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初日 後編

そんなこんなで波乱な一日で迎えた終業時刻

通用口から青葉ちゃんが出ていくのを見た。

(ちゃんと話を聞こう)ようやく声をかけることが出来ると思い跡を追った。

「あっ、あお…桝川さんお疲れ様です。」

「あっ、今村さんお疲れ様です。」

「少し、話をしたいんだけど…あ、いや、ここじゃマズイか…えー…この後、予定ある?」

ぎこちない問いかけになったが、彼女はすぐに返答した。

「いえ、特にないですけど、」

「良かった。じゃ、ちょっと喫茶店に行かない?」

「いいですよ。」

快く承諾してくれ喫茶店へ向かった。

その間、休日に会ったときとは別人のように

静かだった為、中々話かけれずにいたが、

思いきって話しかけてみた。

「朝からびっくりしたよ。新人が来るっていうんでドキドキしてたら、青葉ちゃんだったんだから。」

「・・・」

「あの…青…あっ、枡川さん?」

「…ふふっ!」

!?

「アハハハッ…ごめんなさい、ビックリさせようと思って直前まで黙ってました!」

「えっ?」

「仕事中の良太郎さんを一目見たかったのもあったんで。異動が決まってからも話さなかったんですよ。」


「…あはっ!何だ、そうだったのか!

ようやくいつもの青葉ちゃんに戻ってくれた。ビックリさせられたよ。」


「でも、何だってウチの営業所に。ここからだと自宅と結構距離あるんじゃない?」

「そんなことないですよ。距離でいうと前の職場とそこまで変わらないなので。」

「あぁ、ならよかった。」

「本音を言うと、良太郎さんと同じ職場なら大丈夫かなと思ったんです。」

「え?・・あっ、前の職場で嫌な事あった!?」

「知ってたんですか?」

聞いちゃマズかったか…。

「あ、いや、昼休憩の時に同期の二人に聞いてさ、千代田の話。大変だったみたいだね。」

「まぁ、色々とすごい環境でしたね。これが会社っていう場所なんだって自分に言い聞かせてましたけど」

「そうなんだ…」

話している最中に目的地の喫茶店に到着した。夜遅くまでやってるのでちょくちょく利用している、少し前に孝輔とお昼をとったりした。

いつも通り、俺はコーヒーを青葉ちゃんはホットティーを注文した。

席についてすぐ、話を戻した

「聞きにくいんだけど、前の職場ではどんなことがあったの?」

「私たち女性陣はまだマシな方でしたけど、

男性陣が一番の餌食になってました。」

「あぁ。そう。」

「男性陣なんて売上ノルマや顧客が少ないとかクドいぐらい小言言われたりしてましたし、女性陣も見えないところでセクハラされたり、しょっちゅう翌日まで残業をさせられたりした事もありましたね。」

「・・・信じられない。ウチの会社は翌日までなんて年末とか繁忙期でも基本しないのに、よく耐えてたね。僕らだったら耐えきれないで訴訟やってるよ。」

「私も何度かそういった場面がありましたよ、その度に揺さぶりをかけて切り抜けてましたから。」

「あの、そ…その揺さぶりってのは?」

「私、最初に入社した段階から知ってたんです。あの上司が色んな顧客や空港会社の人と不倫をしてたのを。他にも怪しい取引をしていた事」

「えっ!?」

そうだったのか、いや、何故彼女にはお見通しなんだ?

というか千代田の上司たちは一体何をしてるんだ?

利益の為、自分の為ならば何をしてもいいのか?

頭の中で疑問の連鎖が止まらなかった。

「しかし…」

「?」

「揺さぶりかけるって言ってもよく無事でいられたね? 相手によっては逆上されたりとか」

「ないない、ないですよ。こう見えて私、空手もやってたんで。それにいざとなったら、父の権力使おうと思ってたし。」

空手もやってたのか…。

「お父さん?」

「私の父、出資元の銀行の役員なんです。それもかなり上のポジションで」

「えっ?!」

またしても驚愕。

彼女はいくつ秘密を保持してるんだ?

「自慢じゃないですけど、父に一言いえばあの上司たちも首が飛んでたと思うので。

そうすればこの会社も只では済まなかったでしょうね(笑)」

「…はははっ…」

枡川青葉、

幼い見た目とは裏腹に恐ろしい女だと思った。

しかし、前に会った時…

「青葉ちゃん、前に教えてくれた…将来の進路で親と口論したっていう…」

「あぁ、あれですね。厳密に言えば、母となんですよね。父は仕事で帰りがよく遅くなる人だったので、教育の殆どは母に委ねてたんですよ。」

「あぁ…。」

そう答えるしかなかった

「父は私とはそこまで仲は悪くないんですけど、すれ違いが多い為、母の言い出すことに肩を持つことが多いんですよね。仕事で家のことに構ってあげられない罪悪感からか、いつも。」

そうだったのか。

だからあの時、両親って答えたんだ。

点と点が繋がった気がした。

「たまに早く帰ってくるときや休日の時なんかにも父には会社のことは伝えてたんですよ」

「そうなんだ、、じゃあ尚更お父さんは動こうとしたりとかは?」

「そういった場面もありましたね。もし、父が動けば、会社の運営にも影響は出てたでしょうし、店舗も営業停止になってたでしょうね。」

「でも、動かなかった…」

「私が止めてたんです。しっかりと証拠を残して、来るべき時に備える為に。

だけど、被害にあった人たちがどんどんいなくなって、やる必要がなくなっちゃったんです。そんな中で異動の話があり、この際だから良太郎さんの元で働こうって」

「そうだったのか、…会社がツラい環境だったのにその…家でも無理して…」

「いえ、私の決めたことなので無理なんてしてないですよ!」

「そうか….ごめんね。こんな話させて」

「いえ、いつか話す時が来るとは思ってましたし、それに…」

「それに?」

「良太郎さんには正直に答えてもいいかなって思ってたんで。」

「俺?」

「良太郎さんは新味に話を聞いてくれると信じてましたので」

「あぁ、そりゃ友達なら尚更でしょ。」

「私とは友達だけですか?」

「えっ!?」

まさか…青葉ちゃん、俺のことを…

そう頭を過った時の青葉ちゃんの目は真っ直ぐに俺を見つめていた。


「良太郎さん」

「青葉ちゃん…」



「コーヒー飲まないんですか?」

「え?」

目をテーブルに向けるとコーヒーがいつの間にか届いていた。存在感が一切感じられなかった。

カウンターの方には何食わない顔でカップを磨くマスターの姿があった。

只者じゃない奴がここにもいた。

一体、俺の前に何人すごい人間が出てくるんだ。

と考えつつもコーヒーを一口飲んだ。

「ここの紅茶、美味しいですね」

「うん。

ここはコーヒーも紅茶も全部美味しくてね、よく利用してるんだ。前も孝輔と昼に落ち合って食事したし」

「孝輔さんとも来たんですね」

「うん、あいつも忙しくなければ昼を一緒に摂ったりする事あるんだ」

「孝輔さんの職場も近いんですか?」

「うん、数駅ぐらい先だけど割と近いよ。」

「じゃあ、いつかバッタリ会うこともあるかもしれないですね。」

「そうだね。あ!じゃあ、青葉ちゃんその時まであいつには黙ってよう。ビックリさせよ!」

「うふふ。楽しみですね!」

「ははっ!!」

そうして談笑しあって、店をあとにした。


「それじゃあ、今日はお疲れ様でした。」

「うん、お疲れ様。また、明日ね。」

「はい。あの良太郎さん」

「うん?」

「また一緒に帰りとかこんな風に付き合ってほしいんですけど?」

「うん、勿論だよ!」

「良かった!」

「それじゃ。」

そうして、駅で別れた。

明日もあるから帰って備えよう。


「これから楽しみだな。良太郎さん。」

そこに微笑む彼女の顔はどこか涼しげな感じがした。

今から思えばこの時から既に、青葉ちゃんの手のひらで転がされていたのかもしれない…

それに気がつくのはまだ先の話。


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