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撃退

花粉、はじまった

「秘拳・椅子で寝て椅子で(サンライズオンザ)起きる(チェアー)


 ビカッ! っと全身を発光させると、巻き戻るようにドリルワームは引っ込んでいった。予想通り、光に弱かったようだ。残されたのは物足りない様子で開いたままのダンジョンの入り口(肛門)。眺めていると惜しむようにゆっくり、ゆっくりと閉じていく。


「……」


「大丈夫か?」


 呆けているディルに声を掛ける。


「……」


 反応はない。


「あっ、こんなところにアナルローズが!」


「えっ、なんですか!?」


 正気を取り戻したディルがハッと立ち上がり周囲を見渡す。


「やっと気が付いたか。ドリルワームを撃退したぞ」


「……一体、さっきのは何ですか?」


「最果ての村に伝わる拳法だ」


「……身体が光ったように見えましたが」


「拳法だ」


「……はい」


 何か言いたそうなディルだったが、すぐに顔は明るくなり歩き始めた。やっと閉じたばかりのダンジョンの入り口を慣れた様子でぐっと広げ、俺に先を譲る。


「すまんな」


「いえいえ。ベン殿のお陰で生還できました。そして孫も救えます」


 気の早い奴だ。もう目に涙を溜めてやがる。ラムズヘルムに着くまでがダンジョンアタックだというのに。


 外に出るとハーピーダンジョンの尻の直ぐ近くの地面に大きな穴が開いていた。ここからドリルワームはやって来たのだろう。


「ところでディル。なんでドリルワームはハーピーダンジョンの位置がわかるんだ。狙い澄ましたように肛門から入ってきたが」


「匂いですよ。ハーピーダンジョンは肛門腺から他のモンスターを惹きつける匂いを出すのです」


 そう言いながらディルは肛門の脇についた袋状の物を触る。


「それが肛門腺?」


「そうです。これが肛門腺──」


 ディルは肛門腺に顔を埋め、何やら鼻息が荒い。惹きつけるのはモンスターだけではないようだ。


「……そろそろ行こうか」


「んぁ……んぁ……」


「……おい、ディル。もう街へ戻らないと」


「おぉ……おぉ……」


「おい! 孫のことを忘れてないかっ!?」


「はっ! すいません!! つい懐かしくて」


 紅潮した顔を慌てて肛門腺から離し、やっとディルは歩き始めた。全く、冒険者てのは変態しかいないのか。


「ディルはダンジョンが好きなのか」


「ええ。もちろんです。ダンジョンには冒険者の全てが詰まってます!」


 真っ直ぐ前を向いたまま、弾むような声でディルは続ける。


「何もなかったワシがここまで生きてこれたのはダンジョンのお陰です」


「今までで一番思い出に残っているダンジョンは?」


「そうですなぁ。いろんな意味で超巨大アラクネ(アラクネダンジョン)ですかねぇ」


「何かあったのか?」


「入り口を間違えてしまいましてね。アラクネは肛門とは別に糸を出す穴があるんです。誤ってそこに入ってしまった時は焦りました。糸に絡まって動けない。ワシはこのまま死んでしまうのか? 必死になって助けを呼びました」


「それで?」


「その時に助けてくれたのがワシの妻です」


 ディルは懐しむように笑った。ダンジョンとは様々な縁を結んでくれるところなのかもしれない。

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