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双聖皇のアトランティス - Atlantis of Gemini -  作者: 三木 李織
第Ⅱ部 第1章 幕が上がる
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第7節  三つの棟の宣誓


 空は高くなり、遠くに鱗雲が見える。


 温暖なウィンデルベルグ島にもすっかり秋が訪れていた。


 そして――ついに新人戦が始まる。



 始まりの舞台は学院の広い敷地内にある巨大な競技場――月白競技場(ホワイト・フィールド)


 森の木々の上を飛び出すように白い天幕見える、この月白競技場は、学院が保有する最も大きな競技場だ。



「広いな」

「広いわね」

 

 その場所に足を踏み入れるのは、アレンもアイリスも初めてのことだった。


 この数か月間は新人戦の準備のために立入禁止になっていたその場所に今、アレンとアイリスは立っている。


 競技場の周りには、秋の花や黄色のリボンが飾られ、魔法で風船がぷかぷかと宙に浮かんでいた。

 それは本で読んで知識だけはある『お祭り』のようだった。



 そんな華やかな秋晴れの空の下。

 冬服に変わったばかりの制服の上から白いローブを身に纏った高等部の全学生か背筋を伸ばして競技場の中央に整列している様は、とても壮観だった。


 一年生は開会式が始まることを期待と緊張の面持ちで。

 二年生は緊張は少し緩み、意気込んだ表情で。

 三年生は最後の新人戦に感慨深げな表情をした学生もいれば、残り少ない学院生活で実績を残さんと、新入生よりも緊張した面持ちの学生もいた。


 彼らを見守る観客席は、在校生用の席を残して約半数以上が埋まっている。


 授業の一環として見学に来ている中等部の学生、在校生の父兄や卒業生、学院関係者。

 そして、視察に来ている中央中立地域の要人や、和平条約を結んでいる諸外国の要人は優秀な人材はいないかと、密かに目を光らせていた。





    ◇ ◇ ◇





 学院長のアウエルマイヤーは学院生たちが羽織るローブと同じ、真っ白なスーツを着こなしながら、全校生徒の前に現れる。

 赤いカーペットが敷かれた階段状になった舞台の上に鈍色の髪を一つに束ねた学院長が一人堂々と立つ。


 そして拡声用の魔石が埋め込まれた魔術具を手に持って宣言する。


「サンクチュアーリオ学院高等部の学生諸君。――これより、第九十九回新人戦の開会式を行う。まずは私から一言」


 学院長は魔術具を口元からわずかに離す。

 そしてそのまま、競技場中に響く、よく通る声を放った。


「待ちに待った新人戦だ! 君たちの能力を存分に発揮すると良い! 私が君たちの強さや弱さをしっかりと見届けてやろう!」


 空気が震えた。


 学院長の声に学院生たちの心は奮い立つ。


「最後に、今年も私から景気づけでもしてやろう。光栄に思え!」


 そう言うと、学院長は被っていた白い帽子を学生たちの方へと投げる。

 パチリと指を鳴らすと、帽子に飾られていた色とりどりのガーベラの花がポンッという軽やかな音とともに消えた。


 学院生たちはその音を追い、自然と空を見上げる。

 すると花吹雪が嵐のように舞い、学院長からの激励と祝福が、その視界を色彩で埋めていた。





    ◇ ◇ ◇





「――以上で、学院長の挨拶は終わりとなります。……今暫くお待ちください」


 続けたのは白髪をきっちりと後ろに流した、もの静かそうな細身の男性だった。

 学院生たちは学院長が巻き起こした大量の花吹雪にまだ少しざわついていた。


「あの人は誰なんだ? 初めて見る人だ」


 アレンは隣に立つレオにこっそりと話しかける。


「ああ、アレンは初めて見るのか。あれは副学院長のローウェル先生だよ。休暇中に倒れて、この間まで病気療養してたらしいぞ」


 学院に初めて来たときにはクラーラとシンが学院長と副学院長が姿を消したという話をしていたが、副学院長は病気をしていたらしい。

 見てみると確かに顔色は青白く、おそらく壮年と言える年齢の割には健康的とは言い難かった。


 アレンの後ろからフランがわずかに身体を傾けてこそこそと情報を付け足す。


「レオは結構痛い目見ているから知ってると思うけど、あんな感じで結構厳しい人だから気をつけた方がいいよ。ほら、アレンは時々はしゃぐから」


 フランはまるで「困ったものだよ」という表情で頷いていた。

 しかし、アレンはフランの発言にいまいちピンとこなかった。


「え、俺はしゃいでいるかな?」


 アレンの疑問にフランが小さく溜息を吐く。


「自覚無かったの? 普段は大人しいくせに、武術と剣術の実技の授業とか稽古のときにやりすぎることが多いじゃないか。 本当に冷や冷やするんだから。……まあ、全部レオが絡んでるんだけどさあ」


 確かに最近剣術の授業も始まり、言われてみると少しはしゃぐというか、やりすぎることはあった。


「ごめん。レオが煽って来るからつい……」


「え、俺?」


 アレンがフランに謝ると、レオは吃驚したような顔をしている。

 声が少し大きくなったことに気が付かなかったようだった。


「あなたたち……少し静かにしなさい」


 列の先頭にいるセレーナが真ん中あたりに並んでいるアレンたちを小さく振り返り、こそこそと注意する。

 セレーナは人差し指を口元に当てて、こちらを呆れるように見ている。

 その横では風鈴が、にこにことガーベラの花弁を手元で遊ばせて笑っていた。


 アレンたち三人は「ごめんなさい」と音に出さずに謝罪し、セレーナに一斉に頭を下げる。

 

 いまだゆっくりと降り続けている花弁がするりとアレンたちの髪から流れ落ちる。

 それはゆらゆらと舞って、地面に落ちた。





    ◇ ◇ ◇





「続きまして、選手宣誓です。研究棟代表――カエルム・アーティナス・キング君、魔術棟代表――シン・クロウリー君、騎士棟代表――クラーラ・マクレール・フロールマン君は前へ」


 副学院長のローウェルに呼ばれ、前に進み出た三つの棟の代表は、特別な衣装を身に纏っている。

 皆と同じ白いローブだが、左腕に各棟の紋章が金糸で刺繍されている。 

 そしてそれぞれに合った装飾の白いベレー帽をかぶっていた。


 全学院生たちの頂点、憧れの対象である彼らは、熱い視線を背に受けながら、階段をゆっくりと上っていく。

 

 アレンとアイリスは研究棟の代表を間近で見るのは初めてだ。

 しかし、普段接する機会のあるクラーラとシンの遠い背中を見て、自分たちと彼らの距離を再認識した。

 

「アレン、遠いね」


 アレンの前に並ぶアイリスはそう言った。

 アレンからは自分と同じシルバーブロンドが揺れるのは見えても、その表情は窺えなかった。


「そうだな」


 アレンは下がりそうになる顔をぐっと上げる。

 だが、アイリスからもアレンの表情は見えない。


 ――遠いよ。だけどたぶん俺たちはあそにに行かなきゃいけないんだ。


 ――遠いわ。だけどきっと私たちはあそこに行かなきゃいけないのね。



「あそこまで、どのくらいの距離があるんだろう」


「それをこの新人戦で確かめよう」



「あそこからは何が見えるんだろう」


「高い場所からは、きっとこの景色が良く見えてるよ」


 アレンとアイリスは同時に上方を見上げた。


 この島の空は青くて、高くて、美しかった。





    ◇ ◇ ◇





 一番高い所に、研究棟代表のカエルム、魔術棟代表のシン、騎士棟代表のクラーラは立っていた。


 宣誓の順番は設立の早い棟から始まるのが慣例だ。



 サンクチュアーリオ学院にはじまりをもたらした研究棟。


 サンクチュアーリオ学院に発展性をもたらした魔術棟。


 サンクチュアーリオ学院に多様性をもたらした騎士棟。



 三つの棟にはそれぞれの役割がある。


 清らかな白を身に纏った彼らは宣誓台の前に立ち、順番に一つの宣誓文を読み上げる。



「我らは我らの名の下に、自らの魂と血肉に恥じぬ戦いをすることを誓おう」


「我らは我らの名の下に、信じる神からの祝福に恥じぬ戦いをすることを誓います」


「我らは我らの名の下に、自らが誓いを捧げた剣に恥じぬ戦いをすることを誓いましょう」



智慧(ちえ)を」


「魔法を」


「力と剣を」



「正しく用いることを誓おう」


「美しく用いることを誓います」


「等しく用いることを誓いましょう」



 カエルムは冬空色の髪と青空の瞳。

 シンは濡羽色の髪と漆黒の瞳。

 クラーラは蜂蜜色の髪と紅玉と瑠璃の瞳。


 競技場の整えられた芝生の上に立つ百人以上の学生たち。

 髪の色も、瞳の色も、肌の色も、信じる神も違う。



「「「サンクチュアーリオ学院の学生として恥じぬ戦いをすることを」」」



「誓おう」


「誓います」


「誓いましょう」



 言葉の終わりと共に、宣誓台に置かれた大きな魔石が光る。

 

 三人がそれに触れると、その魔石は更に強く光り、それに呼応するように三人の指輪が光る。



 研究棟の蒼玉(ブルーサファイア)


 魔術棟の紫蛍石(パープルフローライト)


 騎士棟の黄金剛石(イエローダイヤモンド)



 指輪にはめられた魔石がそれぞれの色を放つ。


 そしてそれに共鳴するように全学院生の指輪が光った。


 これで宣誓と言う名の儀式が終わる。

 


 そして幕が上がった――――



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