逃亡
「大体よ、たまたまステージに立たせてもらって自分の十八番歌ったからって大した自慢にはならないぜ。
ステージに立ちたくて努力してる奴なんて世の中たくさんいんだからよ!」
「いつ私が自慢なんてした?
大体、歌手を目指してる訳じゃないんだからバンドマンの人たちと一緒にしないでいただけるかしら?
何ならあなただって歌手ではない只の一会社員じゃないですこと?」
「おうおう、じゃそういうお前さんはのど自慢大会に出場したOLさんだね。
まぁ、その方がよく似合ってるよ。
精進なされませや。」
今度は繁治が悪酔いとは。
何時ぞやの梨江子といい酒癖の悪い人が続くな。
この場に居合わせた一同、もういい加減この流れにも飽きてきた。
二人が喧嘩するのはどうでもいい。とことんやればいいとさえ思い始めた。しかし、公衆の面前で、ましてや二人は先程までステージで歌唱対決をしていた二人だ。
大声で人目を憚らずに喧嘩しているのが情けなく、隣にいて恥ずかしい。
どうやって止めるか、どうしたらこの二人が折れるか必死に考えても答えが見つからない。
始まってから数分経って、
須田が急遽、電話があったか裏の方へ行っているのに気づいた。
そこであまり、よくはないが自分達も外へ出て二人を置いて行けばいいのではと考えてしまった。
後日、須田には誠心誠意謝って事なきを得れば良しと自分勝手に解釈を進めてしまっていた。
丁度二人の方に皆、視線が向いていたので
こっそりと気づかれないように近くの席に移り、自身の飲み残しを飲み干し、こっそりと出口へ向かった。
結果は大成功と思い、ゆっくりと振り返ったが青葉と友枝がこちらを見ていてしっかり目があっていた。
青葉と友枝には既に気づかれていた。
しかし、二人は分かっていて告げ口をせず、
同じようにこっそりとこちらへ静かに移動してきた。
入り口を抜け、店を後にした。
「いつから気づいてたの?」
「お酒を飲み干した時から」
「様子が変だなと思って、二人で目配せしてたの。そしたら案の定席を離れて帰ろうとしてたものだから。」
「いや~。皆には悪いけど、もう二人の仲裁入るの疲れてきてね。酒も入ってるから眠くなってきたし、あとは孝輔が面倒みてくれると思ったからさ、こっそりと抜け出そうとしちゃったんだよね。」
「まぁ、あれだけやり合って、まだやり合う訳だから流石にしんどいわよね。」
「良太郎さんも帰るなら一言言ってほしかったですけどね」
「ごめんごめん。一緒に帰ることになるとは思わなかったけど。
でも、帰りたくもなるでしょ?あれは。
明日の朝まで続くよ。
それぞれ、翌日は仕事控えてる訳だし。」
「まぁ、それもそうよね。
あの二人に付き合ってたら運気も吸い取られそうだしね。」
「なんてたってあの二人はお似合いのカップルだもんねww」
「そうだよね! 痴話喧嘩見すぎてて、すっかり忘れてたけど、よく考えたらあの二人は花束受け取った張本人たちだもんな。」
「いい思い出になったんじゃない?あの二人w
w 」
と抜け出した僕ら3人は今も尚戦っているであろう二人を小馬鹿にしながら、一足早く店を後にし家路へに着いた。




