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012 残してきたもの

「リリ…………は?」

『とっくに……めて元……よ』

 声……?

「リリー」

「んん……」

 眠い……。

「リリー。起きろ」

 誰かが私の頭を撫でる。

 優しくて大きな手。

 起きなくちゃ。

 体を起こす。

 私、何してたんだっけ?

 ベッドの横の椅子に座って、エルが起きるのを待ってて……。

 そっか。そのままベッドに突っ伏して寝ちゃったんだ。

 あれ?

 じゃあ、私を起こしたのは……。

 金色の光。

「エル、気が付いたの?」

 エルが起きてる。

「それは、こっちの台詞……」

「良かった」

 エルの金色の輝きに顔を寄せる。

 戻ってる。

 初めて見た時ほどの強さはないけど、ちゃんと魔力が戻ってきてる。

「ごめんなさい。私のせいで、こんなことになって」

 気を失うような事させて、ごめんなさい。

 怖かった。

 このまま目覚めなかったらどうしようって。

「ごめんなさい。いっぱい迷惑かけて」

 でも、呪いのことは言えない。

 話したくない。

 ……嫌われたくない。

「ごめんなさい。もし、私と一緒に居るのが嫌になったら、いつでも言って。私……」

 もう、こんなことしたくない。

「リリー」

 包み込むように頬に触れられてエルを見上げる。けど、視界がぼやけて何も見えない。

「無事でいてくれて、ありがとう」

「え?」

 エルが私の目元に触れて、私の涙を拭う。

「守ってくれって言っただろ?」

「でも、私……」

 抱きしめられた。

 ……温かい。

 雪に埋もれて凍えながら死を覚悟したはずの私は、今……。

 生きてる。

「エル……。助けてくれて、ありがとう」

 死にたくなかった。

 生きたいって思ってしまった。

 私には、三年しかないってわかってるのに。

 やりたいことがたくさん出来て。

 エルともっと一緒に居たいって思って。

 だから、生きたいって……。

『シフだ』

 エルと契約してる闇の精霊の声だ。

「どうぞ」

 エルが言うと、シフさんが入って来た。

 本当に、シフさんだったんだ。

「あら。お邪魔だった?」

「え?」

「え?」

 あ、私……。

 慌てて、エルから少し離れる。

「夕飯の用意が出来たよ。食べにおいで」

「はい」

「わかった」

 もう、そんな時間だったんだ。

 瞼に溜まっていた涙を拭いていると、シフさんが部屋を出る音がした。

「あ、あの……。ごめんなさい」

 きっと、勘違いされちゃったよね。

 どうしよう?

 また、顔に触れられてエルを見ると、真っ直ぐに見つめ返された。

「えっ?」

 待って。そんな真っ直ぐ見つめられたら、私……。

「あの……」

「手を見せて」

 手?

 エルの方に手を出すと、エルが私の両手を掴む。

「痛みはないか?」

 痛み?

「痛くないけど……」

「足も?」

「足?」

 それは、足も見たいってこと?

「どうして、そんなこと聞くの?」

「凍傷にかかってないか見てるんだよ」

 とうしょう……?

 凍傷!

「大丈夫。どこも痛くないよ」

 私の体を心配していただけだった。

「寒気は?」

「大丈夫……。もう、温まったから」

 ものすごく。

 せめて、見つめる前に一言言って欲しかった。あんなに真っ直ぐ見つめてくるなんて。まだ顔が熱い。

「エルって、お医者さんなの?」

「違う」

 違うの?

 あぁ。ドキドキが止まらない。

 

 ※

 

 何とか気持ちを落ち着かせて、エルと一緒に部屋を出る。

 あたたかくて良い匂いがする。

「二人とも、元気になったようだね」

「トール」

 この人がトールさん?

 すごく大きな人だ。

『リリーの恩人だよ』

「トールさん。助けてくれて、ありがとうございました」

 トールさんに向かって、お辞儀をする。

「気にすることはない。お客さんは、いつでも歓迎だよ。元気になったようで本当に良かった」

「ほら、座って。せっかくの料理が冷めてしまうよ」

 テーブルいっぱいに、たくさんの料理が並んでいる。

「わぁ。美味しそう」

 キャベツと肉を煮込んだ大鍋に、ソーセージやチーズ、それから、スライスしたパンが……。

 パン?

「あっ、ランチ用に買ったパン、どうしよう?」

 せっかく買ってもらったのに。

「あれも早めに食べないとな」

『部屋に置いてありますね』

「私、持ってくる」

『待って、リリー』

 

 エイダと一緒に寝室に戻る。パンはどこに仕舞ったんだっけ?

 ……あった。でも、ちょっと潰れてる。

『仕方ないんじゃない。それどころじゃなかったんだし』

 そうだよね。確か、食べ物はアイテム袋には入れられないはずだ。

 保存食のビスケットだけ別の包みに入れて残しておこう。

『リリー。あなたに返さなきゃいけないものがあるの』

 エイダが私に?

 なんだろう。

 顕現したエイダが出したのは……。

「リュヌリアン!エイダが預かってくれてたの?」

「えぇ。エルはあなたを抱えていたし、かなり重いものだったから」

「ありがとう」

 エイダからリュヌリアンを受け取る。

 良かった。この重みを感じると安心する。

 大丈夫。

 これがあれば戦える。

 自信を持てる。

『こんなところで振り回さないでよ』

「わかってるよ」

 ここは寝室だ。

『なら、良いけど』

 えっと……。ベッドの脇に置いておこうかな。床にリュヌリアンを置いて、パンを持って部屋を出る。


 シフさんは……。居た。

 台所に居るシフさんの所に行く。

「シフさん。このパン、城下街で買ったんですけど、食べそびれちゃって」

「美味しそうだね。いくつか切って夕飯に出そうか」

「お願いします」

 シフさんにパンを渡す。

「お酒は飲むかい」

『お酒はやめなよ』

 言われなくたって飲まないよ。

「飲まないです」

「なら、私が作ったハーブ水はどうだい」

 自家製のハーブ水だ。

「良い香り……。頂きます」

 シフさんが陶器のコップにハーブ水と氷を注いでくれた。

「ありがとうございます」

「こっちのラガーは、あの子に持って行ってくれるかい」

「わかりました」

 陶器のコップに入った泡のお酒。エルがポールさんと飲んでたのと同じお酒だよね。好きなのかな。

 ラガーとハーブ水を持って食卓へ行く。

「はい、エル」

 エルの前にコップを置くと、エルが私のコップを見る。

「そっちは?」

 エルにコップを見せる。

「シフさんが作った自家製ハーブ水だよ」

「ハーブ水か」

 良い香りだよね。

「さぁ、乾杯をしよう」

 エルの隣に座ると、パンを並べたシフさんも席に着いた。それを見計らって、トールさんがコップを掲げる。

「精霊のお客さんに、乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

 

 ※

 

 食事は、どれもすごく美味しかった。

 キャベツと羊肉のスープは城でも食べたことがあったし、使っている材料も同じはずなのに、シフさんの料理は私が知っているのと違う味がした。優しくて、とてもあたたかくなる味。

 不思議。

 そういえば、メロンパンもそうだったっけ。

 私が作るもの、城で用意されるもの、城の街のパン屋さんのもの。それぞれ違う味だ。夕飯に食べたのもそう。食感も、大きさも、色や形も少しずつ違う。

 でも、どれも美味しい。

 他の街でも違うのかな。

 

 夕食の後、シフさんがお風呂の準備をしてくれた。エルに先に入ってもらって、夕飯の片づけを手伝う。

「ふふふ。娘が帰って来たみたいだね」

「娘?」

「あぁ。成人してすぐ村を出てしまってね」

「え?ここも、成人したら外に出なくちゃいけない決まりがあるんですか?」

「えぇ?」

 シフさんが笑う。

『リリー』

 あ……。

「あなたの生まれた場所は、そんな決まりがあったのかい」

「えっと……」

『城のルールと外のルールは違うんだ。変なことは言わないでよ』

「ルールっていうか……。皆、そうしてて……」

「じゃあ、あなたも都会に憧れて出てきたんだね」

「……はい」

 違うけど、これ以上、何も話せない。

「うちの村はね。稼げはしないけど仕事はあるんだよ。だから、いくつになっても居て構わないんだ。でも、あの子は大人になったら村を出るんだって聞かなくってねぇ」

 旅に出たんだ。

「外の世界に憧れるのもわかるけどね。たまには親に顔を見せてあげなよ」

 親……?

「きっと、帰りを待ってるよ」

 帰りを待ってる人。

「はい」

 城の外は、想像以上に違うことが多い。

 

 ※

 

 エルと交代で、お風呂に入る。

 一人で入るのにぴったりな大きさのお風呂だ。

「凍傷になんて、なってないよね?」

 手も、足も。どこも変なところはない。

『大丈夫なんじゃない?』

 起きた時も、痛い所や痺れてるところなんてなかった。

『あのさ……。ボク、ここに居るだけで辛いんだけど』

 ……そうだった。

 氷の精霊は熱さに弱い。

 環境は顕現していない精霊にも影響してしまう。

「お風呂ぐらい一人で入れるから大丈夫だよ」

『本当に?のぼせないでよ?』

「うん」

 大丈夫。

 でも、外ではそんなにお風呂に入れないって聞いているから。ゆっくり浸かろう。

 

 あぁ、気持ち良かった。

 お風呂上がりに食卓を覗くと、エルとトールさんがお酒を飲みながら話をしていた。

 なんだか楽しそう。

 邪魔しない方が良いよね。

 シフさんは、まだ台所に居る。

「お風呂、ありがとうございました」

 すごく温まった。

「そりゃあ良かった。お茶でも淹れてあげようか?」

「はい。……あ、手伝います」

 何でも自分で出来るようにならなくちゃ。

「いいよ。そこにお座り。髪を拭いてあげよう」

 言われた通り椅子に座ると、お湯を沸かしながら、シフさんが私の濡れた髪をタオルで包む。

「艶のある綺麗な髪だね。大切に育てられた感じがするわ」

 大切にしてもらって来た。ずっと。

 皆、優しかった。

「あの……。娘さんに会いたいですか?」

「そうだねぇ。元気でやっているか、いつも心配だよ」

 ソニアもきっと心配してるよね。

「あまり帰って来ない子だけど、手紙はくれるんだ。うちの人が街に木を運んだ時に、街の郵便屋から受け取るんだよ」

 手紙……。

 そっか。手紙は書けるよね。

「私も、手紙、出してみます」

 帰れなくても手紙ぐらいなら出せる。

「そうだね。きっと、喜ぶよ」

 郵便屋って何だろう。

 どうやって手紙を届けてくれるのかな。

 後で、エルに聞いてみよう。

 

 ※

 

 紅茶を貰って、寝室に戻る。

「ねぇ、イリス」

『どうしたの?』

「シフさんって、娘さんが成人するまで、娘さんと一緒に住んでたんだよね?」

『そうみたいだね』

 やっぱり、それが当たり前なのかな。

 私がこれまでに読んだ物語だって、血の繋がった家族と生活しているのが当たり前のように描かれていた。

 皆、自分の親が誰なのか知っている。

 生まれてからずっと親と暮らしてる。

 でも……。

 私は何も知らない。

 

 

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