花束②
「で、どうだった?幸せを手にしたときの感想は?嬉しかったんだろう?」
酒を片手にニヤニヤしながら孝輔は聞いてきた。
「ちっとも嬉しくなんかねえよ。花束持った相手があの女なんだから喜ぶ訳ねえだろ」
あの結婚式から数週間が経った。
以来こうして酒の席では毎度のように孝輔に弄られるのが定番となりつつあった。
その時、俺は孝輔、良太郎、春雄の隣に間違いなくいた。
しかし、ブーケが宙を舞った瞬間にあっという間に前へ押されていた。
結婚式とはいえ、周囲にいた参列者の大半はこの催し物の為に集まったといっても過言ではないほど、真剣になっていた。
高々、つい今しがた契りを交わした者同士の投げた花束を手にしたら幸せになれるというハッタリを信じているからである。
かくいう俺は別に信じてはいない。
当たったら当たったでそれはそれで嬉しいが、期待はしていなかった。
しかし、今
その信じていない俺が花束を掴んでいる。
本来であれば、ラッキーな感じになるのだろうが、そうではない。
なぜならもう一方の花束を三沙が手にしているからである。
(嘘だろ?!)
(嘘でしょ?!)
(( 何でこいつが!? ))
祝福しに来て、こういったイベント事があり、記念にとっておきたいと思った。
そして、自分の所へ来てと願ったら、本当に自分の手のひらへ来てしまった。
嬉しかったけど、今この瞬間から変わってしまった。なぜなら、もう一方を手にしたのが、彼だったからである。
「おめでとうございます!
栄えある幸せを掴んだお二人に盛大な拍手を!!」
パチパチパチパチ
場内の出席者たちの盛大な拍手に囲まれ、
祝福ムードを壊す訳にはいかないと二人はぎこちないながらも笑顔を作り、周囲にお辞儀をしていた。
そして、チラリと繁治は孝輔たちの方に目を配ると、孝輔と良太郎はニヤリと憎たらしい笑みを向けながら拍手をしていた。春雄は悔しそうに歯を食いしばりながら拍手をしていた。
一方の三沙はというと、
張り切って前の方へ進んだ梨江子に促されつつ前に出たこともあって、友枝と青葉とは距離が離れていた。
二人とも口をポカンと開けながら、こちらを観ていた。対して梨江子はチャンスを掴み損ねたのと相手が繁治だったこともあって意気消沈していた。
そして、ほどなくして余興の終了のスピーチが終わり、参席者一同が会食のある場所へ移動を始めた。
園内に残ったのはいつもの面々。
そして、開口一番に孝輔が口を開いた。
「お前たち、幸せ者だな! こんなめでたい席で花嫁さんたちに次ぐぐらい幸せを手にしたんだからな!」
「何はともあれ。よかったね。」
良太郎も口にした。
そして、友枝も
「とりあえず、おめでとう。三沙もなんだかんだ乗り気になって取りに行ってたじゃない?」
青葉も
「おめでとう。よくやったね。」
梨江子はというと
「あと少しだったのに……。
私がとってたら、繁治さんと…」
春雄も
「おい、繁治!お前ばっかりズルいぞ!!
そろそろ俺に変わってくれてもいいじゃないか?!」
「はぁ!?そんなこと知らねえよ!!」
「まぁまぁ、これを機に二人とも親睦を深めるのもいいじゃないか?」と孝輔が提案した。
「えっ…ちょっと孝輔さん、」と三沙がもの言いたげに口を開こうとした瞬間、
「おいおい、冗談じゃねえよ孝輔。大体好きでもない人間同士がな、急に同じ花束手にしたからってすぐ仲良くなれる訳ないだろ!ましてやこんな気の強い奴と仲良くなれる訳ないだろう?おまえだって俺の女の好み知ってるだろうがよ?!」
「はぁ!?こっちだってあんたみたいな品のないギザな男なんて興味ないわよ!」
「なんだとどういう意味だ!?」
流石に我慢ならなかったか、三沙の強烈な一言でヒートアップし出した。
いずれは起こりうると予想していたこの場面についに直面してしまった。
今までにも起こりそうな場面は何度かあったが、その時は春雄と梨江子の件があったり、お互いが違う相手と一緒だったのもあって
免れていたが…
やはり、こうして見ると気の強い人間同士中々の迫力だ。
「まぁまぁ、二人とも折角の結婚式よ。
私たち皆、関係の深い人同士の一生に一度の日なんだから争ってる場合じゃないわよ。」
友枝が先陣をきって仲裁にはいった。
「そういうこと。とりあえずお二人さん。
式が終わるまで、お互い言い合いしないこと!」
もとはと言えば孝輔、お前の発言からこんなことになったんだぞ。
「ということで一時休戦ってことで。私たちも移動しましょ。」
「そういえば、ここの会場、食事が三ツ星並みに美味しいって雑誌で見たことある。」
青葉ちゃんも友枝に乗っかり話題を反らした。
そんな形で友枝が切り上げさせ、その場をあとにすることにした。
二人は互いにそっぽを向き、春雄と梨江子は
少し吹っ切れたか、食事の話題で気持ち前向きになっていた。
「そうだよな。今日は明彦の結婚式だもんな。俺が沈んでたらあいつに申し訳ないもんな。ようし、ご馳走いただいてあいつを祝福し直そ!!」
「彼女のウエディングドレスもっとしっかり目に焼き付けておきましょう!っと
そして次は私が…」
「今日は彼らにとって一生に一度の日のはずなのになんだか、すごい1日になっちゃったなぁ。」
「でも、なんだかんだでいい1日になりましたね。」
僕に続き、青葉ちゃんも続いた。
「さぁ、たくさんしゃべったら、お腹もすいてきたと思うし、皆、行こうか?」
最後はやはり孝輔が締め、その場を跡にした。




