出会いは急なもんで。(1)
1. 出逢いは急なもんで。
『土曜の夜は相変わらず人が入ってるな…』
ライブフロアではデシタルポップロックをイメージしたバンドが演奏中、熱狂的な追っかけファンに連られてノリノリになる店内の客、
賑やかで大変喜ばしいことで……。
楽しんでる客を横目に
スコッチウイスキーを一気に平らげる。
そして、グラスを
卓上に叩きつけた。
「あの残業さえなければ……俺も今頃は…」
「いつまで言ってんだよ。もう諦めろ。
今回は、たまたまタイミングが悪かったんだよ。」
「ックショウ!あのハゲ親父め!!
あいつのせいでコンパ逃したんだよ!」
「その台詞、今ので20回目だぞ」
「数えてんじゃねえよ。」
「数えたくもなるよ。
ここ、2か月俺と飲みにいったら必ず口にしてんじゃねえか。」
「そんなに言ってる?もう昔の事だから記憶にない」
「あらら」
関西人のノリのように肩から転けた。
…‥ ‥ ・・♪
演奏が終わり、BGMで流れているディスコミュージックが更にボリュームを上げだしてきた。
週に一度生演奏が聴けるミュージック&BAR
として半年前に開店したこの店
『HOT SOUNDS DINER 』
俺ら二人の大学の後輩が半年程前に出店した。
以来、俺らや音楽仲間の溜まり場になった。
最近では利用客が増えたことにより、
アベックやナンパ目当てで来店した男達、外人といった幅広い客層が主流になってきた。
そんな中、半地下にあるバーカウンターで黄昏ている男たち。
そう、その男たちこそ俺たち
今村良太郎(25)
都内旅行代理店で働く会社員で
さっきからボヤいているのが俺である
「繁治が開いてくれたコンパで今度こそ女作って佑三子の事、忘れるつもりだったのによ。
今度こそ掴めるチャンスだったのに」
「まぁな、ずっと一緒だった佑三子に突然、別れ告げられて、結婚するんだってフラれたんだもんな。しかも、専業主婦になることを佑三子は待ち望んでたんだからな。」
竹中孝輔(25)
広告代理店で働く会社員
俺とは高校、大学からの顔馴染み、唯一の友人でもあり、相談相手でもある
「それもこれも、俺らがバンドやりながら仕事始めて、休日はスタジオでずっと練習の連続だったから。
そりゃ、カップルならデートとか色んなことしたいもんな。痺れきらされて当然だわ。」
「傷を蒸し返すな。
思い出しちゃうだろ。
あいつには悪かったと思ってるし。」
「そうだな。高校からずっと一緒だったからな、佑三子ちゃんは。」
「俺らバンド始めたのも、丁度その頃だったからな。
最初は趣味感覚だったけど、ギャラリーが増えていくようになって、俺らプロになれるって錯覚がおきはじめて……いつしか客がこなくなっていって、スタジオも借りれなくなって、……」
「やめ、やめ!
そんな辛気臭い話をする会じゃないだろ、今日は。」
「そうだな、昔の話はもういい、4人で
定期的に集まって飲み交わす日だもんな。
にしても遅いな、繁治と春雄。」
「二人とも9時ぐらいには仕事おわって、こっちに来るって言ってたから、もうすぐの筈なんだけどな。
まだっぽいな、先に御手洗いしてくるわ。」
「お前、相変わらず便所の回数、多いな(笑)」
「酒が入ると行きたくなっちゃうの。」
そう言い残し、孝輔は便所に行ってしまった。
独りの時間が出来てしまった……