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ベルヴルムの不安-ベル視点-【第二章】

最近、ふとした時にたまらなくモヤモヤする。


もし仮に俺が竜のままだったら、ミネルヴァは俺を愛してくれたのだろうか。

以前では考えられないようなつまらない発想だ。


長くて黒い爪を見る。それはいつだって自分が竜だったことを思い出させた。

この爪は彼女に触れる時、細心の注意を払わなければならない。

もしあの滑らかな肌を傷つけでもしたら、どんなに彼女に侘びたって自分自身を永遠に許せそうもない。


何度目かの思考を巡らせて思う。

(人間になったことは今となってはもうどうでも良い。竜に戻りたい訳でもない)

結局は何だって良いのだ、ミネルヴァがいれば。

そんな事を思うようになった。



「あ、あの、ベル?」

ミネルヴァが、ぽふんと絨毯の上に横たわった。

俺が彼女の香りを食っていたら、いつの間にか随分と長い時間無理な姿勢をさせていたみたいだった。

「すまない、起きれるか?」

彼女を起こそうとしたが、熱っぽいその視線に絡め取られてしまう。

「ごめんなさい、同じ姿勢でいたら足が痺れてしまったみたいで…」

「ふうん?それで?」

「それでって…」

「随分と切ない目をするじゃないか、お姫様」

抵抗できないように細い顎を掴んで、桜色の唇を奪った。

湿った音がどうしようもないくらいに心臓を掴む。


「なにを…そんなに思い悩んでいるのですか?」

細い指の温かな手が両頬を包んだ。

「……言わない」

顔を背けようとしたが、お姫様の力は案外強い。

「おい、離せ。泣かせるぞ!!」

「あらやだ、貴方って子どもみたいなことを言うのね」

「そういう意味じゃない。知りたいなら教えてやろうか?」

俺の言葉は乱暴だと大いに自覚するところだ。

そんな言葉とは裏腹に丁寧に纏っている布を除ける。

釦を外し、帯を緩めて、髪をほぐしていく。ひとつひとつを愛おしみながら時間をかけて。

ミネルヴァは驚いて目を白黒させていたが、やがてぎゅっと目を瞑る。

「目を閉じたら駄目じゃないか。俺にどうされるのか、ちゃんとよく知っておくといい」


伏せられた長いまつ毛に口づけを落とすと、美しい瞳に俺が映って胸が跳ねる。

誤魔化すようにミネルヴァを眺め返すと、あんまりにも美しくて暫く放心した。

やがて、新雪に足跡をつけるみたいに口づけを落としていく。


「綺麗だ…綺麗だ、ミネルヴァ…俺の花嫁」

荒い呼吸が聞こえる。

けれど、その時目の端に映った。

白い肌に僅か食い込む黒い爪。


「あっ…!」

慌てて彼女から離れてへたり込み、罪深い右手を握り込んだ。

(くそっ調子に乗った)


ミネルヴァは目を擦りながらゆっくりと起き上がって、衣服を引きずりながら俺の前まで歩いてきてしゃがんだ。

何も言わずにそっと抱きしめられる。


「ベル、貴方のことが好きだわ。だから、ねえ泣かないで」



心が振り子のように揺れ動いて、苦しい。

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