ふたりの呪い子
星の輝く夜。
静かな皇宮内。
彼らにあてがわれた双星宮。
ドーム型の高い天井を持つこの宮の一室。
広い部屋の中央には、この部屋の主である少年と少女が座り込んでいた。
ぐったりとした少女を支えるように、少年がそのか細い背中に手を回している。
大きな窓から差し込む月光と星明りに浮かぶ美しいシルバーブロンド。
良く似た面立ちの少年と少女。
――――異質なのは彼らの瞳の色。
夜明けと宵闇を思い起こす琥珀とアメジスト。
黄金と紫の色彩。
彼らの高貴な身分を表すような美しい色彩。
だが、それだけでは『異質』とは呼べない。
その『異質』さは、その宝石が双眼で揃っていないことだ。
彼らはまるで互いが鏡写しのように一粒ずつが異なる色彩を放っている。
ある魔術師が言った。
それは『呪い』だと――
『双生』と『交差』の呪い。
二重の呪いに罹っていると――
双子としてこの世に生まれ落ちた少年と少女。
彼らはこの世に生まれ落ちた瞬間から王宮の地中深くに根を張るような『呪い』に縛られている。
少年は少女の手を包み込むように握る。
「アイリス、そろそろ儀式を始めないと限界だろ」
弱々しく身体を起こしながら、少女は強い意志を秘めた瞳で少年を見つめた。
「アレン、十五になったら一緒に国を出て、聖域に行きましょう」
「聖域?」
少年は首を傾げる。
少女は弱々しく頷くと、興奮したように続ける。
「昼間、授業で先生に聞いたの。『聖域』には自由な風が吹いているって。西大陸と東大陸の技術が結集して、この国よりも魔術も進んでいるんですって」
少女は少年の手を弱く、強く握る。
「だから、きっと……」
その先はふたりとも何も言わなかった。
少年が静かに、だが力強く頷くのを見ると、少女は花が綻ぶように微笑んだ。
そして少女は魔法を呼び覚ます呪文を詠唱する。
瞬間、少女を中心として大きな魔法陣が浮かび上がり、彼らのプラチナブロンドは黄金色に照らされた。
それを合図に少年は少女の手を放し、魔法陣から離れた。
少年は少女を見守ることしかできない自身を深く呪った。
◇ ◇ ◇
朝陽が差し込んだ頃、少年は床に倒れるようにして眠りについた少女をそっと抱えて寝室に連れていく。
少女の身体は似た背丈の自分と比べても軽い。
少年は血色の良くなった少女の寝顔を見つめながら、そっと呟いた。
「ふたりで一緒に呪いを解きに行こう」
◇ ◇ ◇
それから三年後。
彼らは齢十五を迎えた。
あの夜の二人の願いによって、彼らは皇宮を出ることになる。
そして、故郷である国どころか西大陸を飛び出し、彼らは外の世界を知ることになる。
そしてこの旅立ちが彼らの運命を大きく変えることとなった。
――これはいつか『双聖皇』と呼ばれる双子の兄妹の物語。
彼らと、彼らと共に生きる者たちが綴る物語。
彼らが選び、歩み、描いた道の地図。
彼らが選んだ地上の楽園。
これはそんな軌跡と奇跡の物語――――