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好き。

「お姉さま…モーネはお姉さまだったんだわ…」

ベッドの上で泣きじゃくる。

ベルヴルムは、もたれかかっている間中、髪を撫でてくれた。


この城は昼でも薄暗い。

夜と昼の境もあまりない。

ベルヴルムに、泣き顔を見られなくて済んだ。


「お前、気づいていなかったのだな、モーネが姉上だと」

「まさか、ベルヴルムは気づいていたのですか?」

「お前と同じサデリンの匂いがした」

蝶になってもなお、失われない魔力。

「確かに、モーネは波動で囲った時僅かに動いた…今考えると普通は無理だわ。そんな、お姉様だったなんて」


生まれ変わって尚も理不尽に蹂躙され続けた姉の命。

私はあろうことか、その一端を担ったのだ。


「お前のせいじゃあない」

何か悟ってベルヴルムは言った。

「いいえ、私のせいでもあるのよ」

「それでも言う。お前のせいじゃあない」

彼の顔が見たくて、ふと見上げると

「酷い顔だ」

と言われた。

「疲れたろう、湯浴みをしてくると良い。俺もそうする」





薄暗い廊下を、ほのかに灯る蝋燭がどこまでも続いている。

侍女達は無言でお辞儀をすると、私の支度を手伝ってくれた。


なんだかすごく良い香りの湯に浸かる。

泣いた後に、温かい湯というのは沁みる。

突然、暗闇から、ぬっと女性の手が伸びて来る。

「失礼致します」

「!!?」

驚いている間に、丁寧に全身を磨き上げてくれた。



(なんだか、凄い体験だった…)


ほこほこ湯気をあげて部屋に戻ると、夜着に着替えたベルヴルムがベッドに横たわっている。

すう、と寝息が聞こえた。


(あれだけのことをした後だもの、疲れたわよね)


整ったその顔にかかった黒い前髪を整える。

その時、ごつごつした指で腕を掴まれて天地がひっくり返る。

ふかふかのベッドに身体が沈む。

目を開けると、ベルヴルムが強い視線で私を見下ろしている。


首筋に綺麗な黒髪が収まる。

すう、はあと吐息が当たった。

「っ!」

グルルルと喉が鳴っている。

「ベルヴルム、竜に戻りかけてっ…!」

盛大だった音は、呼吸と共にゴロゴロと可愛いものになった。


(なんだか猫みたい…)


「また、呼んでほしい」

「え?」

「さっき呼んだだろ、ベルって。それがいい」

胸に埋めた顔を上げて上目がちに言われた。

きゅうと胸が締め付けられる。


「…ベル…」

「ミネルヴァ…うーん…ミイ…?」

「猫じゃないんですよ…」

と言うと、くくっと笑った。

近くで見る笑顔はくしゃっとして案外可愛い。


「もっと、呼んで、名前」

「ベル…」

「もっと」

「ベル、ベル…」

「ん」


納得したのか、引き続きあちこちの匂いを嗅がれた。

しばらくそうしていたが、けぷっと聞こえる。

どうやら満腹になったらしい。


「お腹いっぱいになりましたか?」

それでもベルは離れない。

「?ベル…」

突然、切ない顔が近づいてきて、触れるだけのくちづけをされた。

漏れる吐息が熱い。


「俺の妻になると言ったな」

「言いましたっけ」

「おい」

「冗談ですよ。ベルこそ、私を妻にすると言いました」

「そんなこと言ったか?」

「あ…もう匂いは当分お預けです」

「言った!言った!言ったよ!悪かったって」


ぶつかる視線に自然と口づけを交わした。

それはさっきよりも深いくちづけだった。


「ミネルヴァが好きだ」

「私も、ベルが好きです」

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