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Jeter un sort

Esprit congele

 

 

 

 私は、この時を待っていた。

 

 ずっと。

 あなたが来るこの時を。

 

 これで、すべてが終わる。

 

 


 世界の始まりの大陸、神の台座。

 そこは、オービュミル大陸の北西に位置する氷に覆われた大地だ。外海の巨大生物が往来する危険な海域に存在し、高くそびえる氷の断崖があらゆる侵入者を拒絶する。

 この完全に閉ざされた大陸を仰ぎ見る位置にあるのが、大陸北西部を支配するグラシアル女王国の女王の居城・プレザーブ城。ニフル海峡の荒波に削られた断崖絶壁の上にそびえ立つ白銀の美しい城だ。

 その城内のホールで、二人の剣士が剣を交えている。

 

王国暦六〇七年 ポアソンの十八日

 

「もう。少しは手加減してよ」

 私の大剣の攻撃をかわしたメルが、片手剣を振る。

 でも、甘い。

 攻撃を大剣の腹に当ててはじき、回転による遠心力を加えた一撃を放つ。私の攻撃を片手剣でガードしたメルは、吹き飛びながらも遠くで着地した。

 綺麗な着地だ。

「今の動き、良かったよ」

「本当?」

「うん」

 頷いて、剣を構え直す。

 仕切り直しだ。

 呼吸を整え、ツインテールに結んだ自分の長い黒髪の揺れが収まるのをしっかり待ってから、一気にメルとの間合いを詰めて大剣を軽く振る。メルは片手剣を縦に構えて防御した。

 良い反応。

 でも、鍔迫り合いは私が優位だ。そのまま押し切って、尻もちをついたメルの持っている片手剣を吹き飛ばす。

「私の勝ちだ」

 遠くで片手剣が落ちる金属音がホールに鳴り響いた。

「あー。負けちゃった」

 メルがため息を吐いて、青い瞳で私を見上げる。

「やっぱり、リリーは強いよね」

「ありがとう、メル」

 メルの手を引くと、メルが立ち上がる。

「ありがとう、リリー。剣、取ってくるね」

 飛んでいった片手剣の方へメルが走って行く。

 勝負はついた。

 愛剣・リュヌリアンを背の鞘に戻す。

 私の大剣は少し変わった形をしてる。大きさは私の身長ぐらいあって、刀身は片刃。ただし、曲線を描く先端部分だけは両刃という構造をしている。

 この剣の形状を包む鞘も、ちょっと特殊だ。通常の片手剣のように刀身のすべてを覆う構造になってはいなくて、刃を挟み込むように一片が開いた構造になっている。片側に強力な磁石を仕込んだ鞘になってるから、嵌めた剣が落っこちることはないって言っていたけど。こんな形だから、剣を納めるにも少しコツが要る。

 師匠が私の為に一年前に作ってくれた剣。

 剣術大会でも優勝できたし、もう使いこなせてると言って良いよね。

「おまたせ」

 片手剣を拾ったメルが戻ってきた。

「メル。約束は覚えてるよね?」

「わかってるよ。旅立ちの時に手伝えば良いんでしょ?」

「うん。お願い」

 メルが、もう一度、大きくため息を吐く。

「これで、私だけになっちゃうな」

「大丈夫だよ。メルだって、すぐに旅立ちの日が来るから」

 妹のメルリシアの頭を撫でる。

 私の身長は低いから、一つ下のメルとそんなに変わらない。髪も同じ黒だけど、私は結ばないと地面に着いてしまいそうなぐらい伸ばしているから、メルよりも長い。そして、瞳の色は違う。メルは綺麗な青色で私の瞳は真っ黒だ。顔だって、私たちは全然似てない。

 五人いる私たち姉妹に血の繋がりは一切ないからだ。でも、女王の娘に選ばれた日からずっと一緒に城で生活してる姉妹だ。

 ただし、女王の娘は成人を迎えたら、三年間、修行の旅に出る決まりになっている。王位継承者としての力を得る為に。

 でも……。

「でも、リリーは帰って来る気、ないんでしょ?」

 私は、王位継承なんて望んでない。

 ずっと、城の外に出られる日を待っていた。

「イーシャも帰って来ないよね」

 ディーリシア。

 女王の娘の長女として一番最初に修行の旅に出たけど、三年経過した今も帰っていない。

 帰還は義務なのに。

「約束を守らなかったら、どうなるのかな。リリーは知ってる?」

 メルが不安そうな顔をしてる。

 今、イーシャがどうなっているのか、城の魔法使いたちは誰も教えてくれないし、私も知らない。

「大丈夫だよ。案外、外で普通に暮らしてるのかもしれないよ」

「本当に?」

「うん。私、外に出たら皆を探してみる」

 長女のディーリシア。次女のアリシア。三女のポリシア。

 すでに、三人の姉が旅立っている。

「見つけたら教えて。私、皆に会いたい」

「わかった。手紙を書くよ」

「ありがとう。リリー」

 抱きついてきたメルを抱きしめ返す。

「リリー。もう一度会えるって、信じてる」

「……うん。私も」

 ごめんね。メル。

「リリーシア様」

 聞き慣れた声に呼ばれて振り返る。

「ソニア」

 女王の娘になってからずっと私のお世話をしてくれている魔法使い。

 迎えが来てしまった。

「行かなきゃ。メル、またね」

「うん。リリー、またね」

 メルに手を振って、ソニアが居る転移の魔法陣の方へ向かう。

『なんで、変に希望を持たせるようなこと言うんだよ』

 イリス。

 私の相棒の氷の精霊だ。

『誰も、女王に逆らうことなんてできない』

「わかってるよ」

 約束は絶対だ。

 守らなければ。

 女王に逆らえば、私たちは……。

「リリー」

 メルの声に振り返る。

「明日、言う暇ないかもしれないから言っておくね。誕生日おめでとう!」

「ありがとう、メル!」

 明日は私の誕生日だ。

 そして、旅立ちの日。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 メルに手を振ってから、ソニアが待つ転移の魔法陣の上に乗る。

「準備はよろしいですか?」

「うん」

「では、参りましょう」

 転移の魔法陣が起動する。

 

 プレザーブ城のあちこちに設置されている転移の魔法陣。

 この城は、あちこちの部屋や空間が完全に区切られていて、区画同士の繋がりが一切ないから、移動は転移の魔法陣を使うしかない。

 転移の魔法陣は特定の場所と特定の場所を繋いでるらしいけど、どれとどれが繋がっているのかは、いまいちわからない。

 そして、使うことが出来るのは魔法を使う許可を得ている魔法使いだけ。私も使うことは出来ないから、移動はいつもソニアに頼るしかない。

 

 いくつかの転移の魔法陣を使って、場所の移動を繰り返した先。

 

 ここは……。

 初めて来る場所だ。

 天井がドーム状になっている広い空間。

 中央の床には見たことのない複雑な魔法陣が描かれている。

 ここが女王の間の、前室?

 あの冷たい輝きを放つ扉の先が女王の間?

 あそこに女王が……?

「リリーシア」

「はい」

 呼ばれて、慌てて返事をする。

 扉の前に居るのは、全身を紅のローブで覆った女性だ。

「これより儀式を行う。リリーシア、魔法陣の中央へ」

「はい」

 言われた通り魔法陣の中央に向かって歩く。

 ……なんだか、嫌な感じがする。

 当たり前だよね。

 だって、これは呪いの為の魔法陣だ。

「誓いを」

「はい」

 深呼吸をする。

 これは、女王の娘の義務。

「呪いを受け入れ、次期女王となる為に三年後、帰還することを誓います」

 この言葉を言うことも義務。

「誓いを受け入れよう」

 魔法陣が赤みを帯びた黒い光を放つ。

 ……嫌だ。

 放たれた暗い光が、次々と体にまとわりついてくる。

 ……気持ち悪い。

 呪いなんて。

 でも、女王に逆らうなんて許されない。

 紅のローブに逆らうことも。

 これは、義務。

 

 まとわりつく黒い光がようやく収まる。

 いつの間にか座り込んでたらしい。

 立ち上がって、紅のローブを見る。

 ……顔が見えない。

 フードの中は真っ暗だ。

「儀式は完了した。明日、旅立て」

「はい」

「決して、誓いを忘れるな」

「はい」

 もう後戻りはできない。

 行こう。

 

 

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