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雪!!

「秘拳・半導体不足(ノーセミコンダクター)で納期未定(ノーフューチャー)!!」


 闘気を纏った手刀で次々にオークの首を跳ね飛ばすと、糸が切れた胴体がゴロンゴロンと地面に転がった。焼き切られたような首の断面から煙が上がっている。


「……ベン君、凄いですね……ちょっと興奮しちゃいました」


「勝手に興奮するな」


「興奮してもいいですか?」


「駄目だ!」


 赤髪の女、ビデールは俺の名前と年齢を聞くと、すぐに"ベン君"と呼ぶようになった。


「その拳法が使えれば、スキルなんていらない?」


「そんなことはない。拳法はあくまで拳法だ。スキルのような柔軟性はない。ウチの村でも本当に強い奴はスキル持ちだった」


「怖いところですね。最果ての村は」


 ビデールはマント越しに自分の身体を抱きしめながら震え上がる。


「ビデールは何処の出身なんだ?」


「私はこのデンブ王国の南、プーシという港街の出身です。温暖な気候と海鮮が人気のちょっとした観光地で、なかなか賑やかな所なんですよ!」


「プーシ、初めて聞いた街だ。南に行く機会があれば寄ってみよう」


「本当ですか!? ウチの両親が酒場をやってるんで、是非寄ってください! 私と寝たって言えば多分安くになりますよ!」


「……どういうことだ?」


「ほら、私って男の人とベッドに入ると発火しちゃうので……その罪滅ぼし的な意味で飲み代を割引……」


 なんだか気の毒になってきた。


「ビデールはスキル無効化のスキルが手に入ったらどうするんだ?」


「そりゃー決まってるでしょ! 今まで出来なかった分、男の人とやりまくって、いい人見つけて結婚します! そして両親の酒場を継げたらいいなって……」


「そうか。見つかるといいな。スキル無効化のスキル」


「ありがとうございます! ところで、ベン君はなんでダンジョンに潜ってるんですか?」


「別に、ありふれた理由だ。村での生活に飽きた若者が一旗あげようと思えば、冒険者になってダンジョンに潜るしかないだろ?」


「うーん、ちょっと意外です」


 ビデールは首を捻って唸る。


「そうか?」


「ベン君って落ち着いてて他の新人冒険者とは違うから。有名になるぞー! みたいなノリがないし。何か他の目的があるのかと思いました」


「他の目的か……」


「あるんですか? これはありますね! あるある!」


 グイっと身体を寄せて問い詰めてくる。逃さないという気迫が凄い。まぁ、隠すことでもないし、いいか。


「……俺が10歳の頃、父親がいなくなったんだ。"この世で一番デカい肛門をのぞいてくる"とだけ言って」


「この世で一番デカい肛門……」


「そうだ。ちょっと気にならないか?」


「いや、あんまり……」


「夢のない奴だ」


「ひどい!」


「お、どうやらついたようだぞ。魔結晶の鉱床に」


 壁を灯りで照らすと魔結晶がキラキラと反射する。これはなかなかの量だ。ゴブリンダンジョンよりも稼げるな。


「よーし、スキル入りを見つけますよー! ちょっと興奮してきましたー!」


「落ち着け!!」


 ビデールは瞳を輝かせながら、魔結晶の採取を始めた。スキル入りの魔結晶が見つかるといいのだが……。

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