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惨劇

「いやああぁぁ!!」


 赤髪の女は尚も悲鳴を上げながら走り続ける。それを聞いてオーク達はブイブイと笑い、武器を打ち鳴らして更に威嚇した。


「ひいいぃぃ!!」


 女は期待通りの反応をして、オーク達を喜ばす。そもそも、格好からして扇状的だからな。オークが嬉々として追いかけるのは当然だ。


「来ないでぇぇ!!」


 行き止まりで追い詰められた女が悲痛な叫び声を上げた。オーク達はゆっくりと女に近寄っていく。この辺りはガスが溜まっているようで、視界に靄が掛かるほど臭いが強い。長くいるのは危険だな。大技一発で仕留めるか。


「今助ける! 伏せていろ!」


「ダメえええ! 来ないでええ!!」


「話を聞け!!」


 振り返り襲いかかってきた一体のオークを殴り飛ばしながら叫ぶが、恐怖で俺の声は届かない。


「落ち着け! とにかく伏せろ!!」


「アナタこそ私の話を聞いて! こっちに来ないで!!」


 えっ! 俺!?


「ぁああ! ついちゃう!!」


 ツイチャウ? 一体何がつくんだ!? 先頭のオークが掴みかかると──


「お願い! 伏せてええ!!」


 ──そう叫んだ女の身体から火の手が上がり、爆発音が……。



#



「…………で…か」


「………ぶですか」


「大丈夫ですか!」


 どうやら俺は気を失っていたようだ。背中には地面の感覚がある。目を開けると赤い髪の女の顔と乳房が見えた。なんで裸? まさか、オークに陵辱されて……。


「……オークは?」


「全部死んでます」


 女の言葉に起き上がって周囲を見渡すと、黒焦げになったオークの死体が山となっていた。これはさっきの爆発音が関係しているのか?


「何をやった?」


「ガス爆発です」


「ガス爆発? ……まさかお前、ガス溜まりにオークを誘導していたのか?」


「はい」


 少しやましいところがあるのか、女は伏し目がちだ。


「何故お前は平気なんだ? この威力だぞ」


 顎をしゃくってオークの死体を指す。全裸になる程度で済むはずはない。爆発の中心にいたのだ。生きてることがおかしい。


「……スキルの効果で」


「何かの耐性スキルか?」


「……いえ、【人体発火】です……」


「すまない。もう一度言ってくれ」


「【人体発火】です」


「すまない。もう一度」


「【人体発火】ですって!」


 女は拳を握り、抗議の意を示した。しかしこいつ、いつまで全裸でいる気だ。


「そんなスキル、聞いたことないぞ」


「……私が生まれた時から持っているユニークスキルです。興奮すると身体に火がつき、その間はどんな攻撃も受け付けなくなるんです」


 こいつ、モンスターに追いかけられると興奮するのか?


「……なかなか強力なスキルだな」


「……はい。でも発火する度に服が駄目になっちゃうんです」


 だからって下着のような姿でウロウロする必要はないと思うが……。


「魔道具屋で話していたのは、そのスキルを無効化したいってことか?」


「そうです。私、ベッドでも発火しちゃうので、いつも男の人にフラれちゃって……」


 それは危険過ぎる……。


「なんとしても、スキルを無効化するスキルを手に入れたいって訳か」


「……はい」


 ダンジョンの中で何度もガス爆発をやられるのは不味い。気が付かないうちに背後から爆風でドカン! なんてのは勘弁だ。


「よし。これも何かの縁だ。手伝ってやる。毎回、ガス爆発をやっていたら効率が悪いだろ?」


「えっ! 本当ですか!?」


「魔結晶が採れるところまで一瞬に行こう。オークは俺がやるから、お前はついて来い。ついでにこれを羽織れ」


 地面に転がっていたリュックからマントを出して女に渡す。女は不思議そうな顔をした。


「……あの私、見られている方が興奮す──」


「しなくていい!」


 しぶしぶマントを身体に巻いた女を連れて、俺はダンジョンの奥へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさにwin-winなのに・・・さてはDTか! いや興奮されたら火が付くんだった。。
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