Report.19 そして、ケモミミ少女
それからしばらくした後。
私とリリィは、お揃いの帽子を被って狩りに出かけていた。
彼女の頭を街の服屋で採寸してもらって、それからクロロを経由して、お祖母ちゃんに送ってもらったのである。
「かり、かり、おねえちゃんと、かり!」
そう言って体を弾ませるリリィと一緒に、アルトライン近郊の森を歩く。
エルノアの言葉を受けた私は、慎重に慎重を重ねた上で、リリィに鎮静弾を撃ち込んだ。痛みはないと分かっていても、幼い少女に拳銃を向けることに対する抵抗感は凄まじかったが、私を信じるリリィの真摯な眼差しに背を押され、半日かけてようやく引き金を引くことができた。
リリィの空腹感を和らげることには成功したものの、あまり頻繁に撃ち込むのも気が引けると嘆く私に、リタさんが代案として魔物食を勧めてくれた。微量ながらも魔力を含む魔物を食べればリリィの空腹感も軽減できるだろう、とのことだ。
かつての約束は守れなかった。
三日どころか随分と経ってしまったけれど、私はこの子の姉貴分として、こうして共に森を歩く。おままごとは教えられないけれど、狩りのことなら教えてあげられる。私にしかできないことで、彼女を喜ばせてあげることができる。その事実は単純に心地よくて、嬉しくて、そして何より幸せだった。
分からないことはたくさんある。聞きたいこともたくさんある。エルノアは、きっと私の知らないことをたくさん知っているのだろう。
始まりは、その必要に駆られたから。それでも冒険を続ける道すがら、胎樹に対する想いは募るばかりだった。謎に包まれた彼方には、私も知らない私を知るための何かがあるのではと、そう思い込んで突き進んできた。エルノアの言葉を聞いたとき、その直感が間違ってはいなかったのだとそう思った。
けれど、それらを問いただすのはもう少しだけ先延ばしにしたい。今はそんな気分だった。
「いい、リリィ? 『こちらに負けの目があるようならそんなものは狩りではない』、つまり、勝てる相手を選んで戦うのが、狩りの大前提なわけ」
リリィは私の言葉を聞いて、少し考え、笑いながら言う。
「なんかそれ、ひきょうだね」
その発想はなかった。
でも言葉尻だけを捉えると、確かになんだか卑怯者のそれだった。だからビビリのトリエは、村で一番狩りが上手かったわけだし。
「そうかもね。でも、それだけ安全を大事にしろ、ってことなの。私も、リリィのママも、パパも、皆リリィが大好きだから。分かる?」
リリィは照れるようにはにかんで、「うん」と小さく口にした。
「それから、獲物を狩ったら必ず祈るの」
「いのる?」
命を食べる。その重みに、彼女はずっと悩まされていた。
だけどこうして狩りを通じて、食事を通じて、命のあり方を学んでいく。自分という命の尊さを、人々の愛を知っていく。かつて私がそうだったように。
だから私は、未だ彼女が口にしたことのない祈りの言葉を伝えた。
「そ。『いただきます』ってね」
その日二人で食べたツノウサギの肉は、温かな優しさと、命の味がした。
ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
ひとまず書き上がっている分はここまでとなっています。
とある賞に応募してみようと本編を書き上げたのは一年以上前になりますが、次回作の構想が段々と出来上がってきたため、眠らせておくよりはと思い公開してみた次第です。
内容について、あるいは描写の過不足についてなどご意見ご感想お待ちしております!