サデリンとの日々1-ベル視点-
この世界は昼間でも薄暗くて、時間の感覚もあまりない。
見える景色は色褪せていて、寒くも暖かくもない。刺激がない。
この地に降りて千年が経つと、喉の渇きも腹が減ったのかどうかも分からなくなった。
同じ毎日、同じ景色、果てのない世界。
何度か気が狂ったが、正常が保てるなら、その方がおかしいのだ。
だが、そんな日々の中でもささやかな楽しみというものができた。
それは本当に偶然に、花が咲く場所を見つけたのだ。
俺が唯一人間に負けないくらいにうまく出来ることと言えば花冠を作ること。
昔サデリンに教わった花冠の作り方。意外と覚えているもんだと思って、千年ぶりに笑った気がした。
ちまちまちまちまと作っては、もうとっくにあの世に逝って多分何度か転生しているだろう友を思った。
「輪廻の中にいるやつは羨ましいよ、サデリン。俺は永遠にこの世界に閉じ込められたままだ。お前とも永遠に会えないんだろう」
ぽつりとつぶやいた言葉は空中に霧散した。
サデリンの顔はもう霞がかかってほとんど思い出せない。
けれど何だか変な趣味の両腕のタトゥーだけは覚えている。
(あれは、あのタトゥーの意味はなんだっけか)
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「おい、おい!サデリーン!なんか天井から水が出てるぞ」
「うわ!雨漏れだ!あちゃー…こりゃあ修復と濡れたところは乾燥の魔法をかけないといけませんね」
「…雨漏れ?外は晴天だぞ?」
「…まさか!!!」
サデリンは長い裾の法衣をむんずと掴んで階段を駆け上がると、すごい音量で叫んだ。
見にいってみると何やら水と格闘しているサデリンがいた。
「うわわわわ!!水よ、一旦退きなさい!あー、もうびしょびしょですね…昨日試した魔道具の生成が失敗したみたいです」
(おもしれーヤツ…)
「だからそういうのは離れでやれっていつも言ってんだろ」
「居候くんにもっともな事を言われましたね、面目ない」
言って、たははと笑った。
「お前、一昨日も隣の部屋を爆発させてたろ。ボヤで済んだけどよ…お陰で寝床がまだ焦げ臭いんだからな。また隣のバァさんにお小言喰らうぞ大魔導師サマ」
「む、ベルヴルムも言うようになりましたね。今日の昼餉はお預けしても良いんですよ」
それは困ると言ってなんとか昼餉にありついた。
そんなくだらない日々はあいつが老いるまで続いた。




