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ショッピングモールの警備員

作者: 古数母守

 ショッピングモールを同僚と巡回する。警備員がいるのだと知らせることが犯罪の抑止にもつながる。事件が起きてしまった場所に駆け付けるだけが私たちの仕事ではない。それより事件が起きないように配慮することが大切であり、そのためにもできるだけ何度も巡回するようにしている。ショッピングモールには服と靴を売っている店が圧倒的に多い。同じ機能を持つ電化製品をいくつも買う人はいないが、服や靴は機能というよりは色や形状を含めたデザインが購入のポイントになる。何度もお金を落としてもらえるという点で優れた商品ということになる。そしてその服の一種には違いないが、少し性質の異なるものに下着がある。巡回時にはこの下着売り場が難所になる。下着売り場の前を通りかかる時に、展示品をつい見てしまう。いや、そっちをまるっきり見ないというのも不自然だろう。私たちは警備員として巡回しているのだから見ないというのはあり得ない。ただ、他の売り場の様子を伺うのと同じようにはいかない。いや、同じようにしているつもりだ。だが、ブラジャーやパンティーが視界に入って来た時点で、視線が不自然に対象物に留まってしまう。いや、そちらを見ようとしている訳ではない。そしてふと、隣を歩いている同僚の方を見てみると『今、下着をじっくり見ていたよね』という目つきをしている。いや、そんなことはない。間髪入れずに『私は警備で仕方なく店内を見渡しているだけだ』という視線を返す。すぐに『そんなに否定しなくてもいいですよ。俺だって見ていたから、男なら仕方ないんじゃないですか』という表情が返って来る。下着売り場の前を通りかかる時はいつもそんな感じになってしまう。だいたい、堂々とアピールしすぎだ。いや、女性に対してアピールしているに違いないが、ショッピングモールを訪れる人の半分は男性なのだ。これではあまりに男性に対する配慮がない。たとえば通りかかったパートナーの視線が下着に釘付けになってしまって相手の女性が嫌な思いをするかもしれない。それが原因で別れでもしたら、店はどう責任を取るつもりだ。付き合い始めて間もないカップルであれば、女性が男性の好みの下着を身に付けるという方向に発展するかもしれない。いや、店としてはそのためにアピールしているのかもしれない。そうだとしたら、やっぱり迷惑な話だ。下着の購入者として該当しない私たちには、ただの誘惑でしかないからだ。それで妙な具合にスイッチが入ってしまって犯罪に走ってしまう若者が出てしまうかもしれない。そんなことになったら私たちの出番が増えてしまう。それは困る。いつもそんなことを考えながら、なんとかやり過ごしている。


 お昼を過ぎた。また、巡回の時間が来た。もう下着売り場の前には行きたくない。なるべく見ないようにする。いや、それは不自然だ。またそんなことを考えつつ、ふと、店内に視線を移す。婦人の後ろ姿が見える。さっきの巡回で私が見ていたピンクのブラジャーとパンティーの前に立ち、店員の説明を受けている。年配で割と太ったご婦人だが、これを身に着けようというのだろうか? でも店からしたら大切なお客様だ。ご婦人もこれで旦那さんを楽しませるつもりなのかもしれない。私ならちょっと萎えそうだ。店員の説明が終わったようだ。やり取りを済ませた婦人が店の外に出ようとしてこちらを向いた。その時、衝撃的な事実が明らかになった。その婦人はオカンだった。さっと血の気が引いて行く。私のクレイジーな脳内回路が、セクシーなピンクのブラジャーとパンティー身に付けたオカンの姿を一瞬、想像してしまう。次の瞬間、ものすごい自己嫌悪が襲い掛かって来る。

「おい、どうした顔色が悪いぞ」

同僚の声が聞こえる。大丈夫だ。ちょっと気分が悪くなっただけだ。でも、これからは取り乱すことなく下着売り場の前を巡回できるような気がする。

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