早退
「聞いたか? 今村、過労で倒れたんだってよ。」
「ねぇ、聞いた?今村さん給湯室で倒れてたんですって。」
「今村さんの案件、いくつ残ってるんだ?」
連日の激務により疲労が蓄積したのであろう。
職場で意識を失っていたところを同僚に発見され、病院で診察が行われた。
結果は過労による高熱、寝不足、栄養不足により急遽、休みを摂ることになった。
「つくづくついていない…。」
ベッドに横たわりながら、口にした。
土日を利用したツアー、国内、海外(主にハワイなど)のパッケージツアー。
海外における現地ガイドの手配、通貨の両替などの説明、紛失時におけるトラベラーズチェック…
言い出したらキリがないが利用してくれる客の為、頭にひたすら叩き込んだ。
その一心で今日までを迎えてきたが…
新商品の案内、予算、宿泊先の手配
主に自分が請け負うのは2~3組の個人客、団体客だ。繁忙期は10組は持つことになる。
それぞれ内容が似ていたりすると、ごっちゃになって大惨事に繋がる。
それが今では身体を壊して水の泡。
別の社員や後輩たちに委託するハメに。
休み明けからまた最初からやり直しなのは本当にツラい。
最も、やり遂げたとしても同じことの繰り返しなのだが…
「…青葉ちゃんや□沢たちに悪いことしたな。」
そう嘆きながらも、どうすることもできないので目を瞑った。
それから程なくして、眠りにつきかけた時だった
ピンポーン
部屋のインターホンが鳴った
身体の節々の痛みを堪えつつ、玄関に立った。
「はい?」
「良太郎さん?」
「…えっ? 青葉ちゃん?」
徐にドアを開けるとそこには、
紛れもない枡川青葉という彼女が立っていた。
「なんで?」
「係長が教えてくれました。仮病かどうか確認してきてくれって。」
・・・(あの人やっぱりおかしい。)
「それに私も心配でしたので。」
「!?
…あ、ありがとう。でも、今日1日休んだら大丈夫だからさ。」
「ご飯とか食べれてます?
しっかり食事とかも摂れてないと思ったのでお粥の材料買ってきました。」
「えっ?」
「しっかり食べて休んだ方がいいですからね。」
「あ….
「という訳で台所お借りしますね。お邪魔します」
「あ、青葉ちゃん??部屋散らかってるんだけど…」
「丁度いい機会ですから、お掃除もさせてもらいます。」
そう言いながら彼女は部屋に入ってきた
「しかし俺の家よく分かったね。誰に聞いたの?」
「それも係長が教えてくれました。
とにかく仕事は任せて、休んでおけって、復帰したら、また倍に仕事させてあげるからって伝言も預かってきました」
(…うん、やっぱりあの人も病気なんだな。)
「そんな訳で、良太郎さんはしっかり食べて休んでくださいね」
「何だかごめんね、
ありがとう。じゃあ悪いけど頼むよ。」
「任せて下さい。料理は得意なので….
しかし良太郎さん、普段からこんなの食べてるんですか?」
「自炊は昔から苦手でね。普段は近所のスーパーかコンビニの弁当とか外で食べることが多くてね。
ただ最近は仕事が終わるのが遅くて、どうしてもカップ麺とかで済ませちゃってたんだよね。」
「それじゃ、身体も壊しちゃいますよね。
さて、お粥出来るまで横になっててください」
「うん。それじゃ、お願いします。」
出来上がるまで、休ませてもらうことにした。
それからほどなくして、青葉ちゃんが声をかけてくれた。
「良太郎さん、お待たせしました。」
「ん~…あ、寝ちゃってた。
結構、寝れたような…」
「20分ぐらいでしたけど、結構熟睡してましたよ。よっぽど、疲れてたんですね。」
「そんな時間? 1時間寝たような間隔だよ(笑)」
そう言いながら寝床から起き上がり、リビングへ移動した。
ベッドで休んでいた間にも掃除もしてくれていたようで綺麗にされたテーブルの上に
優しい香りのするお粥と処方された薬が置いてあった。
「部屋の掃除もしてくれてたんだね。
何から何までありがとう。」
「清潔な環境の方が食事も喉を通りやすいでしょうし、治りも早いと思って。」
「汚い部屋も綺麗にしてくださりまして(笑)」
「いいですから!さぁ召し上がってくださいまし。」
「じゃあ、お言葉に甘えまして、いただきます。」
「召し上がれ。」
・
・
「うん、美味しい。」
「ふふ、よかったです」
「生姜がきいてて、温まるよ。
料理上手だね青葉ちゃん。」
「子供の頃から稽古事で習っていたので、一通り作れるんですよね。大学の時も教職課程
で家庭科を専攻したんですよ」
「そうだったんだ、すごいね。しかし料理も掃除も洗濯までやってもらっちゃって悪いね。」
「いいんですよ。こういう時にこそ活用できるので一石二鳥ですよ」
「仕事の方とか引き継ぎしないで休んじゃったけど、誰がやってくれてるのかな?」
「□沢くんや○山くんたちが引き継いでくれてるみたいなので大丈夫だと思いますよ」
「あぁ…じゃあ大丈夫か。同僚たちだったら要領悪くて、捗らないだろうからな。
青葉ちゃんの方は仕事抜けてきて大丈夫だったの?」
「私の方は問題ないですよ、今日の仕事はほぼ終わらせてきたし、残りの仕事とかは先輩たちに任せてきたので。
それに良太郎さんの容態も気になってたので仕事どころじゃなかったですし。」
「えっ!?」




