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双聖皇のアトランティス - Atlantis of Gemini -  作者: 三木 李織
第Ⅱ部 第2章 研究戦〜庭園図書館〜
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第1節  余裕の笑み


 開会式が終わると、昼休憩を挟んですぐに新人戦の初戦が行われる。


「いよいよ始まるのね! 楽しみね、アレン」


「そうだな。楽しみだな、アイリス」


 アレンはいつものようにアイリスと横並びで在校生用の観客席に座り、初戦の開始時刻を待っていた。


 競技場内は開会式の時よりも更にざわめき、お祭りの雰囲気に色めき立っていた。


 そして、アレンの右横にもまた興奮気味の少年が一人。


「まずは三年生の試合だよ! はあー、楽しみだなあー!」


 フランは高揚した気持ちを抑えられないように感嘆の溜息を吐く。

 

 アレンがフランの手元を覗き込むと、その両手には新人戦の日程が刷られた紙が大事そうに握られていた。

 そこにはびっしりと書き込みがされており、彼の本気度が窺える。


 アレンたちの一つ後ろの列に座るレオ、セレーナ、風鈴はそれを後ろから覗き込んで「うわあ」とか「ワオ」とか言っている。

 アイリスの横に座る雛姫は夜更かしでもしたのか、アイリスの肩にもたれ掛かりながら静かにうたた寝をしていた。


 アイリスはその寝顔をにっこり見つめると、なるべく身動きをしないようにしながら、自分の手元にある紙を見つめていた。

 アイリスの日程表が書かれた紙も、フランには及ばずとも繰り返し何度も見たことが分かる程にくたりと柔らかくなっていた。 

 場の空気にも呑まれているのか、そわそわとしている。


「毎年一番最初の試験が三年生の『研究棟種目』なんですよね」


「そうだけど、違うよアイリスさん! 学院生は『研究戦』って呼ぶんだよ!」


 フランはちっちっちっと指を振る。

 そして、なぜかうっとりとしながら解説を始めた。



 フランは新人戦準備期間中もこうして色々なことを説明してくれた。


 そしてその度に「やっと在校生として参加できる……!」と恍惚としていた。

 そしてアレンもアイリスも、そして同じ編入組の風鈴も飽きることなく色々な話を聞いて、気持ちがだいぶ盛り上がっていた。



「研究棟の先生たちが出題する『研究棟種目』を通称『研究戦』、魔術棟の先生たちが出題する『魔術棟種目』を通称『魔術戦』。そして、同じように『騎士棟種目』を『騎士戦』って呼ぶんだよ。みんな通称とかをつけるのが本当に好きだよねって思うけど、気持ちは分かるよ! ロマンだよねえ!」


 アイリスはフランの話を聞きながらも落ち着かなそうに、髪から垂れ下がる魔術棟の色と同じ紫色のリボンを指で摘み撫でる。


「やはり、他の棟の種目は難しいでしょうか。他もそうですけど、私は騎士戦が特に自信が無くて……」


「うーん、そうだね。やっぱり、普通はそれぞれ自分の特性に合った棟に所属しているから、各棟の学生が有利なことが多いよ。でもまあ、アイリスさんは研究戦でもいいところを狙えるんじゃないかなあ……騎士戦は正直分からないけど」


「そうよ! アイリスさんはすごく頑張っていたし大丈夫よ。雛姫みたいな何でも上位っていう人は少し規格外だけど、どの種目も何かに特化というよりも結局は総合力が試されるから。だから、意外と上位に別の棟の学生も食い込めるものよ」


「……いま、私の名前呼んだ?」


 セレーナが雛姫の名前を出すと、寝起きの雛姫はきょろきょろと周りを見回す。

 その様子を見てアレンたちは小さく笑う。


「……なに?」


「雛姫さんがとってもすごいというお話をしていたところです」


 アイリスはぬいぐるみを抱きしめるように雛姫をむぎゅっと抱きしめた。

 相変わらずこの二人の距離感は女のコ同士でもおかしいとアレンは思う。

 自分と妹の距離感を棚に上げて。


「まあ、我が学院の至宝、クラーラ先輩なんて完全に雛姫嬢と同じタイプの規格外だけどな」


 アレンたちはレオの視線につられるように、競技場の中央に集まっている三年生たちの方を見る。


 そして、その中で一際目立った存在の先輩を見つめた。





    ◇ ◇ ◇





 三年生全員が競技場中央に集まり、まもなく始まる研究戦に備えていた。

 その中心となっているのは、各棟のトップ勢。


 第三学年の頂点に君臨するクラーラはパンと手を叩く。


「さあ、肩慣らしと参りましょうか? 先輩として可愛い後輩たちに格好良い姿を見せなければなりませんわね。……ねえ、そう思いませんこと、カエルム?」


「クラーラ君、君は随分余裕そうだが今年の僕は去年の僕とは違うぞ」


「カエルム、お前は去年もそう言っていたぞ」


「シン、お前はクラーラ君の味方をするのか!? お前は僕の親友じゃなかったのか!?」


「…………」


「おい! そこで黙るな!」


「代表。クラーラとシンに遊ばれてるんですよ。いい加減学んでください、疲れます」


「おい、ケイティ君! そこで疲れるとか言うな!」


「カエルム、あなた本当にいつ見ても元気ですわね。それにいつもいつも本当にケイティさんと仲良しですわね」


「仲良くないです。やめてください、クラーラ」


「……クラーラ君、僕は今遠回しに五月蠅いと言われた気がするのは気のせいだろうか」


「気のせいですわ」


 クラーラはこの試験で最大の好敵手に余裕の笑みを見せつけた。





    ◇ ◇ ◇





 試験開始時間が迫り、観客席に近い数か所に設置された巨大な水晶玉に競技場の中央が映し出され始めるのをレオはぼんやりと眺める。


 

 ――この景色を在校生席(ここ)に座って眺めるのも二回目か。



 徐々に鮮明になっていく映像と音声にはサンクチュアーリオ学院の第一位から第四位までが軽口を叩き合っている様子が映し出された。


 それを見て喜んでいる女生徒がひとり。


「皆さん仲良しなんですね。あんなに気安く交流されているなんて。やっぱり優秀な方々は切磋琢磨されているのですね」


「いやー、アイリス嬢。あれはそういう崇高なものじゃないと思うぞ。あれはどっちかというと牽せ……」


 レオが三年生が開始前から心理戦で牽制し合っていることを伝えようとする。


 しかし――


「やめなさい、レオナルド君。アイリスさんは純粋なんだから」


 しかし、セレーナがアイリスの耳を塞いでレオをじろりと睨んだ。


 ――いや。別に皆で過保護にしなくたって、本人だってこれから散々味わうだろうに。


 レオは微妙な気持ちになりながらアイリスの方を見ると、過保護にされている本人は気にする様子もなく、ふんふんと興奮していた。



 レオはアイリスの団体戦参加を巡る雛姫との一件とその時彼女が見せた表情や一面を思い出す。


 ――それに……アイリス嬢は皆が思う程、そういう駆け引きとか悪意を知らない訳ではない気がするんだけどなあ。


 レオはポリポリと頭を掻いた。



「とにかく! まずは『研究戦』ですね! たくさん勉強させていただいて、明後日の私たちの研究戦に活かさないとですね!」


 アイリスは胸の前で両拳を握りしめて意気込む。


「アイリス、気持ちは分かるけど今からそんなに興奮して体力が持つのか?」


「大丈夫よ! アレン!」


 ――ここに過保護の筆頭が一人。



 そんな双子の兄妹のやりとりを見て、セレーナとフランが微妙な顔をして顔を見合わせていた。


「うーん、三年生の戦いは私たちにはそのまま参考になるか分からないわね」


「個人戦は種目名自体は全学年共通だけど、細かい内容と難易度が変わるからなあ」


「それに先輩たちは皆レベルが違うから、ちょっと吃驚するわよ」


 レオも実際に参加した側であるため、それは良く知っている。

 三年生の戦いは基本的に参考にならない。

 レオも騎士戦で辛うじて勉強になるという感じだった。

 三年生がやっていることを見ても、それを自分でやる実力がないからだ。


 アレンの方はセレーナとフランの反応に、天才と呼ばれる彼らの先輩の実力を思い浮かべて納得という表情をしている。


「――でも過去の試験内容を見たけど、研究戦は座学の試験みたいなのが多いんだったよな。今回はそうじゃなさそうだってフランは予想していたけど、そういう座学の試験って盛り上がるのか?」


「授業のときに小試験は時々やりますけど、そういう試験とこの賑やかな感じは確かに結びつかないですね」


「確かにソウダネ……? タダの試験は楽しくないヨ?」


 アレン、アイリス、風鈴の三人が首を傾げ、今や席が埋まるどころか、立ち見の客までいる競技場内を見渡す。


 するとフランが待っていましたと言わんばかりに、瞳を黄金のように煌めかせた。


「そう! そうなんだよ! 研究戦は最近はましになってきた方だけど、ちょっとしたお葬式状態の年が多いんだよ! 酷い年はレポートを書いている様子をひたすら眺めるとかでさあ。盛り上がっているのは教師陣と父兄だけと一部のお役人さんだけ! これは何の時間だよ……って思ってたよ」


 それでも熱心に見ていたのだから、フランは「本物」だと思う。


 ――そういえば、去年はクイズ大会みたいな感じだったな。卒業戦の方は参加してないけど。



「でも、今年はどうも違いそうなんだよ! 学生解説員の間でもかなりその話で盛り上がったんだ」


「どう変わったんだろう」


 アレンが首を傾げると、フランが人の良さそうな顔に不敵な笑みを浮かべる。


「――何を言っているのさ、アレン。その『答え合わせ』が、今からされるんじゃないか」


 いつになく落ち着いて真剣なフランの言葉に、レオは自然と競技場の中央に視線を動かしていた。



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