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優しすぎる王の国  作者: さもはさうえい
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アヤ ミヅキ

あれだけ暴れこの国に相応しくない言葉も言ったのに王はいつもみたいに優しく笑う。私の言葉に王は困ったように笑い。そして首を振った。


「そんな事にはならないよ。誰も望んでない」


あの事件。王を慕い想う私が自らあえて悪になった事になっていた。いつも酷い言葉で失恋する王を皆、哀れに思っていたという。そこで私が自ら悪になりそれを断とうとしてくれた。


実は裏で手を回していたのも誰もしない汚い事をしてくれていたんだ。と、手を組んでいた騎士が皆に証言したらしく。悪になりたがらない皆の代りの正義の悪だと熱弁し誰も責めていないらしい。


感謝の手紙。一応保管されている今までの異世界の少女達の謝罪の手紙も大量に届いている。何処までお人好しで優しい国なんだ。


「では、国外へ追放なさってください。行くあてはあります」


ならば去れば良い。そう思ってあの王子の事を思い出す。甘えてしまおう。彼は恐らく手を貸してくれる。


「ふふ……」


笑われてしまった。何故、笑えるんだと怪訝な顏で王を見てしまう。だけど、王はとうとう声をあげて笑ってしまった。


「王子は帰られたよ」


待つと言ってくれたんだ。一緒に行こうと迎えに行くと赤い顏で言ってくれた。


「だって驚くだろう!王子の……あの子の()が君を見たら卒倒してしまうよ」


別によその国に知り合いはいない。この感覚を覚えている。初めて会った時に浮かんだ二つの感情。恐怖と不安。


「ハルナはもう年だ。死んでしまうかもしれない」


ハルナ。その名を知っている。大好きだった大切だった親友。私の悪の始まり。


「王子はあの子のひ孫だ」


ぞくぞくと震える体。その体を王は抱きしめる。そして優しく背を撫でて髪を耳にかけ、そこに耳を寄せた。


美月(みづき)。君は本来ならそんな年齢なんだよ」


記憶が蘇る。蘇ってしまう。知られる筈のない名前。あの日の私が考えた最後の砦。知られてはいけないと警戒して出した名前は苗字。


「何で?」


あの名札は鍵付きの箱に閉まった。誰にも見せないでたまに見て心の支えにしていたんだ。


()()()からだよ。綾 美月(あやみづき)


ぐらぐらとキャパを超えた頭が揺れふらつく体を支えられる。何故かその瞬間。一部の不調が回復した。ぼやけていた目は冴え。頭の痛みも無い。だが、おかしいのだ。王の髪が徐々に黒く染まっていく。


「母が日本の人なんだよ。美月。だから分かる。母は全てを思い出した後でそれを残そうと僕に教えてくれた。今度会わせるよ」


完全に黒くなった髪。瞳は光の加減で緑と青に輝いていたが、今ではくすんだ青に変わっている。これは誰?


「あ、もしかして黒に見えてる?良かった」


手を引かれベットから降ろされる。微笑んで頬に添えられる手。引き寄せられ重なる唇。当然の事の様に口内で舌が暴れる。


「寝ていない君に出来て嬉しいよ。……さあ、本当の国を見せてあげる」


寝ていないわたし?本当の国?おいつかない頭で何処かに連れて行かれてしまう。扉を開けると並び。頭を下げるメイドと執事達。その者達は皆、濃い髪の色をしていた。驚きで目を擦すろうとする手が掴んで止められた。


「彼らは元異世界の人間。もしくはその子。孫だ。国の中にも一部はいるよ。その者は本当に染めているから見分けつかなけどね」


声が出ない。あのシャロンの髪も黒かった。王はメイドを私に託して何処かに行った。


「……アヤ様。こちらにどうぞ」


いつもは呼び捨てで呼んでくれているのにそう呼んでくれない。いつもこの国らしく笑っている顔は暗く沈んでいる。


「アヤ様のお着替えは私がします。皆、呼ぶまで下がりなさい」


知らない部屋だ。調度品は豪華でまるで王の部屋のような場所。扉が閉じられた瞬間。彼女に抱き締められた。


「ごめん。逃がしてあげれなかった」


ポロポロと涙を流す彼女は隣国の王の弟の子。異世界の人間との間に出来た子だった。容姿が良いのでこの国で老いない病の無い。この女神に呪われた国でこの国の人間と結婚するようにと言われたらしい。


「本当の……母しか知らない名を貴女に言います。夏蓉(シァロン)。きっと国は違う。だけど、貴女の名札の文字が母が教えてくれた文字に似ている」


掌に文字を書かきながら彼女は泣いた。なので懐かしく思い助けたかったと逃げて欲しかったと泣かれてしまった。この国は呪われている。


水も無い砂漠だけで貧しい国に哀れだと思った女神。あの像を送ってしまう。それを見た王は力を得ようと不死の女神を殺しその血を浴び。それでけでは飽き足らず。その姿が美しいと子をなしたせいで呪われた。


皆が飲んでいるあの水は呪いがかけられている。あの花はそれを吸い。呪いが強い物だ。あの祭りは呪いを増幅する祭りだ。老いを忘れ病を忘れさせる。過激な思考を奪う。


女神の美しかった髪と瞳の淡い色を美しいと思わせる。そんな呪い。もう数百年前の話だ。女神は幽閉され未だに呪いを続けている。


愛してしまい殺せなくなった不死の王と共に……。


その呪いはこの国を出ると徐々に溶けていく。だが、長寿が多いという。不死ならばこの国は何故小さいのか?それは麗しく生まれる国の者はよそにこの国を奪わせないように売られるからだ。思考の奪われていない元異世界の人間か王の血の者が裏でやっている。


この国は安泰の国。攻め込まれない国。


「貴女は選ばれてしまった。だから、もう逃げられない」


着せられたのは漆黒のドレス。シルクの手袋すらも黒い。まるで葬式みたいだと脳内に浮かぶ。唐突に思い出す。国の事。家族の事。全ての思い出。泣いてしまった私を夏蓉は抱きしめ慰めてくれる。この人に縋りたい。そんな願いも空しくコンコンと叩かれた扉が開いた。


「ああ、美しい!ありがとう。シャロン」


その顔は美しい。だけど、髪の色や瞳が印象を変えてしまう。恐ろしい。


「話を聞いたんだね。凄く怖い顔」


手が腰にまわりしっかりと掴まれた。国。家族。思うところがある筈なのに彼に女扱いをされたら駄目になる。この国に染まったのか王に選ばれた事が今まで隠されてた彼への執着が報われて嬉しくて勝ってしまっていそうだ。帰ってきて私の中の仔猫。


「私を、あ、好いて下さっているのですか?」


確かめたいと言葉が欲しいと彼の袖を握って顔を上げて見つめた。すると嬉しそうに王は頬を染める。


「愛しているよ。あの王子を君に強い感情をぶつけられたあの人間達を縊り殺してやりたいくらいには何年も前から……」


恐ろしい言葉。普通は恐ろしいけれど自分と同じ思考の暗い思考の王に……彼にうっとりしてしまう。


「早く言ってくれても良かったのに」


「それは……」


会話は終わる。王座の間についたからだ。騎士たちが驚いた後で重い扉を開く。先に居た濃い髪の瞳の者達は彼の軽装の上から黒の布を巻いていった。この格好は儀式の格好だ。


「この国の血の者は王族は呪いの力がある。この国の呪いが効かない事。人の思考を外見を偽の物に見せれる力……」


動く王座。その動いた下には地下に続く道があった。ランタンを持った執事の後を二人手を繋ぎ歩く。そこに居るのは倒れている少女とその少女に何かを呟く夏蓉。


「そして記憶を消す能力。異世界の人間は元の世界の記憶のせいで帰りたいとしか言わない事も多い」


消された記憶の理由。なら、何故。今更、私はそれを思い出してしまったんだろう。


「女神はね。愛する人が他の女にいかないように呪いを増やした。王の血の者はこの世界の人間と子をなせないんだ」


呼ばれる異世界の者は皆、それぞれの国にいる王の血の者に送られている。女神が王の愛を理解し彼が自分を逃がさないと知って呪いを解こうとしたが遅かった。だから、一族の繫栄の為に異世界から人間を呼んだ。彼女は今も呼び続けている。


夏蓉は悲し気にこちらを見た後で目を伏せた。あの時。夏蓉はこちらに来たフリをしたんだ。目を覚ます頃に扉の前に行く。まるで今、来たみたいに見せただけだ。


「女性が多くてね。女神が男が嫌いだから男は気が向いたらなんだ。シャロン。いつか来たらいいね」


びくりと震えた彼女は扉の向こうへ消えていく。それを見送りまた階段を上がり王座に戻った。しばらくした後。少女が現れた。


「やぁ、今回の迷い子は一人。しかも少女。可哀そうに不安だったろう」


顏を赤らめる少女に見たくなくて顔を背けるとそれを見た王が優しく嬉しそうに笑い。おいでと手で私を招く。


「こちらは妻のアヤだ。我ら夫婦は君を歓迎するよ」


「つ!」


言いかけて口を押さえる。儀式の王座の間で叫んでしまった。だけど、王は笑い。そして意地の悪い顔をした。


「安心してあの子には君はまるで女神の様に微笑んでいるみたいに見えている。声も姿も偽物にしてあるんだ」


腕を引かれ彼の膝の上に乗せられてしまう。流石にこれはと暴れてしまう体を強く抱きしめられた。


「ここで愛し合っても問題ないよ」


最低だこんな人だったとはと文句を言おうとする唇が奪われて吸われてしまう。これも見られていないかもしれないが恥ずかしい。


「……何て堅苦しいのはここまでにして少し付き合ってくれないかい?」


この台詞にあの日を思い出す。まさかあれもまやかしだったんだろうか?もう一度軽くキスした後で私を下し、少女の頭を掴んだ。


「君にこの国の呪いを与える。怒り奪い。過激な思考を奪う。この世界に従順になる紛い物の優しさを持つ鈍感な生き物に変えよう」


目をむいてがくがくと震えた少女はがくんと頭を落とした。そのまま何処かに運ばれていく。恐怖がぶり返した。あれはなに?


「君にはしていないよ。一目惚れだったから、あんな化け物……人形にしなかったんだ」


あんな事をした後だというのに彼は笑っている。また恐怖が勝ってしまいそうだ。それを逃げ腰になるのを見透かしたのか、引き寄せられた。


「もっともらしい事を言って我慢出来ないから君が気を失うくらいに口付けてしまったんだ。一族の者に流石に怒られたよ。王族の体液は呪いに効く。だが永遠ではない。身体から徐々に作り変える必要がある」


手がどんどん下に下がっていく。まさか、そんなと思うがその考えが正解だったと分ってしまう。


「毎夜。毎夜()()()。だけど、君が魅力的だから独り占めしたくて子をなさないようにして何年も注いだ」


君がいけないんだよ。と、お腹を優しく優しく撫でられる。だから私はこの国に国民に馴染めなかったんだ。悩んだのに病んでしまうくらい。


「子をなせば一族の力を手に入れる。しばらくは子にも君を分けないといけない。この王の血を君に入れるための道具だとしか今は思えないけど、君に似れば愛せるかな?愛せたらよその国に逃がそうか……それとも」


弟と妹はとても愛されていた。だから普通の人間として死ねる。この国の生贄は一人でいいのだ。彼もある意味では愛されて選ばれた。彼の両親はこの国にいる。稀にあの二人の王と女神のような人間が生まれてしまう。


永遠に二人でと願う人間が……。


この国には地下に町がある。稀に地上に出るが幻で別人に見せているらしい。髪を瞳を染めているのは女神の最初の子供。これは実際に染めている。この力は女神から与えられた物。女神を信仰させる為につけられた呪い。


両親にも挨拶をされた。彼の父は見た目が彼よりも幼い。子供に近い。恋をした瞬間に相手を定めた時に女神に頼み止めたらしい。リーザは19歳で止めた。もう何年も運命に会えないからすすめられた年齢で止めたという。


母は寂し気に笑う人だった。名はイネと名乗っている。出会った頃は二十歳。彼女の旦那である前王は世界が日本なら犯罪の年齢。幼い頃に見て一目惚れ。あとはあのランタンで……らしい。


始まりがそうとは言えないくらいにラブラブで困ってしまうくらいだった。私もそうなるのかもしれない。


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