いつまでも君と、美しい星座を共に
深夜に家を抜け出して、星座を見ようと待ち合わせた丘の上の公園。
一人歩く深夜の街は別世界のよう。
親に内緒での待ち合わせは、悪いことをしているようでドキドキする。
丘を一人で登って来る君を見つけた時は、心臓が飛び出るくらい胸が高鳴った。
「お待たせしました、遅れてごめんなさい」
そう言ってはにかむ君を見ていると冷静さを保つのが難しくなる。
今すぐに抱きしめたくなって、衝動を抑えるのが大変だった。
早速、星座を見ようと空を見上げたはいいけれど、急に雲が立ち込めて来て。
雨が急に降りだしてきた。
「あーあー! 雨になっちゃいましたねぇ」
残念そうに空を見上げながら君が言う。
「仕方ないよ、こういう日もあるさ」
残念そうにする君を、僕はどう慰めればいいか分からなかった。
また次の機会にしようなんて言えないし、戸惑いながらも雨宿りをする。
しとしとと冷たい雨が降る中、僕たちは公園のあずまやで身を寄せ合う。
肩と肩とのぬくもりが切なくて、無常に過ぎていく時間がもどかしくて、雨よやんでくれとここにいない誰かに願う。
「先輩、寒いです」
君が白い息を吐きながらそういうものだから、思わずその手を取って両手で包み込む。
「こうすれば少しは暖かいかな?」
「もっと」
「……え?」
「もっと、お願いします」
潤んだ瞳で僕を見上げる君は、あまりに魅力的で。
吸い寄せられるように唇を重ねた。
それから何度も、雨が降る深夜の公園で、僕らは口づけを交わした。
何度も……何度も。
「そんなことがありましたねぇ」
満天の星空を見上げながら君が言う。
すっかり年老いてしまったけど、あの時のように君は美しい。
隣にいられて幸せに思う。
「懐かしいね」
僕がそう言うと、君はふふふと嬉しそうに笑う。
「おじいちゃーん! おばあちゃーん!
星がきれいだよ! 見に来てよ!」
望遠鏡を覗き込んだ少年が僕たちに呼びかける。
都会から遊びに来た彼は、夢中になって星々を追いかけていた。
スマートフォンが普及して楽しいことが増えた世の中だけれど、この世界にはそれに負けないくらい美しくて魅力的な物がある。
夏の花火、虫たちが奏でる音色、秋の夕暮れ、春の花々、そして真冬に見上げる満天の星空。
どうか世界の美しさを知って欲しい。
そして覚えておいて欲しい。
本当に美しいものは、記憶の中にある風景だと。
「大好きだよ」
妻の耳元でささやく。
恥ずかしそうに俯く君の横顔は、世界の何よりも美しい。