはよう。リリー」

 エルが微笑む。

 

 ※

 

 支度をして部屋を出て、シフさんを手伝おうと思ったのだけど。

「こっちは大丈夫だよ。これからたくさん歩くのだから、休んでおくと良い。お昼のサンドイッチも作ってあげるからね」

「ありがとうございます」

 手伝うことはないみたいだ。

 どうしようかな。

「暇なら、外を散歩してきたらどうだい。トールも外に居るよ」

「わかりました」

 なら、トールさんのお手伝いをしようかな。

 

 部屋に戻ると、本を読んでいたエルが顔を上げた。

「おかえり」

「うん」

 リュヌリアンを持って、温かい毛皮のマントを着る。

「どこに行くつもりだ?」

「外」

 手伝えること、あると良いな。

「俺も行く」

 エルも来るらしい。

 

 ※

 

「冷たい」

 朝の新鮮な空気。

 朝の匂いがする。

 すごく透き通ってて、冷たい。

 それに、雪の精霊もたくさん飛んでる。

『あ。昨日の子』

『埋まってた娘だ』

 私のこと、知ってる?

『元気になった?』

「うん」

『もう元気になったわ』

 エルから出てきたナターシャが答える。

『あれ?もう帰って来たの?』

『人間と契約したのに』

『これから出発なのよ』

『ふぅん』

 ナターシャの友達?

「リリー。ここに居るのは、昨日、雪山でリリーを助けてくれた精霊たちだ。ナターシャも、その一人だったんだよ」

 そっか。だから、私のことを知ってたんだ。

 雪の精霊たちを見る。

「皆、助けてくれてありがとう」

『可愛い娘』

『命を大切にね』

「うん」

 良かった。お礼を伝えられて。

「ナターシャも、ありがとう」

『良いのよ。おかげで、エルと契約できたんだもの』

「え?」

「ナターシャとは契約したばかりなんだよ」

「そうだったんだ」

 雪の精霊たちが家の裏に向かって飛んで行く。あっちに何かあるのかな。

『リリー。どこに行くのさ』

 雪の精霊が向かった方に行くと、トールさんが居た。

 斧で木材を割って、暖炉用の薪を作ってるみたいだ。トールさんが振り返る。

「君たちか。おはよう」

「おはようございます」

「おはよう」

 雪の精霊たちは、トールさんの近くに集まってる。

「トールさんって、雪の精霊と仲が良いんですか?」

「山の精霊のことかい。姿は見えなくても、精霊の存在は感じているよ。君たちが助かったのも精霊のお導きだからね」

 トールさんも魔法使いの素質がある人ってこと?でも、魔法使いの光はないし、精霊とは契約してなさそうだよね。

 トールさんが別の木材を持って来て、斧で割っている。あれぐらいなら私も出来そうだ。

「私、手伝います」

「君が?」

「はい。斧、借りても良いですか?」

「この斧は、かなり重いが……」

「大丈夫です」

 トールさんから斧を貰う。

「君は力持ちなんだね」

 これぐらいなら平気。

「これを斬るんですよね」

 さっきぐらいの大きさに。

 木を上に向かって投げて、四等分に……。

「おぉ」

 出来た。

『リリー。散らかし過ぎ』

「あっ。……薪は、どこに置いたら良いですか?」

「あの壁に並べておいてくれると助かるよ」

 出来上がったものを積むところが、ちゃんとある。

「片付けは俺がやっておく。ほら、リリー」

 エルが投げた木を切る。

 今度は少し大きいから、四等分にして、横も一回、斬ろう。

「薪割りは俺たちでやっておくから、トールは休んでてくれ」

「では、頼もうかな」

 エルが投げてくれた木を、また斬る。

 楽しい。

 今度は、少し遠い場所に投げられた。

 その場所は間に合う。四等分……。少し大きいから、五等分にしよう。

「疲れたら言えよ」

「大丈夫」

 まだまだ足りない。

「イリス」

『心配しなくても大丈夫だよ。いつものことだから』

「いつものこと?」

『剣の鍛錬の一種だと思ってるんだよ』

 良い運動になりそう。

 エルの方を見ると、エルがまた木を投げる。

 これも少し大きめだから……。

 だめ。失敗。バランスが悪くなっちゃった。

「リリー」

「何?」

「今のは小さ過ぎだ。これぐらいのサイズに合わせてくれ」

 あの大きさが正解の大きさ。

「剣でやっても良い?」

「良いよ」

 リュヌリアンなら、もっと上手くできるはず。

 エルが投げた木をリュヌリアンで斬る。

 うん。やっぱり、こっちの方が楽。

「すごいな」

「ありがとう」

 褒められちゃった。

『早く片付けないとぉ、終わらないんじゃなぁい?』

『そうだねー』

 周りを見ると、斬った木材が散らばってる。

「片付け、手伝った方が良い?」

「もう少し斬ってからで良いよ。ほら」

 エルが投げた木に向かって剣を振る。

 ……楽しい。


「お二人さん。朝ご飯が出来たよ」

 シフさんだ。

「おやまぁ。すごい量を斬ったね」

「すみません……」

 あちこちにばらまきながら斬ってしまったから、全然、片付けが終わってない。

「良いんだよ。薪はいくらあっても困らないから。むしろ、これだけやってくれて助かったよ。さぁ、お腹空いただろう。片付けは良いから、早くおいで」

 良いのかな。

「リリー、行くぞ」

「うん」

 後で、忘れずに片付けに来よう。


 ※

 

 あぁ、美味しい。

 濃い味のスープにパンを絡めて食べる。運動の後のごはんは美味しい。

「世話になったな。他に手伝うことはないか?」

「私もお手伝いします」

「薪割りも手伝ってもらったし、充分だよ」

「そうだよ。これから出かけるんだから、少し休んでお行き」

「でも……」

「気にしなくて良いんだよ。また、気が向いたら村に遊びにおいで」

 シフさんが微笑む。

 オクソル村。

 もう一度、ここを訪れることはあるのかな。

 ……もう、城には帰らないって決めているのに。

「今日は天気が良いから、山道もそれほど危険はないだろう。でも、キルナ村を目指すなら午前中に出発した方が良い。出かける時は声をかけておくれ」

「はい」

「わかった」

 

 ※

 

 朝御飯も食べたし、外の薪の片付けも終わった。荷物の整理をしたら出発だ。

 と、思ったのに、エルが変わったものをベッドの上に並べてる。

「エル、それは?」

「香辛料だよ。使ったら料理に深みや香りを与えるし、売っても高値で取引される」

 料理の材料を持ち歩いてるの?

「エルは、料理するの?」

「家に居る時はするよ」

 料理までできるんだ。本当に何でもできる人だよね。

「エルの家って、どこにあるの?」

「ラングリオンの王都だ」

「ラングリオン?」

 オービュミル大陸の東にある、大陸で一番大きな国だ。

「確か、砂漠の国だよね?」

「砂漠はラングリオンの領地じゃない」

「そうなの?」

 東の端にあるオリエンス砂漠は、ラングリオン王国の領地って習ったような……。

「砂漠は、遊牧民の土地として独立してるんだ。……砂漠に入るには、ラングリオンの市民証や許可証が必要だけど」

 ラングリオンが管理してるのに、ラングリオンの領地じゃないの?

 ……難しい。

 でも、ラングリオンの人が違うって言うなら、違うんだよね。

『リリー。それよりも、ラングリオンは有名なことがない?』

「有名なこと?」

 ラングリオンは大陸で一番古い国で……。

「あ、騎士の国」

「そうだよ」

 騎士物語がたくさん書かれてる場所だ。

 騎士と貴婦人の恋愛話とかも多いよね。

「私、ラングリオンに行ってみたい」

 ラングリオンはずっと東。グラシアルからも遠い国だ。

「じゃあ、ポルトぺスタからペルラ港に向かって、船でラングリオンまで行くか」

「船で?」

「乗りたいって言ってただろ?北方大陸航路って言って、グラシアルのペルラ港、ディラッシュのニヨルド港、ティルフィグンのジャヌス港、ラングリオンの北の港は定期航路になってるんだ」

 どこも有名な港だ。

「あれ?ラングリオンの港って、北の港って名前だったっけ?」

「正式な名前はオーブ港。でも、王都の北にあるから、皆、北の港って呼んでるんだ」

「そうなんだ」

 なら、呼び方はそっちで合わせた方が良いのかな。

「でも、まずはポルトぺスタだ。キルナ村近辺には賊が占拠してる古い城があるから気を付けて進むぞ」

「賊をやっつけに行くの?」

 こっちを見たエルが眉をひそめる。

「行くわけないだろ。なんで、頼まれてもいない仕事をしなくちゃいけないんだよ」

「だって、悪い人とか亜精霊をやっつけるのも、冒険者の仕事なんだよね?」

 雪山でも率先して戦いに行っていたし、亜精霊と戦ったことがあるって言っていたし。そういった仕事にも慣れてそうだ。

「冒険者は、ギルドで依頼を受けてから仕事をするんだよ。ギルドを通さない頼み事なんて引き受けない。だいたい、賊の討伐なんて騎士団の仕事だろ。なんで俺が……」

『エル。それってぇ……』

「言うな」

 騎士団の仕事だからやらないの?

『じゃあ、賭けをしましょうか』

「やめろ」

 エイダが笑う。

「賭けって?」

『エルはぁ。賭けに弱いのよぅ』

 賭けって、強いとか弱いとかあるものだっけ?

「リリー。準備は整ったか?」

「うん」

「なら、出発するぞ」

 あれ?さっき出した香辛料が置きっぱなしだ。

「その香辛料は?」

「宿代の代わりに置いていくんだよ」

 香辛料は高値で取り引きされるから?

「そっか。そういうお礼の仕方もあるんだね」

「礼儀だよ。世話になったからな」

 礼儀。

 大事なことだよね。

 私もエルにちゃんとお礼をしたい。

 ……お金も返さなきゃ。



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