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なろうラジオ大賞4

いつまでも君と、美しい星座を共に

 深夜に家を抜け出して、星座を見ようと待ち合わせた丘の上の公園。

 一人歩く深夜の街は別世界のよう。


 親に内緒での待ち合わせは、悪いことをしているようでドキドキする。

 丘を一人で登って来る君を見つけた時は、心臓が飛び出るくらい胸が高鳴った。


「お待たせしました、遅れてごめんなさい」


 そう言ってはにかむ君を見ていると冷静さを保つのが難しくなる。

 今すぐに抱きしめたくなって、衝動を抑えるのが大変だった。


 早速、星座を見ようと空を見上げたはいいけれど、急に雲が立ち込めて来て。

 雨が急に降りだしてきた。


「あーあー! 雨になっちゃいましたねぇ」


 残念そうに空を見上げながら君が言う。


「仕方ないよ、こういう日もあるさ」


 残念そうにする君を、僕はどう慰めればいいか分からなかった。

 また次の機会にしようなんて言えないし、戸惑いながらも雨宿りをする。


 しとしとと冷たい雨が降る中、僕たちは公園のあずまやで身を寄せ合う。


 肩と肩とのぬくもりが切なくて、無常に過ぎていく時間がもどかしくて、雨よやんでくれとここにいない誰かに願う。


「先輩、寒いです」


 君が白い息を吐きながらそういうものだから、思わずその手を取って両手で包み込む。


「こうすれば少しは暖かいかな?」

「もっと」

「……え?」

「もっと、お願いします」


 潤んだ瞳で僕を見上げる君は、あまりに魅力的で。

 吸い寄せられるように唇を重ねた。


 それから何度も、雨が降る深夜の公園で、僕らは口づけを交わした。

 何度も……何度も。


















「そんなことがありましたねぇ」


 満天の星空を見上げながら君が言う。


 すっかり年老いてしまったけど、あの時のように君は美しい。

 隣にいられて幸せに思う。


「懐かしいね」


 僕がそう言うと、君はふふふと嬉しそうに笑う。


「おじいちゃーん! おばあちゃーん!

 星がきれいだよ! 見に来てよ!」


 望遠鏡を覗き込んだ少年が僕たちに呼びかける。

 都会から遊びに来た彼は、夢中になって星々を追いかけていた。


 スマートフォンが普及して楽しいことが増えた世の中だけれど、この世界にはそれに負けないくらい美しくて魅力的な物がある。


 夏の花火、虫たちが奏でる音色、秋の夕暮れ、春の花々、そして真冬に見上げる満天の星空。

 どうか世界の美しさを知って欲しい。


 そして覚えておいて欲しい。

 本当に美しいものは、記憶の中にある風景だと。


「大好きだよ」


 妻の耳元でささやく。

 恥ずかしそうに俯く君の横顔は、世界の何よりも美しい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >どうか世界の美しさを知って欲しい。 これ、泣きそうになりました。 今の世界は醜いことも多いけれども、長い年月を生きてきてそう思える一生であるなら素敵ですね。
2022/12/31 17:22 退会済み
管理
[良い点] いいお話ですね。 おじいちゃん、おばあちゃんになっても仲の良い関係でいたいですね。
[一言] どうか世界の美しさを知ってほしい、というフレーズがとても素敵ですね。 スマホで何でも見られるようになっても、やはり目の前の美しい情景と比べることはできません。 ましてや愛するひとと一緒に見た…
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