光る花と裏切り
「で、警戒にしまくった挙句。物も最低限しか食べない。王が知人と遊びに行こうと誘っても止めておきます!って頑なに断ったの」
メイド控室から声が聞える。この声はシャロンだ。おしゃべりが大好きな彼女は新人が来たら話に花を直ぐに咲かせてしまう。
「だけどある日。食事をするからこの国の文字を常識を教えて下さい。先生を雇わせて下さいと提供された生ぬるい生活を拒否したのよ。ここのメイドの雑用を手伝って稼いだお金で給金を払い。全ての授業をマスターした」
花を咲かせるのは良いだがもしかしたらこれは私の良く知る人物の花かも知れないと扉を開けた。
「そして徐々に心を皆に開いた頃に王に彼女が謝った。で、王に言われたの「アヤ!仔猫は終わりかい!?嬉しいよ。さぁ、遊びに行こう!」って!」
つかつかと歩き。持ち込まれたお菓子を囲む様に座るテーブルにたどり着く。今日のお菓子はクッキーね。シャロンの得意料理。
「仕事も全部ほっぽってハグした王を剥がして何と怒鳴ったのよ!何を馬鹿を言っているんですか!仕事して下さいって!」
「ええ!?あのお優しい王を!」
音もなくシャロンの背後に立つ。新人達は「あ」とこちらを見た。
「そう。あの王をよ?で「なんだ。まだ仔猫なんだね」と拗ねた王からからかう様に仔猫とたまにアヤは呼ばれるようになったわけ!」
「で、その怖い。仔猫さんは人の話で花を咲かせる子を叱るってわけなのよね?シャロン」
ぎぎぎとゼンマイのおもちゃみたいに恐る恐る後ろを振り向くシャロンに目をきっとつり上がらせる。
「シャロン!仔猫と呼ばれるからデキていると勘違いされている誤解を解いてくれてありがとう。だけど、恥ずかしい過去つきはいらないわよ!」
「わーん!ごめんなさい!新人が貴女を畏れ多いと言うから!」
私の恥ずかしい過去。優しく善意しかないこの国の人を避けて警戒して火の入った物を食べずに果実と水しか飲まなかった事。頑なにこの国の淡い色を拒否。隣国の濃い色の服を着てた事。未だに仔猫と王に言われてしまう事だ。
シャロンはあのベージュの髪のメイドだ。今は全てを見て来た友でもある。そうだ。新人。ぽかんと見ている新人達の前で腕組を止め優しく微笑む。
「王の秘書と言ってもメイドもさせていただいているから、メイド仲間には変わりないわ。貴方達も怖がらないで?」
この国で覚えた優しい笑みを浮かべれて新人達は嬉しそうに赤い顔でこくこくと頷く。私はあれからメイドになりこの城の内情を知った。大臣達が緩い。庶民と慣れあい異世界の人間と遊びに行ってしまう王を優しい笑みでスルーしている。
仕事をサボっても「王ですからな」とにこにこだ。で、仕事をして下さいと思ず怒鳴った事件きっかけで王の秘書になった。メイドも一応はまだやらせてもらっている。秘書と言っても難しい政治には首を突っ込まない。言いたい事も言わない叱らない人の為に私が王を叱っていだけだ。
「そろそろ休憩も終わり。皆、頑張りましょ?」
テーブルのクッキーを一つまみもらい、お高くとまってるイメージを新人の前で消してやるのも忘れない。以前にそれを怠ったせいでアヤ様と呼ばれたので徹底している。王を探さなくてはこの時間は市民も出入り自由な庭に居るに違いない。
慣れたと思う。私は時間はかかったが慣れた。この世界にこの国のあり方に慣れたと思いたい。
廊下の鏡をじっと見つめる。相変らずの黒く長い髪。真っ直ぐに切り揃えられた前髪の濃く暗い茶色の瞳の自分がそこ居る。服と履は白いメイド服に厚手の布の靴だが見た目はあまり変わっていない。
そう変わってないんだ。慣れはした。だけど、どう頑張っても変われない。先に変ったのはハルナだった。
「どう?似合う?」
「素敵。お姫様みたい!」
くるくると回り薄い桃色のワンピースに身を包むハルナ。何度も王と私の部屋に来て励ましてくれた優しい子。別の国の世界の私との繋がり。私の警戒が無くなりメイドになって間もなく変わってしまった。町の花屋で働きだした彼女は先ずは髪を変える。
あの濃い茶色から薄い橙色にそれだけでもう誰か分らなくなった。だけどその瞳だけは変らない。だから安心していた。なのに……なのに彼女は私を置いていく。
次に会った時には同じだった瞳の色が薄い緑になっていた。城の中や街中で彼女を見かけても見分けがつかない。あの淡い世界に溶けていったんだ。そう分った時。初めて部屋で泣いた。
無理をして捨てた異国の服。張り替えてもらった壁紙は馴染む為に白や淡い色にしてもらった。馴染む準備をしてた癖に捨てられたと泣く。本当に救えない。そして平等だと思ってた王も私をおいていく。
仕事中。王と彼女が仲良く寄り添っているのを何度も見た。つまりそういう事だ。彼女は惚れた男の為に変えた。自分を異世界を捨てたんだ。私は卑怯者で彼女が変わらないと決め込んで仲間だと思い込み依存し、そしてあの頬へのキスから王に恋をしてた。
汚い感情。自分への嫌悪感。痛み。だけど気付かない二人はたまに私を誘う。二人寄り添い楽しそうだ。後ろからそれを見て少し歩みを止めた。賑わう人。町は淡く優しい。一人立ち尽くす私に迷子かと髪と瞳を見て言う人達。私がいない時に事に気付いたのか走って戻ってくる二人。
「良かった!仔猫は目立つからすぐに見つけられたよ」
「アヤ!心配で心臓が飛び出るかと思うくらいドキドキしたわ!もう!」
二人は手を繋いで私を真ん中に挟んで歩いてくれた。もう迷子にならない様にと優しく笑って……。
だから、痛む胸を何とか二人の真似の笑顔で誤魔化して応援した。不安定になる心。だけど大好きだからと応援した。それが無駄な事だと知ったのは一年経った頃。
忘れもしない光りの花祭り。この国の名産であるどの季節でもその美しい花を咲かせる『安泰の花』を愛でる祭りだ。
この国の女神を型取った女神の像のツボから流れる永遠に枯れない水。昔この国が砂漠だった頃に女神がもたらした奇跡の像。この水は城から各地で流れており川になっている。そこから花を流す。夜は光るその花は普段は白く水に流れて美しい。
年中取れる花だから大量に積んで流す。不思議だがこの国から別の場所に流れても水が変れば消失する。この国だけの特別な祭り。
私はメイドなので花を流す作業をしていた。私の任された場所は段があり水が溜まる大きな庭だ。水が流れ、くるぶしくらいまで溜まり溢れると別の場所に流れていく。市民にも開放されている城の庭。
子供達が笑い。水で遊んでいる。光る水しぶきと花の美しさに荒んだ心も少しは癒えた。夜は家族や恋人が水に流れ光る花を見て愛を語らう時間。きっと二人はそうだと思っていた。
「ごめんなさい。わたし、この人と別の国に行く……今までありがとう」
だけど、祭りの夜にハルナから出たのは残酷な言葉。夜になり静かになった庭は人が居なかった。まるで人払いしたみたいに静まり返っている。呼び出された私と王の前に知らない男と頭を下げるハルナが居た。
「ごめんなさい。リーザの想いに気付いていたのに……彼に惹かれる想いが止められなかったの」
光りの花祭りで仕事が忙しいと来なかった準備期間。その時に別の国の彼に会った。この国にはないワイルドさや不器用な優しさに触れて好きになってしまったと聞いても無いのに語る彼女。呆然とそれを聞く私は徐々に激しい怒りで目の前が真っ赤になった。
「彼女の……この国の優しさに触れて、手放せないと思ってしまった。すまない。王よ」
勝手な事を言う。王と彼女は想いは伝えていなかったが、もう。私と国の皆が結ばれるんだと思うくらいには想い合っていた。小さな国だ。皆、それを応援していたんだ。
そう思えるくらいに王は彼女を大切にしていた。なのにそんな王をハルナは裏切った。こんなつまらない男の為に!
暴力的な言葉。行動しか浮かばない頭で、どうしてやろうかと震える私の腕にそっと王が触れた。優しく微笑む王は二人の前に立つ。
「そうか、ハルナが……君が幸せになる事を願う。行きなさい。花の光りを辿り今夜は宿を取るといい。僕の……我の名を言え。金は取られない」
一方的に王の想いを断ったのに引き留めて欲しそうな彼女の顔に初めて殺意が沸いた。見れば王は震えている。きっと笑うのだって精一杯なんだ。そっと彼の元に行き手に触れ。真っすぐに二人を睨む。
「優しき王に感謝なさい」
突き放した他人行儀なキツイ言葉に彼女は絶望し小さな悲鳴をあげて男に庇われ逃げる様に去った。残された場所で静かに水が流れる音が響く。
「前王が隠居し王妃と別の国へ旅へ出た時も弟が隣国に行った時も妹が嫁に出た時も思った。新たな門出を祝福出来ない自分はなんと愚かかと……」
優しい国の優しい王様。いつも優しい顔で微笑むこの国の鏡の様な人。
「僕は駄目な王だな」
笑顔が泣いてるみたいに情けない顔になっている。それをどうして良いか分からずに背を撫でるしか出来ない私を王は強く抱きしめた。少し苦しく痛いけど私も抱きしめ返す。ただ駄目では無い。と何度も繰り返した。許さない。王が許しても私は許してやるものか。
王が捨てられたのだと皆にはすぐ伝わった。それは私が悪意で広めた物だ。仲が良くなった騎士に馬に乗せてもらい店を全て周り門番にも釘を刺した。あの女。ハルナは酷い言葉で王を捨てた悪女。招けば王が悲しむ。招く事を連絡を受け取る事も禁ずる。そう言って約束させた。
この国で初めて生まれた悪。それは私だ。王は噂を聞いて否定したが広まった後で遅く。しばらくは嘆いていた。
「王。部屋の改装の許可を……」
反抗し勝手に変えた頃と違って今度は断りを入れる。疲れた顏の王はどうしたのかと真っ直ぐに私を見た。
「部屋を暗い色にそれと少しキツイ睡眠の薬を処方してくれる口の固い医者を……」
疲れていんだと思う。罪悪感に寝れない日々に全てにそう言うと立ち上がった王に手を引かれた。ついたのは私の部屋。
「さあ!何色にしよう?以前のあの黒は目に痛い。別の濃い色にしよう!」
「お、王?」
戸惑う私を置いて一番古株の執事とメイド達を王は呼んだ。テキパキと家具を運んで元々、物が少ない部屋が空になった。貼られた壁紙は紺色。色は王にススメられた。窓を全開にし入れ物と刷毛を渡される。中は黒のペンキ。言われるがままそれで窓枠とドアの内側を塗った。
「さ、今度はこれだ!皆、手伝ってくれ」
渡されたのは透明な液体。それで小さな点を描いていく。それが何か分ったのは家具も変えてもらった後だった。しばらくメイドの寮に居させてもらい部屋の完成を告げられる。外側が白いドアを開けて全体的に暗い色になった部屋に立つのは王、一人だけだった。
「僕にも仔猫。反抗期があった頃にペンキで部屋を変えて、やった事があったんだ。飛び散るペンキにダメになった家具。酷い匂い。怒られるかと思ったけど父には泣かれてしまった」
暗い色のシャンデリアは光だけは暖かい色をしている。シンプルで良いと言ったのに派手だ。
「アヤが壁紙を貼った時に思った。幼い僕に言ってやりたい。便利な物あるよって!一つ部屋を駄目にして部屋は元の白。無駄だったんだと悔しくてね?」
ぽんぽんと濃い紫のソファに座り誘われる。誘われるままに座り触れて置かれている物は質は良いが少し年代を重ねるいる物だという事に気付く。
「で、落ち込んでたら母が秘密基地と言って部屋をくれた。そこには暗い濃い色の物ばかり。母を見れば口元に指を当てて内緒だと笑ってくれた」
もしかしてと部屋を見渡せばくすくすと笑い王が頷く。
「君は新しい物を贈り物を好まない。執事達に改装の費用と家具の費用を聞いてたからね?でも、お古なら受け取ってくれるかなって……仔猫だった僕からの贈り物だ」
ポロポロと涙が溢れる。泣いてしまった私を王は慌てながら慰める様に撫でてくれた。
「わ、たしは……何を返せばよいのですか?」
住む場所も気を使うだろうと寮ではない部屋も与えられ食も知識も居場所もくれた人。返せる物はお金だが王に対してそれをするのは失礼なのかもしれない。どうしれば良いと泣いて縋ってしまう。
「何もいらない。どこにも行かないでここに居てくれ」
告げられた言葉の声色の優しさ美しさ。儚さに涙が余計に溢れる。この時。どんなに辛くても苦しくてもこの人に全てを捧げようと決めた。命も心も捧げよう。悪になろうと心が壊れようと一方的に愛そうと身勝手に決めてしまった。
「あとね。これも見て欲しい!」
そう言って明かりを消される。浮かぶのはあの優しい光の花の明かり。そこに指を触れる。満点の星空みたいな光景。所々に花が描かれている。
「明かりをここで薄明りに調整すれば見えないんだ」
ランタンを壁に近づけると消える光。何だか笑ってしまった。
「ふふ。まるで子供の部屋みたい!」
一人では大きなベットに寝転んで天井を見ると思い出す。天井にもテーブルを使い点を描く王とはらはらする皆の姿。これだったんだ。
「それとこれ……」
ベット横のテーブルのランプに明かりが灯される。置かれる何かそれは何かのガラスの容器。いつの間にかベットに座った王にマッチと何かの瓶を渡された。
「薬は用意出来ない。けれど深い眠りにつける身体に害の無い物を用意した。眠る時間に合せてこの液を入れるんだ」
はっと息を飲んで王を見れば明かりで分りにくいが少し苦笑いを浮かべている。
「アルコールランタンだ。そのアルコールには深い眠りを誘う物が入っている。王も使う安全な物だ。安心してくれ」
優しく撫でられた頭。彼は明かりを灯す。そしてあの笑顔を私に向ける。
「おやすみ。明日は休むと皆に言ってあげよう。良い夢を……」
その日。気絶した時は違い。ランタンを灯し久しぶりの深い深い睡眠をとった。水の揺れる音がする。夢の中で王……彼と広場で足が濡れるのも構わずに光る花に囲まれて笑う夢。幸せで涙が出た。
朝、ランタンのアルコールの量を間違えたのか寝過ぎてしまい気付けば少し暗い時間だった。仕事と慌てて起きたが休みだったとまた寝転んだ。
寝返りして気付いたが目線の先に何とも間抜けな猫が光りで描かれているのが見えた。文字も書かれている。おやすみ仔猫のアヤ。と……私は飛び起きて王の元に向かう。王は叱られてるのに何だか嬉しそうだった。




